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ハサミムシの扇

ハサミムシの後ろ羽の展開図。扇のように広がる放射状の折り線を、ジグザグの輪の折り線が2本横切る
実線=山折り、破線=谷折り(表から見た場合)。扇のプリーツをジグザグの「輪の折り線」が2本横切り、先端が2回折り返される
開いた羽の輪郭と、畳んだ状態の重ね合わせ。同じ縮尺で、畳むと投影面積が約9分の1になる
同じ縮尺での比較。薄い線が開いた羽、下の小さな束が畳んだ状態。この実装では投影面積で約9分の1(機械検査で8倍超を保証)

なにか

ハサミムシは、飛ぶための後ろ羽を短い前羽の下にしまい込む。畳んだ羽は開いたときの10分の1以下——昆虫でいちばんコンパクトな羽の畳み方といわれる。形は扇子とそっくりだが、決定的な違いが2つある。扇子の折り線は要(かなめ)の1点に集まるのに対し、ハサミムシの折り線は羽の付け根の弧の上にばらばらに根を持ち、折り線を延長して初めて紙の外の1点で交わる。そして開いた扇を、ジグザグの「輪の折り線」でさらに2回折り返してしまう。

もうひとつの秘密は折り線そのもの。ETHチューリッヒの研究チームは、この羽の折り目が単なるヒンジではなくレジリンというゴム状タンパク質のバネになっていて、剛体折紙では許されない角度の組み合わせを弾性で乗り越えることを示した。おかげで羽は筋肉を使わずに、開いた状態でも畳んだ状態でもカチッと安定する(双安定)。人工衛星の太陽帆やアンテナのように「小さく運んで大きく開き、開いたら固定したい」構造の手本として研究されている。この折り方は2億8千万年前の昆虫の化石にもすでに見つかっている。

どう作ったか

九州大学のチーム(K. Saito ら)が2020年に整理した作図法を再実装した。設計は畳んだ状態で行う——折り線が集まる点 A と輪の折り線の位置 MN を先に決め、羽の付け根の弦で鏡映して展開図に写す。谷折り線は山折り線を扇の中心角の半分だけ回して得る。この手順だけで、平坦に畳めるための川崎定理(各頂点で対角の和が180°)が全頂点で自動的に成り立つ。実装では川崎定理・前川定理を全57内部頂点で機械検査し、さらに畳む写像(山線→弦の順の鏡映)で輪の頂点が設計線 MN に正確に戻ることも独立に検査している。

→ ミウラ折り(剛体のまま自由度1で畳める)

→ 吉村パターン(剛体では畳めない)。ハサミムシは第三の道=折り目をバネにする

探索ノート — 輪を増やしたらどうなるか

輪の折り線を3本にした扇の展開図
輪を3本にした扇(作図法は同じ・川崎/前川の全頂点検査つき)。輪1本ごとに羽を2.0ずつ伸ばせる

作図法をパラメータ化してあるので、輪の本数を1〜5本まで振ってみた(羽は輪1本ごとに同じ長さだけ伸ばす)。結果: 畳んだときの面積比は輪を増やすほど伸び続ける(7.3→9.3→10.2→11.3→12.6)。ところが最長辺の比は2本がピーク(3.5→3.9→3.4→3.2→3.0)——折り返した束が要の向こう側へ横に広がるためで、細長い羽をコンパクトな「棒」に畳むなら2本で足り、それ以上は束が横に太る。実物のハサミムシの扇が輪2本なのと符合する(この座標設定での観察。断定には羽の実測比較が要る)。

出典

数理
K. Saito et al., "Earwig fan designing: Biomimetic and evolutionary biology applications", PNAS 117(30), 2020 / J. A. Faber, A. F. Arrieta, A. R. Studart, "Bioinspired spring origami", Science 359, 2018
生成
generators/earwig.js(肋13本×輪2本・畳んだ状態で設計し鏡映で展開)