かけ算第14号|DLA(雷の枝) × アンマン–ビーンカー/ペンローズ
準結晶の上の雷 — 並進対称がなくても、枝は向きを持つのか
問い
異方性DLAで分かったのは「枝の向きは格子が決める。ただし乱数を薄めないと偶然の腕に隠れる」。4近傍(正方格子)なら乱数を薄めて A₄=0.705(床の3.3倍)・腕の向き0.4°=格子の軸。
では並進対称性がない格子ではどうなるか。準結晶には「結晶には作れない対称」がある——アンマン–ビーンカーは8回対称で辺の向きが45°刻みの8方向、ペンローズ P3は10回対称で36°刻みの10方向。枝はその8方向/10方向を選ぶのか、それとも向きを持たないのか。
作り方は素直に。親のタイリングの頂点を格子として使う(辺の長さが全部等しいので、頂点のあいだを1歩とする歩き方が自然に決まる)。アンマン–ビーンカーは頂点74,891個・辺の向きは0/45/…/315°の8方向、ペンローズは頂点21,106個・18/54/…/342°の10方向——どちらも辺の長さは1種類だけ、と機械で確認してから使う。
8回対称は立った。しかも向きまで合っている
測り方は親と同じ: 外側1/4の粒子の角度から ck=Σeikθ/N を出し、種32本で複素平均(偶然の腕は位相がばらけて消える)。床は同じデータをわざとランダムに回してから平均した値。
| 格子 | 乱数の薄め方 | 本命の成分 | 位相をそろえた値 / 床 | 腕の向き |
|---|---|---|---|---|
| アンマン–ビーンカー(8回) | 3回で凍る | A₈ | 0.090 / 0.038=2.4倍 ★ | −0.1° |
| アンマン–ビーンカー(8回) | 6回で凍る | A₈ | 0.108 / 0.043=2.5倍 ★ | −2.2° |
| アンマン–ビーンカー(8回) | 10回で凍る | A₈ | 0.085 / 0.039=2.2倍 ★ | −0.6° |
| ペンローズ P3(10回) | 3回で凍る | A₁₀ | 0.024 / 0.038=0.6倍 | — |
| ペンローズ P3(10回) | 6回で凍る | A₁₀ | 0.055 / 0.032=1.7倍 | — |
| ペンローズ P3(10回) | 10回で凍る | A₁₀ | 0.006 / 0.035=0.2倍 | — |
アンマン–ビーンカーでは8回対称が立つ。3通りの薄め方で値が床の2.2〜2.5倍、そして腕の向きが −2.2°〜−0.1°——この格子の辺の向き(0°, 45°, …)とぴったり同じ。大きさだけでなく向きが設定を変えても動かないことが、偶然でない証拠になる(偶然の腕なら向きはばらける)。
ペンローズ P3 では10回対称を検出できなかった。どの薄め方でも A₁₀ は床の0.2〜1.7倍。探した範囲は 粒子1200・薄め方3通り・種32本。
非周期の異方性は、周期格子よりずっと弱い
並べると差がはっきりする。正方格子 A₄ = 床の3.3倍(絶対値0.705)/アンマン–ビーンカー A₈ = 床の2.4倍(絶対値0.090)——同じ物差しで絶対値は8倍ちがう。「向きはある。ただし弱い」。
なぜ8回は立って10回は立たないのか。ひとつの見方はアンマン–ビーンカーが正方形タイルを含むこと——局所的には正方格子の断片が入っていて、そこには直線の「水路」がある。ペンローズ P3 は菱形2種だけで、同じ向きの辺が長く続く構造が弱い。ただしこれは解釈で、まだ測っていない(水路の長さの分布を測れば確かめられる=次の一手)。
この作品は「立った」と「立たなかった」を1枚に並べている。否定のほうが条件を書きにくいので、探した範囲(格子の大きさ・粒子数・薄め方・種の数)と判定の基準(床の2倍)を必ず一緒に置いた。なお「床の2倍」は目安のふるいで、統計的な有意水準ではない——ペンローズで A₃ が2.4倍出た回もあるが、薄め方を変えると消えるので採らなかった。設定を変えても残るかが実質的な判定になっている。
どう作ったか
親のタイリング生成器(ammann.js / penrose.js)からタイルの辺を取り出し、頂点を座標で同一視してグラフにする。ペンローズは三角形の A–B と A–C だけが菱形の辺(B–C は対角線)なのでそこだけ拾う。歩く仕組みは異方性DLAの「任意のグラフ版」をそのまま使い、格子を差し替えただけ。
重い測定(種32本の系)の原本は tools/explore/dla-anisotropy.js。機械検査には安い代表を入れた。検査は5件: ①アンマン–ビーンカーの頂点グラフが「辺の長さ1種類・向きは45°刻みの8方向」②ペンローズ P3 が「辺の長さ1種類・向きは36°刻みの10方向」③育ったクラスタ600粒が種から連結 ④同じ種で完全再現 ⑤出荷SVG。上の表(種32本の平均と床)は探索スクリプト側の記録。
出典
- 数理
- DLA は T. A. Witten & L. M. Sander, Phys. Rev. Lett. 47, 1400 (1981)。ノイズ低減 DLA は J. Nittmann & H. E. Stanley, Nature 321, 663 (1986)。アンマン–ビーンカーは R. Ammann / F. P. M. Beenker (1982)、ペンローズ P3 は R. Penrose (1974)。準結晶格子上の成長そのものは当ギャラリーの実験(この組み合わせの文献調査は未実施)
- 生成
- generators/dla-quasi.js(タイリングの辺から頂点グラフを作る・辺長と辺の向きの検算・グラフ上の DLA・腕のスペクトルと「わざと回した床」。歩く部分は generators/dla-lattice.js を共有)