かけ算第22号|結晶のかたち × 雪の結晶 — ゆっくり育てれば、成長形は平衡形に届くか
この作品の問い
結晶のかたちは平衡形の話だった——表面エネルギー γ(θ) が向きで違うと、最小の形は円でなく多角形になる(Wulff 構築)。六角の異方性なら、γ′ が跳ぶ cusp 型の γ から正六角形が出る。
雪の結晶は成長形の話だった——六角格子の上で「水蒸気が拡散して縁に付く」規則だけで樹枝も板も出る。つまみ β(もとの水蒸気の量=どれだけ速く育つか)で形が変わる。
平衡形は「無限にゆっくり」の極限で、成長形は速さの関数。教科書はそう言う。では同じ格子の上で β を下げていくと、Reiter の成長形は Wulff の平衡形にどこまで近づくか。近づくなら、六角形の向き——角が格子の隣の向きに立つのか、面がそうなのか——はどちらか。
測り方
育った結晶(凍ったセルの集合 A)と、同じ面積の正六角形を格子に落としたセル集合 H との Jaccard 一致率 |A∩H| / |A∪H| を測る。向きは角が 0°(格子の隣の向き)か 30°かの2通りを両方測って大きいほうをとる。もうひとつ、0° の半径と 30° の半径の比——正六角形なら 2/√3 = 1.155。
★道具の答え合わせを2つ。①格子に落とした正六角形(外接半径 m)のセル数は中心六角数 3m²+3m+1 に m = 1〜8 で一致する。②Wulff 構築に cusp 型 γ = 1 − ε + ε|cos 3θ| を入れると、出てくる多角形は面が 6 つで、support 関数が 72 方向で 10⁻¹⁵ まで正六角形と一致し、角は 0° に立つ(独立2経路)。
⚠️ 最初、結晶のかたちの cos 型 γ = 1 + ε cos 6θ(ε = 0.06 > 1/35)を「六角形」として使っていた。それは角が立っても面は丸い(半径の比 1.098・辺 546 本)。正六角形には γ′ の跳びが要る——発見31 の cusp 型はここで効いた。
★答え——β について単調に近づく。角の向きも同じ
| β(水蒸気の量) | 一致率 | 半径の比 0°/30° | 境界の辺 ÷ セル数 | 形 |
|---|---|---|---|---|
| 0.15(ゆっくり) | 93.6% | 1.346 | 0.14 | 面が凹んだ六角の板 |
| 0.3 | 72.7% | 2.376 | 0.27 | 扇(セクタープレート) |
| 0.6(速い) | 32.4% | ∞ | 2.36 | 樹枝 |
β を 0.15 から 0.6 まで 7 通りに振ると、一致率は 94% → 37% と 7 点すべて単調に落ちる。そして3つとも角は格子の隣の向き(0°)にある——Wulff の平衡形の角と同じ向きに立つ。成長形の先端が伸びる向きと、平衡形の角が立つ向きは、この格子では一致している。
樹枝の一致率が低いのは「面積の割に周囲が長い」からで、境界の辺÷セル数は板の 0.14 に対して樹枝は 2.36(17 倍)。成長形は先端だけが伸び、平衡形は面で埋まる。
★解像度を振っても答えが動かない。格子の半径を R = 20 → 28 → 36 に振っても、一致率の動きは β = 0.15 で 3.2 点・β = 0.3 で 3.5 点。刻みで動いていないので、測っているのは形であって格子ではない。
⚠️ ただし届いてはいない。β = 0.15 でも半径の比は 1.35 で、正六角形の 1.155 には距離がある(面が凹んでいる)。β → 0 は計算が急に遅くなるので、ここまでしか測っていない。「ゆっくりほど近づく」は言えるが「極限で一致する」は言えない。
速さの曲線
どう作ったか
generators/wulffsnow.js。結晶は snowflake.js の grow(Reiter の規則・α = 1・γ = 0.0008・縁に届いたら止める)、平衡形は gallery/assets/wulff-live.js の Wulff 構築(cusp 型 γ を 30° 回して角を格子の隣の向きに合わせる)。Jaccard の H は結晶と同じセル数になる外接半径で正六角形を格子に落とす。図の結晶は「行ごとに連続する凍ったセルを1つの帯」にして描く(1セル1図形だと太る)。
検査は 12 件。中心六角数との一致、Wulff 形が正六角形で角が 0° にあること、cos 型では面が丸いこと(最初の誤り)、一致率と半径の比が β について単調なこと、3つとも角が 0° にあること、6回対称が 10⁻⁹ で立つこと、境界÷セル数の順序、解像度を振っても一致率が動かないこと、出荷SVG を機械検査している。
出典
- 数理
- G. Wulff (1901) 平衡形の作図/C. A. Reiter, "A local cellular model for snow crystal growth" (2005)。⚠️「ゆっくり育てると平衡形に近づく」は結晶成長の教科書的な話だが、この模型でそれが出るかは、ここで測ったものだけ
- 親
- 結晶のかたち(発見31・cusp 型の γ で正六角形)× 雪の結晶(Reiter の六角セルオートマトン)
- 生成
- generators/wulffsnow.js(wulffsnow.svg 3つの結晶と平衡形・wulffsnow-sweep.svg 速さの曲線)