かけ算第44号|和柄を版画画廊の写し方で巻く × ハニカム × 対数螺旋
雷文を色の帯にしてトンネルへ巻く
雷文と回を、線からの距離の等高線で 4 色の帯に塗り、版画画廊の写し方で中心へ巻いた。渦を巻けば左右の鏡は消えると思っていたが、巻き方の向きを模様の鏡の軸に揃えると鏡は残り、巻かない絵のほうに鏡がなかった。回りながら縮む正方形の頂点も対数螺旋に乗るが、螺旋の傾きは辺を分ける割合で変わる。
なにか
サイケデリックアートの図案を見ていて、いくつかの組み立てが重なっていることに気づいた。左右の鏡、四角い渦、六角の房、中心へ吸い込むトンネル、模様の縁に沿って何重にも並ぶ色の帯、回りながら縮む正方形である。どれもこのギャラリーに数理の記事がある。トンネルは和柄を版画画廊の写し方で巻くの w = exp(ζ/α)、六角はハニカム、回りながら縮む正方形は対数螺旋にあたる。特定の作品の構図や色は使わず、組み立てだけを自前の模様と色で組み直した。
模様は 16 × 16 の升に、四角く渦を巻く雷文 1 本とその鏡像、正方形の輪を 2 つ重ねた回を 2 つ置いた。雷文だけでは鏡がないので、右上の升に鏡像を置いた。模様の鏡は右下がりの対角線 (x, y) → (−y, −x) の向きにしかない。色の帯は、線からの距離を升目の向きの正方形で測り(L∞ の距離)、0.25・0.5・0.75 の等高線で塗り分けた。帯の縁は升目に沿うので、角はどれも 90° になる。
渦に巻いても鏡は残る
見立ては「渦には右巻きと左巻きの向きがあるので、巻いた絵では左右の鏡は必ず壊れる」だった。外れた。
巻いた絵は g(w) = S(α log w / s) と書ける。S は模様の線からの距離、s は模様の 1 目盛りを対数の座標に置いたときの幅である。g が軸の角 θ の鏡 w → e2iθw̄ で変わらないのは、S が ξ → (α/ᾱ)ξ̄ + 2iθα/s で変わらないときで、これは軸の向きが arg α の鏡にあたる。足される 2iθα/s は軸に直交する向きなので、軸の位置をずらすだけである。軸に沿って送る映進は、巻くと鏡ではなく鏡と拡大の組になる(第46号で確かめた)。模様の鏡の軸が α の向き(ω に直交する向き)に揃えば、巻いても鏡は残る。
縦 64(4 升)で 1 周、横 64 で拡大 1 段(e2π 倍)に置くと、(m, n) = (1, 1) の α は 1 − i で、その向き 135° が雷文の鏡の軸と揃う。式を使わないやり方でも確かめた。巻いた絵に 500 点を置き、鏡の前後で距離の値がいちばん食い違う大きさ E を、軸の角を 0.025° 刻みで動かして探した。(1, 1) では 0°・45°・90°・135° の 4 本で E が 7×10⁻¹⁵ になり、(2, 2) では 22.5° おきの 8 本で 1×10⁻¹⁴ になった。
逆に、巻かない (1, 0) には鏡がなかった(E の最小 0.88)。巻かない絵に鏡が出るには模様の鏡の軸が横を向いていなければならないが、この雷文の軸は斜めを向いている。(0, 1)・(1, −1)・(1, 2)・(2, 1) も式の予言どおり鏡がなく、E の最小は 0.67〜0.91 だった。
ハニカムでも同じ予言を試した。ハニカムの鏡の軸は 30° おきにある。縦 4√3 で 1 周・横 4 で拡大 1 段に置くと、ω の向きが 30° の倍数になる (1, 0)・(0, 1)・(1, 1)・(1, 3) で鏡が残るはずである。4 通りとも E は 1.6×10⁻¹⁵ 以下になり、(1, 2)・(2, 1)・(2, 3) では 0.36〜0.41 で鏡がなかった。雷文とハニカムの 14 通りで、予言と探索は全部一致した。
鏡の本数は、1 周に並ぶ升の数で決まる。縦 1 周を 16k にした (1, 1) では、鏡の本数も回転の回数も k になった(k = 1・2・3・4・6 で探索と一致)。回転 w → eiβw は模様を β(1 + i)·16k/2π だけずらすので、これが 16 の格子に入るのは β が 2π/k の倍数のときである。カードは k = 4 で、4 本の鏡をもつ。
見立て「帯の角 90° は写したあとも 90° のまま」は当たった。w = exp(ζ/α) は等角写像なので角は変わらない。写す辺の長さ h を 0.1・0.05・0.025 にして弦のなす角を測った。90° からのずれは 2.3×10⁻⁴°・5.8×10⁻⁵°・1.4×10⁻⁵° で、h の 2 乗に比例して 0 へ向かった。
回りながら縮む正方形
正方形の各辺を t : (1 − t) に分ける点を結ぶと、少し回った小さい正方形ができる。これを繰り返すと、正方形は回りながら縮む。中心を原点に置くと、頂点は毎回 μ = (1 − t) + it 倍される。1 回で q = √(t² + (1 − t)²) 倍に縮んで φ = arctan(t/(1 − t)) 回るので、頂点は対数螺旋 r = r₀e−bθ、b = −log q/φ に乗る。
見立ては「t によらず、頂点は傾き 45° の同じ対数螺旋に乗る」だった。外れた。t = 0.5 では b = 0.441271 で、螺旋の傾き(動径と接線のなす角)は 66.19°、1 周で 16 倍縮む。t = 0.1 では b = 0.896692・48.12°・279.8 倍、t = 0.001 では b = 0.999000・45.03°・532.1 倍になった。正方形を実際に作り直して数えた値は、式と 6 桁で一致した。
t を 0 に近づけると、各頂点は次の頂点へ向かって少しずつ進むことになり、4 匹の虫が隣の虫を追いかける曲線になる。虫の速さを 1 にして、隣との距離が 10⁻⁶ になるまでルンゲ・クッタ法で 4 匹を動かした。走った長さは 0.999999、ln r を回った角に当てはめた傾きは b = 1.000000 だった。虫は隣の虫へまっすぐ進み、隣の虫はそれと直角の向きへ進むので、2 匹の距離は速さ 1 で縮む。だから辺の長さ 1 だけ走って中心で出会い、1 周で e2π = 535.5 倍縮む。
頂点をつないだ折れ線の長さ(1 つの頂点が次の正方形の頂点へ移る線分の和)は t/(1 − q) になる。t = 0.5 で 1.707107(1 + 1/√2)、t = 0.1 で 1.058633、t = 0.001 で 1.000501 と、虫の 1 に近づいた。
どう作ったか
生成器は generators/fret-tunnel.js である。模様の距離は、升の中の線分を軸に沿った箱と見て、点から箱への L∞ の距離の最小で出した。絵は、升 8 × 8 の図柄ごとに 0.25 刻みの格子で「線から r 以内」の領域の縁を輪にし、図柄の平行移動ごとに w = exp(sξ/α) で写して、遠い帯から順に塗り重ねた。図柄の像が数ピクセルより小さくなる中心は 1 色の円で埋めた。鏡の探索では、|w| が 0.25〜1 の 500 点を乱数(mulberry32)で置き、軸の角を 7,200 段に刻んで、E が 0.05 を下回る谷を黄金分割で詰めた。
確かめていないこと。この絵が目にどう見えるか(渦が回って見えるか、奥へ吸い込まれて見えるか)は確かめていない。映進から来る「鏡と拡大を組み合わせた」対称は数えていない。帯の色と幅は自分で決めたもので、サイケデリックアートの配色とは比べていない。試した模様は、鏡の向きが 1 つの雷文と、30° おきのハニカムの 2 つだけである。
出典
- 数理
- 巻き方 w = exp(ζ/α)、α = ω/(2πi) は和柄を版画画廊の写し方で巻く(そこでの出典は de Smit・Lenstra 2003)をそのまま使った。巻いた絵に鏡が残る条件、鏡と回転の回数、正方形の頂点の螺旋と折れ線の長さ、4 匹の虫の数値は自分で導き、数値で確かめた
- 親戚
- 和柄を版画画廊の写し方で巻く・ハニカム・対数螺旋・ミトラの階段雷文・和柄を視野に戻す・形の定数と対数の写像
- 生成
- generators/fret-tunnel.js(fret-tunnel.svg 巻いた雷文の色の帯・fret-tunnel-book.svg 帳簿)