トゥルシェ・タイル
1種類のタイルを乱数で回して並べるだけで、迷路のような曲線ができる。曲線は輪しか作らず、輪の数は面積に比例し、輪の大きさには典型的な値がない。
なにか
1704 年、ドミニコ会の司祭セバスチャン・トゥルシェは、対角線で 2 色に塗った正方形タイルの並べ方を体系的に数え上げた。1987 年、冶金学者シリル・スミスがそのタイルを「四分円 2 本」に置き換えると、隣のタイルとの境で曲線が必ずつながるので、乱数で回すだけで迷路のような 1 本の曲線の模様が生まれる。壁紙・布・床タイルの定番で、ボロノイと並んで「規則 1 行で無限に模様が出る」型の代表である。
このギャラリーの興味は、その乱数の模様に帳簿がつけられるかにある。曲線は何本あるか、どれだけ長いか、その糸は線なのか面なのか。
輪しかできない。そして必ず 2 色で塗れる
四分円は辺の中点で終わるので、どの中点にも弧がちょうど 2 本ずつ集まる。だから曲線は閉じた輪か、縁から縁への道のどちらかしかない(縁をつないだトーラスなら全部が輪)。輪の数を、弧を頂点にした union-find と、中点から中点へ実際に歩く 2 つの経路で数えて一致させた。答えが分かっている盤でも確かめた。全部同じ向きなら斜めの波が N 本(弧 2N 本ずつ)、市松なら弧 4 本の小さな輪が N²/2 個。
塗り分けも規則から出る。各タイルは弧で 3 つの区画に分かれる(切り取られる角の帽子 2 つと、あいだの帯)。切り取られる 2 つの角は必ず対角なので、格子座標の偶奇が同じ。帽子をその偶奇の色、帯をその反対の色にすると、どのタイルでも辻褄が合い、隣とも合う。弧 16,000 本で両側の色が違うことを機械で確かめた(外れ 0)。トゥルシェの元の「対角線で 2 色」の塗りが、曲線に置き換えても生き残っている。
輪の帳簿。数は一定、大きさに典型はない、糸はフラクタル
乱数の盤(縁をつないだトーラス・N=64, 128, 256・種を 3〜5 通り)で測った。輪の数は 100 セルあたり約 10 本で N によらない。長さ ≥ L の輪の割合は両対数で直線(傾き −1.14〜−1.25)。輪に「典型的な大きさ」がない。そして輪の長さ ℓ と回転半径 R_g の関係は ℓ ∝ R_gD で D = 1.59 → 1.68 → 1.67(N=64 → 128 → 256・ℓ ≥ 16 の輪)。線(1)でも面(2)でもない。乱数 1 つで無限の布が織れて、その糸はフラクタルである。
輪がパーコレーションのクラスタの hull と同じものになることは、Roux・Guyon・Sornette が 1988 年に出していた。要旨に「これらの円弧が作るフラクタルな輪は、smart kinetic walk、パーコレーションのクラスタの hull、θ 点の高分子の形と同じものである」とあった。本文は有料で開けず、読んだのは要旨だけになる。この敷き方を「Truchet tiles」と名指して彼らを引いているのは Hansen ほか 1997 の 5.2 節である。次元 7/4 は Saleur と Duplantier が 1987 年に出した(要旨に DH = 7/4 とある。本文は開けなかったので、要旨と、Duplantier 自身の後年の論文で確かめた)。
⚠️ ここで 7/4 なのは hull、つまりクラスタを一周する境界そのものである。外から触れる周(accessible external perimeter)は別物で 4/3 になる。Aizenman・Duplantier・Aharony の 1999 年の論文が、式 (2) で DH = 7/4、式 (6) で DEP = 4/3 と並べている。後者は「hull のうち外から入れる部分で、狭い入口の奥のフィヨルドを除いたもの」と定義されている。英語の frontier と perimeter は文献ごとに指す先が入れ替わるので、この 2 つを「外周」と訳すと混ざる。測った D は N とともに上がるが 1.75 には届いておらず(届いていないことを検査に固定)、小さい輪の補正が残っている。当てはめの下限を ℓ ≥ 64 にすると N=128/256 で 1.69/1.68。最大の輪の割合(46% → 45% → 39%)は N で動く。有限の盤では N より大きい輪は入らない。
どう作ったか
生成器は generators/truchet.js で、盤は決定的な乱数(mulberry32)から作り、トーラスと平面の両方を持っている。輪の数は union-find で数えたものと、弧を実際に歩いて数えたものを突き合わせた。次元は輪の長さと回転半径の両対数から出していて、当てはめの下限を変えると値が動くので、下限ごとに書き分けている。
出典
- 数理
- S. Truchet, "Mémoire sur les combinaisons", Mémoires de l'Académie Royale des Sciences (1704), pp.363–373(Gallica の実物で確認。通行の書誌は 363–372 だが、本文は p.373 の「Fin des Mémoires.」まで続く。⚠️ トリュシェ自身のタイルは対角線で 2 色に分けた正方形で、4 分の 1 円弧のタイルは後世のもの)/C. S. Smith and P. Boucher, "The tiling patterns of Sébastien Truchet and the topology of structural hierarchy", Leonardo 20 (1987), no. 4, 373–385=円弧版を最初に書いた論文(JSTOR が人間確認で開けず、書誌は Hooper, arXiv:1103.6046 の文献表で確認)/S. Roux, E. Guyon, D. Sornette, "Hull percolation", J. Phys. A 21 (1988), L475–L482=輪がパーコレーションの hull と同じであること(要旨のみ)/H. Saleur, B. Duplantier, Phys. Rev. Lett. 58 (1987), 2325–2328=hull の次元 7/4(要旨のみ)/M. Aizenman, B. Duplantier, A. Aharony, Phys. Rev. Lett. 83 (1999), 1359=7/4 と 4/3 の区別(arXiv:cond-mat/9901018 の式 (2)(6))
- 親戚
- ボロノイ・乾燥亀裂(規則 1 行で模様)・DLA(フラクタルの糸)・Wang タイル(辺の合わせ方で決まる並べ方)
- 生成
- generators/truchet.js(truchet.svg 18×18 の 2 色・truchet-book.svg 帳簿)