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コイルドコイルのピッチは金星の五芒星と同じ算術

2 本の α らせんが巻きつく束の中では、らせんは 7 残基でちょうど 2 周する。ところが束の外から見ると 1 残基あたり 99.29° しか回らず、7 残基では 2 周に 25.0° 足りない。この足りないぶんが束そのものを左へ巻き、100 残基ほどで 1 周させていた。金星の内合 5 回が 8 年に 2.44 日足りず、五芒星が 8 年ごとに 2.41° 回るのと、同じ 1 本の式である。

7 本の線を星形に結んだ輪が 14 個並び、赤い印が 1 つごとに少しずつ左へ回っていく図。下に、2 本の太い線が互いに巻きつきながら横へ伸び、7 残基ごとに短い枝が立っている図
上は、7 残基を 1 周 102.91° で結んだ輪を 14 枚並べたもので、赤い印は a の面である。1 枚進むごとに 25.0° 戻り、14.4 枚で一周して元へ戻る。下は GCN4 の当てはめた値で描いた 101 残基で、超らせんのちょうど 1 周ぶんに当たる。

なにか

コイルドコイルは、α らせんが数本、互いに巻きついて縄になった形である。酵母の転写活性化因子 GCN4 のロイシンジッパーはその代表で、O'Shea ほかが 1991 年に 1.8 Å で決めた構造は、平行な 2 本鎖のコイルドコイルだった。配列には 7 残基の繰り返しがあり、そのうち a と d と呼ばれる 2 つの位置に疎水性の残基が並ぶ。

なぜ 7 なのかは、らせんの回り方で決まる。α らせんは 1 残基あたり約 100° 回るので、1 周は約 3.6 残基である。7 残基では 2 周にわずかに足りない。a の面が毎回ぴったり同じ向きへ戻らないので、束は少しずつねじれていく。Grigoryan と DeGrado は、CC+ データベースから取って配列の重複を 50% 未満に絞った 868 構造に Crick の式を当てはめ、束の中での 1 残基あたりの回り(ω1)は平均 102.8°、超らせんの回り(ω0)は中央値 −3.5°、超らせんの繰り返しは約 100 残基、ピッチは約 150 Å だと書いている。

ここでは、この「足りないぶん」を数として取り出し、金星の五芒星と同じ式で書けるかを見る。そのうえで、PDB の座標 10 件に Crick の式を当てはめて、式から出した値と突き合わせた。

7 残基で 2 周に足りないぶんが、束を巻く

金星とコイルドコイルを同じ式で並べた表、素のねじれを振ったときのピッチの表、GCN4 の当てはめの表と重ねた図、10 本の束の一覧表、横軸を超らせんの回り・縦軸を実験室系のねじれにした散布図、繰り返しと当てはめた回りの表
上から、同じ式に金星とコイルドコイルを入れた表、素のねじれを振ったときのピッチ、GCN4 の当てはめ、10 本の束の一覧、実験室系のねじれの帯、配列の繰り返しと当てはめた回りを並べた。

食い違いの式は 1 本である。1 回りに使った量から、基準の周期に回る数を掛けたものを引き、それを基準の周期で割って 360° を掛ける。金星では、内合 5 回ぶんの 2919.6 日から 8 年ぶんの 2922.1 日を引いて 2.44 日が残り、1 年で割ると 8 年あたり −2.41° になる。作品 183 で JPL の軌道要素から測った −2.409° と、この式は 3.3×10⁻⁴° まで一致した。360° 回るには 149.4 回、1195.6 年かかる。

コイルドコイルでは、1 回りに使った量が 7 残基、基準の周期が素のねじれの 1 周ぶん、回る数が 2 周である。2ZTA で測った実験室系のねじれ 99.29°/残基を入れると 1 周は 3.63 残基になり、7 残基は 2 周に 0.25 残基足りない。角に直すと 1 ヘプタドあたり −24.99°、1 残基あたり −3.57° で、これが超らせんの回り ω0 である。360° 回るには 14.41 ヘプタド、100.8 残基かかる。ピッチは 1 残基あたりの進み 1.51 Å を使って 149.0 Å になる。

見立ての 1 つ目は、素のねじれを 3.63 残基で 1 周(99.2°/残基)とすると ω0 は約 −3.7°/残基、超らせんは約 98 残基で 1 周、ピッチは約 144 Å で、論文の「約 100 残基・約 150 Å」と 5% 以内で合う、だった。99.2°/残基を入れると −3.66°/残基・98.4 残基・145.4 Å になり、論文の値との差は 3% 以内である。見立てどおりである。

見立ての 2 つ目は、金星とまったく同じ式で書ける、だった。上のとおり 1 本の式に数を入れ替えるだけで両方が出る。コイルドコイルは 14.41 ヘプタドで 1 周、金星は 149.4 回の 8 年で 1 周する。見立てどおりである。

素のねじれを 1% 動かすと、ピッチは 35% 動く

この式は大きな数どうしの小さな差を使うので、入れる値に弱い。素のねじれを 99.00 から 100.00°/残基まで 1% 動かすと、ω0 は −3.86 から −2.86°/残基へ動き、ピッチは 137.9 から 186.2 Å へ 35.0% 動く。教科書の「α らせんは 3.6 残基で 1 周」をそのまま入れると 100.00°/残基になり、ピッチは 186.2 Å になって論文の約 150 Å から大きく外れる。論文の値に合うのは、測った 99.29°/残基を入れたときである。

金星の側も同じ事情で、2919.6 日と 2922.1 日の差 2.44 日は元の量の 0.08% しかない。どちらも、わずかな食い違いを拡大して読む計算になっている。

GCN4 に当てはめる

経路 A では、Crick の式を束ごとに当てはめた。束で共有する量は超らせんの半径 R0・らせんの半径 R1・超らせんの回り ω0・らせんの回り ω1・1 残基あたりの軸方向の進み、鎖ごとの量は超らせんの位相・らせんの位相・軸方向のずれである。残差は重ね合わせたあとの Cα の二乗平均平方根(RMSD)で、最小化には Nelder-Mead を使った。論文の当てはめも MATLAB の fminsearch なので、同じ方法である。

経路 B では、最適化を使わずに測った。Cα を 7 残基ずつ平均してらせんの軸の点を作り、束の軸の向きを円の残差が最小になるまで詰め、角度と高さの傾きから ω0 と R0 を出した。ねじれは区間の軸の直線まわりで測るので、超らせんと一緒に回らない枠の値、つまり ω0 + ω1 がそのまま出る。

見立ての 3 つ目は、2ZTA に当てはめた Cα RMSD は 0.5 Å 未満、だった。当てはめると 0.283 Å である。見立てどおりである。10 件すべてでも 0.255〜0.641 Å で、論文の「95.7% が 1.0 Å 未満」と矛盾しない。

見立ての 4 つ目は、2ZTA の ω0 が −3〜−4°/残基、R0 が 4.85 ± 0.5 Å、α が −11〜−13°、だった。当てはめは ω0 が −3.62°/残基、R0 が 4.99 Å、α が −12.07° で、3 つとも見立ての範囲に入った。論文の中央値(−3.5・4.85・−11.9)とも近い。経路 B は ω0 が −3.56°/残基、R0 が 4.81 Å、α が −11.47° で、10 件を通した経路 A との差は R0 が 0.25 Å、ω0 が 0.12°/残基、α が 0.87°、1 残基あたりの進みが 0.006 Å までだった。

見立ての 6 つ目は、1 残基あたりの進みが 1.51 Å の ±0.05 以内に収まる、だった。10 件とも 1.500〜1.529 Å で、見立てどおりである。式 (1) の R0·ω0 = d·sin α そのものは、当てはめの組み立て方から自動的に成り立つ。座標が試しているのは、進みが理想の 1.51 Å に近いかどうかだけである。

ω0 が動いても、ω0 + ω1 は動かない

見立ての 5 つ目は、当てはめた束すべてで ω0 + ω1 が 99 ± 1°/残基に集まり、ω0 がばらついても動かない、だった。10 件の ω0 は −3.62 から +2.78°/残基まで 6.40° 開くのに、ω0 + ω1 は 98.91 から 101.27°/残基の 2.36° に収まった(中央値 99.79・標準偏差 0.69)。ただし 99 ± 1 に入ったのは 7 件で、外れた 3 件は本数の多いバレル(4 本の 1GCL が 100.40、6 本の 3R3K が 100.89、8 本の 6G67 が 101.27)だった。ばらつきは ω0 の 3 分の 1 に縮むが、1 つの値には貼りつかない。見立ては半分当たりとした。

この帯には、向きの違う束も入る。ヒト VASP の 4 量体化ドメイン(1USE)は右巻きの束で、ω0 は +2.78°/残基と符号が逆なのに、ω0 + ω1 は 98.91°/残基だった。Crick の式のパラメータを振って設計された 3 本束(4TQL)は、論文の要旨が untwisted(ひねりの無い)と書いているとおり ω0 が −0.029°/残基しかなく、それでも ω0 + ω1 は 99.92°/残基である。束をどれだけ巻くかは設計で変えられるが、らせん自身のねじれは変わらない。

見立ての 8 つ目は、機械学習で設計された束も同じ帯に入る、だった。深層網の hallucination で作られた 2 件は、C3 の束(8D06)が 99.77、C4 の輪(8D09)が 99.41°/残基で、どちらも 99 ± 1 に入った。見立てどおりである。

繰り返しが ω1 を縛る

束の中での回り ω1 は、配列の繰り返しが決めていた。7 残基で 2 周なら 102.86°/残基になる。ヘプタドを持つ 8 件のうち 7 件は、この値と 0.46°/残基以内で合った。右巻きの 1USE は 15 残基の繰り返しを持ち、15 残基で 4 周の 96.00°/残基と 0.13°/残基で合う。繰り返しに縛られていない 4TQL は 99.95°/残基で、素のねじれそのものだった。

外れたのは 8D09 の 100.71°/残基だけで、ヘプタドの値から 2.15°/残基も離れている。この設計は 4 本の輪でありながら R0 が 13.4 Å あり、半径から見ても束ではなく輪である。機械学習は、ヘプタドを使わずに同じ帯へ入る形を作っていた。

半径は本数で決まるが、5 本より多いと直線から外れる

見立ての 7 つ目は、超らせんの半径 R0 が論文の当てはめ直線 R0 = 1.24·n + 2.4 と 0.5 Å 以内で合う、だった。10 件のうち 0.5 Å 以内は 5 件で、半分当たりである。2 本の 2ZTA と 4DZM は 0.11・0.13 Å、4 本の 1GCL と 1USE は 0.18・0.34 Å、3 本の 4TQL は 0.06 Å で合った。合わなかったのは、6 本の 3R3K が −0.67 Å、8 本の 6G67 が −1.13 Å で、どちらも直線より内側である。論文がこの直線を当てはめたのは 2〜5 本の範囲なので、その外では直線が外れていく。

いちばん外れたのは 8D09 の 13.4 Å で、直線より 6.0 Å 大きい。前の節のとおり、これは束ではなく輪だった。半径は本数だけでは決まらず、何本かが輪に並ぶか、縄に巻きつくかで変わる。

→ 金星の五芒星(内合 5 回が 8 年に足りず、星が 8 年ごとに 2.4° 回る作品)

→ アナレンマ(1 年の周期が 8 の字を描く作品)

→ 小惑星帯の隙間(整数比の近さが形を決める作品)

機械で分かる範囲と、目でしか分からない範囲

機械で確かめたのは、食い違いの式が金星の測った値を 3.3×10⁻⁴° まで再現すること、当てはめが 10 件とも Cα RMSD 1 Å 未満で収まること、経路 A と B が上に書いた差で一致すること、ω0 + ω1 が 2.36° に収まることである。当てはめが出発点に依らないことも確かめた。超らせんが強い左巻き・弱い左巻き・右巻きの 3 通りから始めて、10 件とも同じ値に落ちた。

目で決めたのは、どのらせんを 1 つの束として当てはめるかである。8D06 は内側の 3 本と外側の 3 本で半径が 6.9 Å と 11.7 Å に分かれるので、内側の 3 本だけを束とした。6 本すべてを 1 つの束として当てはめると RMSD は 2.50 Å まで悪くなり、内側の 3 本だけなら 0.47 Å で収まる。この切り分けは数で裏づけているが、切り分けようと決めたのは人である。

どう作ったか

生成器は generators/coiledcoil.js、当てはめと測り取りは generators/cc-fit.js である。座標は RCSB の生物学的組み立てのファイル(.pdb1)をそのまま generators/data/coiledcoil/pdb に置き、HELIX の記録から 18 残基以上の右巻き α の区間を取り出した。対称の写しが MODEL ごとに分かれて書かれるので、モデルを別の鎖として数えている。重ね合わせは四元数の鍵行列を対称行列のヤコビ法で解いた。設計の方法は、10 件とも PDB のエントリの主引用を PubMed で開いて要旨を読み、自然・手で置き換え・規則で設計・式を振って設計・機械学習で設計の 5 つに分けた。

確かめていないこと。Grigoryan・DeGrado の補足資料と、CC+ データベースそのものは開いていないので、論文の分布は本文に書かれた中央値と平均だけを使った。素のねじれ(束に入っていない 1 本の α らせんの 1 残基あたりの回り)を独立に測ってはおらず、2ZTA で測った ω0 + ω1 を代わりに使っている。設計の方法は要旨で確かめた範囲であり、本文の手順までは読んでいない。8D03(深層網の C2 の設計)はらせんが 13〜15 残基しかなく、18 残基以上という区間の条件を満たさないため外した。4 本の組 6 通りの交差角の cos も 0.34〜0.95 でそろわず、1 本の束ではない。8QKD と 6O35 は半径の違う 2 重の輪のため外した。9C7Z はエントリの題名に hallucinated とあるが、主引用の要旨では設計の方法を確かめられなかったので外した。

出典

束の形の測り方
G. Grigoryan, W. F. DeGrado「Probing designability via a generalized model of helical bundle geometry」J Mol Biol 405(4), 1079–1100(2011)。式 (1) と式 (2)〜(4)、ω1 の平均 102.8°/残基と標準偏差 1.1°、ω0 の中央値 −3.5°/残基と「超らせんの繰り返し約 100 残基・ピッチ約 150 Å」、α の中央値 −11.9°、1 残基あたりの進み 1.51 Å、R0 の中央値(4.85・6.36・7.30・8.59 Å)と直線 R0 = 1.24·n + 2.4、当てはめ誤差の 95.7% が 1.0 Å 未満、CC+ から取った 868 構造。これらを本文で読んだ
座標
RCSB PDB の 2ZTA・1GCM・1GCL・1USE・4DZM・3R3K・6G67・4TQL・8D06・8D09。生物学的組み立てのファイルとエントリの対称性を開いた
設計の方法
各エントリの主引用の要旨を PubMed で開いた。O'Shea ほか Science 254(5031), 539–544(1991)・Harbury ほか Science 262, 1401–1407(1993)・Harbury ほか Nature 371, 80–83(1994)・Kühnel ほか PNAS 101(49), 17027–17032(2004)・Fletcher ほか ACS Synth Biol 1(6), 240–250(2012)・Zaccai ほか Nat Chem Biol 7, 935–941(2011)・Rhys ほか Nat Commun 9, 4132(2018)・Huang ほか Science 346, 481–485(2014)・Wicky ほか Science 378, 56–61(2022)
金星
当ギャラリーの金星の五芒星で JPL の軌道要素と Horizons から測った値(generators/data/venus/facts.json)。内合 5 回 2919.607 日・1 年 365.256 日・8 年ごとのずれ −2.409°
数理
食い違いの式、当てはめ、測り取り、帯の統計は自分で組んで 2 つの経路で確かめた
親戚
金星の五芒星・アナレンマ・小惑星帯の隙間は木星との整数比に開く
生成
generators/coiledcoil.js(coiledcoil.svg 表紙・coiledcoil-book.svg 帳簿)と generators/cc-fit.js。数値は generators/data/coiledcoil/facts.json に書き出した