蔓を敷く
タイル 1 枚ずつに蔓を描き、隣のタイルと辺のまんなかでつながるように敷いた。床は Penrose の菱形、Hat、Rauzy の階段面の 3 つである。Penrose の床では蔓がどれも 5 回対称の花輪に閉じ、Rauzy の床では小さな輪のあいだをまっすぐ走り抜けた。Hat の床では、蔓の結び方を替えると、閉じる床にも、大きな輪が二重に育つ床にもなった。
なにか
蔓の描き方は 1 つだけ決めた。辺のまんなかを蔓の出入り口にして、1 枚のタイルの中で出入り口を 2 つずつ組にし、交わらない曲線で結ぶ。どの辺のまんなかにも、両側のタイルから 1 本ずつ蔓が来るので、蔓は途中で切れない。行き着く先は、ぐるりと回って閉じた輪か、窓の縁まで抜ける線のどちらかになる。
正方形でこれをやると、四分円 2 本のトゥルシェ・タイルになる。乱数で向きを決めたトゥルシェでは、輪の大きさに決まった値がなかった。ここでは床が周期しないタイリングで、結び方はタイルの形ごとに 1 つに決めてある。乱数は使っていない。それでも床の並びが場所ごとに違うので、蔓の行き先も場所ごとに変わる。
非周期のケルト装飾も、辺のまんなかを使う。ただしあちらは面の中で隣どうしの出入り口を全部結び、糸が交差で上下に編まれる。蔓は交わらず、1 つの出入り口を 1 本しか通らない。
3 つの床
Penrose の床は、Robinson 三角形を置換 10・11・12 回で割り、2 枚ずつ合わせて菱形にした。Hat の床は、帽子のメタタイルの置換を 4・5 回くり返した。Rauzy の床は、置換 1→12・2→13・3→1 の行列から作る階段面で、3 種の平行四辺形がすき間なく並ぶ。窓は円にとり、窓の縁に触れない輪だけを数えた。輪の大きさは、輪が通る弧の数で数える。
Penrose の弧は 5 回対称の花輪になる
Flicker・Simon・Parameswaran の論文の p.10 の図 9 には、Penrose の菱形 2 枚に赤と青の弧を描く飾りが載っている。厚い菱形では鋭角の 2 つの角を、薄い菱形では鈍角の 2 つの角を、赤と青の弧がそれぞれ回る。p.8 の本文は、弧が切れずにつながるように並べれば菱形の並べ方の決まりが守られる、と書く。続けて、Conway と Penrose がそれぞれ、赤い曲線のうち全体を横切れるのは多くて 2 本で、ほかは 5 回対称の閉じた輪になることを示した、と書いている。その出典には Grünbaum と Shephard の本、Gardner の本を挙げている。この 2 冊は開いていない。
この飾りは、蔓の規則で言えば、厚い菱形も薄い菱形も、菱形を 2 つに分ける Robinson 三角形の対称軸の両端の角を回る結び方になる。それを敷いて、窓の半径を辺 20・40・80 本ぶん、置換を 10・11・12 回と変えて数えた。窓の縁に触れない赤い輪は、どの組み合わせでも 1 本残らず、自分の重心のまわりに 72° 回すと重なった。置換 10 回・辺 80 本ぶんの窓では 1,560 本である。同じ大きさの赤い輪は、どれも回すか裏返すかずらせば重なる。
赤い輪の大きさは、5, 10, 25, 35, 85, 155, 635, 2555 と飛び飛びだった。置換 11 回では 325 と 1285 が出る。並べ直すと、10, 5, 25, 35, 85, 155, 325, 635, 1285, 2555 は 5×(2^k+(−1)^k) の k=0 から 9 にあたる。弧の数が 2 倍ずつ増え、そこに 5 を足すか引くかがかわるがわる来る。この式は数えたあとで当てはめたもので、証明はしていない。
青い弧は、どれも頂点 1 つのまわりを回って閉じた。輪の大きさは菱形 3・4・5 枚だけで、5 枚の輪だけが 5 回対称になる。カードの茜色の小さな輪がこれである。
Penrose の弧のほかに、角の組を替えた一様な結び方が 3 通りある。置換 11 回・辺 80 本ぶんの窓で数えると、3 通りとも輪の大きさは飛び飛びで、いちばん大きい輪は 1,485〜3,390 弧だった。厚い菱形も薄い菱形も、対称軸から外れた 2 角(Robinson 三角形の頂角)を回る結び方では、小さな輪が 1 本もなく、窓の中の 569 本の輪がすべて 5 回対称だった。いちばん小さい輪は 30 弧である。
Rauzy の階段面では蔓がまっすぐ走る
Thuswaldner の 2006 年の論文は、置換の行列の最大の固有値の左固有ベクトルを v とする。§2.5 は階段面を、x·v が 0 以上で x から e_i を引くと負になる面 [x, i*] の集まりと定める。[x, i*] は格子点 x から、e_i 以外の 2 本の単位ベクトルで張った正方形である。これを π(x)=x−(x·v)u で平面へ落とすと、3 種の平行四辺形が平面をすき間なく敷く、と p.502 にある。
面の 4 つの角の高さ x·v は、x がいちばん低く、x に 2 本の単位ベクトルを足した角がいちばん高い。そこで、低い角と高い角を回る結び方(LH)と、まんなかの 2 角を回る結び方(M)を考え、3 種の面にそれぞれどちらかを選んで、8 通りを全部数えた。
8 通りのどれでも、閉じた輪は平行四辺形 3 枚か 6 枚の小さなものしか出なかった。3 通りでは輪が 1 本もない。輪にならない蔓は窓の端から端まで抜けていて、抜ける蔓に乗る弧の割合は、窓の半径を 20・40・80 と広げてもほとんど変わらない(LH だけの規則で 0.338・0.326・0.321)。半径 160 の窓で、両端を結ぶ弦が半径より長い蔓を見ると、弦からのずれはいちばん大きいものでも 3.56 で、平行四辺形のいちばん長い辺(0.98)の 4 本ぶんに収まる。窓の直径 320 に対して、蔓はほとんど直線である。
Hat は結び方で 2 つに分かれる
帽子の辺の長さは 1、2、√3 で、長さ 2 の辺にまんなかの点を足すと 14 角形になり、どの辺も隣の帽子の辺 1 本とちょうど重なる。はじめに、角を 1 つおきに回る結び方を試した。偶数番の角でも奇数番の角でも、輪は頂点を囲む帽子 2〜4 枚の小さなものだけで、置換を 4 回から 5 回にしても、窓を 50 から 200 に広げても、大きさは増えなかった。
そこで、14 の出入り口を交わらずに結ぶ 429 通りを全部数えた。置換 5 回で窓の半径を 50・100・200 とした。外側の 2 つの窓で最大の輪が同じで 50 弧以下のものを「輪に上限がある」とすると、267 通りがそうで、残りの 162 通りでは数百から 1 万を超える弧の輪が出た。置換 4 回・窓 25・50 で同じ分け方をすると、429 通りのうち 427 通りが同じ側に入った。
小窓に描いたのは 429 通りの 148 番で、14 本の辺を 4 本ずつの組 3 つと残りの 2 本に分け、組の中では外側どうしと内側どうしを結ぶ。この結び方では、大きな輪が 2 本ずつ対になって出る。半径 200 の窓で、138 と 147、340 と 350、828 と 837、2005 と 2015、11710 と 11720 の弧の輪が組になる。100 弧以上の輪 92 本のうち 90 本がこの組に入り、組の 2 本は重心が同じで、内側の輪は外側の輪の中に収まる。2 本のあいだは、帽子の短い辺を 1 として平均 0.575〜0.603 で、蔓が 2 本並んで同じ道を回る。帽子 3 枚の小さな輪 23,405 本と、18・27・138・147・828・837 の輪は、どれも 120° 回すと重なった。この規則は、大きな輪が育つ規則のうち 12 通りを見比べて、絵の見え方で選んだ。
見立て
角を回る結び方で最初に数える前に、見立てを 5 つ決めた。Hat の 429 通りを全部数えることは、その最初の結果を見てから決めたので、429 通りには見立てを立てていない。
見立ての 1 つ目は、Penrose の弧で窓の縁に触れない輪はすべて 72° 回して重なる、だった。赤い輪はすべて重なったが、青い輪のうち菱形 3 枚と 4 枚の輪は重ならない。半分当たりとした。
見立ての 2 つ目は、どの床でも同じ大きさの輪は合同、だった。Penrose と Rauzy では当たったが、Hat では同じ大きさで形が 2 つに分かれる輪があった(角の結び方の 2 枚と 3 枚の輪、148 番の 3 枚の輪)。外れである。
見立ての 3 つ目は、Penrose と Hat では置換を 1 回深くするたびに輪の大きさの種類が増える、だった。Penrose で窓の半径を辺の本数で揃えると、置換 10 回と 12 回では輪の本数まですべて同じになり、種類が増えるのは窓を広げたときだった。Hat の角の結び方も、置換 4 回と 5 回で種類は変わらない。外れである。
見立ての 4 つ目は、窓の縁まで抜ける曲線の本数は窓の半径を 2 倍にして 1.6〜2.4 倍、だった。3 つの床で当たったが、この本数は窓の縁にある辺の数の半分で決まり、結び方によらない。見立てに選ぶ量を誤っていた。結び方で動くのは、抜ける曲線に乗る弧の割合のほうである。
見立ての 5 つ目は、Rauzy の LH では輪の大きさの種類が輪の本数の 1 割より少ない、だった。輪はすべて平行四辺形 3 枚の輪で、大きさは 1 種類だった。当たりである。
どう作ったか
生成器は generators/vine-tiles.js である。タイルの角に番号を振り、辺の番号ごとに「弧で結ばれる相手の辺」の表を持たせた。隣のタイルとは、辺の両端の座標で引き当てる。蔓をたどるときは、窓の縁の辺から始まる曲線を先にたどり、残りを閉じた輪として数えた。輪が回して重なるかは、輪が通る出入り口の点の集まりを重心のまわりに回して確かめた。合同かどうかは、重心からの距離と隣の点までの距離の並びを、始まりの位置と向きをそろえて比べた。絵では、弧を辺に直交して入る 3 次の曲線で描き、弧のまんなかに葉を 1 枚ずつ左右かわるがわるに付けた。
確かめていないこと。Conway と Penrose の結果のうち、全体を横切れる赤い曲線は多くて 2 本、という部分は、有限の窓では確かめられない。窓の縁まで抜ける赤い曲線は、窓で切られた大きな輪と区別がつかない。5×(2^k+(−1)^k) は見た範囲の 10 個に当てはまるだけである。Hat の 429 通りの分け方は窓 200 までで決めたもので、それより広い窓は見ていない。窓の中心は、Penrose は車輪の中心、Hat は帽子の頂点の重心の 1 か所だけで見た。Rauzy の蔓がまっすぐなのは半径 160 の窓の中だけの話で、どこまでも伸びるかは言えない。Grünbaum と Shephard の本、Gardner の本、Arnoux と Ito の論文は開いておらず、図はすべて自分の計算で描いた。
出典
- Penrose の弧の飾り
- F. Flicker・S. H. Simon・S. A. Parameswaran「Classical Dimers on Penrose Tilings」Phys. Rev. X 10(2020)、arXiv:1902.02799。p.8〜9 の本文(赤と青の弧の飾り、Conway と Penrose の結果の紹介)と p.10 の図 9。図はページを画像にして読んだ
- 階段面
- J. M. Thuswaldner「Unimodular Pisot substitutions and their associated tiles」J. Théor. Nombres Bordeaux 18(2006)487〜536(10.5802/jtnb.556)。p.494 の射影 π、§2.5(p.498)の階段面の定義、p.502 の敷きつめ
- Hat
- D. Smith・J. S. Myers・C. S. Kaplan・C. Goodman-Strauss「An aperiodic monotile」arXiv:2303.10798v3。p.46 の辺の長さ。帽子に曲線を描いた例は、この論文の中には見つからなかった
- 数理
- 結び方の表、赤と青の分け方、窓の取り方、輪の大きさと対称と合同の数え方、Hat の 429 通りの分け方、Rauzy の蔓のまっすぐさの測り方は自分で組んだ
- 親戚
- トゥルシェ・タイル・非周期のケルト装飾・ペンローズ・タイリング P3・Hat タイル・Rauzy フラクタル
- 生成
- generators/vine-tiles.js(vine-tiles.svg 表紙・vine-tiles-book.svg 帳簿)。数値は generators/data/vine-tiles/facts.json に書き出した