木はどこまで高くなれるか
自重で倒れずに立てる高さは、半径の2/3乗までしか伸びない。だから形をそのまま拡大すると限界を越え、木は相似では大きくなれない。
なにか
鉛筆を立てても倒れないが、同じ細さで 3 メートルの棒を作ったら自分の重さで折れる。長さと太さのあいだには、材料が何であっても効く比の縛りがある。1881 年に Greenhill が解いたその縛りは、驚くほど素っ気ない一行だ。
倒れない高さ ∝ 半径の 2/3 乗
指数が 1 でなく 2/3 であるところに意味がある。半径を 100 倍にしても、立てられる高さは 22 倍にしかならない。生き物にとってこれは厳しい制約で、大きくなるほど、体は「相対的に」ずんぐりしなければならない。
臨界を2つの道で出す
上端が自由・下端が固定された棒が自分の重さで座屈する条件を考える。たわみ y と、上端から測った位置 t の方程式 y⁗ + λ (y′ + t·y″) = 0(λ = w h³/(EI))の最小の λ を求めることに落ちる。これをまったく別の2つの道で出して突き合わせた。
- ① 常微分方程式を直接解く(シューティング)。上端の条件から出発して4次のルンゲ・クッタ法で積分し、下端で傾きが 0 になる λ を二分探索で挟む
- ② 分数次のベッセル関数を使う。Greenhill が示したとおり、この方程式の解は J±1/3 で書け、臨界は 9j²/4 になる(j は J−1/3 の最初の零点)。Γ 関数を Lanczos 近似で自前に用意して、零点も自分で求めた
結果は λ = 7.837347439 で、9桁一致した。刻みを 400 → 6400 に振っても①の値は動かない。J−1/3 の最初の零点は、太鼓の節線のときと同じく級数から自分で求めて 1.866350859 になった。
2/3 乗はどこから来るか
λ = w h³/(EI) に、半径 r の丸い棒の値(重さ w = ρgπr²、断面二次モーメント I = πr⁴/4)を入れると λ = 4ρg h³/(E r²) になる。これを h について解けば h ∝ r^(2/3)。図の藍の線がそれで、実際に半径を振って測った両対数の傾きは 0.666666667 だった。
面白いのは幾何相似との交差だ。形をそのまま拡大する(h ∝ r)と λ ∝ r になる。大きくすればするほど座屈に近づく。だからどんな生き物も、ある大きさから先は相似では育てられない。図で砂色の破線が藍の線を追い越すところが、その限界である。
目安の木を 4 つ置くと、どれも安全率 2.3〜2.8 に収まった(竹 2.30/街路樹 2.55/大木 2.44/セコイア級 2.82)。半径は 60 倍、高さは 12 倍ちがうのに、限界からの距離だけがそろっている。McMahon が「弾性相似」と呼んだ形である。⚠️ ただしこの 4 本の寸法はこちらが置いたおおよその値で、文献から取ったものではない。文献にある数はこうである。Greenhill 自身が挙げた唯一の実例は、ブリティッシュ・コロンビアの松で、高さ 221 フィートに対して臨界高が約 300 フィート、比は 1.36 だった(1881 年の論文の p.73)。McMahon は 576 本の記録樹を並べた 1973 年の論文で、データの中心を通る線が「どの木も臨界座屈高の 4 分の 1 にあたる高さ」を表すと書いている(p.1202)。Niklas も 111 種から Hcrit/H ≒ 4 を報告している。こちらの 4 本が 2.3〜2.8 とそれより低いのは、寸法の置き方が違うためで、文献の値を再現したものではない。
⚠️ McMahon はこの箇所で「安全率」という語を使っていない。「臨界の 4 分の 1」と書いているだけで、線も目で引いたものである。対象も一般の林ではなく記録樹に限られる。また直径を測る高さが地上 1.525 m で、通常の胸高直径 1.37 m とは違う。模型の側も一様な円柱で、先細り・枝・葉の重み・風は入れていない(先細りは限界を上げる方向に効く)。
では、枝の角度は何が決めているのか
葉脈と血管では、分岐の開き角が「張力 r² を持つ3本の綱の引き合い」で決まることを見た。等しい張力なら 120°(泡の Plateau)、Murray 則で細るなら 74.9°。ではレオナルドの法則(木の断面積保存 r₀² = r₁² + r₂²)を入れるとどうなるか。
対称に分かれる場合は子の半径が r₁ = r₀·2−1/n なので、余弦定理はきれいに畳まれて cos θ = 2(2/n − 1) になる。n = 3 を入れると開き角 74.93°(血管の値)、n を大きくしていくと 120°(泡の値)に近づく。そして n = 2 では cos θ = 1 となり、角度がゼロになる。
木がいるのは、この曲線のいちばん端だった。張力 r₀²、r₁²、r₂² の三角形が閉じる条件は r₀² ≤ r₁² + r₂² で、レオナルドの法則はその等号そのものである。三角形は線分に潰れ、釣り合う分岐点が存在しない。二分探索でしきい値の指数を探すと ちょうど 2.000000000 が返る。つまり輸送の帳簿は、木の枝の角度を決められない。枝がどちらへ何度開くかは、水を運ぶ都合ではなく、支えることと光を取ることの都合で決まっているはずだ。この作品が座屈の話から始まっているのは、そのためである。
細り方の指数には、もうひとつ副作用がある。末端の総断面積は根元の 2k(1 − 2/n) 倍になる(k は世代数)。n = 3 なら 6 世代で 4.00 倍になる。先へ行くほど流れが遅くなり、毛細血管や葉の隅でゆっくり交換ができる。n = 2 では厳密に 1 倍で、流速が落ちない。しかも n = 2 だけは左右に不均等に分けても総断面積が変わらない(他の n では分け方で変わる)。木が 2 を選んでいるのは、水を速いまま持ち上げるためだと読める。
自分で動かす
下の絵は、ページを開いたその場で上の図と同じ計算をして描いている(あらかじめ描いた絵の切り替えではない)。細り方の指数を 2 に近づけていくと、枝が閉じて一直線になるのが見える。
木材(E = 10 GPa・密度 800 kg/m³)の丸い柱。安全率が 1 を切ると自分の重さで折れる。
n = 2 がレオナルド(木)、n = 3 が Murray(血管)、大きくすると泡の 120° に近づく。
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スライダーで決めた柱の細長さと、そこから出る座屈の余裕/枝の開き方の図
どう作ったか
臨界は上に書いた2つの道、4次のルンゲ・クッタ法によるシューティングと、自前の Γ 関数で作った分数次ベッセル関数の零点で出した。Γ 関数は、J₀ の零点を当てられることを先に確かめてから使っている。分岐角は 葉脈と血管の余弦定理に指数 n を入れて畳んだ一行の式で、枝を実際に生やし、世代ごとの Σrⁿ と末端の総断面積を数えた結果と突き合わせた。
出典
- 数理
- A. G. Greenhill, "Determination of the greatest height consistent with stability that a vertical pole or mast can be made", Proc. Camb. Phil. Soc. 4 (1881) 65–73(自重座屈の臨界。解が J±1/3 で書けること)。T. McMahon, "Size and shape in biology", Science 179 (1973) 1201–1204(弾性相似)。細り方の 3 乗は C. D. Murray, PNAS 12 (1926)、分岐角の余弦定理は同じ年の J. Gen. Physiol. 9 (1926) の p.837 の式 (5)〜(7)(どちらも葉脈と血管で開いて確かめた)。細り方の 2 乗はレオナルド・ダ・ヴィンチ『手稿』の観察。Γ 関数の Lanczos 係数は文献から引いた。Greenhill 1881 は archive.org の会誌第 4 巻で全文を読んだ=一様な円柱の条件 J−1/3(κh3/2) = 0 と、最小根 c = 1.88 から h = 1.26 (Ea²/w)1/3 が出ること(p.67–68)、松の実例(p.73)。McMahon 1973 は 576 本の記録樹の散布図と「臨界の 4 分の 1」(p.1202)。⚠️ 同論文 p.1202 の E = 1.05 × 10⁵ kg/m² は単位の誤植で、cm² が正しい。実在の樹木の高さ・直径・分岐角の測定と自分で突き合わせたわけではない。確かめたのは「模型から何が出るか」だけになる
- 生成
- generators/buckling.js(自重座屈の常微分方程式とシューティング・自前の Γ と分数次ベッセル・臨界高さと安全率・分岐角の族としきい値の二分探索・枝を生やして断面積を数える・図2枚。依存ゼロ・乱数ゼロ)図とこのページの「自分で動かす」は、同じ計算 gallery/assets/buckling-live.js を使っている。