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葉脈と血管

血管や葉脈の太さは、分岐のたびに3乗の法則 r₀³ = r₁³ + r₂³ で細くなる。出どころは流れの抵抗と維持費用の合計を最小にすることで、分岐角は泡と同じ張力の釣り合いで決まる。

Murrayの法則で太さと分岐角を決めて描いた葉脈状の木。9世代1023本
太さも分岐角も式から出ている。分かれるたび径は 1/2^(1/3) = 0.7937 倍、子どうしの開き角は 74.9°。壁の剪断応力は木のどこでも同じ(幅 2×10⁻¹⁵)。血管の内壁が感じている量が、根元でも末端でも変わらない

なにか

葉の裏の葉脈も、手の甲の血管も、木の枝も、太い管から細い管へ分かれていく。分かれるときの径の比は決まっていて、r₀³ = r₁³ + r₂³ が成り立つ(Murray の法則)。対称に分かれるなら、子の径は親の 0.7937 倍になる。

出どころは費用の最小化である。管が細いと流れの抵抗で損をし(ポアズイユの抵抗は r⁻⁴ で効く)、太いと中身を維持する費用で損をする(体積は r² で効く)。合計が最小になる半径を求めると r ∝ Q^(1/3)、つまり流量の3乗根に比例する。分岐で流量が保存する(Q₀ = Q₁ + Q₂)ので、3乗の和が保存する形になる。

分岐角は、泡と同じ釣り合いだった

分岐角にも式がある: cos θ₁ = (r₀⁴ + r₁⁴ − r₂⁴)/(2r₀²r₁²)。この式の正体は「張力 r² を持つ3本の綱の引き合い」で、余弦定理そのものである。だから確かめ方が2つある: ①式に入れる ②分岐点の位置を動かして費用 Σr²L が最小になる場所を数値で探し、そこでの角度を測る。5通りの径の組で 3×10⁻⁶ 度以内で一致した。

この式でいちばん面白いのは等径の場合である。等径(r₀ = r₁ = r₂)を入れると、開き角はちょうど 120° になる。これは泡の法則の Plateau(等しい張力の膜3枚が 120° で出会う)と同じ釣り合いである。泡は張力が等しいので 120°、血管は張力が r² で重みづけられているので Murray 則で細ると 74.9° に開く。シャボン玉と血管が、重みの違うだけの同じ式で角度を決めていた(見取り図の発見 23)。74.9° という値は Murray 自身が 1926 年に出していた。論文の表 I(p.839)が r₁/r₂ = 1 のとき 74.95 を与え、本文(p.840)は「動脈の分岐角は 75 を下回るべきでない(もっと正確には 74.9)」と書いている。

Murray 自身は猫の肺の鋳型を見て、「70 より小さい角ひとつに対して、75 から 90 のあいだの角が何百、何千とある」と書いている(p.840)。そもそも Murray の結果は「74.9° 以上」という下限であって、中心の値ではない。表 I でも、太さの比が 1 から 10 に振れると 74.95° から 86.5° まで動く。

実測の散らばりも大きい。Zamir らがラットの 350 分岐を測った 1983 年の論文の図 3 では、対称に近い分岐でも角度は 10° から 120° に散らばり、理論曲線から ±17° 以内に入るのは点の半分である。著者自身が「分岐角は枝の直径ほど厳密には支配されていないのかもしれない」と書いている。だから「符合する」とは言えない。ここで確かめたのは、最小費用の式から 74.9° が出ることだけになる。

3乗か2乗か。費用で決着する

Murray則とレオナルド則で細らせた木の比較と、1本の管の費用曲線
分岐角は揃えて細り方だけを変えた対照実験。合計費用は Murray 47.80 に対しレオナルド(断面積保存 r₀² = r₁² + r₂²)は 257.02=5.4倍。維持費用だけならレオナルドが安い(12.75 < 26.40)が、抵抗が 11.4 倍に膨らむ

木の枝には「断面積が保存する」というレオナルド・ダ・ヴィンチの観察もある(r₀² = r₁² + r₂²)。どちらが正しいかは、費用を計算すれば決着する。流れを運ぶ管なら3乗が安い。理由は剪断応力に出る: Murray 則では壁の剪断応力が木のどこでも一定(幅 2×10⁻¹⁵)だが、レオナルド則では末端で激増する(幅 19.1)。実物の血管にも、剪断応力を元に戻す向きの反応がある。Kamiya と Togawa(1980)は犬 12 頭の頸動脈を頸静脈につないで流量を変えた。6〜8 か月後には径が広がるか細るかして、壁の剪断率は流量が元の 4 倍未満なら元の値の 15% 以内に戻っていた。Murray 則の木で剪断応力がどこでも同じになることは、この観察と向きがそろう。

おまけに面白いことが出た。レオナルド則は「張力の三角不等式」の等号にちょうど乗る(r₁² + r₂² = r₀²)。すると分岐角の式は 0° を返す。子が親の向きに重なってしまい、木にならない。断面積保存という規則は、枝の形としては境界ぎりぎりの規則だった。

細り方の帰結ももうひとつ。Murray 則だと末端の総断面積が根の 2^(n/3) 倍(9世代で 8.0 倍)になる。管が増えるほど全体の断面積が増えるので、先へ行くほど流れがゆっくりになる。葉の隅々や毛細血管で交換がゆっくり行われることの、いちばん素朴な説明である。レオナルド則では総断面積が保存するので流速は落ちない。

どう作ったか

1本の管の費用は、抵抗 8μLQ²/(πr⁴) と維持 λπr²L の和とした。費用が最小になる半径は、数値の三分探索と解析解 r = (16μ/λπ²)^(1/6)·Q^(1/3) の両方で出し、7×10⁻⁹ の差で一致することを確かめてある。分岐角は式から出す方法と、重みつきのシュタイナー点を粗い格子で探して詰める方法の2通りで求めた。各端点で、ほかの2本に引かれる力の合計がその端点の張力を超えないと分岐点は内側にできず、最小点が端に張り付く。この条件も一緒に判定している。

→ 泡の法則(同じ「張力の釣り合い」=等しい張力なら 120°)

→ DLA(同じ樹形だが、こちらは費用でなく偶然が決める)

→ カテナリー(力の釣り合いが曲線を選ぶ話)

出典

数理
C. D. Murray, "The physiological principle of minimum work I", PNAS 12 (1926) 207–214=r₀³ = r₁³ + r₂³/C. D. Murray, "The physiological principle of minimum work applied to the angle of branching of arteries", J. Gen. Physiol. 9 (1926), 835–841=分岐角の式(p.837 の (5)(6)(7))と 74.95 の表 I(p.839)、猫の肺の観察(p.840)。M. Zamir の 1978 年の論文は非対称分岐への一般化にあたるが、有料で開けなかった/剪断応力への適応は A. Kamiya, T. Togawa, "Adaptive regulation of wall shear stress to flow change in the canine carotid artery", Am. J. Physiol. 239 (1980), H14–H21(PubMed の要旨を読んだ)/実測の散らばりは M. Zamir, R. Wrigley, B. L. Langille, "Arterial bifurcations in the cardiovascular system of a rat", J. Gen. Physiol. 81 (1983), 325–335 の図 3(p.331)。抵抗はハーゲン・ポアズイユ/レオナルド・ダ・ヴィンチの記述は Manuscript I の 12 葉裏(Richter 394)と Manuscript M の 78 葉裏(Richter 395)。⚠️ 原語は grossezza(太さ)で、「断面積」と読むのは後世の解釈である。同じ規則を Greenhill は 1881 年に Ruskin『近代画家論』に帰している(p.73)。実物の葉脈・血管・枝の測定と突き合わせたわけではない。ここで確かめたのは「最小費用から何が出るか」だけになる
生成
generators/venation.js(費用の式・最小半径の数値と解析・剪断応力・Murray とレオナルドの細り方・分岐角の式と重みつきシュタイナー点・木の生成と費用集計・図2枚。依存ゼロ・乱数は枝の微小な揺らぎだけ)