かけ算第26号|ダルベの置換 × 回折の動物園
自作の規則で敷いた模様は、ペンローズの家系だった
十角形・蝶ネクタイ・六角形の 3 規則がそろって、ダルベ・イマーム型の置換を何回でも繰り返せるようになった。その模様のタイルの重心を回折させ、回折の動物園と同じ 3 本の物差しで測る。答えは 10 回対称・鏡あり・格子に乗らない。ブラッグ点はペンローズと同じ 10 回の加群に載る。種を十角形にしても蝶ネクタイにしても同じになる。
なにか
前の号で六角形の規則が見つかり、3 規則の置換行列の固有値が σ² = 4φ⁶ で他の根が 1 未満(ピゾ数)だと分かった。ピゾ数の置換で作った点集合は点状のブラッグ点の回折像を出す、というのは一般には「ピゾ置換予想」で、2 文字の置換などでは証明されているが、一般には未解決である(Akiyama・Barge・Berthé・Lee・Siegel の総説の予想 4.1 と p.28)。ただし、ここで確かめたいのはそれ自体ではない。
かけ算第19号で、当ギャラリーの非周期タイリングは 3 つの家系に割れた(発見35)。重心が周期格子に乗る Hat の家系、10 回や 8 回の対称を持ち格子に乗らないペンローズの家系、縫い目に秩序が集中する Krinkle。ギリの置換はどれか。10 回対称のタイルでできているからペンローズの家系だろう、と思うのは自然だが、Hat も 6 回対称の格子の上にあるのに非周期である。測らないと分からない。
測ったこと
物差しは第19号と同じ 3 本である。①ブラッグ点を回転して写した先の強度が元の何割か(回転対称)②鏡映線の向きを総当たりして同じ量(鏡映)③S(q)/N の最大値(完全コヒーレンス。1 なら全点の位相がそろう=格子に乗る)。窓は各 1,300 点で、最近接距離を 1 に正規化し、窓の中心は対称の中心から外す。
| 点集合 | 回転 | 鏡映 | コヒーレンス |
|---|---|---|---|
| ダルベの置換(十角形の種・σ²・15,781 枚) | 10 回(0.96) | あり(1.00) | 0.83 |
| ダルベの置換(蝶ネクタイの種・σ³・249,575 枚) | 10 回(0.93) | あり(0.95) | 0.86 |
| ペンローズ P3 | 10 回(1.00) | あり(1.00) | 0.48 |
| アンマン–ビーンカー(対照) | 8 回(0.99) | あり(1.00) | 0.85 |
10 回・鏡あり・コヒーレンスは 1 に届かない。ペンローズの家系である。種を蝶ネクタイ(対称性は D2 だけ)にしても 10 回が立つので、対称性を運んでいるのは種ではなく規則である。
コヒーレンスの頭打ちはペンローズ(0.48)よりずっと高い(0.83)。窓を 2,600 点に倍にしても 0.834 と 0.488 で動かない。第19号で「1 未満の値は窓で動く」と書いたが、この差は窓を倍にしても残る。ただし主張は「1 に届かない」までにとどめる。0.83 という値の意味づけ(なぜペンローズより格子に近いか)は、ここでは行っていない。
同じ加群に載る
ペンローズの家系だと言うなら、ブラッグ点の位置もペンローズと同じ加群に載っているはずである。10 回の加群とは、36° ずつ回した 4 本の単位ベクトル(ζ₁₀ の冪)の整数結合の集まりである。加群は平面に稠密なので「どこかの点に近い」は何も言わない。そこで係数を |n| ≤ 2 に限り、誤差 0.03 以内で乗る割合を数える。基底の向きは最強のピークから決め、目盛りは各ピークが乗る候補を総当たりして最良のものを取る。
ダルベ(十角形の種)の上位 60 点は 7 割が 10 回の加群に乗る。ペンローズも 7 割だった。8 回の加群(45° 刻み)や 12 回(30° 刻み)では 1 割で、向きを乱した対照は 1 割未満だった。逆にアンマン–ビーンカーは 8 回の加群に 10 割乗り、10 回では 1 割だった。指数づけは家系を区別している。
最初は「ピーク同士の位置が一致する割合」で比べようとして失敗した。同じダルベの模様でも窓を変えると上位ピークの顔ぶれが変わり、一致は 6 割にしかならない。ピークの一致ではなく、加群への指数づけで比べないと、窓の違いを家系の違いと見間違える。
家系の表に 1 行
第19号の表にダルベを足すと、ペンローズ、アンマン–ビーンカー、ドデカゴナル、Spectre と同じ列に入る。ギリのタイル 3 種と辺をまたぐ置換で作った模様は、菱形 2 種の置換で作るペンローズと、回折の上では同じ家系で同じ加群に載る。発見58で「ペンローズの菱形に同じ帯を載せると帯が直線で続く」と分かっていたが、こちらは帯を使わず、タイルの重心だけで同じ結論に着いた。
落としたもの
回折させたのは重心の点集合だけで、タイルの形(形状因子)は入れていない。窓は円形で、対称の中心から外した 1 か所に置いた。加群の指数づけは上位 60 点・|n| ≤ 2・誤差 0.03 という 3 つのつまみを持ち、どれかを緩めれば「乗る割合」は上がる(|n| ≤ 3・誤差 0.05 では 10 割になるが、偶然の一致も上がる)。だから割合の絶対値ではなく、対照との差だけを主張する。
どう作ったか
- 点集合
generators/lib/darb-subst.jsで置換を 2 回(十角形)・3 回(蝶ネクタイ)繰り返し、重心を取る。窓の切り出しと正規化はdiffraction-zoo.jsのprep。- 物差し
generators/diffraction.js(構造因子・ピーク・回転と鏡映の相関)とdiffraction-zoo.js(コヒーレンス・analyze)をそのまま。- 加群の指数づけ
generators/darb-diffraction.jsのindexFit。4 本の基底の整数結合を列挙し、向きは最強ピークから、目盛りは候補の総当たり。向きを乱した同じピーク集合を対照にする。
検査
出典
ダルベ・イマームの規則は 発見77(Lu & Steinhardt 2007 の図から起こした)と 発見78(自作の六角形の規則)。回折の道具は Hat の回折像と回折の動物園のものを使った。ピゾ置換と点状回折の関係は、上に書いたとおり一般には予想である。ここで確かめたのは測った値だけである。