元素の多さのギザギザ
太陽系にある元素の数を原子番号の順に並べると、線は 1 つおきに上下する。奇数の元素は、両隣の偶数の元素より少ない。2 つの表で数えると、例外は 38 個のうちリチウムとホウ素の 2 つだけで、どちらの表でも同じ 2 つだった。同位体を中性子の数ごとに足すと、魔法数 82 と 126 にははっきりした山が立ったが、20 と 28 は隣の山に埋もれて見えなかった。
なにか
太陽は太陽系の質量のほとんどを持っているので、太陽の表面(光球)の組成と、隕石の中でも太陽に近い組成を持つ CI コンドライトの組成を合わせると、太陽系全体の元素の多さの表ができる。K. Lodders の総説(2019 年の原稿)によると、奇数の元素が隣の偶数の元素より少ないことは Oddo(1914 年)と Harkins(1917 年)が見つけた。同じ総説は、同位体の多さを質量数の順に並べると、魔法数の陽子や中性子を持つ核のところに山が立つとも書いている。
M. Asplund らの 2021 年の論文は、光球の元素の多さを原子番号の順に並べた図に「偶数の元素は隣の奇数の元素より多い」「O・Fe・Ba・Pb のあたりに山がある」と説明を付けている。開いた箇所には、何割の元素で成り立つかの数は見当たらなかった。ここでは 2 つの表を同じ手順で数えた。
表
1 つ目の経路は Lodders の総説の表 8(太陽系の元素の多さ)と表 9(同位体の多さ)で、どちらもケイ素 100 万個あたりの数で載っている。PDF から文字を座標ごとに抜き、列の位置で数を拾った。2 つ目の経路は Asplund・Amarsi・Grevesse の 2021 年の論文で、表 2(光球と CI コンドライト)と表 B.1(太陽が生まれたときの同位体の多さ)を論文の TeX ソースから読んだ。表 2 の注記で「meteorites」とある 16 元素は CI の値を、ほかは光球の値を使い、ケイ素 100 万個あたりに直した。隕石の値は Lodders が自分でまとめたもの、Asplund らは Palme らの 2014 年のまとめを使っていて、出どころが違う。
2 つの表はどちらも 83 元素で、0.1 桁(約 26%)以内で合う元素は 83 のうち 71 だった。いちばん食い違うのは Rh(Lodders のほうが 0.26 桁多い)、Ag(0.25 桁)、F(0.21 桁)である。
奇数は 38 のうち 36 で両隣より少ない
見立ての 1 つ目は、奇数の元素は両隣の偶数の元素より少なく、両隣がそろう奇数の元素のうち 9 割以上で成り立つ、だった。両隣がそろう奇数の元素は 38 個あり、両隣より少ないのは Lodders でも Asplund でも 36 個(95%)だった。見立てどおりである。外れたのはリチウム(3)とホウ素(5)で、どちらも間のベリリウム(4)より多い。偶数の元素で両隣の奇数より多くないのもベリリウムだけだった。Asplund らの 2009 年の表で数えても 36/38 で、外れる 2 つは同じだった。
谷の深さを、奇数の元素の数と両隣の幾何平均の比で測ると、中央値は Lodders で 0.84 桁(約 7 分の 1)、Asplund で 0.93 桁(約 8.5 分の 1)だった。いちばん深いのは F で 3.8〜4.0 桁、いちばん浅いのは Ir で 0.15〜0.16 桁(Os とほぼ同じ数)である。
鉄の山
見立ての 2 つ目は、原子番号 15 から先でいちばん多いのは鉄、だった。Lodders では鉄が 872,000 個で、2 番目の硫黄 437,000 個の 2.00 倍、Asplund でも鉄が硫黄の 2.19 倍でいちばん多かった。当たりである。
リチウムはスカンジウムより多い
見立ての 5 つ目は、リチウム・ベリリウム・ホウ素が、水素から亜鉛までの 30 元素のうち少ないほうから 3 つを占める、だった。少ない順に並べると、ベリリウム・ホウ素・スカンジウム・リチウムで、リチウムは 4 番目だった。スカンジウム(21)は Lodders で 33.7 個、Asplund で 42.7 個で、リチウムの 56.9 個・55.0 個より少ない。2 つの表で同じ順になり、見立ては外れた。
中性子の魔法数で山が立つのは 82 と 126
見立ての 3 つ目は、同位体を中性子の数ごとに足すと、魔法数 20・28・50・82・126 の 5 か所すべてで、前後 2 つ(N ± 1 と N ± 2)より多い山になる、だった。Lodders の表 9 の 285 核種と、Asplund の表 B.1 の 287 核種で数えた。
82 と 126 はどちらの表でも山になった。82 は前後 2 つの大きいほうの 6.3〜6.7 倍、126 は 1.8〜2.7 倍である。20 は中性子 18 の 36Ar と 34S の和に負け、28 は中性子 30 の 56Fe(Lodders で 801,000 個)に負けた。中性子の数で見ていちばん高い山は 30 で、前後の 13.5〜13.7 倍ある。魔法数ではなく鉄の山である。
50 は表で答えが分かれた。Lodders では中性子 48 の和が 42.5 個、50 が 40.4 個で山にならず、Asplund では 35.2 個と 37.7 個で山になる。48 の和のほとんどは 84Kr である。クリプトンは貴ガスで、Lodders の表 8 は「ほかの方法」、Asplund の表 2 は「太陽風」と注記していて、2 つの表で値の出し方が違う。見立ては外れた。5 つのうち山になったのは Lodders で 2 つ、Asplund で 3 つである。
作品 180 で数えた安定核種の数は、中性子 20・50・82 で山になり、126 は 208Pb の 1 個だけだった。多さで見ると逆に、軽い 20 は消えて 126 に山が立つ。
重い側の山の組は 2 つ
見立ての 4 つ目は、質量数ごとに足すと、重い側(A が 70 を超える所)の山が 2 つずつ組になり、80 と 88、130 と 138、195 と 208 の近くに立つ、だった。質量数ごとの和は偶奇でがたつくので、前後 5 つより多い所を山とした。山は 2 つの表とも 74・80・120・130・138・164・174・180・195・208 の 10 か所で、130 と 138、195 と 208 は組になった。138 は 138Ba(中性子 82)、208 は 208Pb(中性子 126)で、どちらも中性子が魔法数の核である。組の軽いほうは 130Te(中性子 78)と 195Pt(中性子 117)で、重いほうとの差は 8 と 13 だった。
88(88Sr・中性子 50)は山にならなかった。4 つ軽い質量数 84 の和は Lodders で 29.3 個(ほとんどが 84Kr)で、88 の 19.2 個を上回る。窓を前後 3 つに狭めると 84 と 88 がどちらも山になり、4 から 6 に広げると 88 は出ない。組になったのは 3 つのうち 2 つで、半分当たりである。164・174・180 の山は見立てになかった。
偶偶核が 9 割、奇奇核はほぼ窒素だけ
見立ての 6 つ目は、水素とヘリウムを除くと、陽子も中性子も偶数の核(偶偶核)が原子の数の 9 割以上を占める、だった。Lodders で 92.7%、Asplund で 92.4% で、当たりである。多い順に 16O・12C・20Ne・14N・28Si・24Mg・56Fe・32S と並び、14N だけが陽子も中性子も奇数の核(奇奇核)だった。奇奇核は全体の 6.05%(Asplund で 6.21%)で、ほぼすべてが 14N である。
機械で分かる範囲と、目でしか分からない範囲
機械で確かめたのは、奇数の元素が両隣より少ない数と外れる元素、原子番号 15 から先の最多の元素、中性子の数ごと・質量数ごとの山の位置である。窓の幅を 3 から 6 に振ったときの山の出入りと、偶偶核の割合も数えた。どれも 2 つの表を同じ関数に通して比べた。
表の読み取りも 2 通りで確かめた。Lodders の表 8 は、数の欄と対数の欄の食い違いが 0.006 桁以内だった。表 9 の同位体を元素ごとに足すと、表 8 の太陽系ができたころの値に 0.8% 以内で戻った。表 9 は 152Gd と 156Dy の行が刷られておらず、Gd の同位体の割合の和は 99.798% になる。Asplund の表 B.1 の TeX ソースは、原子番号の欄が 6 か所で 1 つずれていた(103Rh が 44 など)。原子番号は元素記号から引き直した。
山やギザギザがなぜできるか(恒星の中でどの反応がどの核を作るか)は、表の数からは出していない。
どう作ったか
生成器は generators/abundance.js である。Lodders の表は PDF の文字を座標つきで抜いた行のファイルから列の位置で読み、Asplund の表は TeX の表をそのまま読んだ。比べる手順(奇数の谷・最多の元素・中性子の数と質量数ごとの山・偶偶核の割合)は 1 つの関数にまとめ、2 つの表を同じ関数に通した。カードは元素の数の対数を原子番号の順に結んだ折れ線である。
確かめていないこと。Oddo(1914 年)と Harkins(1917 年)の論文は開いておらず、Lodders の総説の記述だけを読んだ。Lodders の原稿は Oxford Research Encyclopedia に収録された版と比べていない。質量数の山を恒星の中の遅い中性子捕獲(s 過程)と速い中性子捕獲(r 過程)に分ける表は使っていない。
出典
- 総説
- K. Lodders「Solar Elemental Abundances」arXiv:1912.00844(2019 年 11 月の原稿、Oxford Research Encyclopedia of Planetary Science 2020 に収録)。表 8・表 9 と、p.35 の Oddo・Harkins の記述、p.49 の魔法数の記述を読んだ
- 論文
- M. Asplund, A. M. Amarsi, N. Grevesse「The chemical make-up of the Sun: A 2020 vision」A&A 653, A141(2021 年)。arXiv:2105.01661 の TeX ソースの表 2・表 B.1 と図 1 の説明
- 3 本目
- M. Asplund, N. Grevesse, A. J. Sauval, P. Scott「The chemical composition of the Sun」ARA&A 47, 481(2009 年)。arXiv:0909.0948 の TeX ソースの表 1
- 数理
- 谷の深さ、山の決め方(前後いくつより多いか)、偶偶核の割合は、自分で決めて数えた
- 親戚
- 原子核の魔法数がそろう細い帯
- 生成
- generators/abundance.js(abundance.svg ギザギザ・abundance-book.svg 帳簿)。数値は generators/data/abundance/facts.json に書き出した