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アポロニウスのガスケット

互いに接する円の隙間に接する円を入れ続け、曲率を整数のまま 20000 まで数えた。

アポロニウスのガスケット。大きな円の中に接する円が入れ子で無限に詰まっていく
互いに接する円の隙間に、接する円を入れ続けた形(曲率900までの2810個)。太い藍が大きい円、細い茜が小さい円である。隙間はいつも3つの円で囲まれていて、そこに入る円はいつでもただ1つに決まる

なにか

大小のコインを平らに詰めるとき、太いパイプの束の隙間に細いパイプを差すとき、泡が寄り集まるとき、「3つに接する円」はいつでもただ1つに決まる(アポロニウスの問題)。その円を入れると新しい隙間が3つできて、また入る。無限に続くこの詰め方を、アポロニウスのガスケットと呼ぶ。

この形の面白さは、円と円の交点を解かなくても隙間の円が出るところにある。使うのはデカルトの円定理で、4つの円が互いに接するとき、曲率 k=1/r(包む円だけ符号を負にする)が次の式を満たす。

(k₁+k₂+k₃+k₄)² = 2(k₁²+k₂²+k₃²+k₄²)
さらに中心についても同じ形が成り立つ(複素数 z を中心として): (k₁z₁+⋯+k₄z₄)² = 2((k₁z₁)²+⋯+(k₄z₄)²)

これを k₄ について解くと k₄′ = 2(k₁+k₂+k₃) − k₄ になり、中心も同じ式で出る。足し算と引き算だけで済むので、隙間を埋める作業は、4つの数の組を1つずつ入れ替えていく作業に変わる。

円の大きさには「入れない番号」がある

出発を曲率 (−1, 2, 2, 3)(半径1の外円+半径1/2 が2つ+半径1/3)にとる。上の式は整数から整数を作るので、出てくる曲率は永久に整数のままになる(中心の k·z もガウス整数のまま)。これを整数アポロニウス・ガスケットと呼び、丸め誤差なしで定理を確かめられる。

そこで曲率を 20000 まで全部(外円を除く 164,255個)並べてみると、妙なことに気づく。24 で割った余りが 8 種類しかない。2, 3, 6, 11, 14, 15, 18, 23 の 8 つで、例外はない。裏を返せば、余りが 0, 1, 4, 5, 7 などになる大きさの円はこの隙間には絶対に入れない。60以下で実際に現れない曲率を並べると 4 5 7 8 9 10 12 13 16 17 19 20 21 22 24 25 28 と続く。

「では許された余りの大きさは全部現れるのか」。これは local-global 予想と呼ばれ、長く信じられていたが 2023 年に反例が見つかった(Haag・Kertzer・Rickards・Stange)。円を詰めるだけの話が、いまも動いている数論につながっている。

分数の詰まり方が、円の詰まり方だった

数直線の上に分数ごとの円を置いたフォード円。分母が小さい分数の上には大きい円が乗る
数直線 0〜2 の上に、分数 p/q ごとに半径 1/(2q²) の円を置いた(フォード円)。整数の上がいちばん大きく、1/2 の上が次、その隙間に 1/3, 2/3 などが入る。これも接する円だけでできたアポロニウスのガスケットである

驚くのは接し方の規則である。p/q と r/s の円が接するのは |ps − qr| = 1 のときに限る。つまりファレイ数列で隣同士のときである。分母26までの213個・22,578組すべてで、幾何(中心距離=半径の和)と整数の条件(|ps−qr|=1)は1組も食い違わなかった。

この絵を使うと、分数がどれくらい詰まっているかを目で見られる。円が大きいほど分母が小さく、近似しやすい分数になる。そして黄金角が「いちばん近似しにくい数」であることは、この絵で言えばどの大きい円からも遠い場所にいるということだった。

どれくらい詰まっているのか

曲率 K 以下の円の数は N(K) ∝ Kδ で増える。この δ がガスケットの次元(円の集合のハウスドルフ次元)で、文献値は 1.3057。数えると、曲率3000までで 1.294、20000までで 1.2985、120000までで 1.2999 になる。有限で切ると必ず下から近づく(小さい円を数え落とすぶん傾きが甘くなる)。線(1次元)より詰まっていて面(2次元)にはならない、中間の値である。

自分で動かす

下の絵は、あらかじめ描いた絵の切り替えではなく、ページを開いたその場で上の図と同じ計算をしている。曲率の上限を上げていくと隙間が埋まっていくのに、デカルトの残差はずっと厳密に 0 のままである。整数だけで作っているからこうなる。

円の数
—
デカルトの2式の残差
—
整数でない円
—
24 で割った余り
—
重なりの最悪
—
詰め込み指数 δ
—

スライダーで決めた曲率の上限までのアポロニウス・ガスケット

残差は「小さい」ではなくちょうど 0と出る。曲率も中心(k·z)も整数で持ち回しているので、定理の確かめが引き算だけで済む。上限を上げると δ は文献値 1.3057 に向かうが、上限が低いうちは届かない。足りないのは理論ではなく円の数である。泡の法則やボロノイと違って、ここでは隙間の埋め方が一意に決まる。

どう作ったか

四つ組を1つずつ入れ替える幅優先探索で、曲率が上限を超えたら止める。曲率と中心(k·z)を整数で持ち回すので、定理の確かめは「引き算して 0 か」で済む。出発の四つ組でも、再帰で生まれた 12,459 個の四つ組すべてでも、デカルトの2式は厳密に 0 になる。円はどこも重ならず、いちばん深い食い込みでも 2×10⁻¹⁶ で、丸め誤差の大きさにとどまる。世代ごとに増える円の数は 4·3g−1 で、4, 12, 36, 108 と続く。上の動く図では、見えないほど小さくて描かなかった円の数も表示している。

→ ハニカム(同じ「隙間なく詰める」の、こちらは全部同じ大きさ)

→ 双曲タイリング(円が円に接する世界のもうひとつの姿)

→ インドラの網(接する鏡の円で反転を重ねると、このガスケットが残る)

→ 黄金角の生まれ方(近似しにくい数=どの大きい円からも遠い場所)

出典

数理
R. Descartes (1643) の円定理。中心についての複素数版は J. C. Lagarias, C. L. Mallows, A. R. Wilks, "Beyond the Descartes circle theorem", Amer. Math. Monthly 109 (2002) 338。整数ガスケットの mod 24 の制限と local-global 予想は R. Graham, J. Lagarias, C. Mallows, A. Wilks, C. Yan, "Apollonian circle packings: number theory", J. Number Theory 100 (2003) 1 ほか。2023年の反例は S. Haag, C. Kertzer, J. Rickards, K. Stange, arXiv:2307.02749(この反例そのものは当ギャラリーでは未検証・文献として置く)。フォード円は L. R. Ford (1938)
生成
generators/apollonian.js(デカルトの2式による四つ組の入れ替え・曲率と中心を整数で保持・接触と重なりの判定・詰め込み指数のフィット・ガスケットとフォード円の作図。依存ゼロ・乱数ゼロ)。ガスケットの計算は gallery/assets/apollonian-live.js にまとめ、上の図と動く図の両方がこれを使っている