セミの素数周期
北アメリカの周期ゼミは、13 年か 17 年ごとに同じ土地で一斉に地上へ出てくる。年を 17 と 13 で割った余りで升目に置くと、221 年がちょうど 1 マスずつ埋まり、どの群れがいつ同じ年に出るかが格子縞になって見えた。素数の周期がほかと重なりにくいのは、群れが同じ年に始まるときだけだった。
なにか
周期ゼミ(Magicicada)は、幼虫が土の中で 13 年か 17 年を過ごし、同じ土地の群れがそろって同じ年に地上へ出る。コネチカット大学の周期ゼミの資料は、同じ年に出る群れをまとめて「ブルード」と呼び、ローマ数字で番号をつけている。Marlatt が 1902 年に、1893 年に出た 17 年の群れを I とし、I〜XVII を 17 年、XVIII〜XXX を 13 年に割り当てた。いまいるのは 17 年のブルードが 12、13 年のブルードが 3 で、残りの番号は空いている。資料は、ブルードは生きものの単位というより帳簿の上の区分だ、とも書いている。
周期が素数である理由には、交雑の説がある。Tanaka・吉村ほか(2009)の序論によれば、周期の違う群れが同じ年に出ると交雑し、子の周期が親と変わって不利になる。13 年と 17 年の群れは隣り合っていても 221 年に 1 回しか同じ年に出ない。ここでは、この「重なりにくさ」がどの条件で成り立つのかを数える。
221 年が 17 × 13 の升目を 1 回ずつ埋める
年から 1893 を引いて 17 で割った余りを列、13 で割った余りを行にする。すると列の順が Marlatt の I〜XVII、行の順が XVIII〜XXX にそのまま重なった。資料の表の 15 のブルードの出る年は、どれも番号どおりの列と行に入る。17 と 13 は互いに素なので、2000 年から 221 年ぶんの年はどれも別のマスに入り、221 マスがちょうど埋まる。1 年進むと列も行も 1 つずつ進むので、年をたどる線は右下へ斜めに走り、端で反対側へ戻る。
見立ての 3 つ目は、13 年と 17 年の群れが同じ年に出るのは 221 年に 1 回で、2024 年がその年、前は 1803 年だった。XIII(17 年)と XIX(13 年)は資料の表でどちらも 2024 年に出る。そこから 221 年さかのぼると 1803 年、さらに前は 1582 年になる。見立てどおりである。1803 年に実際に 2 つの群れが出た記録は開いていない。
ブルードの表を開いてから、数える前に 2 つの見立てを足した。7 つ目は、どれかのブルードが出る年は 221 年のうち 8 割ほど、8 つ目は、17 年と 13 年の群れが同じ年に出る年は 221 年に 36 回(12 × 3)だった。1 年ずつ数えると、どこかで出る年は 171 年(77.4%)、どこにも出ない年は 50 年(空の列 5 × 空の行 10)だった。2 つの周期が同じ年に出る年は 36 で、どちらも見立てどおりである。36 年は 2001・2002・2014・2015・2024・2037 年と続き、XIII は 2024 年に XIX と、2041 年に XXIII と同じ年に出る。同じ年に出ることと、同じ土地で出会うことは別で、群れが隣り合っているかは数えていない。
もし天敵にも周期があったら
天敵にも周期があったら、素数の周期はどれだけ天敵と出会わずにすむか。天敵の周期についての説は原典を開いていないので、ここでは整数の計算としてだけ扱う。セミの周期を P、天敵の周期を p とし、セミが出る年のうち天敵も出る年の割合を数えた。1 つ目は最小公倍数の年数ぶんを 1 年ずつ数える方法、2 つ目は閉じた式である。両方が同じ年に始まるなら割合は gcd(P, p)/p で、2 つの答えは 10〜20 年と 2〜15 年の全部の組でぴったり一致した。
見立ての 1 つ目は、天敵が 2〜9 年のとき、割合の合計は素数 11・13・17・19 で最小になり、そのうち最小は 17 か 19、最悪は 12 と 18 だった。合計は 11・13・17・19 でどれも 1.829 で、4 つは同じ値に並んだ。最小の中の差はなく、ここは外れである。いちばん大きいのは 12 の 5.176、次が 18 の 5.093 で、ここは当たった。
見立ての 2 つ目は、天敵の始まりの年を 0〜p−1 年で平均すると、割合は周期によらず 1/p になり、素数の利点は消える、だった。どの P でも合計は 1.829(1/2 + 1/3 + … + 1/9)になり、見立てどおりである。素数の値 1.829 は、この平均と同じ値だった。天敵の周期がみな P より短いとき、素数の周期は、天敵がどの年に始まっても平均と同じ割合でしか出会わない。合成数の周期は、約数の周期の天敵と始まりがそろうと平均より多く出会う。素数は得をするのでなく、損をしない。
見立ての 5 つ目は、天敵の周期の上限を 5〜15 年に振っても素数が前に並び、上限が P を超えるとその素数も損をする、だった。上限が 5〜10 年なら小さい順の最初の 4 つは 11・13・17・19、11 年を超えると 11 が、13 年を超えると 13 が後ろへ下がり、15 年まででは 17 と 19 が最小で並ぶ。見立てどおりである。
重なりにくいのは、同じ年に始まるときだけ
Tanaka ほかの模型にならい、10〜20 年の 11 の群れを同じ年に始めた。そのうえで、それぞれの群れが出る年のうち、ほかの周期のどれかも出る年の割合を出した。1 つ目は 11 の周期の最小公倍数 232,792,560 年ぶんを 1 年ずつ見る方法、2 つ目は包除原理の式で、差は 1e−15 だった。
見立ての 4 つ目は、素数の周期は割合が小さく、13 と 17 は 12・14・15・16・18 の半分以下、だった。素数は 11 が 0.420、13 が 0.429、17 が 0.440、19 が 0.443 で、合成数の 0.584(14)〜1.000(20)より小さい。20 年の群れは 10 年の群れと毎回重なる。ただし 13 と 17 が半分以下になる相手は 20 だけで、12 と 18(0.743)に対しても 0.58〜0.59 倍、14(0.584)に対しては 0.73〜0.75 倍にとどまる。素数が小さい所は当たり、半分以下は外れで、見立ては半分当たりとした。
次に、群れの始まりの年をならした。周期 P と Q の群れが同じ年に出るのは、始まりの年を全部の組み合わせで平均すると P と Q によらず PQ 年に 1 回になる。全部の周期の組と始まりの年で確かめて、式との差は 3e−17 だった。どちらかが素数でも合成数でも変わらない。Toivonen と Fromhage(2020)は、2 つの偶数の周期も片方が奇数の年、片方が偶数の年に出るなら決して重ならない、という例を引いている。10〜20 年の偶数どうしの 15 組を片方だけ 1 年ずらすと、15 組とも一度も重ならなかった。
素数が重なりにくいのは、群れが同じ年に始まるときである。Toivonen と Fromhage は、多くの土地で出る年がたまにそろう仕組みがあるときにだけ、素数の周期が有利になると結論している。
交雑の模型は、式だけでは組み直せなかった
見立ての 6 つ目は、Tanaka ほか(2009)の交雑の模型を式 1〜5 から組み直すと、13・17・19 が残り 11 は残らない、だった。論文の模型では、幼虫は毎年 S 倍に減り、周期の年に E 倍が成虫になる。雌は、その年の成虫全体に占める割合で相手を選んで C = 25 個ずつ産み、群れの数が Nc を下回ると絶える。論文の図 5 は S = 0.944 で E と Nc を振り、E = 0.26・Nc = 100 では 13 と 17 だけが残る。
子の遺伝子型を 4 通りに 1/4 ずつ分け、Nc を幼虫と生まれた子の群れに当てて 300 年回すと、11 の周期は全部残った。Nc を成虫にも当てると、最初に出る年の成虫の数が 100 に届かない長い周期から消え、E = 0.26 では 10〜16 が残った。どちらの読み方でも、素数だけが残る結果は出ず、見立ては確かめられなかった。論文の式は画像で、Nc をどの群れにいつ当てるかと、子をどう分けるかが読み切れない。論文の考察は、いまのブルードでは周期の違う群れがほとんど重ならないのに模型は重なりを前提にしている、とも書いている。
機械で分かる範囲と、目でしか分からない範囲
機械で確かめたのは、資料の表の年が周期ずつあいていて番号どおりの列と行に入ること、221 年が升目を 1 回ずつ埋めることである。出会う割合と重なる割合が 2 つの数え方で一致すること、始まりの年をならすと周期によらなくなることも確かめた。升目の縞の見え方は、どの年から 221 年を取るかで線の位置がずれるが、マスの色と黒い点の数は変わらない。
どう作ったか
生成器は generators/cicada.js である。ブルードの出る年はコネチカット大学の表から写し、升目の位置は(年 − 1893)を 17 と 13 で割った余りで決めた。出会う割合と重なる割合は、年を 1 つずつ数える関数と、最大公約数・最小公倍数・包除原理の式の 2 つで出して突き合わせた。交雑の模型は、式 1〜5 を群れ(遺伝子型と生まれた年の組)ごとに毎年進める形で書いた。
確かめていないこと。天敵の周期について書いた原典は開いていないので、天敵の節は整数の計算だけにした。Tanaka ほか 2009 の前の論文(Yoshimura ほか 2009)と吉村 1997、Lehmann-Ziebarth ほか 2005 は開いていない。1803 年に XIII と XIX が同じ年に出た記録と、ブルードどうしが隣り合う場所は確かめていない。
出典
- ブルード
- University of Connecticut「Periodical Cicada Information Pages」の Broods(2026 年 9 月 30 日に開いた)。17 年と 13 年のブルードの番号と出る年の表、Marlatt 1902 の番号のつけ方、空いている年の数を読んだ
- 交雑の模型
- Y. Tanaka, J. Yoshimura, C. Simon, J. R. Cooley, K. Tainaka「Allee effect in the selection for prime-numbered cycles in periodical cicadas」PNAS 106(22), 8975–8979(2009)。序論の交雑の説と 221 年、模型の式 1〜5 と図 1・図 5、考察を読んだ
- 始まりの年
- J. Toivonen, L. Fromhage「Hybridization selects for prime-numbered life cycles in Magicicada: An individual-based simulation model of a structured periodical cicada population」Ecology and Evolution 10(12), 5259–5269(2020)。要旨と序論を読んだ
- 数理
- 升目の置き方、出会う割合と重なる割合、始まりの年をならした値は、自分で組んで 2 つの経路で確かめた
- 親戚
- 金星の五芒星・アナレンマ・ユークリッドリズム
- 生成
- generators/cicada.js(cicada.svg 表紙・cicada-book.svg 帳簿)。数値は generators/data/cicada/facts.json に書き出した