金星の五芒星
金星が太陽と地球のあいだに来る内合は、8 年でほぼ 5 回めぐってくる。5 回の向きを順に結ぶと五芒星になり、地球から見た金星の道筋は 5 つの輪を持つ花を描く。ただし 8 年ではぴったり閉じず、星は 8 年ごとに 2.4° ずつ回っていく。
なにか
金星は地球より内側を、地球より速く回っている。太陽から見て金星が地球に追いつき、太陽・金星・地球が一列に並ぶ時を内合と呼ぶ。追いつくたびに金星は地球の近くを通り、地球から見ると星座の中を逆向きに動く逆行が起きる。
F. Espenak による NASA の金星の太陽面通過のカタログは、地球が 8 周するあいだに金星がほぼ 13 周し、2 つの星が 8 年でほぼ同じ並びに戻ると書いている。周期は金星 224.701 日、地球 365.256 日とある。金星は 8 年後の待ち合わせに地球より約 2.45 日早く着くので、太陽面の通過は 8 年あけた 2 回の組になり、組と組のあいだは 105.5 年か 121.5 年あく。同じ組の通過は 243 年ごとにくり返す、とも書いてある。
模型
金星と地球の位置は 2 通りで出した。1 つ目は、JPL が公開している Standish の軌道要素の表(1800〜2050 年に合わせたもの)からケプラー方程式を解く方法で、地球の代わりに地球と月の重心を使う。2 つ目は、JPL の Horizons が出す DE441 の位置を 2 日刻みで取り、あいだを 4 点で補間する方法である。どちらも J2000 の黄道に固定した座標で、光の遅れを入れない幾何学的な位置を使った。
1800 年から 2049 年までの内合は、どちらの経路でも 156 回だった。内合の時刻の差は −17.2〜+20.5 分、逆行の日数の差は最大 0.031 日、戻る角度の差は最大 46.9″ である。逆行が始まる時と終わる時(留)は動きが止まる所なので時刻が決まりにくく、差は最大 61.1 分になった。軌道要素の表そのものに、金星と地球・月の重心の黄経で 20″ ほどの誤差があると書かれている。
内合の間隔は 579.8〜587.7 日
見立ての 1 つ目は、内合から次の内合まで(会合周期)は平均 583.9 日で、楕円軌道のせいで 1 回ごとに ±5 日ほどばらつく、だった。DE441 の 155 の間隔は平均 583.931 日だった。最短は 1854 年 2 月の内合から次までの 579.79 日、最長は 1967 年 8 月の内合から次までの 587.73 日で、見立てどおりである。軌道要素の平均運動から出す閉じた式 360° ÷(金星と地球の 1 日あたりの角度の差)は 583.921 日を返す。
間隔を年に対して打つと、点は 5 本の帯に並ぶ。5 回先の内合はほぼ同じ場所で起きるので、同じ軌道の上の同じ区間を通ることになり、かかる日数も 5 回ごとにそろう。
5 回で、地球の 8 周に 2.44 日足りない
見立ての 2 つ目は、内合 5 回分は 8 年より 2.4 日ほど短い、だった。5 回分の長さは平均 2919.607 日(2919.50〜2919.69 日)で、閉じた式の 5 倍の 2919.607 日と合う。軌道要素から出した地球の公転 365.2564 日の 8 倍は 2922.051 日なので、5 回分は 2.44 日短い。Espenak の書く約 2.45 日とも合い、見立てどおりである。
見立ての 5 つ目は、金星が 13 周するあいだに地球が 8 周し、差は 1 日ほど、だった。軌道要素から出した金星の公転は 224.7008 日で、13 周は 2921.110 日になり、地球の 8 周より 0.94 日短い。これも見立てどおりである。2 つの周期は Espenak の 224.701 日と 365.256 日にも一致した。13 周と 8 周の差は 0.94 日しかないのに、内合 5 回は 2.44 日短い。内合の間隔は 2 つの星の回る速さの差で決まるので、周期のずれ δ は 13/5 倍に引き伸ばされ、0.94 × 2.6 = 2.44 日になる。
1 回ごとに 144° 戻り、8 年で 2.4° 回る
見立ての 3 つ目は、内合の向き(太陽から見た黄経)は 1 回ごとに約 144° 戻り、5 つを順に結ぶと五芒星になる、だった。1 回ごとの向きの変わり方は −137.2〜−152.2° で、閉じた式では −144.48° になる。2020 年 6 月 3 日から 2026 年 10 月 24 日までの 5 回を黄経の順に並べると、時の順では 1 つおきに飛んでいき、5 点を結ぶ線は五芒星になった。見立てどおりである。5 点のあいだの角は 72° ではなく、66.8〜78.0° にばらついた。
見立ての 4 つ目は、8 年後の内合は黄経で 1.5〜2.5° 手前にずれ、五芒星が 72° 回って元の形に重なるのは 240 年前後、だった。5 回あとの内合は平均 2.409° 手前に来て、閉じた式でも 2.409° になった。平均は見立ての範囲に入ったが、1 回ずつ見ると 2.245〜2.599° で、上の端を少しはみ出す。星が 72° 回るまでは 239 年で、ここは見立てどおりである。
この 239 年は、Espenak が書く通過の組の 243 年に近い。内合 152 回分は 243.001 年である。152 回は 5 回の組 30 と端数 2 回で、30 組のあいだに星は約 72° 手前へ回り、端数の 2 回で向きは約 71° 先へ動く。差し引きで、152 回あとの内合は黄経で 1.10〜1.42° 手前に来るだけで、ほぼ同じ向きに戻っていた。
逆行は 41〜43 日で、15〜17° 戻る
見立ての 6 つ目は、逆行は内合をはさんで約 40 日、戻る角度は約 15°、だった。地球から見た黄経の動きが止まる留から、次の留までを逆行とした。1800〜2049 年の 156 回は 40.9〜43.2 日(平均 42.1 日)、戻る角度は 15.28〜16.53°(平均 16.03°)で、日数も角度も見立てより少し大きく、半分当たりとした。どの逆行も内合をはさみ、内合の前と後の日数の差は最大 0.3 日である。日数が長い逆行ほど、戻る角度も大きかった。
花の輪は 5 つ、距離は 6.6 倍変わる
見立ての 7 つ目は、地球から見た金星の道筋は 8 年で 5 つの輪を持つ花になり、輪は内合のそばにでき、地球からの距離の最大と最小の比は 6 くらい、だった。2020 年 6 月 3 日から 2028 年 6 月 1 日の内合までの道筋には逆行の輪が 5 つあり、どの輪も内合をはさむ逆行の区間にできていた。地球からの距離は 0.2641 au から 1.7360 au まで変わり、比は 6.57 だった。見立てどおりである。
道筋は 8 年では閉じず、2028 年の内合の向きは 2020 年から 2.28° 手前にある。帳簿の右上の図は、太陽を中心に金星と地球を 4 日ごとに線で結んだもので、線の重なりにも 5 つの花びらが出る。
太陽面の通過は 4 回、0.1″ まで合う
見立ての 8 つ目は、太陽面の通過は 8 年あけた 2 回の組で起き、組と組のあいだは 105.5 年と 121.5 年で、1800〜2050 年に 4 回、だった。DE441 の位置で内合ごとに、地球から見た金星と太陽の中心の離れの最小を出した。金星の位置は光の遅れ(金星までの距離 ÷ 光の速さ)の分だけ前にずらしている。離れが太陽の見かけの半径より小さい内合は 1874 年 12 月 9 日・1882 年 12 月 6 日・2004 年 6 月 8 日・2012 年 6 月 6 日の 4 回だった。
最小の離れは 829.96″・637.27″・626.89″・554.37″ で、Espenak のカタログの 829.9″・637.3″・626.9″・554.4″ と 0.06″ 以内で一致した。最も深い時刻は 04:07・17:06・08:21・01:31(TDB)で、カタログの世界時 04:07・17:06・08:20・01:29 と 2 分以内で合う。時刻の物差しの違い(TDB と世界時)は直していない。軌道要素の経路でも同じ 4 回だけが太陽の内側を通り、最小の離れは 5.8″ 以内、時刻は 7.4 分以内で DE441 と合った。
組のあいだは 7.993 年・121.502 年・7.994 年だった。105.5 年は 1769 年と 1874 年のあいだにあたり、この期間には入らない。カタログの 1769 年 6 月 3 日と 1874 年 12 月 9 日の差として読める。見立ては当たりである。2004・2012 年の組の前後の内合(1996 年 6 月 10 日と 2020 年 6 月 3 日)は、離れが 1804″ と 1732″ で、太陽の半径 945″ の外を通った。カタログにも、8 年ごとに金星が早く着くので組の 3 回目では通過が起きない、とある。
機械で分かる範囲と、目でしか分からない範囲
機械で確かめたのは、2 つの経路の内合と逆行が一致すること、会合周期と 8 年のずれが閉じた式と合うこと、5 つの内合が五芒星の順に並ぶこと、太陽面の通過の日と最小の離れがカタログと合うことである。地球中心の Horizons の位置(10 分刻み)から出した光の遅れなしの離れとも、2 日刻みの表から出した値が 0.4″ 以内で合った。
向きは J2000 の黄道に固定した座標で測っている。春分点から測る暦の黄経は春分点の動きの分だけずれるので、8 年のずれの角度は少し変わる。花の図は黄道面に落とした形で、金星が黄道から上下にずれる分は描いていない。
どう作ったか
生成器は generators/venus.js である。1 つ目の経路は、軌道要素から平均近点角を出し、ケプラー方程式を反復で解いて、軌道面の座標を黄道へ回した。2 つ目の経路は Horizons の API で取った位置の表で、generators/data/venus/horizons.json に置いた。内合は太陽から見た 2 つの星の黄経の差が 0 になる所、留は地球から見た黄経の変わる速さが 0 になる所を、二分法で詰めた。カードの花は地球を中心に 1 日ごとの位置を結んだ。
確かめていないこと。金星の五芒星を昔の人がどう見ていたかは、原典を開いていないので書いていない。Espenak のカタログの時刻は世界時で、TDB との差は直していない。
出典
- 軌道要素
- JPL Solar System Dynamics「Approximate Positions of the Planets」(E. M. Standish)。表 1(1800〜2050 年・J2000 の黄道)の金星と地球・月の重心の要素と変化率、計算の手順、誤差の目安を読んだ
- 暦
- JPL Horizons(API)。DE441 の金星と地球の太陽中心の位置(2 日刻み・1800〜2050 年)と、太陽面通過の前後の地球中心の金星と太陽の位置(10 分刻み)を 2026 年 9 月 29 日に取った
- カタログ
- F. Espenak「Six Millennium Catalog of Venus Transits: 2000 BCE to 4000 CE」(NASA/GSFC)。1800〜2050 年の 4 回の日付・最も深い時刻・最小の離れと、8 年の組・105.5 年と 121.5 年・243 年・2.45 日・2 つの公転周期の記述を読んだ
- 数理
- 会合周期・8 年のずれ・五芒星の順・逆行・通過の判定は、自分で組んで 2 つの経路で確かめた
- 親戚
- アナレンマ・日時計に引く不定時法の刻・ヒマワリの種の並び
- 生成
- generators/venus.js(venus.svg 表紙・venus-book.svg 帳簿)。数値は generators/data/venus/facts.json に書き出した