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船もカモも同じ V 字

池を泳ぐカモの後ろにも、港を出る貨物船の後ろにも、同じ形の V 字が引かれる。速さが違っても大きさが違っても、V の開きは変わらない。深い水では、この角は水の分散関係 ω² = gk だけで決まる。Kelvin は 1887 年の講演で、この角を 19° 28′ と書いている。ここでは停留位相の作図から角を閉じた形で出し、波の場そのものを数値で作って別経路から同じ角を確かめ、そのうえで「変わる場合」も測った。半角は arcsin(1/3) = arctan(√2/4) = 19.4712°(開き 38.94°)で、何番目の波紋かにも速さにも依らない。数値の場では振幅の山が焦線の内側に立ち、距離を倍にすると山は 2−2/3 倍で焦線へ寄る(エアリ関数の尺度)。浅い水では角が開いて Fh → 1 で 90°、超えるとマッハ角 arcsin(1/Fh) に戻り、Fh = 3 で同じ 19.47° が別の理由で出る。

生成りの地に、左端の黒い点(船)から右へ広がる藍の波紋。船の進路に直交する横波の弧と、船から斜めに伸びる縦波の弧が羽根のように重なり、その外縁を茜の破線の V 字がなぞる
停留位相で描いた航跡の波紋(第 1〜14 番)。船は左端の点。進路に直交する弧が横波、船から斜めに伸びる弧が縦波で、両者は sin²θ = 1/3 の尖点で接ぎ合わさる。尖点の並びが焦線(茜の破線)で、その半角が 19.47°。

なにか

一定の速さ U で進む船は、水面にあらゆる向きの波を起こす。そのうち船と一緒に動いて見えるのは、進路と角 θ をなす向きに進み、位相速度が U cosθ に等しい波だけである。深水波の位相速度は √(g/k) なので、その波数は k(θ) = g/(U² cos²θ) になる。向きごとに波長が決まっていて、θ = 0 の横波が最も長く λ₀ = 2πU²/g、斜めになるほど短い(λ₀ cos²θ)。

船の位置から見た点 (x, y) で、どの向きの波が生き残るか。位相 Φ = k(θ)(x cosθ + y sinθ) を θ で停留させる(∂Φ/∂θ = 0)と、点と向きの対応 y/x = −sinθ cosθ/(1 + sin²θ) が出る。第 n 番の波紋(Φ = 2πn)はこれを媒介変数で書いて x = nλ₀ cosθ(1 + sin²θ), y = nλ₀ sinθ cos²θ となる。y/x は n にも λ₀ にも依らない。だから波紋の形は相似で、縁の角は船に依らない。

19.47° が閉じた形で出る

上段に y/x を θ で掃引した曲線と波紋 5 本の作図、中段に半径 40・80・160・320 の円周上の包絡線の曲線と焦線からの距離の表、下段に横波と縦波の表、深さフルード数に対する半角の曲線とマッハ角、最後に船の大きさを振った振幅の山の角の表
帳簿。①停留位相の y/x と波紋 ②数値の波の場を円周上で測った振幅 ③横波と縦波の波長 ④有限深さで角が動く ⑤船の大きさ(フルード数)で山の角が動く。

波紋の点の方向 y/x = sinθ cosθ/(1 + sin²θ) を θ で動かすと、最大は sin²θ = 1/3(θ = 35.26°)のところで、値は √2/4 である。ここが縁で、半角 α = arctan(√2/4) = arcsin(1/3) = 19.4712° になる。黄金分割で数値的に最大を探しても 1e−12 で同じ点に来る。この θ では波紋の接ベクトルがちょうど 0 になる(尖点)。θ がそれより小さい部分が横波(進路に直交する弧)、大きい部分が縦波(船から斜めに出る弧)で、尖点の縦波の波長は横波の ちょうど 2/3 である。波紋を何本も重ねると、尖点が一直線に並び、それが V の縁になる。

同じ数が別の理由でもう一度出る(下の④)。深さ h の水で深さフルード数 Fh = U/√(gh) が 3 のとき、航跡は横波を失ってマッハ角 arcsin(1/Fh) = arcsin(1/3) の縦波だけになる。深水の 19.47° は分散から、Fh = 3 の 19.47° は分散が消えた長波の速さ √(gh) から出る。

別経路: 波の場そのものを作る

停留位相は近似である。そこで波の場 η(x, y) = ∫ cos(k(θ)(x cosθ + y sinθ)) k dθ を数値積分で作り(積分を収束させるために波源の大きさで高い波数を落とすが、これは角に効かない)、船から半径 r の円周上で包絡線(複素振幅の大きさ)を測った。振幅の山は焦線 19.47° の内側に立ち(r = 40・80・160・320 で 17.21°・18.02°・18.55°・18.89°)、焦線の外では振幅が山の 1/10 以下に消える。山が焦線に届かないのは焦線が焦線(コースティック)だからで、その近くの場はエアリ関数で書け、山は焦線から r−2/3 の距離にできる。実測の距離 2.26°・1.45°・0.92°・0.58° の比は 1.56・1.57・1.58 で、r が大きいほど 22/3 = 1.587 に寄る(指数 −0.65)。山の高さも 1.23・0.96・0.76・0.60 と r−1/3 で落ちる(指数 −0.35)。焦線から離れた場所の r−1/2 より減りが遅いのは、火線が明るい理由そのものである。コーヒーカップの光と同じ火線の数学が、ここでは水面の上に出ている。

角が変わるとき

次は浅い水である。分散関係を ω² = gk tanh(kh) にすると位相速度に上限 √(gh) ができ、角は速さに依るようになる。停留位相の向きは y/x = −(k′cosθ − k sinθ)/(k′sinθ + k cosθ) で、k(θ) は U² cos²θ = (g/k) tanh(kh) を二分法で解く。深さフルード数 Fh が 0.5 までは 19.47° と 0.01° も違わない。0.8 で 24.3°、0.9 で 34.6°、0.99 で 67.9° と開き、Fh → 1 で 90° に届く。Fh が 1 を超えると横波が存在しなくなり(U cosθ < √(gh) の向きの波しか静止できない)、縁はマッハ角 arcsin(1/Fh) になる(Fh = 2 で 30.0°・3 で 19.45°)。船の航跡は超音速の衝撃波と同じ式に乗り換える。

最後に船の大きさを見る。点でない船(幅 L のガウス圧力)を置くと、波数 k の成分の重みを k·e−(kL)²/2 とおく(圧力から波高への応答が k に比例すると仮定した、こちらの置き方である)。フルード数 Fr = U/√(gL) を振ると、遅い船(Fr = 0.5)は横波ばかりで山は 0°、速い船ほど振幅の山が縁の内側へ寄る(Fr = 1.5 で 17.75°・3 で 9.0°)。速い船の V が細く見えることは、Rabaud と Moisy が 2013 年に航空写真から示し、角はフルード数に反比例して小さくなると書いている。この模型でも同じ向きに出るが、彼らの模型は重みを kx² e−(kL)²/4π² とする別の置き方なので、ここでの模型は重みの置き方に仮定があるので、数字は目安に留める。縁そのものは動いていない。動くのは「どこが明るいか」である。

どう作ったか

停留位相
生成器は generators/kelvin.js で、波紋を媒介変数で描き、y/x の最大を黄金分割で探して閉じた形と突き合わせる。尖点は接ベクトルの大きさで確かめる。
数値の場
θ を 4,001 分割した台形則で η(x, y) を積む。円周上の角 φ ごとに r ± 3.2 の 17 点で |η| の最大をとって振幅とし、0.25° 刻みで山を探してから 0.05° 刻みで詰める。
有限深さ
k(θ) は二分法を 200 回回して求め、k′ は中心差分で出した。Fh > 1 では横波が消える境 θ₀ = arccos(1/Fh) から上だけを掃く。
罠
数値の場の振幅は 1 点で読まない(波の山と谷の間に落ちる)。半径方向に 1 波長ぶん掃いて最大をとる。積分の収束のための高波数の切り落としは、角には効かないことを確かめてから入れた。

出典と権利

数理
Kelvin の 19° 28′ は、1887 年 8 月 3 日の機械技術者協会での講演 On ship waves を収めた Popular Lectures and Addresses 第 3 巻(1891)の p.481 と p.483 で読んだ(archive.org)。有限深さは T. H. Havelock, Proc. R. Soc. A 81 (1908) 398 の p.427(「角は 19° 28′ と 90° のあいだにしかない」「尖点の角は開いて直角に近づく」、水が深さに比べて速いときは式 (118) の sin²α = gh/c²)。速い船は M. Rabaud と F. Moisy, Ship wakes: Kelvin or Mach angle?, Phys. Rev. Lett. 110 (2013) 214503(arXiv:1304.2653)の要旨と式 (3)・(4)。H. Lamb の Hydrodynamics は開いていない。ここに書いた数はすべてこのギャラリーで計算し直したもので、閉じた形・数値の場・エアリの尺度・有限深さの掃引・船の大きさの掃引は実測である。
身近
船・カモ・水すましの航跡。橋の上から見下ろす川船の後ろ。
親戚
コーヒーカップの光(焦線=コースティック)・カルマン渦列(流れの後ろに残る規則)・砂丘の風紋(流れが作る縞)・時間と周波数(分散と群速度)
生成
generators/kelvin.js(kelvin.svg カード・kelvin-book.svg 帳簿)

つながり: コーヒーカップの光(同じ火線)・カルマン渦列(流れの棚)・見取り図の発見91