青海波に本物の波を立てる
青海波の弧は間隔がそろっていて、1 つの点から出た波の山のように見える。そこで円の中心から本当に波を出した。後ろの行を前の行が隠すように重ねると青海波に戻り、届いた波をそのまま足すと、輪と十字の格子に変わった。
なにか
和柄の対称群で描いた青海波は、千鳥に並んだ中心のまわりに、上へ開く半円の弧を 3 本ずつ描いた模様である。横の間隔を 1 とすると、行の間隔は 0.5 で、1 行ごとに中心が 0.5 ずれる。弧の半径は 0.5・0.36・0.22 で、間隔は 0.14 にそろっている。
Huygens は 1690 年の『光についての論考』の第 1 章で、ろうそくの炎の点 A・B・C のまわりに同心円を描き、それぞれの点から出る波を表した(英訳 p.17)。そのすぐあとで、波の中心での打撃は規則正しく続くわけではないから、波が等しい間隔で続くと思ってはいけない、と断っている。図の間隔が等しいのは、1 つの波が等しい時間ごとに進む様子を示すためで、1 つの中心から出た何本もの波を描いたのではない。ここでは青海波の弧を逆に、1 つの中心から続けて出た 3 本の山と読んだ。波長 λ=0.14 の波の山が 3 本並んでいれば、横の間隔は 7.14λ、行の間隔は 3.57λ になる。
同じ章で Huygens は、波が届いた物質の粒のひとつひとつのまわりに、その粒を中心とする波ができると書いた。粒ごとの波は元の波にくらべて限りなく弱く、光の点からいちばん遠い部分だけが元の波の組み立てに加わる(p.19)。粒ごとの波が同じ瞬間にそろって、動きの先端を限る波になるのは、それらの共通の接線(common tangent)の所だけだという(p.20〜21)。英訳者の Thompson は序で、Huygens には干渉の原理も、波が順に並んだ列の考えもなかったと書いている(p.ix)。
青海波の円の中心を、この粒に見立てた。どの中心からも同じ時刻に同じ位相で、山 3 本ぶんの波を出す。それを 2 通りに描いた。1 つは、後ろの行を前の行が隠す描き方で、波が届いた円を不透明にし、下の行ほど手前に重ねる。もう 1 つは、届いた波をただ足す描き方で、訳者の言う干渉にあたる。
隠すと足す
波は平面に広がる円筒波とし、中心から r の所の揺れを a(r)·cos(k(r − t)) とした。k=2π/λ で、波は時間 1 に 1 進む。振幅 a(r)=(1+(kr)²)^(−1/4) は、遠くでは円筒波と同じく 1/√(kr) で弱まり、中心でとがらない。波があるのは r − t が −2.25λ〜0.25λ の帯だけで、山は r=t、t−λ、t−2λ の 3 本になる。帯の両端の 1/4 波長は、sin² の形でなめらかに 0 にした。t=0.5 で、3 本の山の半径が収蔵品の弧と同じ 0.5・0.36・0.22 になる。
いちばん近い中心どうしは斜めに √2/2 離れていて、その山がぶつかるのは t=0.354 である。そこまでは隣の波が届かないので、どちらの描き方でも中心ごとの同心円になる。ぶつかってからは別の形に育った。隠す描き方では、下の行の円が上の行の円の下半分を隠し、扇が重なる青海波になった。足す描き方では、中心ごとの輪のあいだを斜めの線がつなぎ、輪 4 つに囲まれた所に十字ができた。上下の区別がなく、扇の重なりには見えない。
動画では、波の先頭が半径 0 から育ちはじめ、先頭の山が半径 0.5 に届くまでを 9 秒にし、最後のコマで 3 秒止めた。斜め隣の山がぶつかるのは、動画の始めから 6.54 秒の所である。
収蔵品の線と比べる
収蔵品は、中心ごとに上半分の弧を 3 本描くだけで、どの弧も隠さない。隠す描き方の t=0.5 の絵と収蔵品を、横 4・縦 4 の窓に 600 画素四方で描き、線の画素を数えた。両方にある線は 33,696 画素で、どちらかにある線の 91% だった。隠す描き方だけにある 2,048 画素は、すべて中心より下にある、いちばん内側の弧の線だった。この弧は中心より下まで回り込み、ほとんど円になる。収蔵品だけにある 1,376 画素は、すべて弧の両端が下の行の円に隠れた所だった。
収蔵品が弧を隠さなくても青海波に見えるのは、ある行の上半分の弧と、1 つ下の行の上半分の弧が、高さで重ならないからである(行の間隔と外の弧の半径がどちらも 0.5)。2 つの描き方の違いは、内側の弧の下側と、外の弧の端に集まっていた。
下の行から順に出す
Huygens の組み立てに近づけて、下から上へ進む平らな波が行に届いた時刻に、その行の中心から波を出して足した。この節の計算だけは、波を先頭から後ろへ切れ目なく出し続け、振幅を 1/√(1+kr) とした。先頭は横にまっすぐな線になり、扇の上の縁をつないだ共通の接線にあたる。先頭のすぐ後ろの数本の山もほぼまっすぐだったが、その後ろは、中心が続くかぎり格子の模様になった。
中心を 4 行の帯にだけ置くと、帯の上へ抜けた波は、横にまっすぐな山が横の間隔 1 の周期でうねる形になった。離れればまっすぐな面になる、とは言えず、うねりが残った。すべての中心から同時に出す計算も、山 3 本で止めずに長く続けると、格子と同じ周期で点が並ぶ模様になった。
見立て
計算を始める前に、見立てを 5 つ決めた。
1 つ目は、隠す描き方で山を半径 0.5 までの 3 本だけ描くと、収蔵品の青海波と線が一致する、だった。扇の形は戻ったが、内側の弧が中心より下まで回り込むので、半分当たりとした。2 つ目は、すべての中心から同時に出して足すと、輪と鞍の網になって青海波に似ない、だった。当たった。
3 つ目は、下の行から順に出して足すと、離れた所で山の線が横にまっすぐになる、だった。先頭はまっすぐになったが、帯から抜けた波にはうねりが残り、半分当たりとした。4 つ目は、1 行だけ同じ位相で出すと、離れるにつれて行の並びが写った像が繰り返し現れる、だった。絵は描いたが、行からの距離ごとに測っていないので、判定していない。
5 つ目は、山が 3 本だけなら、足した絵も隠した絵にかなり似る、だった。3 本でも足した絵は輪と十字の格子になり、外れた。
どう作ったか
生成器は generators/seigaiha-wave.js である。左の隠す絵は、上の行の中心から順に、波が届いた円を地の色で塗ってから山の円を描いた。下の行ほど後に描くので手前に来る。右の足す絵は、届いた波を画素ごとに足し、揺れがいちばん強く下へ曲がる向きで極大になる所を山の線とした。ただし、下への曲がりがもう 1 つの向きより強い所や、まわり半波長の中でいちばん高い所の 0.35 倍より高い所などに絞った。この条件を外すと、山から谷へ下る途中の弱い曲がりを山と取り違え、薄い輪が出た。山の線が合流する十字のまわりでは、線が少し切れる。
動画は同じ式を python でも書き、1080 画素四方で 1 コマずつ描いた。表紙は動画と同じ割り付けで、t=0.5 のコマを描いている。
確かめていないこと。1 行だけ出した場で、行の並びが写った像が繰り返し現れるかは、距離ごとに測っていない。下の行から順に出す計算は、振幅の式と波の長さが表紙の計算と違う。どの中心も全方向へ同じ強さで波を出すので、光の点の側へ戻る向きの波も残っている。Huygens の 1690 年の仏語の原本は開いていない。英訳の図は載せず、図はすべて自分の計算で描いた。
出典
- 粒ごとの波と共通の接線
- C. Huygens『Traité de la lumière』(1690)。S. P. Thompson の英訳『Treatise on Light』(訳者の序は 1912 年 6 月)を、Project Gutenberg #14725 の HTML 版で 2026 年 10 月 31 日に開いた。訳者の序(p.ix〜x)と、第 1 章「On Rays Propagated in Straight Lines」の p.17〜21
- 数理
- 波の式・隠し方・山の線の取り方は自分で組んだ。青海波の中心の並びと弧の半径は、収蔵品の和柄の対称群と同じにした
- 親戚
- 和柄の対称群・江戸小紋三役と格子の向き・回折の動物園
- 生成
- generators/seigaiha-wave.js(seigaiha-wave.svg 表紙・seigaiha-wave-book.svg 帳簿)。数値は generators/data/seigaiha-wave/facts.json に書き出した。動画は tools/timelapse-seigaiha-wave.py