かけ算第32号|ケルビン航跡 × コーヒーカップの光
折れは 1/6、尖点は 1/4
船の後ろの V 字の縁も、コーヒーカップの中の光の曲線も、光線や波の群が折り重なる場所、火線である。火線には折れと尖点の 2 つの型がある。Berry と Upstill(1980)の分類では、折れの近くの波は Airy 関数、尖点の近くは Pearcey 関数で書け、振幅の伸びの指数は折れで 1/6、尖点で 1/4 である。ならば同じ物差しで両方を測れる。カップの火線(ネフロイド)の折れでは、波数 k を 100 から 1600 まで振っても最初の明るい縞が閉じた形 1.0188·(ρ/2k²)^{1/3}(ρ は火線の曲率半径)に 2% で立ち、振幅は k^{0.16}(折れの指数 1/6)で育っていく。尖点では振幅が k^{0.26 → 0.255}(1/4 へ)で育ち、カップで最も明るいのは尖点になる。航跡の縁でも同じ Airy が出る。縁から最初の山までの角 ε = 1.0188·(|b|/2)^{1/3}/(|g_θφ|·r^{2/3}) を停留位相の 3 次の係数から閉じた形で出すと、数値の場(r = 40〜640)と 4% で合う。縁の振幅は r^{−0.36}、進路の上は r^{−0.53} で、差の 0.17 がやはり折れの 1/6 である。航跡の V の頂点は尖点ではない。半立方の尖点は航跡では波紋の上にあり、火線は直線のまま頂点で交わる。
なにか
火線の近くの波を作る。カップは、壁の弧の各点から入射の位相 −k cos φ と距離の位相 k·d、振幅 |cos φ|/√d の波を足す Kirchhoff 積分(2 次元の物理光学)で、遠く(幾何光学の領域)で k に依らないように √k を掛ける。航跡は作品121 の数値の場 η(x, y) = ∫ cos(r·g(θ, φ)) k dθ、g = cos(θ−φ)/cos²θ をそのまま使う。点の船には尺度がないので、遠くへ行くことが波長を短くすることと同じで、航跡では k の代わりに r を振る。
折れの閉じた形は接線の族から出る。火線の曲率半径を ρ とし、火線から明るい側へ n の点を通る 2 本の接線の位相差は (4√2/3)·n^{3/2}/√ρ になる。これを Airy の (4/3)ζ^{3/2} と等置すると ζ = n·(2k²/ρ)^{1/3} が出る。Ai(−ζ)² の最初の山は ζ = 1.0188 だから、最初の縞は n = 1.0188·(ρ/2k²)^{1/3} に来る。航跡では位相が r·g(θ, φ) で、縁 φ = α のとき θ_c = −35.26° が g_θ = g_θθ = 0 を満たしている(数値でも 1e−6 まで 0 になる)。3 次の係数 b = g_θθθ = 3.674 と g_θφ = 2.598 から、縁から内側へ測った最初の山の角は ε = 1.0188·(|b|/2)^{1/3}/(|g_θφ|·r^{2/3}) = 0.480·r^{−2/3} になる。
3 つの尖点と、尖点でない頂点
まず形を比べる。ネフロイドの尖点 (−1/2, 0)、カージオイドの尖点 (−1/3, 0)、航跡の波紋の尖点(sin²θ = 1/3)は、どれも接ベクトルが 0 になる点で、2 階微分の向きを u 軸にとって |v| 対 |u| の対数の傾きを刻み 0.01〜0.08 で測ると 1.500・1.501・1.499 になる。どれも半立方 |v| ∝ |u|^{3/2} である。ただしその居場所が違う。カップでは尖点が火線そのものにある。航跡では尖点が波紋(等位相線)の上にあって、火線(縁)は直線である。V の頂点は 2 本の直線が 38.94° で会うだけで、指数は 1 である。Pearcey の明るさをもつのは火線の尖点だけである。
カップ: 折れは 1.0188 に立ち、尖点が最も明るい
ネフロイドの φ = 135°(ρ = 0.530)で、火線の法線に沿って場を測る。接点の近くの弧(±0.6 rad・端の 30% を cos² で滑らかに落とす)だけを足すのは、遠い壁で反射した第 3 の光線が縞を重ねて最初の山を隠すからである。横軸を n/δ(δ = (ρ/2k²)^{1/3})にとると、k = 100・400・1600 の 3 本の曲線が |Ai(−z)| に重なり、最初の山は 1.015・0.992・1.003・1.001・1.000 倍(k = 100〜1600)の位置に来る。曲率半径の違う φ = 153°(ρ = 0.340)でも k ≥ 200 で 0.993〜1.005 に収まる。振幅の指数は k 100 → 1600 で 0.163 と 0.150 になり、折れの 1/6 = 0.167 に近い。火線から離れた明るい点は 2.870・2.869・2.869 で、k に依らない。折れだけが k^{1/6} で明るくなる。
尖点 (−1/2, 0) では軸の上を走査する。最も明るい点は尖点から 0.567/√k の内側にあり、振幅の指数は k を倍にするごとに 0.269・0.263・0.259・0.256・0.255 と、k = 3200 まで 1/4 に上から寄る。尖点は折れより速く明るくなる。k = 1600 で尖点の振幅は 33、折れは 11 である。コーヒーカップで最も明るいのは尖点で、波長が短いほど差は k^{1/12} で開く。
航跡: 閉じた形が数値の場に 4% で乗る
半径 r の円周上で振幅の山を探し、縁 α = 19.47° からの角 ε を閉じた形と突き合わせる。r = 40・80・160・320・640 で測った ε は 2.271°・1.471°・0.971°・0.571°・0.371°、閉じた形は 2.353°・1.482°・0.934°・0.588°・0.371° で、比は 0.965〜1.040 に収まる(角の刻みは 0.05° である)。作品121 で「エアリの尺度 2^{2/3}」と書いたものが、係数まで閉じた。振幅は縁で r^{−0.359}、進路の上(θ = 0 の単純な停留点)で r^{−0.530} と落ちる。差は 0.171 で、折れの指数 1/6 がここにも出る。横軸を (α−φ)·1.0188/ε にとると r = 40・160・640 の 3 本が最初の山のまわりで重なる。
計算で注意がいる点が 2 つある。1 つ目は縁の停留点の符号で、θ = +35.26° ではなく −35.26° である(φ > 0 の点に届く波は負の向きから来る)。正の側で 3 次の係数を取ると閉じた形が 2.2 倍ずれる。2 つ目は数値の場の θ の刻みである。位相 r/cos θ の刻みが 1 rad を超えると r ≥ 160 で偽の山が出るので、刻みを N = 100r + 1(r = 640 で 64,001)に上げた。
続き: 光源を縁に移す、水を浅くする
上の式が、場面を変えても同じ形で通るかを 2 つ試した。1 つ目はカップの光源を縁の点に移した場合で、火線はカージオイドになる。2 つ目は水を浅くした航跡で、分散が ω² = gk·tanh kh に変わり、深さフルード数 F_h = U/√(gh) が入る。
折れの式は接線の族だけから導いたので、光源には依らないはずである。カージオイドの φ = 108°(ρ = 0.522)で最初の山を測ると、式との比は k = 100〜1600 で 0.979・1.051・0.992・1.000・1.001 になった。曲率半径の小さい φ = 135°(ρ = 0.340)では k = 100・200 で 0.77・1.09 と外れ、k ≥ 400 で 0.986・1.005・1.002 に収まる。縞の幅 (ρ/2k²)^{1/3} が ρ より十分小さくなってから式が合いはじめる。振幅の指数は 0.169 と 0.176 で、1/6 のままだった。
尖点は位置と明るさまで閉じた形になる。尖点の真向かいの壁から角 s だけ離れた点を通る光路長を、軸の上で尖点から X の点について展開すると L = L₀ − a·s⁴ − b·X·s² となる。平行光では a = 1/4・b = 2、縁の点光源では a = 1/16・b = 9/8 である。t = (ka)^{1/4}·s と置くと積分は Pearcey 関数 P(x) = ∫exp(i(t⁴ + x·t²))dt になり、x = √k·bX/√a と読める。|P| の山は x = −2.1986、高さ 2.6351 にある(積分路を回して数値積分した)。したがって最も明るい点は尖点から 2.1986·(√a/b)/√k、振幅は w₀·a^{−1/4}·2.6351·k^{1/4} になる(w₀ は真向かいの壁の重みである)。平行光では 0.5497/√k と 5.270·k^{1/4}、点光源では 0.4886/√k と 4.564·k^{1/4} で、距離の比は 8/9 である。
Kirchhoff 積分で測った距離 × √k は、k = 100 から 3200 へ平行光で 0.563 → 0.552、点光源で 0.517 → 0.493 と下がり、どちらも閉じた形へ上から寄る。振幅 ÷ k^{1/4} は 5.044 → 5.229 と 4.496 → 4.552 で、こちらは下から寄る。上の節の 0.567 は走査の刻みが 0.033/√k のときの読みで、刻みを 0.025/√k にして山を放物線で詰めるとこの列になる。
浅い水の航跡では、位相が r·G(θ, φ)、G = k(θ)·cos(θ−φ) の形のままである。k(θ) は U²cos²θ = (g/k)·tanh kh の根である。深さという長さが入っても位相は r の 1 次のままなので、火線は直線のまま動かない。始める前は、縁が曲がって折れの曲率半径が有限になると見ていたが、これは外れた。変わるのは半角 α と係数だけで、距離を U²/g で測ると ε = C(F_h)·(rg/U²)^{−2/3} と書ける。C は F_h = 0.2 で深い水と同じ 0.4803、0.555 付近で 0.4788 とわずかに下がり、0.7 で 0.560、0.9 で 1.233、0.99 で 2.604 と伸びる。数値の場と比べると、F_h = 0.7 では rg/U² = 40〜640 の比が 0.937・0.964・0.980・0.989・0.994、F_h = 0.9 では 1.052・1.036・1.024・1.016・1.010 になり、遠くほど 1 に寄る。波源の大きさを 0.10〜0.25 に振ると、F_h = 0.9・rg/U² = 160 の比は 1.000〜1.024 の幅で動く。
臨界 F_h → 1 で折れが尖点型に変わるかも見た。尖点型なら 3 次の係数 G_θθθ が 0 になるはずだが、逆に発散する。δ = 1 − F_h² が小さいとき k ≈ √3·√(δ + θ²) で、θ = √δ·u、90° − φ = √δ·v と置くと G ≈ √3·δ·√(1+u²)·(u+v) になる。退化した停留点は u = −1/√2・v = 2√2 にあり、半角は α ≈ 90° − 2√2·√δ、係数は C ≈ 1.0188·√2·δ^{−1/6} と閉じる。数値の C との比は F_h = 0.9・0.99・0.999・0.9999 で 0.649・0.941・0.994・0.9994 だった。G_θθθ·F_h² の最小は F_h = 0.68 付近の 2.89 で、0 にはならない。折れは臨界まで折れのままである。ただし縞の角 ε が縁の開き 2√2·√δ より十分小さくなるのは r ≫ h/δ の距離からで、Airy の縞が見える場所は臨界に近いほど遠くへ移る。
F_h > 1 では停留点が重なる向きがなくなり、最も長い波(k → 0)の向き arcsin(1/F_h) が縁になる(F_h = 1.05・1.2・2 で確かめた)。これは折れではない。そこの縞の形は測っていない。尖点の式を確かめたのは軸の上だけで、軸を外れた Pearcey の模様とは比べていない。
どう作ったか
- Airy 関数
- Maclaurin 級数を 60 項まで足した(|x| ≤ 8 ではこれで足りる)。Ai(0) = 0.355028 で、Ai² の最初の山は三分探索で −1.01879 に出る。
- カップの場
- Kirchhoff 積分で作り、弧の刻みは k·D の 20 倍にとる。折れの走査は法線に沿って z = −3〜5 を 0.05 刻みで行い、最初の極大を放物線で詰める。尖点は軸の上と y = 0.15/√k の 2 本を 3/√k まで走査した。
- 航跡
- 円周上の山は 0.25° 刻みで探してから 0.05° で詰め、場は作品121 と同じ積分で作る。3 次の係数は中心差分(h = 1e−3)で出した。
- 続きの計算
- 尖点の走査は弧 ±2 rad の外側半分を cos² で落としている。点光源は弧の端で重みが 0 にならず、切り口からの回折波が山の位置を ±0.04 揺らすからである。Pearcey 積分は t = e^{iπ/8}·u と回して e^{−u⁴} で収束させる。有限深さの k(θ) は二分法、dk/dθ は陰関数の微分、3 次の係数は G_θ の中心差分(h = 2e−4)で出した。
- カード
- 火線に沿って明るい側へ z·δ ずらした曲線を Ai(−z)² の不透明度で 91 本重ねる。カップは k = 120、航跡は λ₀ = 60 px で r をピクセルから換算した。
出典と権利
- 数理
- M. V. Berry & C. Upstill, "Catastrophe optics: morphologies of caustics and their diffraction patterns", Progress in Optics 18 (1980) の分類(折れ=Airy・指数 1/6、尖点=Pearcey・指数 1/4)は、Berry のサイトにある原本の写しの p.292(Arnold の特異性指数)と p.296 の表 2、p.287(尖点の積分は Pearcey 1946)で読んだ。折れの閉じた形(接線の族の位相差)と航跡の ε の式はここで導き、数はすべてこのギャラリーで計算した。航跡の縁の Airy は F. Ursell, J. Fluid Mech. 8 (1960) 418 の要旨(「臨界線の近くの水面の高さは Airy 関数で書ける」)で確かめた。本文は開いていない。
- ギャラリー内
- 船もカモも同じ V 字(作品121・数値の場と 2^{2/3})・コーヒーカップの光(ネフロイドとカージオイド)。
- 生成
- generators/wake-caustic.js(wake-caustic.svg カード・wake-caustic-book.svg 帳簿)、generators/wake-caustic-more.js(wake-caustic-more.svg 続きの帳簿)
つながり: 船もカモも同じ V 字・コーヒーカップの光・浜辺の X 字が Y 字になるとき(同じ流体・波の棚)・見取り図の発見99