非周期のギリ
ギリの帯の規則はタイルの並べ方を見ていない。ペンローズの菱形に同じ規則を載せると、共有辺の中点815個すべてで帯が180°で接続し、非周期の配置でも直線として続く。
なにか
ギリ・タイルで分かったのは、帯が辺を越えてつながる理由が「辺の中点」と「同じ角度」の 2 つだけだということだった。規則が並べ方を見ていないなら、非周期に並べても成り立つはずである。それを確かめるには、置換規則を新しく作るより、すでにある非周期タイリングに同じ規則で帯を引くほうが早い。ペンローズ P3 の太い菱形(72°/108°)はギリ 5 種類の「菱形」と同じ形である。細い菱形(36°/144°)は 5 種類にないが、この規則は多角形なら何にでも引ける。
非周期でも、共有辺の中点すべてで 180°
Robinson 三角形を対角線で対にして菱形に戻し(置換 4 回で 160 枚と、縁の半分の菱形 20 枚。漸化式と一致する)、各菱形に帯を引いた。共有辺の中点 105・290・815 個(置換 3・4・5 回)のすべてで、両側の帯が 180° で向き合う。周期パターンで見た性質が、非周期の並べ方でも 1 つの例外もなく成り立った。72° 回すと線分 1,720 本がすべて重なり、5 回対称も保たれている。
帯の輪を数えると、予想と違う結果が出た。ペンローズの頂点の型は種類が限られるので、閉じた輪の長さも有限の種類に収まると考えていた。実際には帯はほとんど閉じない。置換 4 回では、閉じた輪 2 本に対して、縁まで届く鎖が 60 本あった。閉じるのは中心の 5 回対称点を巡る環で、置換のたびに外側に大きな環が 1 つ増える(長さ 30 → 40 → 90 → 210 → 310)。置換 5 回では長さ 30 の環が中心のほかに 4 か所に現れ、同じ局所配置が別の場所にも出ることが分かる。長さが有限の種類に収まるという予想は外れで、環は置換とともに伸びていく。
頂点の型の数は、この置換で作った盤の上で自分で数えた。角の並びで分けると、置換 6〜9 回のどこでも 7 種類で変わらない(内部の頂点 20,496 個まで数えた)。de Bruijn の五重格子で別に作ったタイリングでも、同じ 7 種類が同じ割合で出る。de Bruijn は 1981 年の論文(Indagationes Mathematicae 43, p.48, 図 7)で「8 種類」と書いている。こちらは矢印の付き方まで含めた分け方で、S と S5 は矢印だけが違い、形はどちらも太い菱形 5 枚が 72° ずつ並ぶ同じ星になる。図 7 を開いて腕の本数を数えると 3・3・4・5・5・5・6・7 だった。形の側の 3・3・4・5・5・6・7 とは、5 本の星が 1 つ重なるぶんだけ差がある。
ここで作ったのは「ペンローズにギリの帯を引いたもの」で、5 種類のギリ・タイルそのものの置換規則(Darb-i Imam 廟の図)は作っていない。実際の建築の帯の形とは見比べていない。
5 種のタイルそのものの置換規則は作れるか。整数倍・辺を揃える型は「ない」
Lu と Steinhardt が Darb-i Imam 廟に見たのは、大きなギリ・タイルが小さなギリ・タイルに分割されている型の置換である(論文 p.1107 と図 3D・3E。規則が描かれているのは大きな蝶ネクタイと大きな十角形の 2 種類で、5 種類すべてではない)。これも文献の図を写さずに自分で探した。辺 1・角 36° の倍数の 5 種類を、境界のいちばん狭い角から順に置いていく総当たりである。まず、探索が正しく動くかを確かめた。十角形の 10 辺に五角形を貼った 20 角形を渡すと「十角形 1 枚と五角形 10 枚」を復元し、ほかに「五角形 10 枚、細長い六角形 3 枚、蝶ネクタイ 1 枚」も見つかった。十角形は細長い六角形 3 枚と蝶ネクタイ 1 枚に分けられる(面積は 3×2.127 + 1.314 = 7.694 で一致)。菱形の 2 倍・3 倍は、菱形 4 枚・9 枚で埋まる。
本題はここからである。辺を単位辺 k 本ぶんにした(境界が直線のままの)2 倍・3 倍の五角形・六角形・蝶ネクタイ・十角形は、辺と辺を揃える置き方では 1 つも埋まらなかった。探索は打ち切らずに最後まで行い、どれも 200 手以内で候補が尽きた。整数倍で境界を揃える置換規則は、この 5 種類には存在しない。Darb-i Imam の分割は、小タイルが大タイルの辺をまたぐ型である。図 3E を開くと、大きな十角形の輪郭が小さな十角形と六角形を断ち切っている。10 本の辺それぞれの中点で、小さな十角形がちょうど二等分されていた。拡大率は論文に数値が書かれていないので、図のベクタ座標から自分で測った。輪郭は太さのある帯として描かれているので、外側(辺 34.196)と内側(辺 33.876)の中間を輪郭の位置とした。大きな十角形の辺は 34.036、小さなタイルの辺は 4.023 で、比は 8.460 になる。2φ³ = 4 + 2√5 = 8.472 と 0.14% で合う。整数倍でもなく、φ の整数べき(φ⁴ = 6.854・φ⁵ = 11.090)でもない。この型は探索の外にあるので、次の節で座標を厳密にして続けた。
この探索では、辺と辺を揃える置き方に限った。辺が部分的に重なる T 字の配置は、座標を小数で持つと、点がタイルの内側か外側かを正しく判定できないためである。
座標を厳密にして T 字を許す。それでも「またがない」分割はない
上の限定を外すために、座標を小数ではなく、36° の回転 ζ の整数結合(整数 4 つの組)で持つように作り直した。5 種類の頂点はすべてこの形で書け、拡大率 φ や φ² もこの数の掛け算になる。交差も、頂点が辺の途中に乗る T 字も、整数の等式と符号で厳密に判定できるので、辺を揃えない置き方まで総当たりできる。確かめたことは 3 つある。拡大率 1 では 5 種類とも自分自身 1 枚が解に出る。菱形の 2 倍は菱形 4 枚を復元する。菱形 2 枚を φ−1 ずらして貼った領域(頂点が辺の途中に乗らないと埋まらない)も、正しく 2 枚で埋める。さらに十角形 1 枚には第 2 の解「六角形 3 枚と蝶ネクタイ 1 枚」が出て、前の節の結果を別の方法で見つけ直した。
先に面積の計算で候補を絞れる。5 種類の面積はすべて (sin36°/2)·(a + bφ) の形で、a と b は整数になる。1 と φ は有理数の範囲で独立なので、大タイルを埋める枚数は、この a と b についての方程式 2 本を満たすしかない。五角形の φ 倍・φ² 倍と菱形の φ 倍は、この方程式に 0 以上の整数の解がなく、形を調べるまでもなく分割できない。逆に六角形の 2 倍は「六角形 4 枚」という枚数の解が 1 つだけあるのに、形の探索では解が出ない。面積の上では足りても、形として並べられない。
答えは 2 つあった。第一に、φ 倍・φ² 倍の大タイルを、辺をまたがずに埋める分割は、T 字を許しても 5 種類すべてに存在しない。理由は単純で、大タイルの辺は内側のタイルの単位辺で過不足なく覆われるしかない(辺の上でタイルの辺は重なれず、大タイルの角を越えて突き出ることもできない)。そのため辺の長さは正の整数でなければならず、φ も φ² も無理数なので、その時点で成り立たない。探索もすべて 100 手以内で候補が尽きた。Darb-i Imam 型の分割で小タイルが大タイルの辺をまたぐのは、様式ではなく、そうするしかないからである。第二に、整数倍(2 倍・3 倍)の分割は、T 字を許しても菱形(4 枚・9 枚)にしかない。前の節の「辺を揃える置き方では」という限定を外しても、結果は変わらなかった。
残る問いも形が変わった。Darb-i Imam 型の置換を探すことは、辺をまたぐ分割を探すことそのものである。大タイルの辺に沿った飾り(またぐタイルの列)を隣のタイルと共有する形まで含めて、考え直す必要がある。閉じた領域の分割としては、「ない」ことがここで確かめられた。
どう作ったか
生成器は generators/girih-penrose.js で、ペンローズ P3 の三角形を辺で対にして菱形にし、ギリ・タイルと同じ規則で帯を引いている。置換の探索は、辺を揃える型と、座標を厳密に持つ型の 2 つを別に作った(どちらも tools/explore/ にある)。
出典
- 数理
- P. J. Lu, P. J. Steinhardt, Science 315, 1106–1110 (2007)=置換の型は p.1107 と図 3D・3E で読み、拡大率は図のベクタ座標から自分で測った(論文に数値はない)/N. G. de Bruijn, "Algebraic theory of Penrose's non-periodic tilings of the plane", Indagationes Mathematicae 43 (1981), 39–66=頂点の型は p.48 の §6 と図 7/R. Penrose (1974)/帯の規則は ギリ・タイル(Hankin 1925 p.4 の接する多角形・角度のつまみは Kaplan 2005)
- 親戚
- ギリ・タイル・ペンローズ P3・非周期のケルト装飾・結ばれた輪
- 生成
- generators/girih-penrose.js(girih-penrose.svg 置換 5 回・girih-penrose-book.svg 菱形と帳簿)/tools/explore/girih-subdivision.js(辺を揃える型の探索)/tools/explore/darb-subdivision.js(Z[ζ₁₀] の厳密探索・T 字許容)