かけ算第41号|和柄を視野に戻す × エッシャーの版画画廊の数理
和柄を版画画廊の写し方で巻く
和柄を視野に戻すでは、対数の座標に敷いた和柄を円い絵に戻した。エッシャーの「版画画廊」は、同じ円い絵を、1 周すると拡大の 1 段ぶん進むように巻き直した絵である。de Smit と Lenstra の式でエッシャーの升目と市松と麻の葉を巻き、どれだけ縮めると自分に重なるかを、式と絵の両方から出した。
なにか
エッシャーは 1956 年のリトグラフ「版画画廊」で、画廊で版画を見る青年を描いた。版画の中の港町をたどると、青年の立つ画廊そのものに戻ってくる。de Smit と Lenstra(2003)は、この絵を複素平面の上の写像として書き直した。もとの絵 f は、256 倍しても変わらないまっすぐな絵である(f(256z) = f(z))。エッシャーの絵は、それを h(w) = wα、α = (2πi + log 256)/(2πi) で写したものになる。巻いた絵は γ 倍しても変わらず、γ = exp(2πi·log 256/(2πi + log 256)) である。
「和柄を視野に戻す」の円い絵は、横の 1 段ごとに拡大し、縦の 1 周で閉じる、まっすぐな絵にあたる。ここに同じ α をかけた。エッシャーの作品そのものの絵は使っていない。
エッシャーの数を 2 つのやり方で出す
式からは、α = 1 − 0.8825424006i、log γ = 3.1172277221 + 2.7510856371i が出る。巻いた絵は 22.5836845286 倍縮めて時計回りに 157.6255960832° 回すと自分に重なり、de Smit と Lenstra の値と 10 桁まで同じだった。
式を使わないやり方でも出した。エッシャーの升目は、升の大きさが log 4 × π/2 で、1 周に 4 升、4 升で 256 倍になる。その升の中心を巻いた絵に写し、1 点から見て同じ種類の点へ移す相似を小さい順に試して、内側の 32 点が全部重なる最初のものを取った。見つかったのは 2.1799608774 倍・39.4064° で、γ の 4 乗根にあたる。升目は i 倍と 4 倍で変わらないので、巻いた絵は γ の 4 乗根で変わらない。原典の図 10 の説明と同じ結果である。γ そのものでも 32 点が全部重なった。
升を細かくして市松に塗る(1 周に 18 枚・16 枚で 256 倍)と、いちばん小さい相似は 1.0218834199 倍・21.0946° になり、γ でも 567 点が全部重なった。回転の対称は残らなかった。
巻き方は ω で選べる
まっすぐな絵を対数の座標に移すと、模様を自分に重ねる平行移動の格子 Λ ができる。縦の 1 周 2πi は Λ に入る。Λ のベクトル ω を選んで α = ω/(2πi) と置くと、巻いた絵は円の上で 1 つに決まり、巻いた絵の対称は (2πi/ω)Λ の指数になる。エッシャーの ω は 2πi + log 256 で、縦 1 周と拡大 1 段の和である。ここでは麻の葉で ω = m·2πi + n·τ(τ は拡大 1 段、三角形 8 枚ぶん)と置き、8 通りの (m, n) で巻いた。
まっすぐな絵の放射の線は、巻くと m 本の渦になり、円は n 本の渦になった。単位円を 1 周するあいだに像が横切る回数を数えて、8 通りとも m と n に一致した。(1, 0) は巻かない元の絵で、(0, 1) では拡大と回転が入れ替わる。どの (m, n) でも、式から出した最小の相似と、点の集まりを重ねる探索で見つけた最小の相似は 6 桁で同じだった(角は回転の対称の分だけ違う)。
見立ては「巻いた絵の回転の対称は gcd(m, n) 回」だった。外れた。(1, 1) でも 2 回、(2, 1) で 4 回の回転の対称がある。回数を決めているのは、ω を麻の葉の格子の座標で書いたときの成分の最大公約数である。1 周が 20 段、τ が 8 なので、ω = (8n − 10m, 20m) になる。(1, 1) なら (−2, 20) で 2 回、(1, 0) なら (−10, 20) で 10 回、(0, 1) なら (8, 0) で 8 回になり、8 通りとも探索と一致した。市松の ω は色を保つ格子の座標で (17, −1) なので 1 回、つまり回転の対称は残らない。
1 周ごとの縮みと回転にも閉じた形がある。拡大 1 段を L = log s と書くと、(1, 1) では log|γ| = 4π²L/(L² + 4π²)、回転は 360°·L²/(L² + 4π²) になる。エッシャーの L = log 256 で 22.58 倍・157.63°、麻の葉の L = 2.9021 で 10.93 倍・63.30° になる。
どう作ったか
模様の座標 (x, y) を ζ = sx·x + i·sy·y で対数の座標に置き、巻いた絵の点は w = exp(ζ/α) で出した。麻の葉は和柄を視野に戻すと同じ三角格子(1 周に縦の周期 10 回)を使った。探索は、log w を 10⁻⁶ で丸めた表に点を入れ、候補の相似で内側の点を移して表にあるかを見た。絵は、巻いた円板に要る模様の範囲だけ線を切り出して写し、拡大の半段ごとの帯を 1 枚の多角形で塗った。
確かめていないこと。巻いた和柄が目にどう見えるかは調べていない。エッシャーの升目は原典の説明(升の大きさ・4 倍・256 倍)から作り直したもので、エッシャーの手描きの升目とは比べていない。対称は平行移動から来るものだけを数え、和柄の鏡や回転(和柄を視野に戻すで数えた操作)が巻いたあとに残るかは見ていない。
出典
- 数理
- B. de Smit, H. W. Lenstra Jr., "The Mathematical Structure of Escher's Print Gallery", Notices of the AMS 50(4) (2003) 446–451。まっすぐな絵の条件 f(256z) = f(z)(p.448)、写像 h(w) = wα と α・γ の式(p.449–450)、縮小 22.5836845286… と時計回り 157.6255960832…°(p.446)、i 倍と 4 倍で不変なら γ の 4 乗根で不変(p.449 図 10 の説明)を、ライデン大学に置かれた PDF で読んだ。一般の ω で巻く形、渦の本数、回転の回数、閉じた形は自分で導き、数値で確かめた
- 作品
- M. C. Escher「版画画廊(Prentententoonstelling)」1956 年。作品の著作権は Cordon Art にあると原典 p.451 にある。絵は使っていない
- 親戚
- 和柄を視野に戻す・和柄の対称群・帯に写した双曲タイリング・形の定数と対数の写像・トーラスに巻いた糸の絡み数・対数螺旋
- 生成
- generators/droste.js(droste.svg 巻いた麻の葉・droste-book.svg 帳簿)