絹の水紋
組紐の±45°の糸を2枚重ねて、絹織物の水紋を描いた。
なにか
かけ算の第9号である。「モアレ(moiré)」の語源は物理でも数学でもなく、織物にある。畝のある絹を2枚合わせでプレスすると浮かぶ、水面のような模様(波紋絹・watered silk)のことだった。網戸で覚えた数理を、言葉のふるさとの布に返す。
水紋の数理は2段構えになっている。1つ目はうなりで、糸の間隔 p の布と p(1+ε) の布を重ねると、間隔 p(1+ε)/ε の大きな帯が浮かぶ(ε=4.5% なら約23倍)。2つ目はゆらぎの拡大鏡である。本物の布の糸はまっすぐではない。糸が振幅 A で波打っていると、位相の式を解けば帯の位置は A/ε の振幅で波打つ。つまりモアレは間隔のずれだけでなく、糸の「ゆらぎ」まで1/ε倍に拡大して見せる。布のわずか 0.8px のうねりが、水紋では 18px のうねりになる。絹の水紋があんなに有機的に見えるのは、布の個体差=ゆらぎの指紋が拡大投影されているためである。同じ理由で、水紋は品質検査にもなる(プリント基板や織物の欠陥検出にモアレを使うのは実務の定番)。
どう作ったか
縞の周期を輝度の自己相関で測ると 299 で、p(1+ε)/ε = 302 と 3% 以内で合う。縞の位相をフーリエ推定で追うと、揺れの振幅は 17.0px で、A/ε = 17.8px と 8% 以内で合う。比べとして糸の波打ちを消す(A=0)と、縞の揺れは 0.5px 未満に収まり、縞はまっすぐに戻る。描いたのは糸だけで、水紋の帯は1本も描いていない。
出典
- 数理
- うなりと縞周期の古典幾何は モアレと同じ(Rayleigh 1874)。「moiré」の語源はモヘア(mohair)に由来する波紋絹の名。ゆらぎの拡大則は位相の式 x·ε − A·sin(2πy/λ) = k·p(1+ε) を x について解いた帰結(本作で定式化・機械検査)
- 生成
- generators/moire-braid.js(p=13・ε=4.5%・A=0.8・λ=340)