孔雀の羽の構造色
孔雀の尾羽の目玉模様は、青・緑・黄・茶の 4 色の羽枝でできている。羽枝の表皮ではメラニンの棒が 140〜185 nm の間隔で格子に並び、材料はどの色も同じで、違うのは棒の間隔と層の数だけである。原典の値で格子を組み、無限の格子のギャップと有限の層の反射率の 2 通りで数えると、ギャップの中央は測定のピークと 15 nm 以内で合い、層を有限にした 1 次元の近似は 20〜40 nm 短く出た。
なにか
孔雀(Pavo muticus)の尾羽には目玉模様があり、青・緑・黄・茶の羽枝が並んでいる。Zi ほか(2003)は電子顕微鏡で羽枝の断面を撮り、表皮の中にメラニンの棒がケラチンでつながれた 2 次元の格子を見つけた。棒の間隔は青 ≈140・緑 ≈150・黄 ≈165 nm の正方格子で、茶だけは面に平行 ≈150・垂直 ≈185 nm の長方格子になる。層の数は青と緑が 9〜12、黄が 6、茶が 4 で、材料と棒の太さはどの色も同じである。
二条城の障壁画の孔雀を見たのが発端で、本物の羽の色がどこから来るのかを数えた。原典は、棒の半径を間隔の 0.4 倍、空気孔の半径を 0.25 倍、ケラチンの屈折率を 1.54、メラニンを 2.0 とおいて、無限の格子のバンド図と有限の層の反射率を計算し、格子定数が色を、層の数が色の混ざり方を決めると結論している。ここでは同じ値で格子を組み直し、原典の図と測定にどこまで届くかを見る。
格子の間隔がギャップの中央を決める
格子は、メラニンの棒を格子点に、空気孔を胞の中心に置いた。面積の割合は棒 50.3%・空気 19.6%・ケラチン 30.1% で、ε の平均から出した屈折率は 1.709 になる。平面波展開(225 波)で無限の格子のバンド図を出すと、面に垂直な Γ-X 方向の第 1 と第 2 の帯の間に、電場が棒に平行な E 偏光で a/λ = 0.268〜0.316(中央 0.292)、磁場が棒に平行な H 偏光で 0.277〜0.337(中央 0.307)のギャップが開いた。平面波の数を 81 から 361 に振っても中央は 0.01 nm しか動かない。
見立ての 1 つ目は、E 偏光の中央が 0.28〜0.29 に入る、だった。原典の図 3 を画像から読むと X 点の帯は 0.267・0.307・0.323 で、第 1 の帯は一致し、第 2 の帯はこちらが 3% 高く、中央は 0.292 と 0.287 で外れである。見立ての 8 つ目の偏光の差 3% 以内も、5.0%(原典の読み取りは 2.8%)で外れた。
中央の振動数は格子定数に反比例するので、中央の波長は a/0.292 で、青 479・緑 513・黄 565 nm になり、茶の長方格子は別に計算して 617 nm だった。原典の図 2A の測定ピークを画像から読むと 472・528・570・610 nm で、差は +7・−15・−6・+7 nm、4 色とも 15 nm 以内に入る。原典は、ギャップの中央の振動数が格子定数に反比例すること(図 3)と、透過行列で計算したピークの位置が測定とよく合うこと(図 4)を書いている。前者から出した中央の波長は、こちらの格子でも測定と 15 nm 以内で合った。
層を有限にして反射率を出す
経路 B は 1 次元の透過行列で、単位胞を積む方向に 200 層に切り、各層の ε を面内で平均してから(E 偏光は算術平均・H 偏光は調和平均)、層 10・10・6・4 を重ねて反射率を出した。上は空気、下はケラチンとした。山の上は平らで細かい縞が乗り、最大点は周期の原点をずらすだけで 31 nm 跳ぶので、山の位置は半値の区間の中央で読む。中央は青 473.5・緑 507.5・黄 549.0・茶 591.5 nm だった。
見立ての 3 つ目は、B の中央が A の中央と 10 nm 以内で合う、だった。差は −5.5・−5.7・−15.5・−25.3 nm で、10 層の青と緑は合うが、6 層の黄と 4 層の茶は外れた。緑の格子で層を 4 から 12 まで振ると中央は 486 から 508.5 nm まで 22.5 nm 動き、層が少ないほど短い側の縞に引かれて中央が下がる。見立ての 2 つ目(黄と茶は比例の値から 10 nm 以上ずれる)は茶が −34.4 nm、黄が −9.3 nm で、黄が惜しく外れた。
見立ての 4 つ目は、原典の図 4 の計算と 15 nm 以内で合う、だった。図 4 を画像から読んだ山の中央は 494・529.5・592.5・618.5 nm で、差は −20.5・−22.0・−43.5・−27.0 nm と全部外れた。原典は 2 次元のまま透過行列を解いていて、面内の回折を落としたこちらの近似は、同じ格子でも 4〜7% 短い所に山を出す。見立ての 5 つ目(10 層で最大 0.9 以上、4 層で 0.5 以下)は 0.93・0.93・0.78 で、茶の 0.5 以下が外れた。原典の茶は 0.44 で、こちらの格子のほうが屈折率の差が強く効いている。
見立ての 6 つ目は、黄と茶に 440〜480 nm の側ピークが出て茶のほうが高い、だった。側ピークは緑 435(0.55)・黄 444(0.44)・茶 445(0.41)nm に出て、層が多いほど高く、茶のほうが低い。原典の図 4 では緑 457(0.29)・黄 465(0.18)・茶 469(0.29)で、こちらは 20 nm 短く 2 倍高い。外れである。
グリセリンで確かめる
原典は羽枝をグリセリン(1.47)に浸して空気孔を満たし、緑のピークが測定で ≈12 nm、計算で ≈10 nm 長波長へ動くと書いている。図 2B を画像から読むと 527 から 539 nm で 12 nm だった。見立ての 7 つ目は 8〜14 nm で、こちらは B の中央で 15.5 nm、A の中央で 19.0 nm 動き、外れた。
空気孔を小さくすると差は縮む。半径を 0.25a から 0.2a にすると、A の中央は 0.288、偏光の差は 3.8%、グリセリンのずれは 12.1 nm になり、原典の図 3 の中央 0.287 とグリセリンのずれが同時に合う。0.15a では中央 0.284・偏光差 2.9%・ずれ 6.8 nm だった。こちらの格子は原典の図より屈折率の差が強く、空気孔の置き方か大きさが原典の模型と違うと読める。原典は空気孔の座標を書いていない。
茶の長方格子
見立ての 9 つ目は、茶の中央が正方格子 a = 150 と 185 の値の間に入り、山の中央は 630 nm 前後、だった。長方格子(面に平行 150・垂直 185)の A の中央は 617 nm で、150 の 513 nm と 185 の 633 nm の間に入った。B の 4 層の中央は 591.5 nm で、630 から 38 nm 外れている。棒と孔の半径は面に平行な 150 nm に対する比で取ったが、基準を 160・170 nm にすると A の中央は 623・630 nm、B は 598・604 nm へ動く。原典は茶の半径を書いていない。
機械で分かる範囲と、目でしか分からない範囲
機械で確かめたのは 3 つで、ε のフーリエ係数は格子積分と 5 桁で一致し、一様な媒質では自由光子の値が出て、透過行列は界面 1 つの反射率 0.0452 と 1/4 波長積層の山を出した。平面波の数・層の切り方・面内の点の数を振っても山の中央は 1 nm 未満しか動かない。原典の図は本文に数値がないので、曲線を色で分けて枠の目盛りで波長に直し、目盛りの検算は図 2 で 0.6 nm、図 4 で 3 nm 以内だった。空気孔をどこに置くかと、目玉のどの輪がどの色の羽枝かは、原典の像と写真を目で読んだ判断である。
どう作ったか
生成器は generators/peacock.js である。経路 A は平面波展開で、ε の逆行列(Ho・Chan・Soukoulis の方法)から E 偏光と H 偏光の固有値を出し、Γ-X の 11 点で第 1 の帯の最大と第 2 の帯の最小を取った。経路 B は面内で平均した屈折率の層を積む透過行列で、波長 400〜800 nm を 1 nm 刻みで解いた。輪の色は反射率に Wyman・Sloan・Shirley(2013)の等色関数の近似式をかけて XYZ にし、sRGB に直した。光は等エネルギーとし、明るさは最大の成分が 1 になるように伸ばした。
確かめていないこと。空気孔を胞の中心に置いたのは原典の電子顕微鏡像の読み方で、原典の模型の座標は書かれていない。茶の棒と孔の半径、原典の透過行列の上下の媒質と表面のケラチン層は分からないので、こちらは上を空気、下をケラチンにした。H 偏光の 1 次元近似(調和平均)は粗く、A と 25〜35 nm ずれる。斜めから入ったときの色の変化(原典が書く虹色)は計算していない。目玉の輪の並び(外から茶・黄・緑・青)は原典に書かれておらず、原典の色の並び順に置いた。計算した色は、山が測定より 20 nm 短いぶん実物より青寄りになる。
出典
- 羽枝の構造と測定
- J. Zi, X. Yu, Y. Li, X. Hu, C. Xu, X. Wang, X. Liu, R. Fu「Coloration strategies in peacock feathers」PNAS 100(22), 12576–12578(2003)。PMC240659 の本文と図 1〜4 を 2026 年 10 月 25 日に開いた。格子定数・層の数・模型の値・グリセリンのずれは本文から、測定と計算のピークは図 2A・2B・2C・図 4 を、バンド図は図 3 を画像から読んだ(tools/explore/peacock-figs.py)
- 色
- C. Wyman, P.-P. Sloan, P. Shirley「Simple Analytic Approximations to the CIE XYZ Color Matching Functions」Journal of Computer Graphics Techniques 2(2), 1–11(2013)。表 1 と Listing 1 の多峰ガウスの係数を使った
- 数理
- 平面波展開と透過行列は自分で組み、フーリエ係数・一様な媒質・界面 1 つ・1/4 波長積層で検算した
- 親戚
- ジャイロイド(蝶の翅の構造色)・回折の動物園(格子のフーリエ成分)
- 生成
- generators/peacock.js(peacock.svg 表紙・peacock-book.svg 帳簿)。数値は generators/data/peacock/facts.json、図の読み取りは figs.json に書き出した