ロザンジュ・タイリング
菱形3種類の並びは、箱に積んだ立方体の配置と1対1に対応する。乱数で積むと角の近くは1種類の菱形で凍り、中央だけが3種類の混ざる領域になって内接円のような境界が浮かぶ。
なにか
菱形(角 60°/120°)を 3 つの向きで並べると、立方体が積み上がって見える。キルトの「tumbling blocks」、床タイル、エッシャーの階段。古い錯視の模様である。数学ではこれを六角形のロザンジュ・タイリングと呼び、見え方が錯視ではなく厳密な対応だと分かっている: 辺 a, b, c の六角形の埋め方は、a×b×c の箱に立方体を崩れないように積んだ形(平面分割)と 1 対 1 に対応する。上面が 1 種、左面が 1 種、右面が 1 種の菱形である。
だからこの模様には帳簿がつく。何枚ずつあるか、何通りあるか、そして乱数で積むと何が起きるか。
枚数は並べ方によらない、総数は積の式に乗る
立方体を 1 個足す(または取る)と、上面・左面・右面が 1 枚ずつ入れ替わるだけ。だからどんな並べ方でも 3 種の枚数は ab・bc・ca 枚で、正六角形(a = b = c = n)なら各 n² 枚。空箱でも満杯でも乱数でも同じであることを機械で確かめた。並べ方の総数は MacMahon の積 ∏(i+j+k−1)/(i+j+k−2)。小さい箱を全部列挙して、1×1×1 の 2 通りから 4×4×4 の 232,848 通りまで 7 箱で一致した。
乱数で積むと、角が凍って円が浮く
「立方体を 1 個足す/取る」を等確率で提案し、崩れなければ受け入れる連鎖を回すと、並べ方は一様乱数に近づく(提案が対称なので一様分布が定常)。すると六角形の 6 つの角は 1 種の菱形に凍り、混ざるのは真ん中の内接円の中だけになる。内接楕円の中だけで 3 方向が正の密度で混ざる、という形で Cohn・Larsen・Propp が 1998 年に証明している。アステカ・ダイヤモンドの「アークティック・サークルの定理」とは別の結果になる。凍結を「距離 1.6 以内の近所が全部同じ種」と決めて測ると、n=40 で内接円の外の凍結 94.5%・内の凍結 3.6%、凍結の割合が 1/2 を横切る半径は内接円の 0.997 倍。n を 16 → 28 → 40 と振ると、その半径は 1.017 → 1.011 → 0.997 と円へ寄り、立ち上がりは急になる。
混ざったかどうかの物差しを持っている。一様分布は補集合(積んだ立方体と空いた隙間を入れ替える)で対称なので、充填率は 1/2 に来なければならない。400·n³ 歩で 0.503(n=40)。最初は 100·n³ 歩で回していて、充填率 0.36 のまま内接円の中まで凍って見えた。混ざり切らない連鎖は「円より広い凍結」という嘘をつく。これも検査に固定した。
MacMahon が Art. 429(Combinatory Analysis vol. 2, 1916 の 182 ページ)で与えているのは、x の生成関数 GF(l; m; n) である。xw の係数が重さ w の配置の数を与える形で、因子は lm 個だと本人が書いている。ここで使った積は、その x → 1 にあたる。原本を開いて確かめた。
「アークティック・サークルの定理」という呼び方は 2 つの意味でずれていた。まず、その名前は Jockusch・Propp・Shor がアステカ・ダイヤモンドのドミノ敷き詰めについて出した定理のもので、菱形の側ではない。次に、Cohn・Larsen・Propp が証明したのは密度の定理(定理 1.1)だった。そこから出る系が「3 方向の菱形がどれも正の密度で現れる領域は、漸近的に六角形の内接楕円の内部になる」(p.140)である。凍結領域(同じ向きの菱形が境界までつながっている集合)の境界が内接楕円に寄るほうは、同じ論文の予想 6.2(Arctic Ellipse Conjecture・p.162)にとどまる。ここで測った凍結は「近所が全部同じ種」という密度の側の物差しなので、当たっているのは系のほう。凍結の判定は近所の半径の取り方で境の位置が少し動く。
どう作ったか
生成器は generators/lozenge.js で、列の高さの配列(平面分割)を持ち、見えている面を菱形に起こしている。箱の奥にある 2 つの壁も段差として数えるところが要で、最初はこれを落としていて枚数が合わなかった。連鎖の長さは立方体 400·n³ 回ぶん回している。100·n³ で止めると凍結の割合が 0.36 になり、円の中まで凍ったままになる。
出典
- 数理
- P. A. MacMahon, Combinatory Analysis vol. 2 (1916), Art. 429, pp.182–183=生成関数の形(archive.org のスキャンで確認)/H. Cohn, M. Larsen, J. Propp, "The shape of a typical boxed plane partition", New York J. Math. 4 (1998), 137–165=密度の定理 1.1 と内接楕円の系(p.140)、凍結領域の境界は予想 6.2(p.162)/W. Jockusch, J. Propp, P. Shor (1995)=「アークティック・サークルの定理」の名はアステカ・ダイヤモンドのこちら
- 身近
- キルトの tumbling blocks・床タイルの「積み木」模様。同じ模様はデロス島のヘレニズム期の床モザイクにある。Dunbabin Mosaics of the Greek and Roman World (1999) の p.32 に「3 色以上の菱形を組んで立方体を斜めから見た錯視を作る」「少なくとも 15 回現れる」とあり、図 32 のイタリア人の市場のモザイクは前 130〜前 88 年ごろ。⚠️ 以前ここに書いていた「11 世紀イタリアの床タイル」は落とした。出どころの Wikipedia が挙げる唯一の典拠がキルトの随筆集で、実物を開けなかったため
- 親戚
- ボロノイ・トゥルシェ(乱数の模様の帳簿)・ハニカム(六角形)
- 生成
- generators/lozenge.js(lozenge.svg n=24 の一様乱数・lozenge-book.svg 帳簿)