ハエの羽の継ぎはぎ
ハエの右の羽 759 枚の画像を Hat の帽子の形に切り、帽子ごとに別の個体の羽を当てて、1 枚の羽に継ぎ直した。継ぎ目で脈がつながる割合は、同じ種どうしで 0.536、同じ科の別の種で 0.422、科が違うと 0.349 に下がり、羽の位置をずらして継いだときの 0.232 に近づいていく。継ぎ目の切れ方を数えると、羽どうしの近さの順がそのまま出た。
なにか
Ling ほかは、法医学や獣医学で扱うハエの種を、羽の脈の画像から見分ける研究をした。3 科 13 種と、ある種の変異体 1 群のオス 759 匹から右の羽を撮り、白と黒の 2 値の画像にして Dryad に置いている(データは CC0)。原典の p.7 によると、画像は羽を中心に寄せ、前縁を横軸に平行にそろえてから 724×254 画素で切り出し、256×90 画素に縮めてある。だから、どの画像でも同じ座標は羽のだいたい同じ場所を指す。
そこで、羽の枠を Hat のタイルで切り、帽子ごとに別の個体の画像を当てて継いだ。同じ 1 枚を当てれば、脈は継ぎ目でそのままつながる。別の個体を当てると、脈の位置が少しずつ違うので、継ぎ目に段差ができる。段差がどれだけ出るかを数えれば、羽どうしがどれだけ似ているかを測れる。
トンボの羽の網目では、1 枚の羽の区画がボロノイにどれだけ近いかを数えた。ここでは区画ではなく、羽と羽のあいだの違いを、タイルの継ぎ目で測る。
継ぎ目の数え方
継ぎ目の線を 0.25 画素ごとに、両側の帽子に当てた 2 枚の画像でたどる。脈を上下左右に 1 画素ずつ太らせてから、線が脈を横切る所を交点にする。両側の交点が継ぎ目に沿って 2 画素以内にあれば組にして、組めた交点の割合を「つながる割合」と呼ぶ。脈が継ぎ目に沿って 6 画素より長く重なる所は、脈を横切っていないので数えない。継ぎ目の端では、同じ直線を 6 画素先までたどり、端のすぐ外にいる相手も探す。
はじめは継ぎ目の端で切り、脈が継ぎ目に沿う所も交点に入れていた。この数え方だと、帽子を小さくするほど割合が上がった(平均面積 100 画素² で 0.718、1600 画素² で 0.629)。羽をずらして継いだ対照も、同じように 0.412 と 0.319 だった。継ぎ目が短いと、脈が継ぎ目に沿う所で、両側の区間のまんなかがいつも近くに来てしまう。そこで上の形に直した。直したあとは、100・400・1600 画素² で 0.541・0.536・0.548 になり、対照も 0.223〜0.241 に収まった。
近い羽ほどつながる
帽子の平均面積を 400 画素² にして(羽の枠にかかる帽子はおよそ 84 枚)、床の回転とずらしを 8 通り変えて数えた。帽子にすべて同じ 1 枚を当てると、つながる割合は 1 になる。同じ種の別の個体を当てると 0.536(14 群の平均)、同じ科の別の種どうしの継ぎ目では 0.422、科の違う羽どうしの継ぎ目では 0.349 だった。帽子ごとに画像を 6〜12 画素ずらして継いだ対照は 0.232 で、脈の位置に関係なく偶然組める割合にあたる。
組む距離を 1・2・3 画素、沿う区間の上限を 4・6・8 画素と振った 9 通りでも、同じ種、同じ科の別の種、別の科、ずらした対照の順は 1 度も入れ替わらなかった。割合そのものは、同じ種で 0.297 から 0.675 まで動く。つまみで動くのは目盛りの位置で、順番は動かなかった。
原典の分類器は、科を 98.56%、種を 91.04% の正しさで当てた(要旨)。継ぎ目でも、科が違うほうが、種が違うより切れやすい。それでも同じ種どうしで 0.536 なので、継ぎ目を横切る脈の半分近くは、同じ種でも切れる。
群ごとの違い
14 群をそれぞれ同じ群の別の個体で継いだ。つながる割合は、いちばん低い Ch. albiceps の変異体で 0.418、いちばん高い Boettcherisca karnyi で 0.605 だった。原典の p.4 によると、この変異体の集団は 2011 年に実験室の飼育群に現れ、2014 年にカビで失われた。p.12 は、変異体の羽の脈が途切れていると書き、p.14 は、判別の軸の上で、変異体が同じ科のほかの種とは離れた群れを作ったと書いている。継ぎ目でも、変異体がいちばん切れやすかった。9 通りのつまみのどれでも、変異体がいちばん低い。
ただ、置き方 1 つずつで見ると、変異体がいちばん低いのは 8 通りのうち 3 通りだった。2 番目に低い Chrysomya bezziana は 0.456 で、群の差は置き方による揺れに埋もれやすい。群ごとの値は、置き方 8 通りを合わせて初めて並ぶ。
床の形は割合を変えない
平均面積を 400 画素² にそろえて、Hat・Penrose の菱形・正方形で比べた。置き方 8 通りでは 0.536・0.548・0.579 で、差は 0.043 あった。正方形の値は置き方によって 0.51 から 0.68 まで動いていたので、置き方を 32 通りに増やした。すると 0.542・0.550・0.539 になり、差は 0.011 まで縮んだ。帽子の平均面積を 100 から 1600 画素² まで変えたときの差も 0.013 だった。
継ぎ目で測っているのは羽どうしの違いで、床の形は、測る場所を羽の上に散らしているだけだった。絵としては、帽子で切った布地がいちばん楽しい。数のほうは、どの床で切っても同じ答えになる。
見立て
継ぎ目を数える前に、見立てを 5 つ決めて生成器の冒頭に書いた。
見立ての 1 つ目は、同じ種の別の個体どうしでは継ぎ目の脈の 8 割以上がつながる、だった。0.536 で、外れである。相手のいない交点には、脈の位置のずれのほかに、細い脈が途切れて片側にしか交点が出ない所も入っている。どちらがどれだけかは分けていない。
見立ての 2 つ目は、科の違う羽を混ぜると 5 割を下回る、だった。0.349 で当たり。9 通りのつまみでも、いちばん高くて 0.448 だった。
見立ての 3 つ目は、変異体が 14 群でいちばん低い、だった。0.418 で当たりだが、置き方 1 つずつでは 8 通り中 3 通りしかいちばん低くならない。
見立ての 4 つ目は、Hat・Penrose・正方形の差は 0.03 未満、だった。置き方 8 通りでは 0.043 で外れ、32 通りに増やすと 0.011 で当たる。半分当たりとした。
見立ての 5 つ目は、平均面積を変えても 0.05 しか動かない、だった。0.013 で当たり。ただし、最初の数え方のままなら 0.088 動いて外れていた。
どう作ったか
生成器は generators/fly-patch.js である。PNG を自分で読み(8 bit のグレイ)、明るさ 128 未満の画素を脈にした。Hat は帽子のメタタイルの置換を 4 回くり返した 7,921 枚、Penrose の菱形は Robinson 三角形の置換 7 回、正方形は格子を使った。どれも平均面積が狙いの値になるよう縮めてから、回転とずらしを決まった乱数で選んだ。羽の枠を 2 画素おきに見て、どの点もタイルに入ることを確かめてから数えた。
絵の脈は、画像を細線化して 1 画素の線にし、端点と分岐点のあいだを折れ線にしてから、帽子の形で切った。細い脈が点線のように途切れているのは、元の 256×90 の画像のままである。絵に使う羽は、群ごとに決まった乱数で選んだ 4 枚で、帳簿の 5 枚の羽の値も、この 4 枚から継いだものになる。
確かめていないこと。原典の補足資料(標本の表と画像の変換の説明)と、掲載誌の版は開いていない。開いたのは Research Square のプレプリントである。原典は画像の中心と向きをそろえたと書くが、羽の大きさをそろえたかは、読んだ範囲には書かれていなかった。種によって羽の大きさが違えば、科のあいだの差には大きさの差も入っている。数えたのは 256×90 に縮めた画像だけで、元の写真では数えていない。群ごとの値には、置き方 8 通りのあいだで 0.1 を超える幅がある(変異体なら 0.31〜0.48)。
出典
- 羽の画像
- M. H. Ling・T. Ivorra・C. C. Heo・A. H. Wardhana・M. J. R. Hall・S. H. Tan・Z. Mohamed・T. F. Khang「Machine learning analysis of wing venation patterns accurately identifies Sarcophagidae, Calliphoridae and Muscidae fly species」Dryad(doi:10.5061/dryad.vdncjsxzh・v20230718・CC0)。2026 年 10 月 28 日に取得し、README を読んで、preprocessedData の 759 枚を使った
- 羽の論文
- M. H. Ling ほか「Accurate Identification of Fly Species in Forensic, Medical and Veterinary Entomology using Wing Venation Patterns」Research Square のプレプリント rs-2460916。2026 年 10 月 28 日に PDF を開いた。p.1〜2 の要旨(正答率)、p.4 の標本(759 匹・群ごとの枚数・変異体の由来)、p.5 の右の羽だけを使ったこと、p.7 の 2 値化と向きのそろえ方と 724×254・256×90、p.12 と p.14 の変異体の脈と群れ。掲載誌の版(doi:10.1111/mve.12682)は開けなかった
- 数理
- 継ぎ目の交点の取り方と組み方、ずらした対照、つまみの振り方、床の置き方は自分で組んだ
- 親戚
- トンボの羽の網目・蔓を敷く・Hat タイル・ペンローズ・タイリング P3・葉脈と血管
- 生成
- generators/fly-patch.js(fly-patch.svg 表紙・fly-patch-book.svg 帳簿)。数値は generators/data/fly-patch/facts.json に、絵に使う羽の折れ線は example.json に書き出した