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かけ算第49号|見つめた点から離れると帯が粒に化ける × 周辺ドリフトと扇の弧

見つめた点の外で、雷文の線が混み合う

前の号で周辺に残った縁の粒は、1 画素ずつ最も近い標本の色で塗る、という塗り方が作ったものだった。標本のまわりの絵をぼかしてから拾うように組み立て直すと、粒は消えて、周辺はどこも同じようにぼける。標本の粗さでは「周りがドットに見える」を説明できなかった。代わりに、隣の要素に紛れて形が読めなくなる混み合いの法則を当てた。中心を見つめると、雷文の線の間隔は絵のどこでも臨界間隔の 0.28 倍になる。左上を見つめると、線が読める範囲は見つめた点を囲む円になった。

雷文のトンネルの絵。帯の縁はやわらかくぼけ、トンネルの中心のまわりは色が混ざって茶色がかっている。左上に見つめた点の小さな輪があり、それを囲む破線の円がある
絵の幅が視角 20° に見えるとして、左上の小さな輪を見つめたときの標本で組み立て直した。標本ごとにまわりの絵をぼかしてから拾い、なめらかにつないでいる。破線の円の内側だけ、雷文の線の間隔が混み合いの臨界間隔より広い。

なにか

第47号では、第44号の雷文のトンネルを網膜の標本の並びで拾い直した。標本の間隔は Watson(2014)の式 (10) の 60·S = 0.53 + 0.434·E で、見つめた点からの角度 E とともに広がる。1 画素ずつ最も近い標本の色で塗ると、中心を見つめても周辺の帯の縁がぎざぎざになった。ただしその記事にも書いたとおり、この塗り方は目の中の組み立て直しではない。粒の形が塗り方から来たのか、標本の粗さから来たのかは、第47号では分けていなかった。

そこで同じ標本を 3 通りに組み立て直した。M0 は第47号と同じ最も近い標本の色。M1 は標本を点で拾い、ガウスの重みでなめらかにつなぐ。M2 は標本ごとにまわりの絵をガウスの重みで平均してから拾い、M1 と同じようにつなぐ。M2 の前段は、受容野で束ねることと目の光学のぼけの代わりである。重みの幅はどちらも c·S(S はその標本の間隔)と置き、c を 0.25・0.5・1 と振った。c の値を決める文献は開いていないので、c は振って答えが動くかを見る数として扱った。

元の絵との差は 2 つに分けた。標本を取らずに同じ幅のガウスで絵を直接ぼかしたものを基準にして、元の絵から基準までを「ぼけの分」、基準から組み立て直した絵までを「標本が作った分」と呼ぶ。差は 4 色の割合の差の半分の和で数えたので、動いた色の量が 0〜1 で出る。

粒は塗り方の産物だった

元の絵と 3 通りの組み立て直しを 3 か所で等倍に切り出した表、ぼけの分と標本が作った分を比 q ごとに比べたグラフ、重みの幅を振った表、中心を見つめたときの表、混み合いの比の表と、左上を見つめたときに線が混み合わない円の地図
上から、等倍の切り出し、差の分け方、重みの幅、中心を見つめたとき、混み合いの比と円を並べた。

見立ての 1 つ目は「M1 と M2 では縁の粒が消え、q の大きい所には幅が S に比例するにじみだけが残る」だった。M2 は当たり、M1 は外れた。q は第47号と同じく、その場所の標本のナイキスト周波数に模様の升 1 つの角度を掛けた数である。20° の絵で左上を見つめ、c = 0.5 で比べると、q が 3〜6 の区間の差は M0 で 10.2%、M2 の標本が作った分で 0.8% だった。M1 の標本が作った分は 7.8% 残り、切り出しでは帯の縁が丸い凸凹の列になった。重みの幅 0.5·S では隣の標本の重みが exp(−2) = 0.14 しかなく、なめらかにつなぐには狭い。

見立ての 2 つ目は「M1 では q の小さい所の折り返しが残り、M2 では消えて代わりに色が混ざる」だった。当たった。q が 0.5 を下回る区間で、M1 の標本が作った分は c = 0.5 で 40.2%、c = 1 でも 19.4% 残った。点で拾った時点で折り返しは入っていて、あとでつなぐ重みを広げても取り切れない。M2 では同じ区間が 1.6% になり、q が 0.5〜1 の区間でいちばん多い色の割合は 37.5% まで下がった(M1 は 57.8%)。トンネルの中心のまわりは、4 色が混ざった茶色になる。

見立ての 3 つ目は「M2 の標本が作った分は、c = 0.25 と 0.5 の間で大きく減る」だった。当たった。幅 c·S のガウスは、六角の並びのナイキスト周波数の振幅を exp(−2π²c²/3) 倍にする。この値は c = 0.25・0.5・1 で 0.663・0.193・0.001 である。M2 の標本が作った分は絵全体で 8.7%・0.9%・0.3% になり、0.25 から 0.5 で約 10 分の 1 に減った。代わりにぼけの分が 13.2%・28.0%・45.8% と増える。絵の幅を 10° と 40° にしても、c = 0.5 の M2 の標本が作った分は 0.92% と 0.88% で、20° の 0.90% とほぼ同じだった。

中心を見つめると、周辺は一様にぼける

見立ての 4 つ目は「中心を見つめると、周辺では M2 はほぼ元の絵に戻る。標本の粗さだけでは周りがドットに見えることを説明できない」だった。半分当たった。c = 0.5 で、左上(100〜300 px の枠)と右下の隅の M2 の標本が作った分は 0.7% と 0.5% しかない。一方でぼけの分は 19.1% と 18.6% あり、元の絵には戻らなかった。周辺の q は 5.54 に寄るので、帯の幅に対する標本の間隔はどこでも同じになり、ぼけ方も周辺のどこでも同じになる。

この一様なぼけは、ユーザーの最初の観察「焦点を合わせたところ以外が、ガウスがかかったようにぼやける」のほうに近い。粒に当たるものは、組み立て直しを替えると消えてしまった。

混み合いの比は、絵のどこでも同じ

形が読めるかどうかは、標本の細かさとは別の限界で決まることがある。Pelli・Tillman(2008)は、物は特徴を拾う段と特徴を組み合わせる段を経て認識され、物どうしが近すぎると、いくつもの物の特徴が組み合わされて乱れた見えになる、と書いている(要旨)。これが混み合い(クラウディング)である。混み合いを防ぐのに要る間隔(臨界間隔)は、おおよそ離心率の半分である。Bouma が 1970 年に文字で報告したこの観察を、Pelli らは物の種類によらない法則(Bouma の法則)として述べている(p.1130)。

見立ての 5 つ目は「中心を見つめると、要素の間隔と臨界間隔の比は絵のどこでも同じ値になり、線の間隔は臨界間隔より狭い」だった。当たった。巻いた絵の升 1 つの角度はトンネルの中心からの距離 r に比例し、中心を見つめると離心率 E も r に比例する。要素の間隔を Δ 升、臨界間隔を b·E と置くと、比は κ = Δ·s/(|α|·b) になり、r が消える。第44号のカードでは s/|α| = 0.0694 である。b = 0.5 のとき、線の間隔(Δ = 2 升)は κ = 0.278、雷文 1 つの大きさ(8 升)は 1.111、模様の 1 周期(16 升)は 2.221 になった。

b は人によって違い、Pelli らも臨界間隔の個人差が大きいと書いている(p.1132 の図 7 の説明)。b を 0.3・0.5・0.7 と振ると、線の間隔の κ は 0.463・0.278・0.198 で、どれも 1 を下回った。雷文 1 つの κ は 1.851・1.111・0.793 で、1 の前後にある。線は周辺のどこでも読めず、雷文 1 つ分の塊どうしは離れて見えるかどうかの境にいる、という形になる。

左上を見つめると、κ ≥ 1 の場所は |x − f| ≤ k·|x − c| になる(f は見つめた点、c はトンネルの中心、k = Δ·s/(|α|·b))。k が 1 より小さいとき、これは見つめた点を囲むアポロニウスの円である。半径は k·D/(1 − k²)、中心は見つめた点からトンネルと反対の向きに k²·D/(1 − k²) ずれる(D は f と c の距離)。線の間隔で b = 0.5 なら、半径は 127.7 px、ずれは 35.4 px で、絵の 5.1% にあたる。格子で数えた κ ≥ 1 の画素と式の円は、円の縁から 1.5 px より離れた所で 1 個も食い違わなかった。度の単位は約分されるので、円は絵の幅 10°・20°・40° で同じになる。b = 0.3 と 0.7 では半径が 249.9 px と 87.6 px に変わる。

ここからは当てはめで、確かめてはいない。中心を見つめたとき、線は周辺のどこでも同じだけ混み合い、雷文 1 つ分の塊は隣とかろうじて離れている。形の読めない塊が並ぶ見えを、この記事では「ドットで描いたよう」に当てた。粒に見えた所へ目を移すと E が小さくなって κ が 1 を超え、線が読めるので「よく見るとドットではない」になる。左上を見つめたときに左上だけがはっきりするのは、線が読める範囲が見つめた点を囲む円になることと合う。

→ 粒に見えた所へ目を移すと線が読めるか、自分の目で確かめるページ

→ 見つめた点から離れると帯が粒に化ける(前の号)

→ 雷文を色の帯にしてトンネルへ巻く(元の絵)

→ 周辺ドリフトと扇の弧(周辺視の別の模型)

文献が言っていること

Williams・Artal・Navarro・McMahon・Brainard(1996)は、目の光学の伝達関数を離心率ごとに測った。要旨によれば、光学のぼけは周辺の視力にはほとんど効かないが、受容器とその後の段の標本による折り返しは大きく減らしうる。この記事の M2 の前段は、その向きの効果を入れたものにあたる。ただし光学のぼけの大きさは使っていない。

Pelli・Tillman(2008)は本文まで開いた。臨界間隔は離心率に比例し、混み合いの臨界間隔が離心率に比例するのに対して、重なりによる遮蔽の臨界間隔は離心率によらない、と書いている(p.1130)。臨界間隔の輪郭は円ではなく、目標から隣への向きで変わる(p.1132 の図 6 の説明)。この記事の κ は向きを区別していない。

どう作ったか

生成器は generators/fret-pool.js で、絵の色と標本の輪は第47号の生成器をそのまま呼んだ。標本は絵の外 40 px までの 176,123 個(20°・左上を見つめる)を使い、4 px の升目に分けて引いた。数えるときは 2 px ごとの格子で、M2 の前段の平均も格子の上で取った。組み立て直した色は 4 色の割合で持ち、絵にするときは 1/8 刻みに丸めて混ぜた 165 色で塗った。

この模型が説明しないこと。重みの幅 c は文献で決めた値ではない。光学のぼけの大きさ、錐体の大きさ、色の違い、目の動きは入れていない。混み合いは Bouma の法則の比だけで見ていて、臨界間隔の向きによる違いも、似ていない物どうしで弱まる効果も入れていない。どの間隔(線・雷文 1 つ・1 周期)を「要素」とみなすかも、この記事で選んだものである。

出典

文献
D. G. Pelli, K. A. Tillman, "The uncrowded window of object recognition", Nature Neuroscience 11, 1129〜1135, 2008(本文を開いた。要旨・p.1130 の Bouma の法則・p.1132 の図 6 と図 7 の説明)。D. R. Williams, P. Artal, R. Navarro, M. J. McMahon, D. H. Brainard, "Off-axis optical quality and retinal sampling in the human eye", Vision Research 36, 1103〜1114, 1996(要旨だけを開いた)。A. B. Watson, "A formula for human retinal ganglion cell receptive field density as a function of visual field location", Journal of Vision 14(7):15, 2014(標本の間隔。第47号で本文を開いた)。Bouma 1970 は開いていない(Pelli・Tillman の本文の記述による)
数理
3 通りの組み立て直し、差の分け方、中心を見つめたときの κ の式、アポロニウスの円は自分で組んで数値で確かめた
親戚
見つめた点から離れると帯が粒に化ける・雷文を色の帯にしてトンネルへ巻く・周辺ドリフトと扇の弧
生成
generators/fret-pool.js(fret-pool.svg 左上を見つめて M2 で組み立て直した絵・fret-pool-book.svg 帳簿)