岩は割れると平均して立方体
崖の下にたまった岩のかけらは、ひとつも立方体の形をしていない。それでも面と頂点の数を数えて平均すると、立方体の 6 と 8 に近づく。立方体を平面で切り分けて確かめると、平面が 50 枚で平均は 6.003 と 8.006 になった。ところが、いちばん多い破片は三角柱で、破片を 1 つずつ割っていく模型では平均は 6 まで下がらなかった。
なにか
G. Domokos、D. J. Jerolmack、F. Kun、J. Török の 4 人は 2020 年の PNAS の論文で、岩の破片の面と頂点の数の平均が立方体と同じ 6 と 8 に集まると書いた。ハンガリーの Hármashatárhegy にあるドロマイトの露頭の下で 556 個の破片を拾って数えると、平均は面 6.63、頂点 8.93 で、6 と 8 から 12% 以内だった。
理屈は平面だけで切った模様にある。空間を何枚もの平面で切ると、平面の向きや位置の選び方によらず、破片の平均は面 6・頂点 8 になる。平面 3 枚が交わる点のまわりにはいつも 8 個の破片が集まり、その点と破片の数が大きな模様ではほぼ同じになるからである(論文の補足資料 2 節 C)。平面では同じ理屈で頂点の平均が 4 になり、乾燥亀裂の泥の網が四角く見えることと同じ帳簿で読める。
模型
凸多面体を、面ごとの多角形の組で持った。平面で切るときは、面の多角形をそれぞれ平面の両側に切り分け、平面の上に乗った点を並べて切り口の面を作る。論文の cut model に合わせ、1 辺 1 の立方体を N 枚の平面で切った。平面の選び方は 2 通りにした。1 つは立方体の中の一様な点を通る一様な向きの平面で、論文と同じ選び方である。もう 1 つは、中心からの距離が一様になるように平面を置いた。論文は立方体の外周に触れる破片を除いて数えているが、ここではすべての破片を数えた。
立方体から始めると最初から 6 と 8 なので、正四面体(立方体の 1 つおきの 4 頂点を結んだ形)からも始めて、平均が近づいていくかを見た。
数え方は 2 通りにした。1 つは切った多面体の面と頂点をそのまま数える。もう 1 つは、立方体の 6 面と N 枚の平面の半空間の交わりとして破片を書き直し、3 枚ずつの平面の交点から頂点と面を数え直す。平面 12 枚の 105 個と平面 50 枚から選んだ 203 個で、2 通りの面と頂点の数は 1 つも食い違わなかった。どの破片もオイラーの式 v − e + f = 2 と 3v = 2e を満たし、破片の体積の和は 1 から 5.6×10⁻¹⁵ 以内だった。
平面 50 枚で 6.003 と 8.006
見立ての 1 つ目は、平面の枚数を増やすと破片の平均は 6 と 8 に近づき、平面 50 枚で 3% 以内に入る、平面の選び方を変えても同じ、だった。種を 10 通りに変えた平均で、立方体からは平面 50 枚で面 6.003・頂点 8.006(一様な点を通る平面)と面 5.9995・頂点 7.9989(距離が一様な平面)になった。正四面体からは平面 1 枚で面 4.80 だったのが、平面 50 枚で 5.991 と 5.972 まで上がった。いちばん離れた正四面体と距離が一様な平面の組でも、頂点 7.943 で 8 との差は 0.7% だった。当たりである。
どの破片も 1 つの頂点に 3 つの面が集まるので、頂点の数はいつも面の数の 2 倍から 4 を引いた数になる。面の平均が 6 に近づけば、頂点の平均は自動的に 8 に近づく。
平面でも 4 になる
2 つ目の見立ては平面の話で、全体を横切る直線で切っても、破片を 1 つずつ割っても、頂点の平均は 4 に近づく、だった。節点に集まる破片の数の平均 n̄ は 2 つで違うが、論文の式 v̄ = 2n̄ / (n̄ − p − 1) はどちらでも成り立つ、とも見立てた。p は T 字でない節点の割合である。
正方形を全体を横切る直線 400 本で切ると、44,469 個の破片の頂点の平均は 4 で、節点はすべて X 字(n̄ = 4、p = 1)だった。正方形の破片を 14 世代かけて 1 つずつ割ると、16,384 個の頂点の平均は 4 で、節点はすべて T 字(n̄ = 2、p = 0)だった。直線 40 本のあとで 6 世代割った模様は n̄ = 2.0147、p = 0.0074 で、式の値は 4.000 になった。当たりである。
ただし正方形から始めると、1 回割るごとに頂点の合計が 4 増えて破片が 1 個増えるだけなので、平均は最初から最後まで 4 のままになる。近づいていく様子を見るために、蜂の巣(頂点 6 の六角形 144 個をトーラスの上に並べたもの)を 1 つずつ割った。頂点の平均は 6・5・4.5・4.25 と 1 世代ごとに 4 との差が半分になり、6 世代で 4.03125 になった。論文の補足資料の式 [2] と同じ減り方である。どの世代でも、節点だけから出した式の値と、破片を直接数えた平均は一致した。
1 つずつ割ると 6 まで下がらない
3 つ目の見立ては、立体でも破片を 1 つずつ割っていけば、割り方を 2 通り変えても平均は 6 と 8 に近づく、だった。論文も立体については証明がないと書き、数値の模型で近づくと述べている。ここでは立方体から始め、世代ごとにすべての破片を 1 回ずつ割って 13 世代(8,192 個)まで進めた。割り方の 1 つは破片の重心を通る一様な向きの平面、もう 1 つは破片のいちばん長い向きにほぼ垂直で真ん中近くを通る平面である。
13 世代で、重心を通す割り方は面 6.561・頂点 9.122、長い向きに垂直な割り方は面 6.211・頂点 8.422 で止まった。重心を通す方は 13 世代でもわずかに上がり続けている。見立ては外れた。
理由は数えるだけで分かる。平面が k 個の面を横切ると、その k 個の面は両方の破片に分かれ、切り口の面が両方に 1 つずつ付く。2 つの破片の面の数の和はもとの面の数に k + 2 を足した数になるので、割り続けると面の平均は切り口の辺の平均 k̄ に 2 を足した値に落ち着く。k̄ は重心を通す割り方で 4.570、長い向きに垂直な割り方で 4.209 だった。面の平均が 6 になるには切り口が平均して四角形でなければならず、それは割り方で決まる。平面なら切り口はいつも 2 点なので、割り方によらず 4 に向かう。立体にはこの縛りがない。この関係は各世代で計算と一致した(ずれ 0)。
論文の break model は、cut model の破片を縦横の比で決まる確率で割り、測った破片と比べるときに小さすぎる破片や見落としやすい小さな面を除いている。ここの模型はそれを再現していないので、論文の模型の結果を否定するものではない。ドロマイトの 6.63 と 8.93 は、重心を通す割り方の値に近かった。
いちばん多いのは三角柱
4 つ目の見立ては、いちばん多い破片は面 6・頂点 8 で、その多くは面がすべて四角形(組み合わせとして立方体と同じ形)、だった。平面 50 枚で切った 7,091 個のうち、いちばん多いのは面 5・頂点 6 の三角柱で 1,819 個だった。面 6・頂点 8 は 2 番目の 1,567 個(22.1%)で、そのうち面がすべて四角形なのは 255 個(16.3%)だった。立方体と同じ形の破片は全体の 3.6% しかない。距離が一様な平面でも、三角柱 490 個、面 6・頂点 8 が 421 個でそのうち 63 個と、並びは同じだった。見立ては 2 つとも外れた。
論文の補足資料も、平均が 6 と 8 であることは、いちばん多い形が立方体であることを意味しないと断っている。平均が立方体になるのは、面の少ない三角柱や四面体と、面の多い破片が釣り合うからである。
二面角の平均は 90°
5 つ目の見立ては、面と面のあいだの角(二面角)の平均は破片が増えるにつれて 90° に近づく、だった。論文の補足資料の表 S1 は、二面角の平均も立方体と同じ 90° になると書いている。
立方体から平面で切ると、二面角の平均はどの枚数でも 90° で、ずれは 7.4×10⁻¹²° だった。破片の辺はどれも 2 枚の平面(または平面と立方体の面)が交わる線の上にあり、その線のまわりの破片の角は θ と 180° − θ が対になるので、平均は 90° から動かない。近づくのではなく、最初から 90° にある。正四面体から始めると、もとの 6 本の辺の 70.5° が対にならず、平面 1 枚で 78.8°、50 枚で 89.92° と 90° に近づいた。1 つずつ割る模型では 13 世代で 91.33° と 89.63° にとどまった。平面だけで切る模型では当たり、1 つずつ割る模型では外れで、半分当たりである。
機械で分かる範囲と、目でしか分からない範囲
機械で確かめたのは、面と頂点の数を 2 通りに数えて一致すること、オイラーの式、体積の和、平面の枚数ごとの平均、平面の式 v̄ = 2n̄ / (n̄ − p − 1)、1 つずつ割るときの面の数の関係、形の内訳、二面角の平均である。
実物の岩は拾っていない。破片の面を数えるとき、どこまで小さい面を 1 つと数えるかは人の目で決まり、論文もその見落としを模型に入れて比べている。
どう作ったか
生成器は generators/fragment.js で、凸多面体を面の多角形の組で持ち、平面で 2 つに切る関数を 1 つだけ書いた。切る模型も割る模型も、この関数を繰り返し呼ぶ。平面の蜂の巣は、トーラスの上で節点を周期で同じ点とみなして数えた。表紙の絵は破片を中心から離して描き、面は光の向きとの角で明るさを変えた。
確かめていないこと。論文の DEM(粒子で割れ方を解く計算)と、3,728 個の大きいデータの当てはめは再現していない。論文が公開している模型のコード(github.com/torokj/Geometric_fragmentation)と、測ったデータ(osf.io/h2ezc)は開いていない。
出典
- 論文
- G. Domokos, D. J. Jerolmack, F. Kun, J. Török「Plato's cube and the natural geometry of fragmentation」PNAS 117(31) 18178–18185(2020)。本文と補足資料は arXiv:1912.04628v2 で読んだ。556 個・面 6.63・頂点 8.93・12% 以内・当てはめた模型の 6.58 と 8.74 は本文 4〜5 ページ、cut model と break model の決め方は本文の Methods と補足資料 5 節 B.1、式 v̄ = 2n̄ / (n̄ − p − 1) は本文の式 [1]、平面の 1 世代で 4 との差が半分になることは補足資料 2 節 E.1 の式 [2]、立体で証明がないことは同じく E.2、二面角の 90° は補足資料の表 S1 による
- 数理
- 1 つずつ割るときの面の数の関係(面の平均が切り口の辺の平均 + 2 に落ち着く)と、平面で切るときに二面角の平均が動かないことは、自分で導いて数値で確かめた
- 親戚
- 乾燥亀裂と柱状節理・ボロノイ図
- 生成
- generators/fragment.js(fragment.svg 破片の絵・fragment-book.svg 帳簿)。数値は generators/data/fragment/facts.json に書き出した