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六角形の分割規則

ダルベ・イマームの模様を作る規則は、論文には十角形と蝶ネクタイの 2 枚しか載っていない。もう 1 回繰り返すのに要る六角形の規則を、論文の流儀のまま自分で探した。

生成りの地に、小さい十角形・六角形・蝶ネクタイを敷き詰めた模様。藍の線で一回り大きいタイルの輪郭が重なり、墨の線で大きな六角形の輪郭が見える
六角形を 2 回置換した模様の中央。藍の線が σ 倍の段のタイル(十角形 10・六角形 22・蝶ネクタイ 22、辺で切れる半分は 1/2 と数えて)、墨の線が σ² 倍の六角形。小さいタイルが藍の線をまたいでいるところが、この規則の作法そのものである。

なにか

前の号で、Lu と Steinhardt の論文(Science 2007)の図から分割規則を測った。拡大率は 2φ³。どの辺も φ²・2φ・φ² の 3 つに割れ、辺の中点に小さい十角形が長い対角線を重ねて半分だけ乗り、その両側に小さい六角形が長軸を重ねて半分だけ乗る。頂点にはタイルの中心が来ない。

ところが論文が載せている規則は十角形と蝶ネクタイの 2 枚だけである。分割してできる小さいタイルには六角形が混ざるので、もう 1 回同じ規則を当てようとすると、六角形をどう分けるかが要る。本文にも補足資料にもそれはない。

そこで自分で探した。ただし勝手な形ではなく、論文の規則と同じ作法に従った。拡大率も辺の割れ方も辺をまたぐタイルも同じにして、残った領域を埋める。

欠けた領域を作る

2φ³ 倍の六角形の 6 本の辺それぞれに、中点の十角形と両端の六角形を置く。それらは隣の大きいタイルと共有するので、六角形の側からは内側の半分だけが領域を削る。削り残った「欠けた領域」を、十角形・六角形・蝶ネクタイで隙間なく埋めれば規則になる。

六角形の 72° の頂点では両隣の六角形が辺を 1 本共有して、境界が頂点まで行って戻る棘ができる。この棘を潰すと領域は 62 頂点の単純多角形になる。面積は蝶ネクタイを 1 として 29+37φ になる。

埋め方の探索は発見66の道具をそのまま使った。座標は Z[ζ₁₀] の整数 4 つ組で厳密に持ち、頂点が辺の途中に乗る置き方も許す。加えて、論文の 2 規則がどちらも大きいタイルの対称性を全部持っている(十角形の規則は D10・蝶ネクタイの規則は D2。20 個と 4 個の等長変換で確かめた)ので、六角形にも D2 を課した。1 枚置くたびに鏡像も置く。

探索には注意が 2 つ要る。①鏡映の像は頂点の順が逆(時計回り)になる。境界との突き合わせは向きを見るので、反時計回りに戻さないと「何も入らない」と返る。②144° の楔に 72° のタイルを 2 枚入れるとき、入れる順番の分だけ同じ分割を重複して数えやすい。どんな分割でも「出る辺に接するタイルは頂点を楔の先に置き辺を揃えている」ので、揃えない置き方は試さなくてよい。そうすると重複は消え、探索も速くなる。

589 通りから 1 つを選ぶ

D2 を課した全探索は 9,350 歩で打ち切りなく終わり、解は 589 通り。全部が辺と辺を揃えた分割で、T 字は 1 つもない。枚数は 2 通りしかない。十角形・六角形・蝶ネクタイが 6・34・26 のものが 576、10・22・22 のものが 13。

どれを選ぶか。ここで頂点図鑑を使った。分割の中で角の和が 360° になる頂点について、まわりのタイルの種類と角度を順に並べたものを「星」と呼ぶ。論文の 2 規則に出てくる星は全部で 8 種である。六角形の規則にも、この 8 種しか出てこないものを「論文の流儀に合う」とする。

ただし 1 種だけ、どうしても避けられない星がある。72° の頂点の内側の点では両隣の六角形が 144° ずつを占めるので、残りの 72° には六角形の先しか入らない(589 通りすべてで、この点の星は H144·H144·H72 だった。蝶ネクタイの先が入る解は 1 つもない)。この星は論文の規則には出ないが、六角形の規則を作る限り必ず出る。

その 1 種を除いて論文の 8 種だけで埋まる解は、ただ 1 つだった。枚数は 10・22・22 で、中に十角形が 7 枚、2・3・2 の列に並ぶ。

同じ基準を蝶ネクタイに当てると、48 通りの解が 6 通りに減り、論文の規則はその中に残る。基準は論文自身の規則を落とさない。ただし 1 つには絞れない。六角形で 1 つに絞れたのは、六角形のほうが制約が強いからで、基準の手柄ではない。

見つかった規則

論文の十角形・蝶ネクタイの規則と自作の六角形の規則を並べ、下に頂点図鑑の 9 つの星、探索の数、面積の帳簿、置換行列を書いた帳簿
左と中は論文の規則、右がこの号の六角形。下段は頂点図鑑(各星の下は 十角形・蝶ネクタイ・六角形 の規則での出現数)と、探索・帳簿・置換行列の数。

面積の帳簿は Z[φ] の中で閉じる。蝶ネクタイを 1 とすると 10×(3φ+1) + 22×φ + 22×1 = 32+52φ で、これは 2φ³ の 2 乗に φ(六角形の面積)を掛けたものにぴったり等しい。

そして六角形 : 蝶ネクタイ は 22 : 22 = 1 : 1。論文の 2 規則も 80:80 と 14:14 で 1:1 だった。3 規則そろって 1:1 なので、繰り返しても比は 1 のまま動かない。前の号で「本文の黄金比は載っている規則から出ない」と書いたが、六角形の規則を足しても結論は同じである。

3 規則で置換が回る

これで初めて、置換を何回でも繰り返せる。3×3 の置換行列(大きいタイル 1 枚あたりの小さいタイルの枚数、またぐ分は 1/2)の固有値は σ² = 4φ⁶ ≈ 71.777 と、その共役 4/φ⁶ ≈ 0.223 と、0。最大固有値が面積の拡大率と一致し、他の根が 1 未満なのでピゾ数である。固有ベクトルは 十角形 : 六角形 : 蝶ネクタイ = 0.183 : 0.409 : 0.409。

実際に 2 回繰り返した。十角形からは 15,781 枚、六角形からは 4,907 枚、蝶ネクタイからは 3,419 枚。枚数はどれも M² の予言と厳密に一致し(2576・5760・5760 など)、単位辺が 3 枚以上に使われる箇所は 0、内側で 1 枚にしか使われない辺も 0。重なりも隙間もない。座標は最後まで環の整数なので、丸めの心配もない。

この模様を回折させるとどの家系に入るかは、次の号で測った。

十角形と蝶ネクタイも数えた

同じ道具を論文の 2 規則に当てると、どちらも論文の規則を再発見する。蝶ネクタイは D2 で 48 通り、十角形は D10 で 342 通り(5,096 歩・打ち切りなし)で、論文の規則はそれぞれの 1 つである。十角形の 342 通りの枚数は 4 通りに分かれる。

十角形の規則の枚数(十角形・六角形・蝶ネクタイ)解の数
16・140・100171
26・110・90132
36・80・80(論文の規則)38
46・50・701

論文の枚数は少数派で、多数派の 16・140・100 では六角形が蝶ネクタイの 1.4 倍になる。つまり「繰り返したときの比」は規則の選び方で動く。論文が黄金比に近づくと書いた根拠が、載っている規則の外にあることは変わらない。十角形の全探索には 30 分かかる(tools/explore/darb-midedge-rule.js)。

どう作ったか

欠けた領域と対称探索
tools/explore/darb-midedge-rule.js。辺ごとに六角形の内側 3 辺・十角形の内側 5 辺・六角形の内側 3 辺をつなぎ、72° の頂点の棘を潰す。対称変換は大タイルの頂点集合を保つ回転と鏡映を総当たりで拾い、探索器(darb-subdivision.js)に軌道単位の配置を足した。
頂点図鑑
tools/explore/darb-rule-analyze.js。完全な頂点の角の並びを回転と裏返しで正規化した語で数える。
置換
generators/lib/darb-subst.js。3 規則を標準の座標系に移し、σ 倍のタイルごとに規則を当て、またぐタイルは署名で 1 枚に潰す。
収蔵した規則
generators/data/darb/hexagon-rule.json(論文の規則と同じ形式)。生成器は generators/darb-hexagon.js。

出典と権利

十角形と蝶ネクタイの規則は Lu & Steinhardt, Science 315, 1106 (2007) の Fig.3 D/E から座標を起こしたもの(発見77)。六角形の規則はこの号の自作で、論文の図は載せていない。元の意匠はダルベ・イマーム廟(イスファハーン・1453 年)。

つながり: ダルベ・イマームの分割規則(親)・非周期のギリ(探索の道具と発見66)・ダルベの置換 × 回折の動物園(この規則で敷いた模様の回折)・見取り図の発見78