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Rauzy フラクタル

1 を 12 に、2 を 13 に、3 を 1 に置き換える操作をくり返すと、繰り返さない 3 文字の列ができる。その列を平面に写して色を塗ると、縁のぎざぎざな 3 色の図形が出てくる。同じ図形を格子に沿ってずらして並べると平面がすき間なく埋まるので、そのまま布のリピートにした。

藍・茜・黄土の 3 色に分かれた、縁のぎざぎざな図形が、少しずつ斜めにずれた行をなして平面いっぱいに並んでいる模様
1 枚の図形は藍・茜・黄土の 3 片でできている。細い線が 1 枚の縁で、同じ図形を格子の向きにずらした写しが、すき間も重なりもなく並ぶ。

なにか

Rauzy は 1982 年の論文「Nombres algébriques et substitutions」で、置換 1→12、2→13、3→1 を扱った。1 から始めて置き換えをくり返すと、1、12、1213、1213121、と伸びていき、その行き着く先の無限の列を u とする。ζ を x³+x²+x−1=0 の実数の根とすると、ζ は約 0.5436890 で、逆数は約 1.8392867 になる。この逆数は、前の 3 つを足して次を作るトリボナッチ数の、隣どうしの比が近づいていく値である。

論文の p.148 の定理は、平面の点を正方形の格子でたたみ、一定の向きにずらし続ける動きを扱う。ずらす量をうまく選ぶと、行き先を 3 つの領域で色分けしたときの色の並びが、u と一致する。そうなる 3 つの領域の分け方があり、逆も成り立つ、というのが定理の中身である。Rauzy は 3 つの領域を「残りが有界な集合」と呼んでいる。p.177 には、3 片に分かれた図形と、全体を一定の量だけずらして格子でたたみ直すと 3 片が並べ替わって同じ形に戻る図が載っている。本文の注は、全体が 1 点を中心に点対称だと書く。

この論文の本文には「fractale」という語は出てこない(文字で探した範囲)。Messaoudi は 1998 年の論文の要旨で、引用符をつけて「fractal de Rauzy」と呼び、序文で G. Rauzy が導入した、と書いた。開いた 4 本の論文の文献表では、Ito と Kimura の 1991 年の論文の題にすでにこの呼び名が入っている。誰が名づけたかを書いたものは、開いた範囲では見つからなかった。

Messaoudi 1998 は、この図形の性質として、コンパクトで連結であること、境界がフラクタルで内部は単連結であること、複素平面を周期的に敷きつめることを挙げる。Durand と Messaoudi の 2011 年の論文もほぼ同じことを並べ、周期的な敷きつめの出典を Rauzy 1982 に置いている。

3 片を描く

3 色の図形 1 枚と面積の表、図形の写しを並べた上に破線の平行四辺形を重ねた図、中心の図形のまわりに接する写し 6 枚の図、布のリピートの横幅とずれの表、境界の次元の表、見立ての当たり外れの表
上から、図形 1 枚と面積、格子でたたんだときの重なり、接する写し、布のリピートの取り方、境界の次元、見立ての当たり外れを並べた。

置換を 27 回くり返して、u の先頭 15,902,591 文字を作った。先頭から N 文字までに 1・2・3 がいくつずつあるかを数え、その 3 つの数を、置換の行列が縮める向きの平面へ写す。写した点を、次の文字が 1 なら藍、2 なら茜、3 なら黄土で塗った。

Rauzy の §4.1 によると、3 片の面積は全体の ζ 倍、ζ² 倍、ζ³ 倍になり、ζ+ζ²+ζ³=1 なので 3 片は縁でしか重ならない。塗った画素で面積を測ると、全体を 1 として 0.5448、0.2964、0.1613 になった。目標の 0.5437、0.2956、0.1607 とは、境界の画素の分だけずれている。並び方は p.177 の図と同じで、いちばん小さい黄土の片が、藍の片と茜の片の両方に接する。点の重心を中心に 180° 回すと、塗った図はもとの図とぴったり重なった。

格子に沿って並べ、布にする

図形を並べるときのずらし方は、文字の個数の差で決まる格子 Λ になる。Λ の基本の平行四辺形の面積は 3.7725 で、図形 1 枚の面積と同じである。点を Λ の座標で表して画素に落とし、平行四辺形の枠の中へ折りこんでみた。空く画素はどの細かさでも 1 つもなく、1 枚だけが乗る画素は、枠の 1 辺を 1600 に分けたとき 99.84% だった。残りの 0.16% は 2 枚が乗る画素で、縁にあたる。

並べた写しのうち、1 枚の図形と縁で接するのは 6 枚だった。正六角形を並べたときと同じ数になる。接する画素の数は、細かさを 2 倍にすると 2 倍近くに増えるので、6 枚とも点で触れるのでなく、線で接している。基底の 2 つの向きにそれぞれ 3 つ先までの写しを調べ、ほかに接するものはなかった。3 片はそれぞれ 1 つのかたまりで、どの片にも閉じこめられた穴はなかった。

布のプリントでは、長方形の版を横に並べ、行ごとに横へずらして送る。いちばん短い格子ベクトルを横に寝かせると、長方形の横幅 1.8393 に対して高さは 2.0511、行ごとのずれは横幅の 0.7718 倍になる。短いほうから 6 本の格子ベクトルのどれを横にしても、ずれは 0.5 にならなかった。よく使う半分ずらし(ハーフドロップ)の送りでは刷れないので、ずれの量を指定できる送りが要る。

縁の次元は 1.0934

Thuswaldner 2006 と、Durand と Messaoudi の 2011 年の論文は、境界を最初に調べたのは Ito と Kimura の 1991 年の論文だと書く。Loridant・Messaoudi・Surer・Thuswaldner の論文も、この図形の仲間を最初に調べたのはその論文だとする。境界が Dekking の方法で作られるジョルダン曲線だと示したこと(Messaoudi 1998、Durand と Messaoudi 2011)、ハウスドルフ次元を計算したこと(Thuswaldner 2006、Durand と Messaoudi 2011、Loridant ほか)も、これらの論文の書き方による。Ito と Kimura の論文そのものは開けていない。

次元の値は、Thuswaldner 2006 の定理 6.7 の式から自分で計算した。式は 2+(log λ − log μ)/log r で、λ はトリボナッチ数、r は残りの根の絶対値 0.7373527、μ は x⁴−2x−1 の最大の根 1.3953370 である。値は 1.0933641642823 になった。OEIS の A272408 に載っている式 2b³ˣ+b⁴ˣ=1 を解いても、小数 13 桁まで同じ値になる。この項目は式の出典を書いていないので、根拠には定理 6.7 を使った。自分で描いた図の外側の縁を、細かさを 2 倍ずつにして数えると、増え方の指数は 1.087、1.107、1.106 だった。

なめらかな線の次元は 1 で、面の次元は 2 である。Rauzy フラクタルの縁は 1 より少しだけ大きく、線でありながらわずかに面へ食いこんでいる。

見立て

布のリピートを測る前に、見立てを 5 つ決めた。

見立ての 1 つ目は、枠に折りこむと 1 枚だけ乗る画素が細かさ 1600 で 99% を超え、2 枚乗る画素は細かさを 2 倍にするたびにほぼ半分になる、だった。前半は 99.84% で当たった。後半は、2 枚乗る画素が点の数で動いた。点を 470 万から 2,925 万へ増やすと、細かさ 1600 で 0.05% から 0.19% へ増え、2 倍ごとの減り方も 0.17 倍から 0.49 倍まで変わる。点を増やすほど半分に近づくが、どこで止まるかは決められなかった。半分当たりとした。

見立ての 2 つ目から 4 つ目は、3 片はどれも上下左右のつながりで 1 つのかたまりになる、どの片にも閉じこめられた穴はない、1 枚に縁で接する写しは 6 枚、の 3 つだった。細かさを 400・800・1600 と変えても、かたまりは片ごとに 1 つ、穴は 0、接する写しは 6 枚のままで、3 つとも見立てどおりである。

見立ての 5 つ目は、長方形の版の行ごとのずれは横幅の半分にならない、だった。短い 6 本でいちばん 0.5 に近いのは 0.4484 で、見立てどおりである。

→ フィボナッチ・ワード(a → ab、b → a の置換で作る 2 文字の列)

どう作ったか

生成器は generators/rauzy.js である。置換の行列の複素数の固有値 α の左固有ベクトル (1, α−1, 1/α) で、文字の個数を複素平面へ写した。Λ は 1 と 2、1 と 3 の個数の差のベクトルで張り、短い基底に取り直した。点を Λ の基底の座標で表し、1/n 刻みの画素に落とすと、Λ のずらしは画素のちょうど n 個ぶんになる。たたむのも写しを並べるのも、画素の番号の足し算で済む。表紙の模様は、細かさ 600 で塗った 3 片の縁をたどった輪郭を、Λ のずらしで敷いたものである。

確かめていないこと。2 枚乗る画素は点の数で動くので、細かさを上げたときの減り方の行き先は決められていない。接する写しは基底の向きに 3 つ先までしか調べていない。Ito と Kimura 1991、Arnoux と Ito 2001 は開けておらず、境界の話は開いた論文がそう書いている、という形でだけ引いた。Rauzy 1982 の図そのものは載せず、図はすべて自分の計算で描いた。

出典

置換と 3 片
Rauzy「Nombres algébriques et substitutions」Bull. Soc. math. France 110(1982)147〜178(numdam・10.24033/bsmf.1957)。p.148 の置換と定理、§4.1 の 3 片の面積、p.177 の図と点対称の注。本文で読み、図はページを画像にして読んだ
呼び名と性質
Messaoudi「Propriétés arithmétiques et dynamiques du fractal de Rauzy」J. Théor. Nombres Bordeaux 10(1998)135〜162。要旨の呼び名、序文の性質と Ito・Kimura の結果、文献表
境界の次元
Thuswaldner「Unimodular Pisot substitutions and their associated tiles」J. Théor. Nombres Bordeaux 18(2006)487〜536(10.5802/jtnb.556)。定理 6.7 の式
境界の研究の経緯
Durand・Messaoudi「Boundary of the Rauzy fractal sets in R×C generated by P(x)=x⁴−x³−x²−x−1」Osaka J. Math. 48(2011)471〜496。Loridant・Messaoudi・Surer・Thuswaldner「Tilings induced by a class of cubic Rauzy fractals」(著者の勤め先のサイトの PDF。誌名は確かめていない)
次元の別の式
OEIS A272408(Sykora・2016-04-29)
数理
固定点、平面への写し方、面積、たたみ方、接する写し、布のリピートのずれ、次元の計算は自分で組んだ
親戚
フィボナッチ・ワード
生成
generators/rauzy.js(rauzy.svg 表紙・rauzy-book.svg 帳簿)。数値は generators/data/rauzy/facts.json、輪郭は tile.json に書き出した