和音のかたち
2つの音を縦と横に入れて、9つの音程の図形を描いた。下の図では、周波数の比と位相差を自分で動かせる。
音を図形にするには
音は「時間 → 振幅」の数値の列である。ところが1本の波を折れ線に描いても、図形としては貧しい(上下に揺れる線が1本あるだけ)。音を図形にするには次元を足す道が4本ある。
- 2つの音を x と y に入れる。この作品が扱うのはこれで、周波数の比が形になる(リサジュー図形)
- 波の重ね合わせを平面に敷くと干渉縞になる。すでにモアレの棚で扱った(音でも同じことが起きる)
- 円に巻いて級数にするとフーリエになり、音の道具で輪郭が描ける(周転円で任意の閉曲線)。周転円で描く角で収蔵した
- 比を数として見ると連分数になる。なぜ鍵盤は12個か(かけ算第15号)で扱った
1本目は身近な装置がある。オシロスコープに2つの音を入れると、横軸が下の音、縦軸が上の音になって、画面にこの図形が出る。ギターやピアノの調律、アナログ機器の位相合わせに使われた「聞くかわりに見る」測り方だ。
図形を見れば、音程が読める
比が有理数 p : q なら曲線は必ず閉じる(9音程すべてで、1周したあと始点に 10⁻¹⁵ の精度で戻る)。そして枠の縁に触れる回数がそのまま比になる。左右の縁に触れる回数と上下の縁に触れる回数の比が p : q になる。だから図形を見るだけで「これは完全5度だ」と読める。9音程すべてで例外なく成立した。
位相差によって形は変わるが、縁への接触回数は変わらない。ここが「見る測り方」として使えた理由で、逆に交差の数は位相差で変わってしまうので音程の指標にならない(位相差を振って確かめた)。
位相差がある値になると、図形は潰れて弧を二度なぞる。ユニゾンで位相が揃うと 45°の直線になり、オクターブで位相差 π/2 のときは放物線 y = 1 − 2x² になる(cos2θ = 1 − 2sin²θ そのもの・残差 10⁻¹⁵)。オシロスコープで図形が一瞬まっすぐに見えるのは、これである。
自分で動かす
下の絵は、あらかじめ描いた絵の切り替えではなく、ページを開いたその場で上の図と同じ計算をしている。位相差 δ を動かしても縁への接触回数は変わらない。変わらないことこそが「見る測り方」の中身なので、動かして確かめてほしい。
平均律の比は 2 の12乗根のべきで、無理数になる。オクターブ(12半音)だけは純正と一致する。
- 閉じるか
- —
- 縁への接触
- —
- 読み取った比
- —
- 退化(二度なぞり)
- —
- 音程
- —
スライダーで決めた周波数比と位相差のリサジュー図形
δ を端から端まで動かすと、形は変わり続けるのに「縁への接触」の2つの数だけが動かない。ときどき曲線が潰れて退化し、弧を二度なぞる。オシロスコープで図形が一瞬まっすぐに見えるのは、このときである。平均律に切り替えると閉じるかの誤差が桁で跳ね上がる(比が無理数だから)。
平均律だと図形が閉じない。うなりが目に見える
ピアノの5度は純正より 1.96 セント狭い(2^(7/12) = 1.4983 で、3/2 ではない)。無理数なので曲線は永久に閉じず、代わりに形がゆっくり回り続ける。この一巡の周期は 0.671 秒で、調律師が数えるうなりの周期とぴったり同じになる(毎秒 1.490 回)。
理由は対称性にある。位相差 δ が π 進むと点の集合が元に戻る(上の音が奇数倍・下が偶数倍のとき)。2π ではなく π で戻るので、一巡の周期が倍音どうしのうなり 1/|2f₂ − 3f₁| と一致する。δ と δ+π の点集合は一致し、δ+π/2 では一致しない。耳で数えているものが、そのまま目で数えられる。
ずれの大きさは音程で違う。平均律が妥協しているのは5度(−1.96 セント)ではなく3度で、長3度は +13.69、短3度は −15.64 セントで、5度の7倍ずれている。ギターで和音を弾くと3度が濁って聞こえるのは、このためである。オクターブだけは平均律でも純正と完全に一致する(定義上)。
どう作ったか
曲線は x = sin(2πpt), y = sin(2πqt + δ) をそのまま描く(位相差は「ずれていく上の音」に置いた)。数えるものは3つある。縁への接触は山と谷を数え、退化は標本点のうち別々の点が何個あるかで判定し(二度なぞっていれば実質半分になる)、うなりは倍音の周波数差から出す。位相差を241通りに振っても、9音程×241=2169組のすべてで接触回数は動かなかった。
接触回数の数え方には落とし穴がある。極値がちょうど t=0 に乗る位相では、区間の内側だけを数えると1個取りこぼし、2:3 なら δ=π/2 と 3π/2 のちょうど2点で、縦の接触が 6 でなく 5 と出る。曲線は閉じていて t は輪なので、輪として数えれば取りこぼしはない。太鼓の節線の「t=π/4 だけ節領域が7」と同じ型で、量は一定なのに、数え方がつまみの特別な値で跳ぶ。刻みだけでなく、つまみも端から端まで振ると見つかる。
出典
- 数理
- Nathaniel Bowditch (1815) が振り子で観察し、Jules Antoine Lissajous (1857) が光学的に描いた曲線。純正音程の比と12平均律(半音 = 2^(1/12))、セント(1200·log₂ 比)、うなり(倍音の周波数差)は音楽音響の標準
- 生成
- generators/lissajous.js(曲線・閉じるかの判定・縁への接触・退化の検出・平均律とのずれ表・うなりの計算・音程9種類の図とコマ送り図。依存ゼロ・乱数ゼロ)。リサジュー図形の計算は gallery/assets/lissajous-live.js にまとめ、上の図と動く図の両方がこれを使っている