地図のゆがみを楕円で見る
地球の上に同じ大きさの小さな円を並べて地図に写すと、円は場所ごとに違う楕円になる。楕円の大きさと形を読めば、どの地図がどこで何を犠牲にしているかが分かる。日本の中だけでも、メルカトルでは北の端の円が南の端の 1.79 倍の面積に描かれた。測量に使う平面直角座標系の 15 の系では、3 つの系で県の端が、縮尺係数 0.9999 から読める幅をはみ出した。
なにか
丸い地球を平らな紙に写すと、どこかが必ずゆがむ。N. A. Tissot は 1859 年と 1881 年に、地球の上の限りなく小さな円は、どの地図の上でも楕円に写ることを示した。この楕円を指示楕円と呼ぶ。楕円の長半径を a、短半径を b とすると、面積は ab 倍になり、角は最大で ω だけずれる。ω は sin(ω/2) = (a − b)/(a + b) で決まる。ここまでは J. P. Snyder の『Map Projections──A Working Manual』(USGS・1987)の 20〜21 ページで読んだ。
角を保つ地図(等角)では楕円は円のままで、大きさだけが変わる。面積を保つ地図(正積)では楕円の面積はどこでも同じで、形が変わる。1 枚の地図で両方は保てない。
模型
地球は半径 1 の球とし、4 つの地図を式で書いた。メルカトルは x = λ、y = ln tan(π/4 + φ/2)、赤道を標準緯線にしたランベルトの正積円筒は x = λ、y = sin φ である。残りの 2 つは、東京(緯度 35.6581°・経度 139.7414°)を中心の正距方位と、東経 139°50′ を中央の子午線にした横メルカトルである。正距方位と横メルカトルの式は Snyder の 195 ページと 58 ページのものを使った。
楕円の大きさは 2 通りに出した。1 つは教科書の式で、経線の向きの縮尺 h と緯線の向きの縮尺 k(正距方位では c / sin c、横メルカトルでは k0 / √(1 − B²))から a と b を読む。もう 1 つは、地図の式そのものを東へ少し、北へ少し動かして数値で微分し、できた 2 行 2 列の行列の特異値を a と b にする。こちらは縮尺の式の知識を使わない。
2 通りの楕円は重なる
経緯度 15° ごとの格子で、長半径・短半径・面積の相対差を比べた。メルカトルで 1.1×10⁻⁸、正積円筒で 5.8×10⁻⁹、正距方位で 3.4×10⁻⁸、横メルカトルで 1.1×10⁻⁸ 以内だった。角のゆがみ ω の差は 1.2×10⁻⁶° 以内である。数値の微分の刻みで決まる大きさの差で、2 通りは重なった。
指示楕円は限りなく小さな円の写しなので、本当の円を写すと少し形がずれる。東京の周りに半径 4°・2°・1°・0.5° の円を置いて正積円筒に写した。長半径と式の差の大きさは 0.066%・0.017%・0.004%・0.001%、短半径では 2.58%・1.27%・0.63%・0.31% で、どちらも円を小さくするほど縮んだ。
日本の中でも、メルカトルは 1.79 倍
見立ての 1 つ目は、日本くらいの広さならメルカトルでも面積の狂いは 1 割くらい、だった。メルカトルの面積の倍率は 1/cos²φ である。国土地理院の端点で比べると、最北端の択捉島(北緯 45°33′26″)で 2.040、最南端の沖ノ鳥島(北緯 20°25′31″)で 1.139 になった。択捉島の円は沖ノ鳥島の円の 1.791 倍の面積に描かれ、差し渡しでは 1.338 倍になる。数値の微分でも 2.040 と 1.139 が出た。見立ては外れた。最西端の与那国島と比べても 1.690 倍ある。
面積を保つと、東京で角が 23.6° ずれる
見立ての 2 つ目は、面積を保つ正積円筒では東京の角のゆがみは 10° くらい、だった。東京では a = 1.2308、b = 0.8125 で、面積は 1 のまま、長さの比 a/b は 1.515 になった。ω は 23.62° で、数値の微分でも 23.62° だった。見立ての 2 倍を超え、外れた。ω が 10° で済むのは北緯 23.60° までで、日本では択捉島で 40.0°、沖ノ鳥島で 7.4° になる。長さの比 1.515 は、メルカトルの東京の面積の倍率 1/cos²φ と同じ数になる。正積円筒の a/b もメルカトルの ab も、どちらも 1/cos²φ だからである。
メルカトルは、極から見た地図の対数
見立ての 3 つ目は、メルカトルは北極の真上から見た立体射影に対数をかけたもの、だった。立体射影は、南極から球の点を赤道面に写す地図で、角を保つ。その点を複素数 ζ と置くと、メルカトルの x は ζ の偏角、y は −ln|ζ| になるはずである。経度 5° と緯度 2.5° ごとの 4,680 点で比べると、差は 2.2×10⁻¹⁵ 以内だった。見立てどおりで、メルカトルが円を円のまま写すのは、立体射影も対数もどちらも角を保つからである。
この対数は、雷文を色の帯にしてトンネルへ巻く作品で帯を巻いた写像と同じものである。あちらは平面の模様を対数で巻き込み、こちらは極のまわりの同心円を対数でまっすぐな緯線に伸ばしている。
平面直角座標系の 0.9999 と、はみ出す 3 つの系
日本の測量では、国土を 19 の系に分け、それぞれを横メルカトル(告示ではガウスの等角投影法)で平面に写す。国土地理院が載せている告示(平成十四年国土交通省告示第九号)には、系ごとの原点の経緯度と適用区域、中央の子午線(X 軸)の上の縮尺係数が 0.9999 であることが書いてある。0.9999 を選んだ理由は、告示には書かれていない。
横メルカトルの縮尺係数は、中央の子午線から離れるほど 0.9999/√(1 − B²) と大きくなる(B = cos φ sin(λ − λ0))。見立ての 4 つ目は、0.9999 は中央の −1/10000 と縁の +1/10000 をそろえる値で、どの系でも県の東西の端がその縁の内側に収まる、だった。縁が 1.0001 になるのは B = 0.019998 のときである。緯度 36° での GRS80 楕円体のガウスの平均曲率半径 6,371.5 km を球の半径にすると、中央の子午線から 127.42 km になった。近似の k ≈ k0(1 + x²/2R²) で出しても 127.44 km である。
県境は Natural Earth の 1:10m で、県をまるごと入れる系と、告示の経緯度の線で切る系(鹿児島県・東京都・沖縄県)に分けて 15 の系に割り当てた。中央の子午線からいちばん遠い県の端で縮尺係数を出すと、3 つの系が 1.0001 を超えた。IV 系は愛媛県の西の端(西へ 138.3 km)で 1.000136、IX 系は群馬県の西の端(西へ 130.2 km)で 1.000109 になった。XVI 系は宮古島の東の端(東へ 146.6 km)で 1.000165 である。残りの 12 の系は、III 系の 1.000078(西へ 120.2 km)がいちばん大きく、1.0001 の内側に収まった。見立ては 15 の系のうち 12 で当たり、3 で外れた。
縮尺係数は、Snyder の式と、横メルカトルの式の数値の微分の 2 通りで出し、差は 1.0×10⁻⁸ 以内だった。日本全体を IX 系の原点 1 つで写すと、与那国島で 1.0369、南鳥島で 1.0257 になる。100 m で 3.7 m 長く描かれる計算で、系を分ける理由がここにある。
UTM の 0.9996 は、北緯 40° の帯の縁でそろう
(2026-09-26 追記)国土地理院の 2 万 5 千分 1 地形図は、平面直角座標系ではなく UTM(ユニバーサル横メルカトル)で描かれている。『平成25年2万5千分1地形図図式(表示基準)』の第 10 条に「地形図の投影法は、ユニバーサル横メルカトル図法とする」とあり、図の余白には座標帯の番号と中央の子午線の経度を書く決まりである。Snyder の 57〜58 ページによると、UTM は 1947 年に米陸軍が採用したもので、北緯 84° から南緯 80° までを経度 6° ずつの 60 の帯に分ける。帯の境は 6 で割り切れる経線で、番号は経度 180° から東へ 1、2、3 と数える。帯の真ん中の経線を中央の子午線にし、そこでの縮尺を 0.9996 に下げる。
日本の陸地は 51〜55 の 5 つの帯に入り、南鳥島だけが 56 の帯に入る。東京は 54 の帯(中央の子午線は東経 141°)で、縮尺係数は 0.999760 になる。
数字の前に置いた見立ては 3 つある。1 つ目は「0.9996 も 0.9999 と同じ決め方で、中央の −4/10000 と帯の縁(中央から 3°)の +4/10000 をそろえる値」。2 つ目は「そうなら日本の陸地は UTM でもどこも 1.0004 を超えない」。3 つ目は「楕円体の式で出し直しても、平面直角座標系の 15 の系の判定は変わらない。球との差は 10⁻⁶ ほど」。
縮尺係数は楕円体(GRS80)で 3 通りに出した。1 つは Snyder の 61 ページの級数(式 8-11)、1 つは国土地理院が載せている河瀬(2011)の計算式の縮尺係数 m である。残りの 1 つは、河瀬の式で出した平面の座標を東へ少し動かして数値で微分し、楕円体の上の距離で割ったもので、m の式を使わない。日本の陸地の升 15,262 個で、級数と m の差は 8.1×10⁻¹¹、数値の微分と m の差は 3.5×10⁻⁹ だった。楕円体の計算は、Snyder の 63 ページの表 11 でも確かめた。表 11 は Clarke 1866 の楕円体で、縮尺係数が 0.9998〜1.0006 になる x を式 8-16 から逆に解いて並べたものである。同じやり方で緯度 0°・40°・80° の 15 個を出すと、表との差は 0.5 m 以内だった。正確な縮尺係数で出すと x は表より 2〜24 m 内側に来る。式 8-16 は x の 2 乗の項までしか持たないので、中央の子午線から離れるほど表の x は外へずれる。
1 つ目は外れた。帯の縁の縮尺係数は、赤道で 1.000981、北緯 20° で 1.000818、36° で 1.000501、45° で 1.000287 と、緯度で大きく変わる。中央の 0.9996 と狂いがそろうのは、北緯 40.3° の帯の縁だけだった(球では 40.2°)。赤道で縁とそろえるなら、中央は 0.99931 になる。Snyder は 0.9996 を「帯の中の縮尺の変化を小さくするために選んだ」と書き、赤道では狂いが 1/1000 に達するとも書いている。1.000981 はこの 1/1000 と合う。どの緯度を目安にしたかは、57〜58 ページには書かれていない。
それでも 0.9999 と 0.9996 は、同じ規則でつながっている。横メルカトルの縮尺係数は中央の子午線からの距離 x の 2 乗でふえるので、中央と縁の狂いをそろえる距離はおよそ 2R√(1 − k0) になる。緯度 36° のガウスの平均曲率半径の球で出すと、0.9999 では 127.4 km、0.9996 では 254.8 km で、ほぼちょうど 2 倍だった。幅を 2 倍にすると、許す狂いは 4 倍になる。縮尺が 1 になる線は 90.1 km と 180.2 km で、Snyder の「中央の子午線のおよそ東西 180 km」と合う。経度 3° の幅が 254.8 km になるのは北緯 40.2° で、縁がそろう緯度とほぼ同じ所に来る。
2 つ目も外れた。日本の陸地を Natural Earth の県境から経緯度 0.05° の升 15,262 個(約 37 万 km²)で拾い、升ごとに帯を決めて縮尺係数を出した。1.0004 を超えたのは陸地の 3.8% で、帯の境の東経 132° と 138° に沿う細い 2 本の帯に集まった。升の数は長野県 207・静岡県 111・山口県 71・島根県 66・大分県 36 の順に多い。いちばん大きいのは東経 131.975°・北緯 32.825° の升の 1.000557 である。±1/10000 に収まるのは陸地の 18.7% だった。平面直角座標系の 15 の系では県の端でも最大 1.000165 だったので、UTM は 3〜4 倍の狂いを許す代わりに、6° の帯 5 つで日本の陸地を覆う。
3 つ目は当たった。平面直角座標系の 15 の系の県の端を、河瀬の m で出し直した。球の式との差は最大 1.5×10⁻⁶ で、楕円体のほうがわずかに大きい。1.0001 を超えるのは IV・IX・XVI の 3 つの系のままで、収まる中でいちばん大きい III 系は 1.0000786 だった。1.0001 まで 2×10⁻⁵ あり、判定は変わらない。Snyder の級数と数値の微分も、m との差は 2.9×10⁻⁹ 以内だった。
機械で分かる範囲と、目でしか分からない範囲
機械で確かめたのは、4 つの地図で楕円の大きさが 2 通りの計算で一致することと、日本の北の端と南の端の面積の倍率、東京の角のゆがみである。メルカトルと立体射影の対数の一致と、15 の系の県の端の縮尺係数も数値で確かめた。追記では、UTM の縮尺係数を 3 通りに出して重なることと、Snyder の表 11 を 0.5 m 以内で出し直せることを確かめた。
絵の円は限りなく小さな円ではなく、半径 6° と 1.2° の本当の円を写したものなので、大きな円ほど指示楕円から形がずれる。メルカトルの北と南の円が卵の形に見えるのはそのためである。
どう作ったか
生成器は generators/mapdist.js。世界と日本の地図の式は球のもので、楕円体では描いていない。平面直角座標系と UTM の縮尺係数は、2026-09-26 の追記で楕円体(GRS80)の式でも出し直した。陸地と県境は tools/explore/mapdist-extract.py で Natural Earth から写した。追記の陸地の升は tools/explore/mapdist-utm-grid.py で同じ県境から作った。Natural Earth の県境は奄美群島を沖縄県の中に入れていたので、経度 128.3° より東・北緯 26.9° より北の島は鹿児島県に戻した。
確かめていないこと。北海道の 3 つの系(XI〜XIII)は市町村と振興局で分かれるので、県境のデータでは割り当てられず、出していない。XVIII 系の沖ノ鳥島は Natural Earth の県境に入っていない。県の端は 1:10m の県境の点で、1 km ほどの誤差がある。どの系でもはみ出した分は 2.8 km 以上あるので、判定は変わらない。系の縁の外に基準点があるかどうかは調べていない。追記の陸地の升は 0.05°(約 5 km)で、これより小さい島は入らない。升の東の端は東経 145.8° で、国後島と択捉島は Natural Earth の日本の県境に入っていない。
出典
- 指示楕円と地図の式
- J. P. Snyder『Map Projections──A Working Manual』(U.S. Geological Survey Professional Paper 1395・1987)。20〜21 ページで Tissot(1859・1881)の指示楕円、最大の角のゆがみ sin(ω/2) = |a − b|/(a + b)(式 4-1)、h と k の定義を読んだ。58 ページで球の横メルカトルの式 8-1〜8-5(k = k0/(1 − B²)^½、B = cos φ sin(λ − λ0))、195 ページで正距方位の斜め軸の式 22-4・22-5・25-2 を読んだ
- 平面直角座標系
- 国土地理院「平面直角座標系(平成十四年国土交通省告示第九号)」。19 の系の原点の経緯度と適用区域、ガウスの等角投影法、X 軸上の縮尺係数 0.9999 を読んだ
- 日本の端と楕円体
- 国土地理院「日本の東西南北端点の経度緯度」(最東端・最西端は令和元年 6 月 1 日に更新)。国土地理院「日本の測地系」(2025 年 4 月 1 日更新)で GRS80 楕円体の長半径 6,378,137 m と扁平率の逆数 298.257222101 を読んだ
- 陸地と県境
- Natural Earth(naturalearthdata.com)の ne_110m_land・ne_50m_land・ne_10m_admin_1_states_provinces。利用規約に、すべての版がパブリックドメインであると書かれている
- UTM と楕円体(追記)
- Snyder の同じ本の 57〜58 ページで UTM の決まり(1947 年の採用、北緯 84° から南緯 80°、経度 6° の 60 の帯、中央の縮尺 0.9996 とその理由、赤道で 1/1000、縮尺が 1 の線はおよそ東西 180 km)を、61 ページで楕円体の縮尺係数の級数(式 8-11)を、63 ページで表 11(Clarke 1866)と式 8-16 を読んだ。国土地理院「平面直角座標への換算 計算式」で、河瀬和重(2011)「Gauss-Krüger投影における経緯度座標及び平面直角座標相互間の座標換算についてのより簡明な計算方法」(国土地理院時報 121、109–124)による x・y と縮尺係数 m の式を読んだ
- 地形図の投影法(追記)
- 国土地理院「平成25年2万5千分1地形図図式(表示基準)」。令和 8 年 3 月 30 日の一部改正の達(国地達第 13 号)に付いた全文で、第 10 条(投影法はユニバーサル横メルカトル図法)と、余白に書く「座標帯は第○○帯、中央子午線は東経○○○°」を読んだ
- 数理
- メルカトルと立体射影の対数の関係、縁の 127.42 km、系ごとの縮尺係数は、式から自分で導いて数値で確かめた。追記の 254.8 km・北緯 40.3°・陸地の 3.8% も同じ
- 親戚
- 雷文を色の帯にしてトンネルへ巻く・和柄を版画画廊の写し方で巻く・日時計に引く不定時法の刻
- 生成
- generators/mapdist.js(mapdist.svg 3 枚の世界地図・mapdist-book.svg 帳簿・mapdist-utm.svg 追記の図)。陸地と系ごとの県の端は generators/data/mapdist/ に写した