棚田の水
Rauzy フラクタルの階段面を棚田に見立て、田んぼからあふれた水を 1 段下の田んぼへ落としていった。田んぼごとに水の口を 1 か所に決めると、川は最初の 1 段で合流したきり、300 段下っても 1 本も合流しなかった。口を乱数で選ぶと、川は合流をくり返して太り、流域の面積と本流の長さの関係を表す Hack の指数は、乱数で流れを決める川の網目の模型の 2/3 に近い 0.61〜0.62 になった。
なにか
棚田は、斜面を段に切って平らな田んぼを並べたもので、上の田んぼからあふれた水が畦の口を通って下の田んぼへ落ちる。Rauzy フラクタルのときに描いた階段面は、3 種類の正方形の面を段々に積んだ面で、斜めの平面からはみ出さないように並んでいる。蔓を敷くでは、この面に蔓を描いた。
階段面の 3 種類の面のうち 1 種類を水平な田んぼと見て、ほかの 2 種類を石垣と見ると、そのまま棚田になる。Tribonacci の置換(1→12・2→13・3→1)の階段面は、向き v=(1, 0.839, 0.544) の平面に沿って並ぶ。いちばん大きな成分の向きを真上にとると、隣どうしの田んぼの高さの差は 0 か 1 段だけになり、どの石垣も 1 段の高さになる。
川の網目には、決まった形の研究がある。Dodds と Rothman は、Scheidegger の模型(格子の各点で、2 つの斜め下のどちらへ流すかを乱数で選ぶ)では、流域の縁がランダムウォークになり、流域の面積 a と本流の長さ l のあいだに l ∝ a^h、h=2/3 の関係(Hack の法則)が出ると書いている。実際の川では、ミシシッピで 0.55、ナイルで 0.50、カンザスで 0.57 と見積もっている。棚田の段の並びは乱数でなく、Tribonacci の数で決まっている。決まった並びの上でも、川は合流をくり返すのかを見た。
→ Rauzy フラクタル(階段面と Tribonacci の置換)
→ 蔓を敷く(同じ階段面の上の蔓)
→ 川の分岐(乱数の地形に水を流して Hack の指数を測った)
棚田の作り方
階段面を真上から見下ろすと、田んぼの面は正方形の格子の 1 マスずつに 1 枚ずつ並び、マスの高さは平面の式を切り上げた整数になる。高さが同じで辺を共有するマスをまとめて 1 枚の田んぼとした。窓は、頂の段 0 から段 −300 まで、流れを横切る向きに ±900 の帯で、マスは 541,798、田んぼは 207,637 枚ある。
どのマスにも雨を 1 だけ降らせ、田んぼにたまった雨と上から来た水を、1 段下の隣の田んぼへ落とす。落とし方は 3 通り試した。口 1 つ(田んぼと下の田んぼが接する辺のうち、平面にいちばん近い辺の中点から全部落とす)、乱数の口(接する辺から乱数で 1 つ選ぶ)、等分(接する辺の数に比例して分ける)。
田んぼは 3 つの形しかない
窓の縁に触れない田んぼは、1 マスが 46,954 枚、2 マスが 72,443 枚、4 マスが 86,241 枚で、ほかの大きさは 1 枚もなかった。形も大きさごとに 1 つずつで、2 マスは 1 列に 2 つ並び、4 マスは 2 マスずつの 2 列を 1 マスずらして重ねた形をしている。v を乱数で選び直した床でも、有理数にした床でも、網目ができた床では田んぼの大きさはどれも 3 種類だった。
口を 1 つにすると、川は合流しない
頂の段 0 の 115 枚の田んぼから水をたどると、1 段下りたところで 90 本にまとまり、そこから段 −300 まで 1 本も合流しなかった。どの川も、1 段下るごとに横へ 0.87 マスずつずれながら、まっすぐ平行に下っていく。
口の位置は田んぼの形ごとに 1 か所に決まり、3 つの形で 3 種類しかなかった。縁から離れた 1 マスの田んぼ 46,770 枚は、どれも上から水を受けない。2 マスと 4 マスの田んぼは、1 枚残らず上から水を受ける。1 マスの田んぼは雨を受けて隣の川へ 1 段で注ぎ、川は 2 マスと 4 マスの田んぼを 1 枚ずつ伝って下る。縁から離れた 2 マスと 4 マスの田んぼ 158,204 枚のうち、上の 2 枚以上の川から水を受けるものは 1 枚もなかった。最初の 1 段の合流は、どれも頂の 1 マスの田んぼ(115 枚のうち 26 枚)が川に注いだものだった。
流域は一定の幅の帯になるので、田んぼを通る水の量と上流の段数は比例する。Hack の指数は、水の量 10〜1,259 の 21 束に当てはめて 0.9944 だった。口の決め方を、辺の中点から辺の端に替えても、川は最初の 1 段で 75 本にまとまって平行に下り、指数は 0.9915 だった。窓を半分(段 −150)にしても 0.9931。
口を乱数で選ぶと、川は合流して太る
同じ棚田で、口を乱数で選ぶと、115 本の道は段を下るごとに合流し、段 −300 では 9 本、7 本、9 本になった(乱数の種 3 つ)。最後の合流は 267 段目、285 段目、252 段目で、窓の底まで合流が続いた。Hack の指数は 0.6246、0.6096、0.6223 で、Scheidegger の模型の 2/3 より少し小さい。窓を半分にすると 0.6142、0.6334、0.6289 になった。流域の面積の分布の指数は 1.3881、1.4054、1.3982 で、Dodds と Rothman が Scheidegger の模型で出した 4/3 に近い。
乱数の地形に水を流した川の分岐では、指数は 0.49(川が削ったあとは 0.46)だった。棚田の乱数の口は、それよりも Scheidegger の模型の 2/3 に近い。
等分で落とすと、田んぼを通る水の量は、窓の下半分のどの段でも最大が平均の 1.3649〜1.41 倍に収まった。
床を替える
Tribonacci の v の代わりに、成分の大小の順だけをそろえて乱数で v を 3 つ選んだ。2 つは v₂+v₃ が 1 より小さく、どの段も 1 枚の長い田んぼにつながって、網目ができなかった。Tribonacci の v は v₂+v₃=1.38 で、段ごとに田んぼが切れる。残りの 1 つ(v=(1, 0.6459, 0.5229))の口 1 つの Hack の指数は 0.9927 だった。
v₂+v₃ が 1 より大きいことも条件にして選び直した 3 つでは、0.9857 と 0.9458 で、残りの 1 つは田んぼが 241 マスと 246 マスの大きさになり、当てはめられる束が足りなかった。どの床でも、いちばん小さい形の田んぼだけが上から水を受けず、口の位置は 3 種類、川の合流は最初の 1 段だけだった。
有理数の v=(1, 21/25, 27/50) では、田んぼの並びは (9, −14) の並進で同じ段の上に重なる。比べた 103,068 枚の田んぼの全部で、口の位置と上から水が来るかどうかが、並進先の田んぼと一致した。Hack の指数は 0.998。
見立て
数える前に、見立てを 5 つ決めて進め方のメモに書いた。4 つ当たり、1 つは半分だった。
見立ての 1 つ目は、口 1 つでは、上から来た川が数段から数十段のあいだに合流し、そのあとは平行に流れる、だった。各段の田んぼの並びは 1 つ上の段の並びをずらしたもので、上の段から下の段へ移す写像はどの段でも同じ形をしている。合流の所が平らになる円周の写像として見ると、流れはいずれ周期の道に吸い込まれる、と考えた。窓の下半分で川の本数は 1 段も減らず、Hack の指数は 0.9944 で、決めた判定(1 段あたりの減り 1% 未満、指数 0.9 以上)は満たした。当たり。ただ、合流が止まったのは数段後でなく最初の 1 段で、写像の周期に吸い込まれたのではなかった。口の位置が田んぼの形ごとに 1 つなので、写像は初めから、水を受けない 1 マスの田んぼを除いて 1 対 1 だった(2 マスと 4 マスの田んぼは、上の川を 1 本までしか受けない)。
見立ての 2 つ目は、乱数の口では Hack の指数が 2/3 の ±0.07 に入る、だった。0.6096〜0.6246。当たり。
見立ての 3 つ目は、等分では田んぼを通る水の量の最大÷平均が窓の下半分で 2 未満、だった。最大で 1.41。当たり。
見立ての 4 つ目は、田んぼの大きさは 5 種類以下、だった。3 種類。当たり。
見立ての 5 つ目は、乱数で選んだ無理数の v でも口 1 つの Hack の指数は 0.9 以上で、有理数の v では川が周期ごとに同じ形をくり返す、だった。有理数のほうは一致した。乱数の v は 3 つのうち 2 つで網目ができず、指数を出せたのは 1 つ(0.9927)だけだった。半分。
どう作ったか
生成器は generators/terrace-water.js である。階段面の向き v と、描くときの射影は generators/vine-tiles.js の Rauzy の階段面をそのまま使った。田んぼは、高さが同じで上下左右につながるマスの集まりとして数えた。窓の横の縁から 1.5 以内のマスを含む田んぼと、その下流は、Hack の当てはめから外した。
Hack の指数は、田んぼを通る水の量 a を 0.1 桁ごとに束ね、束の中の上流の段数 l の対数の平均を、a の対数に直線で当てはめた。束の中が 20 枚以上、水の量 10 以上の束だけを使った。流域の面積の分布の指数は、水の量の分布の裾を直線で当てはめた。
確かめていないこと。乱数の口の指数が 2/3 より少し小さく出る理由と、乱数の地形(川の分岐)より 2/3 に近い理由は調べていない。窓を半分にすると 0.61〜0.63 で動き、窓の大きさを広げたときにどこへ向かうかは見ていない。口 1 つの川の間隔と、Tribonacci の数との関係は追っていない。本物の棚田で、水の口が 1 枚に 1 つか、どこに切るかは調べていない。
出典
- 川の網目と Hack の法則
- P. S. Dodds・D. H. Rothman「Geometry of River Networks I: Scaling, Fluctuations, and Deviations」arXiv:physics/0005047。2026 年 10 月 29 日に PDF を開いた。p.4〜5(Scheidegger の模型の決め方と図 2、流域の縁がランダムウォークになること、h=2/3・τ=4/3)、p.7(図 4 のミシシッピ 0.55・ナイル 0.50)、p.10(カンザス 0.57)
- 階段面
- J. M. Thuswaldner「Unimodular Pisot substitutions and their associated tiles」J. Théor. Nombres Bordeaux 18(2006)487〜536(10.5802/jtnb.556)。p.494 の射影 π、§2.5(p.498)の階段面の定義、p.502 の敷きつめ
- 数理
- 棚田への見立て、田んぼのまとめ方、3 通りの落とし方、川の本数の数え方は自分で組んだ
- 親戚
- Rauzy フラクタル・蔓を敷く・川の分岐
- 生成
- generators/terrace-water.js(terrace-water.svg 表紙・terrace-water-book.svg 帳簿)。数値は generators/data/terrace-water/facts.json に書き出した