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原子核の魔法数がそろう細い帯

陽子か中性子が 2・8・20・28・50・82・126 個の原子核は、とくに壊れにくい。ばねのような井戸に核子を詰めるだけだと 40・70・112 に殻の切れ目ができ、28 から先が合わない。スピンと軌道の向きで準位を分ける項を足すと 7 つがそろうが、そろうのは項の強さが狭い範囲にあるときだけだった。実際の核の表で確かめると、中くらいから重い核では魔法数が山になって見え、軽い核ではほとんど見えなかった。

核図表。横が中性子の数、縦が陽子の数で、左下から右上へ帯のように核種が並ぶ。帯の中心に黒い安定核の列があり、まわりは藍から淡い色へ薄れる。赤い縦線と横線が魔法数の位置を示す
NUBASE2020 の基底状態 3,471 核種のうち、中性子 160・陽子 110 までの 3,332 個を升で打った。黒は安定核(253 個)で、ほかは半減期が長いほど藍が濃い(1 マイクロ秒から 10¹⁶ 秒まで)。赤い線が魔法数。

なにか

原子の電子は 2・10・18 個で殻が閉じ、貴ガスになる。原子核にも同じような殻がある。M. G. メイヤーの 1963 年のノーベル講演によると、魔法数は 2・8・20・28・50・82・126 で、中性子でも陽子でも同じである。最初に指摘したのは 1933 年の Elsasser だった。講演は、Sn(陽子 50)が安定同位体のいちばん多い元素であること、中性子 50 の安定核が 6 個、82 の安定核が 7 個あり、ふつうは同じ中性子数の核が 2 か 3 個しかないことを挙げている。

講演の説明はこうである。調和振動子の井戸(ばねの井戸)なら殻は 2・8・20・40・70・112 で閉じるが、実験には 40・70・112 の切れ目の跡がない。数は 2・8・20・40 の列と 6・14・28・50・82・126 の列の 2 つに分かれていて、後の列はスピンと軌道の結び付き(スピン軌道結合)から出る。軌道の角運動量 l の準位のうち j = l + 1/2 のほうがかなり低くなり、2 つに分かれる幅は l に比例する。J. H. D. イェンゼンの講演には、28 もスピン軌道結合から出ることに Haxel と Suess との議論の中で気づいたとある。

模型

準位は 3 通りに出した。1 つ目は閉じた式で、調和振動子の殻 N の準位に、l·s(スピン軌道)と l²(大きい l を少し下げる項)の 2 項を足した。強さは κ と μ の 2 つの係数で決まる。2 つ目は、ふちのぼけた井戸(ウッズ・サクソン型)にスピン軌道の項を足し、動径の方程式を差分で解いた。スピン軌道の強さは係数 λ で決まる。井戸の深さ 50 MeV・半径 1.25 fm × A^1/3・ぼけ 0.65 fm は、文献から取らずに置いた値である。3 つ目は実際の核の表で、AME2020 の結合エネルギー(推定値を除く 2550 核種)と NUBASE2020 の安定核種 253 個を使った。

準位を下から詰めて、詰めた数が 130 以下の範囲で次の準位との間隙が大きい順に 7 か所を取り、それを殻の閉じとした。

振動子だけだと 40・70・112

準位図 4 本、係数ごとに魔法数がそろうかを赤で塗った格子と帯、二中性子と二陽子の分離エネルギーの落ち込みの棒グラフ、中性子数と陽子数ごとの安定核種の数の棒グラフ、講演の数と今の表を並べた表
上から、準位図 4 本、7 つがそろう係数の範囲、分離エネルギーの落ち込み、安定核種の数、講演と今の表の比較を並べた。

見立ての 1 つ目は、調和振動子だけだと 2・8・20 までは当たり、28 から先は外れて 40・70・112 になる、だった。殻 N には (N + 1)(N + 2) = 2・6・12・20・30・42・56 個が入るので、累積は 2・8・20・40・70・112・168 になる。見立てどおりである。ふちのぼけた井戸でスピン軌道の項がないと、閉じは 2・8・20・34・40・58・92 になった。井戸の形を変えても 28 から先は出てこない。講演の「井戸の形を変えても魔法数は説明できなかった」とも合う。

7 つがそろう係数は狭い

見立ての 2 つ目は、l·s の項を足すと、ある範囲の強さで 7 つ全部がそろう、だった。当たりだが、その範囲は狭い。閉じた式で κ を 0〜0.15、μ を 0〜1 に振った 1281 通りのうち、7 つがそろったのは 23 通りで、μ 0.15〜0.5 の細い帯に並んだ。μ 0.4 で κ を 0.0005 刻みにすると、そろうのは 0.0585〜0.0675 だった。弱いほうに外れると 28 の代わりに 40 が残り(2・8・20・40・50・82・126)、強いほうに外れると 126 の代わりに 14 が入った(2・8・14・20・28・50・82)。

ふちのぼけた井戸では、質量数 208 の井戸で λ 0.22〜0.38 のときにそろった。差分の刻みを倍の 1600 にしても端の答えは変わらなかった。質量数 150 では 0.20〜0.34、250 では 0.24〜0.32 で、質量数 100 ではどの λ でもそろわない。100 の井戸は λ 0.3 で束縛される準位を全部詰めても 94 個で、126 まで届かないからである。

208 の井戸で λ 0.3 の準位を見ると、28 は 1f7/2、50 は 1g9/2 を詰めたところで閉じる。82 と 126 は 2d3/2 と 3p1/2 で閉じ、その手前に 1h11/2 と 1i13/2 が 1 つ下の殻から降りてきている。その殻で初めて現れる大きい l の準位のうち j = l + 1/2 のほうが下へ落ちて、切れ目の位置をずらしている。講演の「大きい l が初めて現れる所に間隙ができる」はこのことである。

分離エネルギーの山は重い核で立つ

見立ての 3 つ目は、二中性子分離エネルギーの落ち込みが魔法数のところで山になる、だった。中性子を 2 個はがすのに要るエネルギーを S₂ₙ として、中性子数 N の核の S₂ₙ から N + 2 の核の S₂ₙ を引いた量を落ち込みと呼び、同じ N の核で平均した。山の高さを両隣(N − 2 と N + 2)の大きいほうで割ると、20 で 1.35、28 で 2.14、50 で 4.10、82 で 7.12、126 で 3.96 だった。振動子の 40・70・112 は 0.86・0.92・0.93 で山にならない。2 倍を超えるのは 28・50・82・126 の 4 つだけである。

ところが 8 は 0.77 で、山にならなかった。軽い核は両隣の落ち込みがもともと大きい。2 は左隣がないので比を出せない。陽子でも同じように測ると、28 で 1.64、50 で 2.42、82 で 1.58、20 で 1.23、8 で 0.92 だった。見立ては中くらいから重い核では当たり、軽い核では外れた。半分当たりである。

安定核種が多いのは 20・50・82

見立ての 4 つ目は、安定核種は魔法数の中性子数・陽子数で多い、だった。NUBASE2020 で基底状態が安定の 253 核種を中性子数ごとに数えると、いちばん多いのは 82 の 6 個で、20・50 は 5 個(74 も 5 個)だった。2 つ隣の偶数(N − 2 と N + 2)より多いのは 20・50・82 の 3 つで、28 は 4 個で N = 30 と同じ、126 は 208Pb の 1 個だけ、8 は 2 個だった。陽子数では 50(Sn)が 10 個でいちばん多く、両隣の 6 個を大きく上回る。20 と 28 は 5 個で隣と同じ、82 は 4 個で 80 の 7 個より少ない。陽子 2(He)の 2 個は陽子 4(Be)の 1 個より多いが、左隣がないので山には数えていない。

見立てどおりに山になったのは中性子の 20・50・82 と陽子の 50 だけで、半分当たりである。中性子 126 の核で安定なのは 208Pb だけで、209Bi は半減期 20.1 Ey の放射性核として載っている。208Pb は安定核種のうちいちばん重い。

講演の数は今の表で 1 つずつ減った

見立ての 5 つ目は、メイヤーの講演の数(中性子 50 に 6、82 に 7、Sn は 10、ふつうは 2 か 3)は今の表でもそのまま、だった。見立てを書いたときは講演の Sn の数を 10 と読んでいた。講演の PDF を開き直すと、この数は小さな字で「II」と刷られていて、11 と読める。

NUBASE2020 では、中性子 50 の安定核は 86Kr・88Sr・89Y・90Zr・92Mo の 5 個だった。82 は 138Ba・139La・140Ce・141Pr・142Nd・144Sm の 6 個、Sn は 10 個である。87Rb は半減期 49.7 Gy、136Xe は 2.18 Zy の放射性核として載っていて、安定には数えていない。講演の 6 と 7 は、この 2 つを足すとちょうど合う。講演の 3 つの数はどれも今の表と合わず、見立ては外れた。Sn の 11 と 10 の違いがどこから来たのかは調べていない。

「ふつうは 2 か 3」は、偶数の中性子数で見るとおおむね合う。偶数の N 63 通りのうち、安定核が 2 か 3 個のものは 37 通り、4 個が 17 通りだった。奇数の N は 1 個か 2 個しかない。

→ アナレンマの上の輪と下の輪(ひとつ前の新しい方向の作品)

機械で分かる範囲と、目でしか分からない範囲

機械で確かめたのは、振動子の閉じの数、2 つの模型で 7 つがそろう係数の範囲とその外の閉じ、差分の刻みを倍にしても範囲の端が動かないこと、分離エネルギーの落ち込みの山の高さ、安定核種の数と講演の数の食い違いである。

準位は球形の井戸 1 つに中性子だけを詰めて出していて、核の変形や、陽子と中性子で井戸が違うことは入れていない。

どう作ったか

生成器は generators/magic.js である。閉じた式は準位を並べて詰めるだけで、ふちのぼけた井戸は動径の方程式を 800 点の差分にし、固有値を Sturm 列の二分法で l と j ごとに求めた。AME2020 の質量表と NUBASE2020 は IAEA の原子質量データセンターから取り、固定幅の列から読んだ。カードの核図表は、半減期の対数で色を付けた升を色ごとに 1 本の線にまとめて描いた。

確かめていないこと。1949 年の 2 本の論文(M. G. Mayer, Phys. Rev. 75, 1969 と O. Haxel, J. H. D. Jensen, H. E. Suess, Phys. Rev. 75, 1766)は書誌だけ確認し、本文は開いていない。Elsasser の 1933 年の論文も開いていない。井戸の定数は文献の値と比べていない。陽子の準位はクーロン力を入れて解いていない。

出典

講演
M. G. Mayer「The shell model」ノーベル講演 1963 年 12 月 12 日と、J. H. D. Jensen のノーベル講演 1963 年(どちらも nobelprize.org の PDF)。魔法数、振動子の殻の数、2 つの列、スピン軌道結合、Sn と中性子 50・82 の安定核の数をメイヤーの講演から、28 の由来をイェンゼンの講演から読んだ
質量表
AME2020(W. J. Huang ほか・M. Wang ほか、Chinese Physics C 45, 030002 と 030003, 2021)の mass_1.mas20。推定値(#)の結合エネルギーは使っていない
核種の表
NUBASE2020(F. G. Kondev ほか、Chinese Physics C 45, 030001, 2021)の nubase_4.mas20。基底状態で半減期の欄が stbl のものを安定核種とした
数理
閉じた式の係数の窓、ふちのぼけた井戸の準位、分離エネルギーの落ち込みの測り方は、自分で組んで数値で確かめた
親戚
アナレンマの上の輪と下の輪
生成
generators/magic.js(magic.svg 核図表・magic-book.svg 帳簿)。数値は generators/data/magic/facts.json に書き出した