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かけ算第30号|粘性フィンガリング × DLA

平均すると指が戻る、外側だけ

蜂蜜に吹き込んだ空気の指と DLA は同じ方程式から生まれる。圧力はラプラス方程式に従い、境界はその勾配に比例して進む。違いは雑音だけで、指は雑音ゼロ、DLA は雑音だけである。それなら、雑音だけの DLA を水路で何百個も育てて平均すれば、雑音ゼロの指に戻るのではないか。Arnéodo らは 1989 年の要旨で、反射する壁のある帯で独立な DLA を多数育ててマスの占有の分布を測ると、占有の大きい領域が λ = 0.5 の Saffman と Taylor の指の幅と形を持つと書いている。ここで数えた。先端付近の外側の等密度線(閾値 0.2〜0.25)は λ ≈ 1/2 の指に rms 0.02 で乗る。だが閾値を上げると λ は 0.6 → 0.3 と単調に縮み、閾値のないスカイラインは指の族に乗らない(rms 0.2〜0.3)。平均の密度は幹に集中していて、「幅 1/2」は閾値の選び方の中にある。

生成りの地に、藍の升目で描いた水路の DLA クラスタ 1 個(先端を上に)。その上に茜の線で λ = 1/2 の Saffman と Taylor の指の輪郭を重ねている。クラスタの枝は指の輪郭の外にもはみ出す
水路(幅 64・横は周期)の格子 DLA を 1 個。茜は同じ水路の λ = 1/2 の Saffman と Taylor の指。1 個の枝は指に収まらない。

なにか

幅 W の水路(横は周期・底の行が種)で、粒子を先端の少し上から放ち、4 近傍を歩かせて集合体に触れたら止める。これを先端の高さが 3W を超えるまで続けて 1 個のクラスタとし、種を変えて M 個育てる。個々のクラスタは幅いっぱいに枝を張る(先端の下 W の行で列の 15〜20% が埋まる)。それを先端で横に揃えて重ね、占有率 ρ(奥行き, 横)を平均する。指に見えるかどうかは、この平均の等密度線が Saffman と Taylor の指の族 x = ((1−λ)/π) ln[½(1 + cos(πy/λ))] のどれに乗るかで測る。

外側の輪郭は 1/2 に乗る

上段に個々のクラスタ 3 つ、中段に平均の占有率の濃淡と 3 本の等密度線と茜の指、右に閾値ごとの λ の表とスカイラインの図、下段に幅と個数を振った表
帳簿。①個々のクラスタ ②平均の占有率と等密度線(θ = 0.15・0.25・0.35)と λ = 1/2 の指、閾値ごとの当てはめ、閾値のないスカイライン ③つまみ(幅 W・個数 M)。

W = 64・M = 300 で、先端付近(奥行き 0.75W まで)の等密度線を指の族に当てる。閾値 θ = 0.2 で λ = 0.513(rms 0.022)、θ = 0.25 で 0.458 になる。Arnéodo らの言う「幅 1/2」は、たしかにここに出る。先端の曲率半径も λ = 1/2 の値 1/(2π) に近い。W = 32・48 でも θ = 0.25 の λ は 0.49〜0.51 で動かない。

ところが閾値を動かすと λ も動く。θ = 0.15 で 0.60、0.3 で 0.38、0.35 で 0.32、0.5 で 0.17 になる。等密度線は入れ子で、内側ほど細い。平均の密度は指の中で一様ではなく、幹に集中している。Saffman と Taylor の指は「占有か非占有か」の鋭い境界をもつが、DLA の平均はなだらかな山で、どの高さで切るかが幅を決める。1/2 は θ ≈ 0.2〜0.25 で切ったときの数である。

閾値のない物差しでは指にならない

閾値を使わない物差しを置いた。各クラスタで、列ごとに「先端から何段目で初めて占有されるか」(スカイライン)を取り、M 個の中央値を横の位置の関数にする。指なら |x|/W が λ/2 = 0.25 に近づくところで奥行きが発散するはずだが、DLA のスカイラインは発散せず、|x|/W = 0.4 の列も奥行き 1.5W ほどで埋まる。指の族に当てても λ = 0.63・rms 0.25 で乗らない。枝は幅いっぱいに広がり、漸近の幅というものが DLA の平均にはない。

Arnéodo らとの違い。彼らは壁のある帯・多数のクラスタで、占有の大きい領域が λ = 0.5 の指になることを示した(要旨の範囲。格子かオフ格子かは要旨からは分からない)。ここは周期の水路・格子の DLA(4 回対称の異方性で先端が軸に沿って尖る)・300 個とした。外側の輪郭が 1/2 に乗るところまでは同じ結果が出た。「閾値を動かすと幅も動く」「スカイラインは指にならない」は、ここで足した観察である。格子と周期を外した追試は次に書く。

続き: 壁を入れても、格子を外しても

Arnéodo らとの違いを 1 つずつ入れて追試した。横を周期でなく反射の壁にした格子 DLA、直径 1 の円盤を連続に歩かせるオフ格子 DLA(周期と壁)、いずれも W = 64・300 個で、物差しは上と同じ(先端付近の等密度線を指の族に当てた λ)。先端で横を揃えて平均すると、4 つの設定はどれも同じ絵になる。λ は θ = 0.15 から 0.5 へ単調に縮み(格子・周期 0.60 → 0.17、格子・壁 0.59 → 0.15、オフ格子・壁 0.81 → 0.16)、1/2 に乗るのは θ = 0.2 前後の外側の輪郭だけ。壁も格子も、この結論を変えない。

壁があるときは、揃えずに壁の中央で平均する手もある。すると λ は θ に鈍くなる(格子・壁で 0.80 → 0.60、オフ格子・壁で 0.85 → 0.65、W = 32・48・64 で同じ)が、どれも 1/2 より太い。理由は先端の散らばりで、壁の中の先端は横に 0.18〜0.20W 揺れ、揃えずに平均するとその揺れが指に畳み込まれて太く見える。「幅 1/2」はこの平均にもない。

オフ格子・周期の平均はスカイラインが崩れる(先端の揺れが周期の水路で行き場を失う)ので、表からは外した。壁のオフ格子はもっとも指らしい形(rms 0.01)を出すが、太さは 0.65〜0.85 である。

どう作ったか

DLA
generators/dla-finger.js。xorshift の乱数(決定論)。粒子は先端 + 3 から出て、先端 + 30 を超えたら出し直す。先端は最も高い占有点(複数なら x の平均)。
平均
先端を横の中央に置いて占有率を足し、奥行き ±4 行・横 ±1 の箱で平滑化。等密度線は先端付近(奥行き ≤ W/4)の最大に対する比 θ で切り、行ごとの左右端をつなぐ。
当てはめ
指の半幅 h(s) = (λ/2π) acos(2e−2πs/(1−λ) − 1)(水路の幅を 1)を λ(0.001 刻み)と先端のずれ s₀ で最小二乗。スカイラインは輪郭 s(h) の側で同じく。
罠
最初は奥行き W〜2W の「漸近の幅」を測ろうとして、半値幅が行ごとに 0.1〜0.5 で暴れた(平均が疎で行ごとの最大が小さい)。指との比較は先端付近の輪郭でしか意味をもたない。

検査

出典と権利

数理
A. Arnéodo, Y. Couder, G. Grasseau, V. Hakim, M. Rabaud, "Uncovering the analytical Saffman-Taylor finger in unstable viscous fingering and diffusion-limited aggregation", Phys. Rev. Lett. 63, 984 (1989) の主張は、OpenAlex に収録された要旨で読んだ(APS の頁は人間確認で止まった)。DLA は T. A. Witten と L. M. Sander, Phys. Rev. Lett. 47 (1981) 1400 の要旨、指は Saffman と Taylor (1958) の要旨(蜂蜜に吹き込んだ空気の指の出典欄)。ここに書いた数はすべてこのギャラリーで計算したもの。
ギャラリー内
蜂蜜に吹き込んだ空気の指(発見96・指の族と先端の曲率半径)・DLA・誘電破壊(雑音の強さを変える側)。
生成
generators/dla-finger.js(dla-finger.svg カード・dla-finger-book.svg 帳簿)

つながり: 蜂蜜に吹き込んだ空気の指・DLA・川の分岐(同じ「篩にならない」の型)・見取り図の発見97