かけ算第12号|非周期のケルト装飾 × 結び目の不変量
結ばれた輪 — 非周期の織りの中で、本当に結ばれている糸はどれか
問い
非周期のケルト装飾では「何本の糸でできているか」を数えた。次の問いは自然に出てくる——その糸を1本だけ抜き出したら、それは結ばれているのか。ケルトの組紐は見た目こそ複雑だが、1本ずつはただの輪かもしれない。ジョーンズ多項式があれば、勘ではなく計算で答えられる。
やり方は単純: 輪1本を選び、他の糸を全部消す。残るのはその糸の自己交差だけ——それがその成分の結び目図式そのもの。あとは多項式を計算するだけ。
結果 — ペンローズだけが結ぶ
| 土台 | 縁に触れない輪 | 巻き数 | 自己交差 | 結び目型 |
|---|---|---|---|---|
| アンマン–ビーンカー | 54本 | すべて 1 | すべて 0 | すべて自明(ほどける) |
| Hat(置換3回) | 148本 | すべて 1 | すべて 0 | すべて自明(ほどける) |
| ペンローズ P3(置換6回) | 72本 | 1・2・3 | 0・5・10・20 | 自明45本 / T(2,5) 10本 / T(3,5) 16本 / T(3,10) 1本 |
アンマン–ビーンカーと Hat の糸は、どれだけ長くても自分自身とは一度も交わらない=平面上の単純閉曲線=抜き出せばただの輪。土台くらべで見た「Hat の14輪は鏡映の帽子を1枚ずつ囲む」も、結び目としては全部ほどける。
ペンローズだけが違う。72本のうち27本が本当に結ばれていて、しかも出てくる結び目がトーラス結び目しかない: 五葉結び目 T(2,5)(=5₁)、T(3,5)(=10₁₂₄)、そして図の中心にただ1本の T(3,10)。ペンローズの5回対称が、結び目の名前の中に現れる。
発見: 輪はロゼット、結び目型は T(巻き数, 花弁数)
抜き出した輪を並べると、正体が見える。どの輪も中心のまわりを w 周する n 花弁のロゼット——星型多角形 {n/w} をそのままなぞっている。ここから2つの量が出る。
① 自己交差の数はちょうど n(w−1)。五芒星 {5/2} が5つの交差を持つのと同じ理屈で、花弁の数と巻き数だけで交差数が決まる。② 結び目型は T(w, n)——巻き数がトーラス結び目の第1指数、花弁の数が第2指数になる。w=1(1周して戻る)なら T(1,n) は自明=ほどける。
この2つは独立な2経路の検算になっている: ①は幾何(点の位置だけ)から、②は多項式(上下の編み方だけ)から出る。ペンローズ置換6回の72本・アンマン–ビーンカー54本・Hat 148本の合計274本すべてで両方が成立した。だから「A–B と Hat の糸がほどける」のは偶然ではなく、この2つの土台は巻き数1の輪しか作らないという構造の違いに帰着する。
置換7回のペンローズ(内輪197本)でも195本で成立し、新しい家系(130弧の T(3,10) が5本に増える)も出た。破れる2本は最も大きな輪で、半径の角スペクトルが単一の周波数になっていない=「花弁」という言葉が定義できない形をしている(自己交差は50個と190個で、多項式の総当たりは 2⁵⁰ 通り=計算不能)。ここは未確定のまま置く——ロゼットになっていない輪が何を編んでいるかは、まだ測れていない。
どう作ったか
輪の抜き出しは celtic.trace の弧列から、同じ交差を2回通っている交差だけを残す。それぞれの交差で4本の端の反時計回りの順序を幾何から決め(下をくぐる糸の入口を先頭にする=PD記法の約束)、上下は既存の2彩色から取る。あとは ジョーンズ多項式の計算器にかけるだけ。巻き数は中心まわりの回転角の総和、花弁の数は中心からの距離の極大の回数。
機械検査は8件。①ペンローズ72本すべてで自己交差 = n(w−1) ②同72本すべてで多項式が T(w,n) の閉形式と一致(鏡像込み) ③T(2,5)・T(3,5)・T(3,10) の実測式が閉形式と厳密一致 ④対照(片親に戻す): A–B と Hat の全202本が巻き数1・自己交差0・V=1 ⑤出荷SVG2枚。
出典
- 数理
- ジョーンズ多項式は V.F.R. Jones (1985)、計算は L.H. Kauffman のブラケット (1987)。中間グラフが交代絡み目になることは P.G. Tait の古典的観察。トーラス結び目の多項式の閉形式は標準的な公式(当ギャラリーでは総当たりと突き合わせて検証)
- 生成
- generators/celtic-knot.js(輪の抜き出し・巻き数と花弁の測定・結び目型の同定)+ generators/jones.js + generators/celtic.js