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乾燥亀裂と柱状節理

亀裂が順に進むと接合は約90°のT字になり、同時に進んで力が釣り合うと約120°のY字になる。角度を決めるのは材料ではなく、亀裂が進む時間的な順序である。

同じ60個の種から3通りに割った網。左は順に割れてT字(90°)、中央は同時に割れて(ボロノイ)Y字(120°まわり)、右は緩和後。下段は接合角のヒストグラム
同じ 60 個の種から3通りに割った。①順に割れる → 90°と180°の二山(T字)/②同時に割れる → 120°の一山(Y字)/③①を釣り合いへ緩める → 山が90°から120°へ移る。点=接合点(3本が出会う点)

田んぼのひびと、玄武洞の柱

干上がった田んぼのひび割れは直角のT字路だらけで、区画はだいたい四角い。ところが玄武岩の柱状節理(玄武洞・東尋坊)の断面は120°のY字路で、六角形が並ぶ。同じ「割れる」なのに、なぜ角度が違うのか。

材料の違いではなく時間割の違いである。泥は順に割れる。先に大きな亀裂が走り、あとから来た亀裂は既存の亀裂に直交して突き当たる。開いた亀裂の面は力を伝えないので、面に垂直な応力はそこで逃げ、面に平行な引っ張りが残るからである。一方、ゆっくり冷える玄武岩では割れ目が何層もかけて進み、そのたびに接合点が釣り合いの位置へ動く。3方向の張力が釣り合うのは泡の Plateau と同じ 120° しかない。

この模型は応力場を解いていない。「近づいたら直交へ曲がって止まる」を規則として入れ、その帰結(接合角の分布・面の統計・履歴・緩和後の角度)を測った。対照として直交規則を切ると、到着角の90°からのずれは平均 6.6°→27.2° に散る=90°は幾何の偶然ではなく規則の帰結である。

泥の「四角」と蜂の「六角」は同じ帳簿だった

面の統計を取ると意外なことが出る。順に割った網の面は、角(180°でない頂点)が平均 4.03 個しかない。泥のひび割れが「四角く」見える正体である。ところが辺の数(接合点の数)を数えると平均 5.64 個で、ボロノイの 5.65 個とほぼ同じになる。

差はT字の180°を「角」に数えないことから来る。T字路では貫通する側の亀裂がまっすぐ通るので、片側の面には180°の平らな頂点ができる。目には角と映らない。整数の帳簿はきっちり合う: 亀裂1本=接合2つ+辺3本(60本で接合点 124 = 2N+4・辺 184 = 3N+4・面 61 = N+1・オイラーの式 V−E+F = 2 が厳密)。ボロノイや泡の「平均6」と、泥の「平均4」は、同じオイラーの帳簿を「角を数えるか、接合を数えるか」で読み分けた違いだった。

亀裂は履歴を持つ。同じ種でも順序で別の網になる

同じ60個の種を順序だけ変えて割った2つの網。接合点はほぼすべて異なり赤く塗られる。右はボロノイで順序によらず同一
位置も向きも同一の 60 個の種。入れる順序だけ変えると、接合点の一致は 3/119=3%。ボロノイ(右・同時)は母点の順序を入れ替えても辺集合が完全に一致する

あとから来た亀裂は「そのとき既にあった亀裂」に突き当たって止まる。だから網の形はどの亀裂が先にあったかを記憶している。同じ種で順序だけシャッフルすると、接合点の一致はわずか 3% だった。ボロノイは定義に順序が入っていないので、いつでも同じ網になる。「亀裂は履歴を持つ分割、ボロノイは履歴を持たない分割」が、そのまま機械検査になる。

釣り合えた接合点は、例外なく 120.000°

順に割った網(T字だらけ)の接合点を、総延長が減る向きに動かした(張力の釣り合い=泡と同じ力学)。すると接合角の山は 90° から 120° へ移り(120°±15° が 11%→39%)、釣り合いに達した点(3方向の単位ベクトルの和が 10⁻⁹ 未満)では、42 個の角がすべて 120° に 10⁻¹² °以内で一致した。和が0 ⟺ 互いに120° は式の帰結で、対照(120°から1°ずらすと和が 0.017 以上)も置いた。

ただし全部は釣り合えない(釣り合えたのは 100 点のうち 14 点だった)。内角の和の恒等式(m角形で (m−2)·180°)から、直線の辺のまま全接合を120°にできるのは6角形だけの網で、この網に辺6本の面は 3% しかないからである。実物はここをどう解決しているか。泡は辺を曲げて帳簿の不足を曲率に払わせ(∮κds = (π/3)(6−n))、柱状節理は何層もかけて網そのものを組み替える(デンプンで作った柱の断層像では、2〜3本の柱の併合だけが網を粗くしていた。ただし同じ観察は、乱れが残るのは本質的で、完全な六角格子には向かわないとも述べている)。緩和だけで六角にはならない、という失敗の形が、実物が時間をかける理由を説明している。

どう作ったか

亀裂の先端は、既存の亀裂に近づくと直交の向きへ曲がって止まる規則で動かしている。応力場は解いていない。ボロノイは半平面で切り抜いて作り、面は辺をたどって数えた。オイラーの式と内角の和 (m−2)·180° がどの網でも厳密に成り立つことで、面の数え方を確かめている。緩和は、接合点を総延長が減る向きに少しずつ動かす制約つきの勾配法である。

→ 泡の法則(釣り合いの120°・曲率の帳簿)

→ ボロノイ(履歴を持たない分割)

→ 葉脈と血管(張力の釣り合いが決める角)

→ 雪の結晶(規則×初期条件が対称性を決める)

出典

数理
亀裂が最大の引っ張りに垂直な向きへ進むという仮説は F. Erdogan と G. C. Sih, J. Basic Eng. 85 (1963) 519 の要旨で確かめた(Griffith 1921 は開けなかったので帰属から外した)。直交して突き当たる理由は L. Goehring, "Evolving fracture patterns: columnar joints, mud cracks and polygonal terrain", Phil. Trans. R. Soc. A 371 (2013) 20120353 の p.4(arXiv:1211.6762)の「既存の亀裂は、面に平行な応力より面に垂直な応力をよく逃がす。だから伸びる亀裂は曲がって別の亀裂に直角に交わる」による。この規則を永久凍土の亀裂に当てた Lachenbruch 1962(GSA Special Paper 70)は開けていない。乾湿を繰り返すと接合の角度が 90° から 120° へ寄っていくことは L. Goehring ほか, Soft Matter 6 (2010) 3562 の要旨で読んだ(25 回の乾湿で、緩和の時間はおよそ 4 回ぶん)。柱の併合と、乱れが本質的に残ることは L. Goehring と S. W. Morris, Europhys. Lett. 69 (2005) 739 の p.5(arXiv:cond-mat/0501015)による。溶岩の柱が 1 m のあいだに T 字から Y 字へ育った観察は、Goehring 2013 の p.12 が Aydin と DeGraff 1988 を引いて紹介している。こちらでは実物を測っていない
こちらの主張
「順に割ると角4.03・同時なら5.25、なのに辺の数はどちらも5.6」「順序だけ変えて一致3%」「釣り合えた点は例外なく120°、ただし直線の辺では全部は釣り合えない」はこの作品で測ったもので、応力場は解かずに直交の規則だけを入れた幾何の模型から出している
生成
generators/crack.js(逐次モデル・半平面切り抜きのボロノイ・面歩き・縮約と制約つき勾配緩和・図2枚。依存ゼロ・乱数は mulberry32)