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異方性 DLA

正方格子と三角格子の上で DLA を育て、乱数を薄めたときと薄めないときの4枚を並べた。

格子の上のDLA4枚。上段は4近傍でそのままと乱数を薄めた十字の樹枝、下段は6近傍でそのままと薄めたもの
同じ規則(歩いてきて触ったら凍る)を格子だけ替えて走らせた(同じ縮尺・同じ粒子数1300)。上段が4近傍(正方格子)、下段が6近傍(三角格子)で、各段の右が乱数を薄めたもの(同じマスに3回当たってから凍る)である。右上の十字の樹枝がこの作品の主役で、格子の軸が枝の向きになっている。※下段右は1つのクラスタとしては6本腕に見えるが、種を替えて位相をそろえると6回対称は残らない(下の表)

なにか

マンガン樹(石の割れ目に育つ黒い樹枝)、窓の霜、電池の電極に生える金属の枝、そして雪の結晶は、どれも DLA と同じ「拡散してきて触ったら凍る」で育つのに、枝の向きの数は決まっている。雪なら6方向である。何が向きを決めているのか。

候補のひとつは格子(結晶の並び)である。そこで同じ DLA を4近傍(正方格子)と6近傍(三角格子)で走らせて、腕の向きを測った。

1つのクラスタの「腕」は、たいてい偶然

まず測り方を決める。外側1/4の粒子の角度 θ を集めて ck = Σeikθ/N を出す。k 回対称の腕が立っていれば |ck| が大きい。ところが1つのクラスタだけを見てはいけない。枝の向きは偶然でも偏るので、2本腕・3本腕が格子と無関係に大きく出る(1つのクラスタで A₃=0.53 など)。

格子由来の異方性は位相が固定(格子の軸に揃う)なので、種を変えて ck を複素数のまま平均すれば偶然だけが消える。さらに床を同じデータから作る。各クラスタをわざとランダムに回してから同じ平均を取る(格子の位相ロックだけを壊した対照)。床の2倍を超えなければ「立っていない」。

格子乱数A₂A₃A₄A₆A₈いちばん強い成分
4近傍そのまま0.121 / 0.1030.316 / 0.1410.114 / 0.0970.065 / 0.0900.090 / 0.082どれも床すれすれ
4近傍3回で凍る0.252 / 0.1590.166 / 0.1080.705 / 0.211 0.206 / 0.1250.402 / 0.131 A₄(床の3.3倍)
6近傍そのまま0.106 / 0.0950.050 / 0.1170.073 / 0.1280.055 / 0.1010.092 / 0.084立たない
6近傍3回で凍る0.118 / 0.0950.121 / 0.1130.113 / 0.1050.104 / 0.1020.017 / 0.050立たない

数字は「位相をそろえた平均 / 床」で、太字は床の2倍を超えたもの。粒子は1400、種は8本である。乱数をそのまま流すと、格子の向きは床を超えない。薄めると 4近傍で A₄=0.705(床の3.3倍)が立ち、しかも腕の向きは0.4°で、格子の軸そのものである。図の十字がこれにあたる。

6近傍では立たなかった

いっぽう三角格子(6近傍)では、払える範囲で 6回対称が立たなかった。探した範囲は、薄め方 hits=1・3(粒子1400・種8本)と hits=6(粒子700・種8本)である。A₆ はどの設定でも床の1.1〜1.5倍に留まる(hits=6 では 0.124 / 床0.109)。

Libbrecht の総説(2005)は、樹枝の先端が形を保って伸びるには、界面(氷と水蒸気の境目)の表面張力か、くっつきやすさのどちらかに向きの偏り(異方性)が要ると書いている(p.887)。氷のくっつきやすさは実際に向きで違うとも書いている(p.888)。この模型にはその項がない。「格子を6近傍にすれば雪になる」ではなかった。ここは正直に空欄にしておく。

測る側が偽物を作ることもある。三角格子の座標を軸座標 (q,r) のまま四捨五入すると、A₄ が向き23°で 0.475 まで立つ(6回対称の格子なのに4回対称になる)。丸めのセルが平行四辺形で、60°回転に対して対称でないためで、立方座標に移して丸める(x+y+z=0 の最近点)と消える。丸め方の癖は、偶然の腕より見分けにくい。手がかりは、設定を変えても向きの位相が同じ値(23.2°→23.4°)にとどまることだった。

どう作ったか

格子は「隣の取り方」と「格子座標→画面座標」の2つで定義してあり、差し替えられる(この仕組みはかけ算第14号で非周期の格子に流用した)。乱数の薄め方は「同じマスに何回当たってから凍るか」で決め、これをノイズ低減 DLA と呼ぶ。クラスタから遠いあいだは大きく飛ぶ高速化を入れてある(連続極限では「半径 d の円周上に一様」が厳密。くっつく直前の1歩は必ず格子の上を歩くので格子の異方性は失われない)。

上の表は、種を8本そろえた測定の結果である。乱数は自前の擬似乱数で、同じ種なら結果は完全に同じになる。

→ DLA(雷の枝・この作品の親)

→ 誘電破壊(もうひとつの親戚・つまみ η で苔から一本道へ)

→ 準結晶の上の雷(かけ算第14号・非周期の格子は向きを与えるか)

出典

数理
DLA は T. A. Witten & L. M. Sander, Phys. Rev. Lett. 47, 1400 (1981)。ノイズ低減 DLA(同じ場所に m 回当たってから凍らせる)は J. Nittmann & H. E. Stanley, Nature 321, 663 (1986) ほか。樹枝の先端に異方性が要ることは K. G. Libbrecht, "The physics of snow crystals", Rep. Prog. Phys. 68 (2005) 855–895 の p.887〜888(著者のサイトの PDF で読んだ)。この模型では確かめていない
生成
generators/dla-lattice.js(格子を差し替えられる DLA・三角格子は立方座標で丸め・ノイズ低減・遠方の大きな跳び・腕のスペクトルと「わざと回した床」。依存ゼロ・乱数は自前 PRNG)