和柄の対称群
平面の繰り返し模様の対称性は17種類しかなく、和柄もそのどれかに入る。機械で判定すると、市松と七宝つなぎは p4m、麻の葉は p6m、青海波は cm だった。
なにか
繰り返す模様には、ずらす・回す・裏返す(+ずらしながら裏返す=映進)という対称操作がある。この操作の組み合わせ方は数学的に17通りしか存在しない。エッシャーが使い、結晶学者が分類したこの17種に、日本の伝統文様も当然入る。どこに入るかを機械に判定させた。
やり方は素朴で、文様を「印つきの点の集合」にして、候補の対称操作をぜんぶ試すだけである。回転(2/3/4/6回)は格子点・マスの中心・辺の中点のまわりで、鏡映は15°刻みで、映進は半コマずらして試す。窓の縁の影響を避けるため、判定に使うのは内側の点だけにし、さらに移した先が窓の外に出た点は判定から外す(窓の外は「一致しない」ではなく「見えない」)。2つ目を入れないと、映進をひとつ見落とす(後述)。
| 文様 | 作り方 | 回転 | 鏡映 | 映進 | 群(同定) |
|---|---|---|---|---|---|
| 市松 | 正方格子の2彩色 | 4回 | 4方向(0/45/90/135°) | あり | p4m |
| 七宝つなぎ | 正方格子に等半径の円 | 4回 | 4方向 | なし | p4m |
| 麻の葉 | 三角格子の放射 | 6回 | 6方向(30°刻み) | あり | p6m |
| 青海波 | 同心円の弧を千鳥に | なし | 1方向(縦だけ) | あり(縦・半段ずらし) | cm |
市松と七宝つなぎは同じ群である。見た目はまったく違うのに、対称性の骨格は同じになる。見た目が違っても骨格が同じだと言えるのは、群で分類するからである。逆に青海波は、弧が上に開くぶん対称性が大きく落ちて、回転も横の鏡映も消え、縦の鏡映と、その鏡の間に立つ映進だけが残る。段ごとに半コマずれる千鳥なので、鏡の線と線のちょうど中間には「裏返して半段ずらす」操作が通る。鏡と映進が交互に並ぶこの形が cm(中心格子)である。
5回対称の席は、周期模様にはない
17種に現れる回転は 1・2・3・4・6 回だけで、5回はどこにもない(結晶学的制限)。正五角形で床は埋まらない、という子どもの頃の発見が、そのまま定理になっている。機械でも確かめた: 和柄4種に対して 5回・7回・8回・12回の回転を、あらゆる中心で試してひとつも立たなかった。
ここでこのギャラリーの他の棚とつながる。ペンローズ・タイリングは5回対称の見え方をするが、並進対称をひとつも持たない。だから17種類のどこにも入らない。頂点1211個で40通りの並進候補をぜんぶ試して、一致率は最良でも 74.9%(市松なら 100%)。面白いのは 74.9% も一致してしまうことで、局所的には周期模様と見分けがつかないのに、どこまで行っても厳密には一致しない。これが準周期の正体である。和柄は「17種に収まる側」、Hat やペンローズは「収まらない側」にいる。同じギャラリーに両方が並んでいる(見取り図の発見 24)。
では、和柄はぜんぶ周期的なのか
ここで扱った4つはすべて周期的である。2方向の独立な並進を持つ、というのが「17種に入る」の意味そのもので、機械にやらせた「市松の並進で一致率 100%」がその判定だった。ただし和柄全体が周期的とは言えない。少なくとも3つ外れる型がある。
① 散らし文様(小紋の散らし、破れ文様)は、意図的に格子を崩して置く。並進対称がないので17種類の外に出る。② 完全な縞は、線の方向に連続的にずらせてしまう。17種類の分類は「並進が離散である」ことを前提にしているので、理想的な縞はその前提から外れる(帯や棒の対称群という別の分類の話になる)。③ 手描きの流水・観世水は、繰り返してはいるが厳密な格子ではない。
面白いのは逆側である。伝統的な文様の分類には「割付文様」という区分があり、これが「敷き詰めて割り付ける連続文様」=ほぼ周期的な文様にあたる(麻の葉・七宝・亀甲・青海波・市松はここに入る)。この語自体は実在した。京都国立博物館の所蔵品解説にも「麻の葉繋ぎ・網代など細かな割付文様」「菱つなぎや網代などの割付文様」と出てくる(帷子 白麻地梅に箙文様、打掛 浅葱綸子地貝桶文様。どちらも江戸時代 18 世紀)。ただし「周期的かどうかで名前を分けていた」とまでは言えない。定義文が見つかるのは着物や染織の実務の資料で、そこに書かれているのは「文様を構成する方法のひとつ。同じ文様を上下左右に連続させ、規則的に繰り返して一定面積の中に割り付ける」という作図の手順である。周期性は手順の結果として出てくる。百科事典のほうは同じ内容を「文様形式(1 種または数種のモチーフを反復する形式)」と呼び、「割付」の語を使っていない。題材で切る区分(植物・動物・器物)と同じ一覧に混ぜて数えている例もあるので、独立した分類の軸として立っていたわけでもない。
そしてもうひとつ。「規則があるのに周期しない」模様は、伝統の中には見あたらない。ペンローズ(1974)や Hat(2023)は20世紀以降の発見で、手仕事の蓄積が届いていなかった場所である。このギャラリーで和柄と非周期タイリングを並べているのは、そこを見たいからである。
機械の答えは、点の落とし方と窓の取り方で変わる
判定の途中で3回つまずいた。どれも機械の答えを変えてしまう。前の2つは「模様を点の集合に落とすときに何を落としたか」、3つ目は「窓の外をどう扱ったか」の問題だった。
① 麻の葉で上向き三角形の中心だけを入れると、6回対称が3回に落ちる(p31m になる)。上向き・下向きの両方の中心を入れて初めて p6m になる。
② 青海波で弧の「上向き」を落とすと、正方格子と同じ 4回回転・4方向の鏡映が偽で立つ。弧の中心だけを残すと、千鳥の点は45°傾いた正方格子そのものになってしまう(cm どころか p4m)。点だけ見れば対称に見えるので、向きを表す印をもう1つ置いて判定した。
③ 窓の外に出た像を「一致しない」と数えると、青海波の映進を見落とす。判定に使う内側の点は「原点からの距離が最大半径の0.55倍まで」で選んでいたが、この最大半径はいちばん遠い隅までの距離である。青海波の窓は横19・縦9と横長なので、0.55倍でも上下の端の段まで内側に入ってしまう。そこから半段ずらす映進をかけると、像は窓の上にはみ出す。はみ出した先には点が無いので「一致しない」=「対称でない」と機械が答え、青海波が cm ではなく pm に落ちていた。
直し方は割合を下げることではなく、移した先が標本の外枠を出た点を判定から外すことだった。窓の外は「違う」ではなく「見えない」。これで割合を変えなくても映進が出て、機械の答えが手で付けた cm と一致した。テーベの墓の天井も同じ判定で調べている。
3つとも「機械が対称性を答えた」だけでは信用できない例で、入力の作り方と窓の取り方が答えを決めている。異方性 DLA で三角格子の丸め方が偽の4回対称を立てたのも同じ型である。
自分で動かす
下の絵は、ページを開いたその場で上の図と同じ計算をして描いている(あらかじめ描いた絵の切り替えではない)。ここで動かせるのは文様ではなく、対称性を調べる側である。鏡をぐるりと回して、どの向きが当たるかを自分で探す。
- この向きの鏡は
- —
- 当たる鏡の向き
- —
- 押した回転は
- —
- 最大の回転位数
- —
- 映進
- —
選んだ文様の骨格(印つきの点)と、いま試している鏡の線
5回・7回・8回・12回のボタンは、4つの文様どれでも必ず外れる。これが結晶学的制限で、壁紙の対称群が17種しかない理由でもある。ペンローズ・タイリングには5回が現れるが、その代わり並進対称がない(周期がない)。「5回が欲しければ、繰り返しを諦めるしかない」。
どう作ったか
文様は数理的な骨格(正方格子・三角格子・等半径の円・同心円の弧)として自作した。判定では候補の等長変換を総当たりし、内側の点だけで一致を見る。見つかった操作が群になっていることも確かめた。90°回転と鏡映を合成するとまた対称操作になり、その行列は 45°の鏡映と一致する。「自分で動かす」の鏡は 0〜179° を 1° 刻みで全部試し、当たる向きが上の表と一致することを4文様ぶん確かめてある。
→ 織りの数理(市松=平織り。同じ格子が布の側から出てくる)
出典と権利について
- 数理
- 壁紙群(平面結晶群)が17種類に分かれることは E. S. Fedorov (1891) と G. Pólya (1924) が示した。記号は国際結晶学連合の表記に従う。結晶学的制限(許される回転は 1・2・3・4・6 だけ)は標準的な結果で、ここでは機械でも確かめた。文様は伝統文様の一般的な作図法で描いた
- 権利
- ここで扱ったのは数理的な骨格(格子・円・弧)だけで、特定の作品・商標のデザインは扱っていない。文様の名前は一般名詞として使っている。「この文様はこの群」という同定はこちらの主張で、機械が測ったのは対称操作の集合とその閉性である(文献での分類と突き合わせたわけではない)
- 生成
- generators/wagara.js(4文様の骨格生成・等長変換の総当たり判定・回転位数と鏡映方向と映進の測定・並進対称のテスト・文様の描画。依存ゼロ・乱数ゼロ。ペンローズとの対照は generators/penrose.js を借用)図とこのページの「自分で動かす」は、同じ計算 gallery/assets/wagara-live.js を使っている。