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かけ算第47号|雷文を色の帯にしてトンネルへ巻く × モアレ01 差の波 × 周辺ドリフトと扇の弧

見つめた点から離れると帯が粒に化ける

雷文のトンネルを見ていて、見つめた所だけがはっきりして、周りはドットで描いたように見えた。目の網膜の標本の間隔は見つめた点から離れるほど広がる。その間隔の式で絵を拾い直すと、左上を見つめたときに色が化けたのはトンネルの中心のまわりで、左上ははっきりしたままだった。化けるかどうかは見つめた点の場所によらず、標本の細かさと模様の細かさの比だけで決まっていた。

雷文のトンネルの絵。左上の輪のあたりは帯の縁がなめらかで、右下へ行くほど縁がぎざぎざになり、中心のまわりは藍・茜・山吹・生成の色がばらばらの粒になっている
絵の幅が視角 20° に見えるとして、左上の輪を見つめたときの標本で塗り直した。1 画素ずつ、いちばん近い標本の点の色で塗っている。

なにか

第44号の絵について、ユーザーから 3 段の観察が届いた。はじめは「焦点を合わせたところ以外が、ガウスがかかったようにぼやける」。次に「中心を見ると周りがぼやけ、ドットで描いたように見える。よく見るとドットではない」。最後に「左上を見ると左上ははっきりして、周りがドットになる」。

2 つ目の観察で、第44号のときに出した案の 1 つが外れた。巻いた絵は視覚野の写像(複素対数)に似ているので、中心を見つめれば全体が同じ細かさに見えるはず、という案である。3 つ目の観察からは、決めているのが絵の形ではなく見つめた点からの距離だと分かる。そこで、見つめた点から離れるほど粗くなる標本の並びで絵を拾い直した。

標本の間隔には Watson(2014)の式を使った。網膜の midget 神経節細胞の受容野の間隔を、見つめた点からの角度 E(離心率)の式で与えている。on 型か off 型の片方の格子の間隔を 4 つの経線で平均すると、式 (10) の 60·S = 0.53 + 0.434·E になる(S と E は度)。六角の並びが運べる最高の周波数(ナイキスト周波数)は、付録 5 の式 (A3) で N = 1/(√3·S) になる。

比 q だけで決まる

中心を見つめた絵と左上を見つめた絵、等倍で切り出した 3 か所、標本の間隔を 2 通りに出したグラフ、色ごとの周波数のグラフ、化けた割合と比 q のグラフ 2 枚、化ける範囲の表
上から、2 通りの見つめ方で塗り直した絵、等倍の切り出し、標本の間隔、模様の周波数、化けた割合と q、化ける範囲の表を並べた。

巻いた絵は等角写像なので、模様の升 1 つの大きさは向きによらず、トンネルの中心からの距離に比例する。その場所の標本のナイキスト周波数に、升 1 つが占める角度を掛けた数を q と置いた。q は「升 1 つの中で、標本の並びが運べる周波数の上限」で、単位は cycles / 升である。

見立ての 1 つ目は「帯が化けるかどうかは、見つめた点の場所によらず q だけで決まる」だった。当たった。1 画素ずつ最も近い標本の色で塗り直し、色が元の絵と違う画素の割合を q の区間ごとに数えた。中心を見つめた場合と左上を見つめた場合の差は、区間ごとに最大で、絵の幅 10° で 0.026、20° で 0.015、40° で 0.012 だった。q が 0.25〜0.5 の区間では、左上を見つめた 3 つの幅で割合が 63〜66% まで上がり、色をでたらめに選んだときの 75% に近づく。

確かめは 2 通りの方法で行った。A は式で、模様の 1 周期(16 × 16 升)を 1/16 升の画素で塗り、色ごとの目印の 2 次元の周波数を出した。半径 q より外にある分が、並びでは運べない。B は、上に書いた塗り直しで数える方法である。標本の間隔も 2 通りに出した。式 (10) の直線と、式 (8) の密度を 4 経線で平均して式 (9) で間隔に直したものは、0〜30° で最大 9% 違う。式 (8) で数え直しても、20° で左上を見つめたときに q が 1.5 を下回る画素は 6.35% から 6.58% に動くだけだった。

細い帯から化ける

見立ての 2 つ目は「先に化けるのは細い帯(茜と山吹・幅 0.25)、次に藍と生成(幅 0.5)」だった。当たった。A で周波数の半分が運べなくなる q は、茜と山吹で 1.50、藍で 0.56、生成で 0.63 になった。B でも、q が 1〜1.5 の区間で色が変わった画素は茜 41%・山吹 42%・藍 19%・生成 21% で、細い帯がおよそ 2 倍化けた。

運べない周波数は消えずに、低い周波数に化けて残る。標本の周波数との差の周波数になるので、モアレの差の波と同じ形をしている。帯の縁は角ばっているので周波数の尾が長く、q = 4 でも茜と山吹の 10% は運べない。q が大きい場所で出るのは、色の化けではなく縁のぎざぎざである。

中心を見つめたときと、左上を見つめたとき

見立ての 3 つ目は「中心を見つめると、トンネルの縮尺も標本の間隔も中心からの距離にほぼ比例するので、周辺の q はほぼ一定になる。化けるのは中心のまわりだけ」だった。当たった。遠方の q は 60·s/(√3·0.434·|α|) = 5.54 で、絵の幅によらない。20° で q が 1.5 を下回るのは、トンネルの中心から 22 px 以内の 0.16% だけだった。

見立てに無かったことも出た。中心を見つめても、周辺では帯の縁がぎざぎざになる。等倍で切り出した左上と右下では、色が違う画素が 8.2% と 8.0% で、周辺のどこでもほぼ同じ割合だった。ユーザーの「中心を見ると周りがドットに見える」に当たるのは、この模型では化けではなく縁の粒である。

見立ての 4 つ目は「左上を見つめると、化けるのはトンネルの中心のまわりで、左上ははっきりしたまま」だった。当たった。色が違う画素は、見つめた左上で 2.4%、トンネルの中心で 43.8%、右下の隅で 13.5% だった。q が 1.5 を下回る画素は絵の 6.35% で、トンネルの中心から平均 100 px、最大 180 px の中にある。絵の幅を 10° から 40° に広げても、最大の距離は 203 px から 169 px にしか縮まない。

「よく見るとドットではない」も、模型の中では説明がつく。粒に見えた所へ目を移すと、そこの E が 0 に近づいて q が大きくなり、帯は元の形で運ばれる。

→ 雷文を色の帯にしてトンネルへ巻く(元の絵)

→ モアレ01 差の波

→ 周辺ドリフトと扇の弧(周辺視の別の模型)

文献が言っていること

周辺視で折り返しが起きることは、Thibos・Walsh・Cheney(1987, Vision Research 27, 2193〜2197)の要旨に書いてある。周辺視では解像の限界をはるかに超えた細かさの縞でも「ある」ことは分かり、そのとき見える形は実際の縞とまったく違う(折り返し)。折り返しは古典的な解像の限界のすぐ上の周波数から始まる。同じ年の Thibos・Cheney・Walsh(JOSA A 4, 1524〜1529)は、干渉縞で網膜に直接縞を作って測った。要旨によれば、検出の限界は解像の限界の約 3 倍(離心率 5°)から約 10 倍(35°)で、解像を決めるのは midget 神経節細胞の間隔、検出を決めるのは錐体 1 個の大きさである。

Anderson・Mullen・Hess(1991)は、流れる縞の向きの判別で折り返しを避けて周辺の解像を測った。Watson(2014)は本文でその値を on か off の格子のナイキスト周波数と並べ、形と大きさがおおむね合うと書いている(図 18)。Anderson らの要旨には、色の縞の解像は明るさの縞より急に、離心率とともに下がる、とある。この記事の模型は色を区別しないので、茜と山吹の違いのような色だけの差は扱えていない。

どう作ったか

生成器は generators/fret-fovea.js で、絵の色は雷文のトンネルの生成器の距離の関数をそのまま呼んだ。標本は見つめた点を中心にした輪に置き、輪の間隔を (√3/2)·S、輪の上の間隔をおよそ S にした(六角の並びに近い)。輪ごとに位相をずらし、点が放射状に揃わないようにした。20° の絵で使われた標本は、左上を見つめると 144,565 個、中心を見つめると 178,101 個である。画素ごとに、いちばん近い標本の点を輪の番号と角度から探し、その点での元の色で塗った。

この模型が説明しないこと。1 画素ずつ最も近い標本の色で塗る方法は、目の中で絵を組み立て直す仕組みではない。縁の粒の形は塗り方が作ったもので、目に粒が見えることの証明にはならない。目の光学のぼけ、錐体の大きさ、色の違い、隣の模様に紛れる効果(クラウディング)、目の動きは入れていない。絵の幅は 10°・20°・40° で試しただけで、実際の画面の見え方は確かめていない。

出典

文献
A. B. Watson, "A formula for human retinal ganglion cell receptive field density as a function of visual field location", Journal of Vision 14(7):15, 2014(本文を開き、式 (8)・(9)・(10)・(A3) と表 1 の値を使った)。L. N. Thibos, D. J. Walsh, F. E. Cheney, "Vision beyond the resolution limit: aliasing in the periphery", Vision Research 27, 2193〜2197, 1987(要旨だけを開いた)。L. N. Thibos, F. E. Cheney, D. J. Walsh, "Retinal limits to the detection and resolution of gratings", JOSA A 4, 1524〜1529, 1987(要旨だけを開いた)。S. J. Anderson, K. T. Mullen, R. F. Hess, "Human peripheral spatial resolution for achromatic and chromatic stimuli", Journal of Physiology 442, 47〜64, 1991(要旨だけを開いた)
数理
絵と巻き方は雷文を色の帯にしてトンネルへ巻く。比 q の置き方、中心を見つめたときの遠方の q の式、色ごとの周波数と塗り直しの 2 通りの確かめは自分で組んで数値で確かめた
親戚
雷文を色の帯にしてトンネルへ巻く・巻いた雷文の帯は流れるか・モアレ01 差の波・周辺ドリフトと扇の弧
生成
generators/fret-fovea.js(fret-fovea.svg 左上を見つめて塗り直した絵・fret-fovea-book.svg 帳簿)