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太鼓の節線

正方形と円の膜で、叩いても動かない線(節線)を計算して描いた。下の図では、音を変えずに模様だけを変えられる。

正方形の膜の節線8枚。上段は同じ音のまま連続に変形する4枚、下段は同じ音を別のモードの組で作った4枚
正方形の膜(太鼓)の節線で、叩いても動かない場所を示す。砂をまくとこの線に集まる。上段の4枚はどれも音がまったく同じ(λ/π²=29)で、(2,5) と (5,2) の重ね合わせを少しずつ変えただけである。下段は λ/π²=65 を 1²+8² と 4²+7² の2通りで鳴らしたもの(藍)と、その重ね合わせ(茜)で、音の高さは全部同じ

なにか

太鼓の膜でも、スピーカーの振動板でも、水を張ったグラスでも、叩いた面には動かない線が残る。砂をまくと砂は動く場所からはじき出され、動かない線に集まる。その線を節線と呼ぶ。

数理はきれいに閉じている。膜の振動は Δu + λu = 0 に従い、縁は固定する。正方形なら固有関数は sin(mπx)·sin(nπy) で、音の高さは λ = (m²+n²)π² になる。節線は縦 m−1 本と横 n−1 本の直線で、区切られる領域はぴったり m·n 個になる。

よく「クラドニ図形」と呼ばれる金属板の砂模様は、膜ではなく板(4階の重調和方程式)の問題で、ここで描いている膜(太鼓)の節線とは別の話になる。

同じ音、違う模様。縮退

面白いのは m²+n² が同じ値を2通りで書けるときである。(2,5) と (5,2) は当然同じ 29 になる。入れ替えではない縮退の最小は 50 = 1²+7² = 5²+5²で、次が 65 = 1²+8² = 4²+7² である。同じ音を出すのに、節線の形がまるで違う。

さらに、同じ固有値のモードは足し合わせても同じ固有値のまま。だから cos t·(2,5) + sin t·(5,2) の t を連続に回すと、音を一切変えずに模様だけが変形する(上段の4枚)。1つの音に、無限の模様がぶら下がっている。

節領域の数(節線で区切られる部屋の数)を数えると、単独のモードでは m·n にぴったり一致し((2,5)→10、(4,7)→28)、重ね合わせると減る((2,5)+(5,2) は 6)。クーラントの定理「n 番目の固有関数の節領域は n 個以下」の範囲にきちんと収まっている(λ/π²=29 は19番目・節領域10)。

ただし重ね合わせの節領域には、ひとつ罠がある。t を細かく振ると節領域は 6 でずっと一定なのに、t = π/4 ちょうどの1点だけ 7 になる。しかもその1点では、格子の刻みによって 6 と 7 が入れ替わる(刻み 200 で 6、400 と 800 で 7)。

理由は対角線にある。t = π/4 では式が x↔y の入れ替えで不変になり、対角線 x=y の上に節線が点で接する(f が 10⁻¹⁶=機械のゼロになる点が並ぶ)。接している点の両側を格子が分けるかどうかで、部屋の数が変わる。7 は、値が跳ぶただ1点で測った数である。

窓と分解能では、刻みを振って値が動くときは「測り方が悪い」か「その量が存在しない」かのどちらかだった。ここはそのどちらでもなく、量はちゃんと存在するのに、つまみについて不連続で、その特異点で測ると別の値が出る。刻みを振るだけでなく、つまみも振ると分かる。

自分で動かす

下の絵は、あらかじめ描いた絵の切り替えではなく、ページを開いたその場で上の図と同じ計算をしている。

t を動かすと 音を変えずに模様だけが変わる((m,n) と (n,m) の足し合わせ)。m=n だと相手がいないので変形しない。

固有値
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同じ音の別の形
—
節領域(部屋)の数
—

スライダーで決めた振動モードの節線を、その場で計算して描いた図

丸い太鼓はベッセル関数

円形の膜の節線6枚。節円と節直径の組み合わせ
円形の膜(半径1)の節線を並べた。左上から (m,s) = (0,1) 基本振動(内部に節なし)・(0,2) 節円1本・(1,1) 節直径1本/(2,1) 節直径2本・(0,3) 節円2本・(3,2) 節直径3本+節円1本。節円の半径はベッセル関数の零点の比で決まる

円では固有関数が Jm(jm,s·r)·cos(mθ) で、音の高さは λ = jm,s² になる(j はベッセル関数 Jm の零点)。零点は、べき級数と二分法で自分で求めた。j0,1=2.404825558、j0,2=5.520078110、j1,1=3.831705970 で、文献値との差は最大 2×10⁻¹⁴ である。だから (0,3) の節円の半径比 j0,1/j0,3 = 0.2779 も、そのまま図の寸法になっている。

音から分かること、分からないこと

固有値を小さい順に数えると、形の情報が漏れてくる。これが Weyl の法則 N(λ) ≈ (面積/4π)λ − (周長/4π)√λ である。正方形 [0,1]² で実際に数えると、次の表になる。

Λ(=λ/π² の上限)数えた個数Weyl の予測差
1,000756753.80.29%
10,0007,7547,754.00.00%
100,00078,23378,223.60.01%

つまり面積と周長は音の並びから分かる。もうひとつ、同じ面積で比べるといちばん低い音を出せるのは円である(面積1の正方形 λ₁=2π²=19.74 vs 面積1の円 λ₁=π·j₀₁²=18.17)。これが Faber と Krahn の不等式で、丸い太鼓は低く鳴る。

では形そのものは聞こえるのか。これが有名な問い「太鼓の形は聞こえるか」(M. Kac, 1966)で、答えは No。音の並びが完全に一致する別の形が作れる(Gordon・Webb・Wolpert、1992)。面積は聞こえる。形は聞こえない。この反例そのものは当ギャラリーでは未検証で、文献として置いておく。

どう作ったか

節線はマーチングスクエア(格子の各セルで符号が変わる辺を線形補間)で拾い、端点を突き合わせて折れ線に繋いでから描く。ベッセル関数はべき級数で計算し、零点は走査のあと二分法(80回)で絞る。ただし、べき級数だけでは x が大きいと桁落ちで発散する(x=60 で 7.3×10⁷)ので、x=25 から先は漸近展開に切り替えた。切り替えの前後で両者は相対差 2×10⁻⁵ 以下で一致し、高い零点は McMahon の漸近式と、隣り合う零点の間隔は下から π に近づく。

→ チューリング・パターン(同じ「波長が模様を決める」話の反応拡散版)

→ モアレ(重ね合わせが新しい模様を作る、こちらは空間の話)

→ アポロニウスのガスケット(同じ「数の並び」から形が決まるもうひとつの例)

出典

数理
膜の固有振動は古典的(Rayleigh, The Theory of Sound, 1877)。節線の砂の実験は E. Chladni (1787)(ただしそちらは板)。節領域の上限は R. Courant (1923)。固有値の数え上げの漸近則は H. Weyl, Nachr. Ges. Wiss. Göttingen (1911) 110–117 と Math. Ann. 71 (1912) 441–479。「太鼓の形は聞こえるか」は M. Kac, Amer. Math. Monthly 73 (1966) 1、否定的解決は C. Gordon, D. Webb, S. Wolpert, Invent. Math. 110 (1992) 1(当ギャラリーでは未検証・文献)。同面積で最低固有値が最小なのは円=Faber と Krahn の不等式 (1923)
生成
generators/drumhead.js(正方膜と円膜の固有関数・ベッセル関数のべき級数と零点の二分法・マーチングスクエアと折れ線の連結・節領域の連結成分数え・Weyl の法則の検算。依存ゼロ・乱数ゼロ)。正方膜のモード、ベッセル関数と零点、円膜のモード、節線のマーチングスクエアと折れ線への連結の計算は gallery/assets/drumhead-live.js にまとめ、上の図と動く図の両方がこれを使っている