ハサミムシの扇
ハサミムシの後ろ羽の折り線を、九州大学のチームが整理した作図法で描き直した。開いた羽と畳んだ束を同じ縮尺で並べ、輪の本数を増やす実験もしている。
なにか
ハサミムシは、飛ぶための後ろ羽を短い前羽の下にしまい込む。Saito たちの論文(2020)によれば、畳んだ羽の面積は元の羽の最大で約 15 分の 1 になり、昆虫の中でいちばんコンパクトな羽のしまい方である。形は扇子とそっくりだが、決定的な違いが2つある。扇子の折り線は要(かなめ)の1点に集まるのに対し、ハサミムシの折り線は羽の付け根の弧の上にばらばらに根を持ち、折り線を延長して初めて紙の外の1点で交わる。そして開いた扇を、ジグザグの「輪の折り線」でさらに2回折り返してしまう。
もうひとつの秘密は、折り線そのものにある。ETH チューリッヒの研究チームは、この羽の折り目がただのヒンジではなくレジリンというゴム状タンパク質のバネになっていて、剛体折紙では許されない角度の組み合わせを弾性で乗り越えることを示した。おかげで羽は筋肉を使わずに、開いた状態でも畳んだ状態でもカチッと安定する(双安定)。人工衛星の太陽帆やアンテナのように「小さく運んで大きく開き、開いたら固定したい」構造の手本として研究されている。この折り方は2億8千万年前の昆虫の化石にもすでに見つかっている。
どう作ったか
九州大学のチーム(K. Saito ら)が2020年に整理した作図法を再実装した。設計は畳んだ状態で行う。折り線が集まる点 A と輪の折り線の位置 MN を先に決め、羽の付け根の弦で鏡映して展開図に写す。谷折り線は山折り線を扇の中心角の半分だけ回して得る。この手順だけで、平坦に畳めるための川崎定理(各頂点で対角の和が180°)が全頂点で自動的に成り立つ。実際に、内部の頂点 57 個すべてで川崎定理と前川定理が成り立っている。畳む写像(山線→弦の順の鏡映)で輪の頂点を写すと、設計線 MN の上にちょうど戻る。
探索ノート。輪を増やしたらどうなるか
作図法をパラメータ化してあるので、輪の本数を1〜5本まで振ってみた(羽は輪1本ごとに同じ長さだけ伸ばす)。結果: 畳んだときの面積比は輪を増やすほど伸び続ける(7.3→9.3→10.2→11.3→12.6)。ところが最長辺の比は2本がピーク(3.5→3.9→3.4→3.2→3.0)。折り返した束が要の向こう側へ横に広がるためで、細長い羽をコンパクトな「棒」に畳むなら2本で足り、それ以上は束が横に太る。実物のハサミムシの扇が輪2本なのと符合する(この座標設定での観察。言い切るには実物の羽の比と並べる必要がある)。
出典
- 数理
- K. Saito et al., "Earwig fan designing: Biomimetic and evolutionary biology applications", PNAS 117(30), 2020(本文を PMC7395548 で読んだ。面積 1/15 は序論、いちばんコンパクトは要旨) / J. A. Faber, A. F. Arrieta, A. R. Studart, "Bioinspired spring origami", Science 359, 2018
- 生成
- generators/earwig.js(肋13本×輪2本・畳んだ状態で設計し鏡映で展開)