かけ算第33号|斜めソリトン × 等長の網
潰れるのは双曲線の上
等長の網を球にかぶせると、大円 2 本から編み始めた網は対角の弧長 1.36 で潰れ、球の 27.3% しか覆えなかった。その数はどこから来るのか。網の角 ω は ω_uv = −sin ω を満たし、ω̃ = π − ω と置けばサイン・ゴルドン方程式そのもの。浜辺の斜めソリトン(KP)と同じ可積分の家系で、同じ作法が使える。大円から始めると軸の上で角が一定なので、解は積 z = uv だけの関数になる(相似解・z ω̃″ + ω̃′ = sin ω̃)。潰れる場所は双曲線 uv = z* の上で、z*(90°) = 1.8616 の平方根 1.364 が「対角 1.36」、その内側の面積が 27.36% だった。交差角を 30° から 150° まで振っても 5 通り全部で射程と覆える量が乗る。逆に、ソリトン解(1-kink・2-kink)は初期曲線の測地曲率を与えれば作品119 と同じコンパス作図で編めて、離散の角が閉じた形に棒の長さの 1 乗で寄る。kink の網の潰れは直線で、2-kink の潰れる 2 本の線は単独の線から ln c/a だけずれる。KP の位相のずれと同じ型である。
なにか
等長の網では u 線の測地曲率が −ω_u、v 線の測地曲率が +ω_v になる(法線を球の外向きにとり、u から v へ回る向きを正として導いた)。大円は測地線だから、大円 2 本から始めた網は軸の上で ω が一定、つまり ω(u, 0) = ω(0, v) = w₀。方程式 ω̃_uv = sin ω̃ は u → λu・v → v/λ で形を変えないので、この境界条件の解は uv にしか依らない。z = uv と置くと z ω̃″ + ω̃′ = sin ω̃、ω̃(0) = π − w₀。Painlevé III 型の相似解として知られる常微分方程式である(M. Toda, arXiv:math/0307270 の p.9 に同じ形 t h″ + h′ = sin h と、Painlevé III への変換、Amsler 1955 の引用がある)。網が潰れるのは ω = 0、すなわち ω̃ = π になる z* で、その場所は (u, v) 平面の双曲線 uv = z* になる。
対角 1.36 と 27.3% が閉じた
作品119 のコンパス作図(B と D から棒 1 本の 2 円の交点)で編んだ離散の網の角を、横軸 z = i·j·ℓ² に並べると 1 本の曲線に乗り、常微分方程式の解との差(rms)は ℓ = 0.04・0.02・0.01 で 0.0383・0.0192・0.0096、棒を半分にするごとに半分になる。交差角 30°・60°・120°・150° でも同じ(比 1.99〜2.00)。網の角は本当に uv だけの関数である。
z* を常微分方程式で求めると 1.4840・1.6091・1.8616・2.3555・3.5126(w₀ = 30°・60°・90°・120°・150°)。対角では u = v なので射程は √z* = 1.218・1.269・1.364・1.535・1.874。離散の網が対角で潰れる位置(ℓ = 0.01)は 1.22・1.27・1.36・1.53・1.87 で、全部乗る。対角だけではない。w₀ = 90° の網で、u 線ごとに最初に角が 0 を切る (u, v) を拾って積 uv を取ると 1.850 ± 0.013(ℓ = 0.02)で一定。潰れる場所は双曲線である。
覆える量は、作品119 と同じ箱 [0, 3.2]² の中で ∫∫_{uv < z*} sin ω du dv を積分すれば出る。9.25・18.41・27.36・35.69・41.92%、離散の網(ℓ = 0.01)は 9.35・18.52・27.36・35.61・41.79%。作品119 の「27.3%」は相似解の数だった。ただし 27.3% は箱の大きさに依る。双曲線の内側は u → ∞ で無限に伸び、網は球の上を何重にも巻く。箱に依らないのは z* のほうである。
ソリトンは厳密な網
逆向きにも使える。サイン・ゴルドンの 1-kink ω̃ = 4 arctan e^{au + v/a − θ₀} を ω = π − ω̃ で網の角に読み、初期曲線を測地曲率 −ω_u = 2a sech(au − θ₀)・+ω_v = −(2/a) sech(v/a − θ₀) の曲線として球の上に引き、あとはコンパス作図で編む。離散の角と閉じた形の差は ℓ = 0.05・0.025・0.0125 で rms 0.0740・0.0370・0.0185、1 乗で消える。kink はそのまま網である。潰れる線は au + v/a = θ₀ の直線で、大円から始めた網の双曲線とは形が違う。どこから編み始めるか(初期曲線の測地曲率)が潰れる線の形を決める。
2-kink も同じように編める。Hirota の双線形の作法(KP の τ 関数と同じ)で f = 1 + e^{θ₁+θ₂}、g = c(e^{θ₁} − e^{θ₂})、c = (a₁+a₂)/(a₁−a₂)、ω̃ = 4 arctan(g/f) と書ける。双線形 D_uD_v f·g = fg と D_uD_v(f·f − g·g) = 0 の残差は中心差分で 3e−6、PDE の残差も 5e−6 に収まる。この角の場から編んだ網の rms は 0.0528・0.0266・0.0132 で、これも 1 乗で消える。潰れる線(ω̃ ≡ π)は 2 本あり、単独の kink の線 θ₁ = 0・θ₂ = 0 から ±ln c/a₁ = 0.586・±ln c/a₂ = 1.340 だけずれる(実測 0.5863・1.3404)。KP の 2 ソリトンで線が −ln A₁₂/√(k²+l²) ずれたのと同じ型である。
符号と形は 2 か所で間違えやすい。v 線の測地曲率を −ω_v で引くと、rms は 1.9 になって全く合わない。u 線は −ω_u、v 線は +ω_v で、向きの規約(外向きの法線、u から v へ回る向き)を決めてから導く必要がある。2-kink の Hirota の対を g = e^{θ₁} + e^{θ₂}、f = 1 + A e^{θ₁+θ₂} と置く形は、φ_uv = sin φ を満たさない(PDE の残差 0.9)。この方程式で正しいのは g = c(e^{θ₁} − e^{θ₂}) と f = 1 + e^{θ₁+θ₂} の組で、PDE の残差で選んだ。
続き: 反った面にかぶせても潰れる
球は外へ膨らんだ面(K = 1)だった。鞍のように反った面(K = −1)なら、網は潰れずに済むのか。先に見立てを書くと「潰れる。しかも球と同じ双曲線の上で」である。K = −1 では網の角 ω そのものが ω_uv = sin ω を満たす。球では ω̃ = π − ω が同じ式を満たした。測地線 2 本から始めれば軸の上で角は一定なので、解はやはり z = uv だけの関数で、常微分方程式も同じになる。違うのは初期値が w₀ か π − w₀ かだけである。したがって双曲平面に交差角 w₀ で編んだ網は、球に交差角 π − w₀ で編んだ網と同じ双曲線 uv = z* の上で潰れる。球の網は目が閉じて(ω → 0)潰れ、双曲平面の網は目が開ききって(ω → π)潰れる。
双曲面モデルの上で同じコンパス作図(B と D から測地距離 ℓ の 2 円の交点)を組んで確かめた。直角の網の角と相似解の差は ℓ = 0.04・0.02・0.01 で 0.0380・0.0192・0.0096 と、棒を半分にするごとに半分になる。w₀ = 30° の網が対角で潰れる位置は 1.88 で、球の 150° の網の 1.88 と重なる。150° の網は 1.22 で、球の 30° も 1.22 である。u 線ごとの潰れ点の積 uv は 3.494 ± 0.014(z* = 3.5126)で、潰れる場所はここでも双曲線になる。sin ω = sin ω̃ なので、箱 [0, 3.2]² の中で覆う面積まで同じ数になる。直角の網で双曲平面は 3.4376、相似解の積分は 3.4375、球は 3.4381(球の 27.36%)だった。見立ては当たった。
擬球(トラクトリクスを回したラッパ形の面)では、漸近線がそのまま等長の網になる。その角は 1-kink ω = 4 arctan e^{−(u+v)} である。R³ の式から測ると漸近線に沿う速さは 1、なす角は式と 5e−9 で合う。擬球の上で弦の長さ ℓ のコンパス作図を組むと、角と式の差は ℓ = 0.08・0.04・0.02 で 0.0659・0.0322・0.0159 になる。同じ角の場を双曲平面に編んでも 0.0405・0.0199・0.0099 で、どちらも棒の長さの 1 乗で消える。ω = π の線は擬球の縁の円である。縁へ向けて編むと角は 175.4°・177.7°・178.9° と π に寄り、網は縁から棒 2 本ぶん手前で止まる。首のほうは ω → 0 に近づくだけで、届かない。網の四辺形の面積は四隅の角だけで決まり(K = −1 のハジダキス)、目の面積の和 1.3777 に対して ω₀₀ − ω₁₀ − ω₀₁ + ω₁₁ = 1.3810 だった。角は 0 と π の間にしかないので、1 枚の網が覆える面積は 2π を超えない。擬球の上半分の面積がちょうど 2π である。
kink が 2 つの解も、双曲平面にそのまま編める。以下 x = u + v、y = u − v と書く。kink-kink では ω = π の線が 2 本あり、ln c/a だけずれる。3 本目に ω = 0 の線 θ₁ = θ₂ があり、こちらはずれない直線である。a₁ = 1 + ε、a₂ = 1 − ε と寄せると、解は 4 arctan(y sech x) に ε の 2 乗で近づく。差は ε = 0.1・0.01・0.001 で 2.9e−2・2.9e−4・2.9e−6 だった。これは Kuen 面の網の角で、R³ の式から測った角と 2e−8 で合う。ずれ ln c/a は ln(1/ε) で伸び続け、極限では潰れる線が直線から曲線 |y| = cosh x に替わる。y = 0 と合わせた 3 本が Kuen 面の稜線にあたる。ブリーザー 4 arctan(cot μ · sin(y sin μ) / cosh(x cos μ)) では、ω = 0 の線が間隔 π/sin μ で平行に並ぶ。角の最大は 4 arctan(cot μ) なので、ω = π の輪ができるのは μ が 45° より小さいときだけである(μ = 44° で 184.0°、46° で 176.0°)。μ = 30° の輪は x 方向の半分の長さが 1.323 で、式 arccosh(cot μ)/cos μ = 1.3235 に合う。編んだ網と式の差は、ℓ を 0.05 から 0.025 へ半分にすると、どれもほぼ半分になる。kink-kink で 0.0487 から 0.0250、Kuen で 0.0533 から 0.0258 である。ブリーザーは 30° で 0.0449 から 0.0220、60° で 0.0188 から 0.0087 だった。箱 |x|, |y| ≤ 4 の中で、角が 60° から 120° に収まる目の割合も数えた。1-kink が 19.5%、kink-kink が 25.1%、Kuen が 33.1%、ブリーザーは 30° が 22.3%、60° が 34.8% だった。
確かめていないことも書いておく。ブリーザーと kink-kink(a₁ ≠ a₂)の網に対応する R³ の曲面は描いていない。サイン・ゴルドンの解と K = −1 の曲面が対応することと、真空の解にベックルント変換を 1 回かけると擬球、2 回かけると Kuen 面になることは、Terng と Uhlenbeck, arXiv:math/9805074 の p.2 で確かめた(ここで言う「擬球のベックルント変換」は、この 2 回目にあたる)。網を双曲平面に編めることと、その面が R³ に置けることは別の話で、ここで R³ に置いて確かめたのは擬球と Kuen 面の 2 つだけである。
どう作ったか
- 相似解
generators/sg-net.jsで解く。z ω̃″ + ω̃′ = sin ω̃ を z = 1e−6 から級数 ω̃ ≈ c + z sin c で立ち上げ、RK4(h = 1e−3)で進める。z* は ω̃ = π になる点を線形補間で求める。- 離散の網
- chebyshev.js の net と omega(符号つきの角)をそのまま使い、角を z = i·j·ℓ² で常微分方程式の解と比べる。潰れの位置は u 線ごとに最初に ω ≤ 0 になる j。
- 初期曲線
- 単位球で r″ = −r + κ (r × r′) を弧長で RK4(棒 1 本を 20 分割)。κ は角の場の中心差分。
- 双曲平面の網
generators/sg-net-pseudo.jsで編む。双曲面モデル(x² + y² − t² = −1)でコンパス作図を組み、初期曲線は X″ = X + κN を弧長の RK4 で引く。- 擬球と Kuen 面
- 擬球は (sech t cos θ, sech t sin θ, t − tanh t) で、t = u + v、θ = u − v が漸近線の座標。コンパス作図は 2 つの弦の長さをニュートン法で合わせる。Kuen 面は曲率線の座標の式を x = u + v、y = u − v で読み、速さと角を中心差分で測った。
- 位相のずれ
- v = ±20 を固定し、cos(ω̃/2) の符号が変わる u(ω̃ ≡ π mod 2π)を 5e−4 刻みで拾う。
出典と権利
- 数理
- 等長の網の角がサイン・ゴルドンを満たすこと、Hirota の双線形の作法(R. Hirota『The Direct Method in Soliton Theory』2004 年)、サイン・ゴルドンの相似解が Painlevé III に落ちること(Toda, arXiv:math/0307270 の p.9)。相似解の境界条件が「大円から始める」に対応することと、初期曲線の測地曲率の式(−ω_u・+ω_v)はここで導いた。K = −1 の曲面の漸近線の網の角がサイン・ゴルドンを満たすこと、擬球が 1-kink、Kuen 面がそのベックルント変換にあたること、ブリーザーの式は、Terng と Uhlenbeck, arXiv:math/9805074 の p.2 と p.48 の例 10.5 で確かめた。Kuen 面の式は出典に当たらずに書き、漸近線に沿う速さが 1 になることと、角がサイン・ゴルドンの解に合うことで確かめた。双曲平面の網が球の π − w₀ の網と同じ双曲線で潰れること、kink-kink の極限で潰れる線が |y| = cosh x に替わること、ブリーザーの輪の条件 μ < 45° はここで導いた。ここに書いた数はすべてこのギャラリーで計算した。
- ギャラリー内
- 等長の網(作品119・網とコンパス作図)・浜辺の X 字が Y 字になるとき(作品125・双線形と位相のずれ)。
- 生成
- generators/sg-net.js(sg-net.svg カード・sg-net-book.svg 帳簿)・generators/sg-net-pseudo.js(sg-net-pseudo.svg 続きの図)
つながり: 等長の網・浜辺の X 字が Y 字になるとき・相持ちの屋根(建築の棚)・見取り図の発見100