アナレンマの上の輪と下の輪
毎日同じ時計の時刻に太陽の位置へ印を付けると、1 年で 8 の字になる。東京の 2026 年で描くと、空の上では下の輪(冬)が上の輪(夏)の 6.6 倍の面積になり、水平な日時計の盤に落とした影では 19 倍になった。軌道の離心率を上げていくと輪は 1 つ消える。消えやすいのは、近日点が春分や秋分ではなく、夏至や冬至の向きにあるときだった。
なにか
太陽が真南に来る時刻(南中)は、時計の 12 時と毎日少しずつずれる。ずれの 1 つは東京が日本標準時の経度 135° より東にあることで、これは毎日同じ 19 分である。もう 1 つは均時差で、季節によって前後に 16 分ほど動く。国立天文台の東京の表では、2026 年の南中はいちばん早い日で 11 時 25 分、いちばん遅い日で 11 時 55 分だった。
均時差の分だけ太陽は東西にずれ、季節の分だけ南北にずれる。毎日 12 時に印を付けると、東西のずれと南北のずれを組み合わせた 8 の字が描ける。これをアナレンマと呼ぶ。日時計に引く不定時法の刻の九つ(真昼)は南中そのものなので、影で時刻を読むかぎり均時差は入らない。時計の時刻で太陽を見たときにだけ 8 の字が現れる。
模型
太陽の位置は 3 通りに出した。1 つ目は NOAA の太陽計算の表計算の式で、日時計の記事と同じものである。均時差はこの式の中で、黄道傾斜 ε から y = tan²(ε/2) を作り、平均黄経 L と平均近点角 M、離心率 e を使った 5 項の級数で書かれている。
2 つ目は級数を使わない計算である。ケプラー方程式 E − e sin E = M をニュートン法で解いて楕円軌道の上の太陽の向きを出し、黄道傾斜で回して赤経と赤緯を出した。均時差は平均黄経と赤経の差で、定数(離心率・平均近点角・近日点の黄経)は NOAA の式と同じものを使った。1 時間ごとに 1 年を比べると、2 つの計算の差は均時差で 2.9 秒、赤緯で 0.0016° だった。均時差の差は、NOAA の級数が 5 項で打ち切ってある分である。赤緯の差は、NOAA の式が視黄経に入れている光行差と章動の補正(−0.00569° − 0.00478° sin Ω)を 2 つ目の計算に足すと 2×10⁻⁶° まで小さくなった。
3 つ目は国立天文台の「各地のこよみ」の東京の表である。南中時刻から均時差を、南中高度から赤緯を出した。表は 1 分と 0.1° に丸めてあり、NOAA の式との差は均時差で 0.51 分、赤緯で 0.072° 以内に収まった。
均時差は 2 つの正弦では足りない
均時差は、2026 年には 2 月 11 日に −14.23 分、5 月 14 日に 3.64 分、7 月 26 日に −6.56 分、11 月 3 日に 16.49 分の山と谷を持つ。正の値は、日時計の真昼が時計の平均より早く来ることを表す。
見立ての 1 つ目は、均時差は年に 1 回の正弦と年に 2 回の正弦の和で 30 秒以内に近づく、だった。年に 1 回の項は軌道が楕円で太陽の速さが変わる分で、振幅は 7.65 分である。年に 2 回の項は黄道が赤道に対して傾いている分で、振幅は 9.86 分である。どちらも NOAA の級数の最初の 2 項に当たる。ところが 2 項の和と 5 項の式の差は、10 月 2 日に最大 0.764 分(46 秒)に達した。見立ては外れた。残りの 3 項(離心率と傾きのかけ合わせ、傾きの 2 乗、離心率の 2 乗)が、合わせて 40 秒を超える所がある。
結び目は夏至をはさんでほぼ同じ日数
2 つ目の見立ては、8 の字の結び目の 2 日は夏至から同じ日数だけ離れている、だった。毎日 12 時の点を結んだ 8 の字は、4 月 12〜13 日と 8 月 30〜31 日のあいだで交わり、交点の赤緯は 8.92° だった。夏至の瞬間(視黄経が 90° になる時刻)からは 69.48 日前と 70.05 日後で、差は 0.57 日にとどまった。ほぼ当たりである。ケプラー方程式の計算でも交点の赤緯は 8.94° で、国立天文台の表の点でも 4 月 13 日と 8 月 30 日の点で交わった。
見立てを立てる前は、結び目は春分と秋分のあたりにあると思い込みかけていた。春分と秋分には赤緯が 0° になるが、均時差は 3 月 20 日で −7.54 分、9 月 23 日で 7.48 分で、符号が逆になる。赤緯が同じになる 2 日は夏至をはさんで向かい合い、そのうち均時差も一致する組が結び目になる。
下の輪は上の輪の 6.6 倍
3 つ目の見立ては、空の上で下の輪(冬)は上の輪(夏)の 2 倍くらいの面積、だった。空の上の東西は、均時差のぶんの時角のずれに cos(赤緯)をかけた角で測った。結び目で 8 の字を 2 つの輪に切って面積を出すと、上の輪は 23.78 平方度、下の輪は 157.05 平方度で、下は上の 6.60 倍になった。ケプラー方程式の計算でも 6.60 倍、国立天文台の表の丸めた点でも 6.50 倍である。軌道を 365・2000・8000 に刻んでも 6.60 倍は動かなかった。2 倍の見立ては外れた。
水平な日時計の盤に落とすと差はさらに開く。冬は太陽が低く影が長いので、冬の輪が引き伸ばされる。高さ 1 の棒で、12 時の影の先の夏の輪は 0.00860、冬の輪は 0.1649 で、19.2 倍になった。表紙の絵で 12 時の 8 の字の上半分が長いのはこのためである。
離心率を 0 に、傾きを 0 にする
4 つ目の見立ては、離心率を 0 にすると上下の輪が同じ大きさになり、傾きを 0 にすると東西の線になる、だった。離心率 0 の 8 の字は上下の面積の差が 3×10⁻¹⁵ で、同じ大きさになった。傾き 0 の 8 の字は赤緯がどこでも 0 で、均時差が −7.65 分から 7.65 分まで往復する線になった。どちらも当たりである。上下の輪の違いは、離心率と傾きの 2 つがそろって初めて生まれる。
輪が消えやすいのは近日点が至点にあるとき
5 つ目の見立ては、離心率を上げていくと輪が 1 つ消え、消えやすいのは近日点が春分・秋分の向きにあるとき、だった。傾きを地球と同じ 23.44° にして、近日点の黄経を 5° ごとに振り、8 の字の交点がなくなる離心率を二分法で探した。
いちばん消えやすいのは近日点が夏至か冬至の向きにあるときで、離心率 0.04350 で輪が 1 つ消えた。近日点が春分・秋分の向きから 27.1° 以内にあると、離心率を 0.5 まで上げても輪は消えなかった。見立ては逆向きに外れた。
理由は至点の上で起きることにある。至点では赤緯が止まるので、8 の字はそこで折り返す。そのとき均時差も止まると、折り返しが尖って輪がつぶれる。赤経の進みは、至点では黄道の傾きのせいで平均の 1/cos ε 倍に速まり、遠日点では軌道の遅さのせいで √(1 − e) / (1 + e)^1.5 倍に遅くなる。遠日点が至点に重なり、この 2 つがちょうど打ち消し合う cos ε = √(1 − e) / (1 + e)^1.5 のとき輪が消える。この式を解くと 0.04350 で、二分法の値と 5 桁まで一致した。二分法は軌道を 500・1500・4000 に刻んで振り、どれも 0.04350 だった。
地球の近日点の黄経は 283.4° で、冬至の向きから 13.4° ずれている。この向きで輪が消える離心率は 0.0448 で、今の 0.0167 の 2.68 倍に当たる。消えるのは上(夏)の輪である。
機械で分かる範囲と、目でしか分からない範囲
機械で確かめたのは、3 通りの計算の均時差と赤緯が一致すること、2 項の和の外れ方、結び目の日、輪の面積とその比、輪が消える離心率とそれを表す閉じた式である。軌道の刻みを変えても、比と離心率は 3 桁目まで動かなかった。
実物の写真のアナレンマは、写す時刻とレンズの写像で形が変わる。写真と比べることはしていない。
どう作ったか
生成器は generators/analemma.js で、太陽の式は generators/sundial.js をそのまま読み込んだ。輪の面積は、点列の自己交差を線分の交わりで探し、交点で 2 つの閉じた点列に切って靴ひもの公式で出した。輪が消える境目は、交点の数が 1 から 0 に変わる離心率を二分法で探した。盤の絵は冬至と夏至の影の先の道、春分と秋分の線、真昼の線と、毎日同じ時刻の影の先だけで描いた。
確かめていないこと。アナレンマの名前の由来と、日時計や地球儀に 8 の字を描いた歴史は調べていない。ほかの惑星の 8 の字の形は、軌道の定数を原典で開いていないので計算していない。
出典
- 太陽の位置
- NOAA Global Monitoring Laboratory「Solar Calculation Details」と表計算 NOAA_Solar_Calculations_day(J. Meeus『Astronomical Algorithms』に基づくと明記)。平均黄経・平均近点角・離心率・黄道傾斜・赤緯と、均時差の 5 項の級数をこの表計算から読んだ。2026 年 6 月 21 日正午の離心率は 0.016697、黄道傾斜は 23.4381° になる
- 比べた表
- 国立天文台 暦計算室「各地のこよみ 東京(東京都)」の 2026 年 1〜12 月の南中時刻と南中高度。写しは日時計の記事と同じ generators/data/sundial/naoj-tokyo-2026.json
- 数理
- ケプラー方程式からの太陽の向き、空の上の輪の面積の測り方、輪が消える条件 cos ε = √(1 − e) / (1 + e)^1.5 は、自分で導いて数値で確かめた
- 親戚
- 日時計に引く不定時法の刻・リサジュー図形
- 生成
- generators/analemma.js(analemma.svg 盤・analemma-book.svg 帳簿)。数値は generators/data/analemma/facts.json に書き出した