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ギリ・タイル

5種類のタイルそれぞれに「辺の中点から54°」の帯を描いておくと、並べるだけで帯が辺をまたいで直線につながる。帯の接続は並べ方によらず、タイルの形だけで決まる。

十角形と蝶ネクタイを並べた周期パターンの上を、藍色の帯が走る。十角形の中は10角星、蝶ネクタイの中で帯が交差し、帯はタイルの辺を越えて直線で続く
十角形を並べた格子(θ = 72°)と、その穴を埋める蝶ネクタイ形のタイル。帯の線はタイルごとに「辺の中点から 54°」で引いただけだが、辺を越えると隣のタイルの線と直線でつながり、十角形の中には 10 角星が浮かぶ

なにか

イスラム建築の幾何文様(ゼリージュ・ギリ)は、コンパスと定規で描いた線の網目に見える。2007 年、Lu と Steinhardt は、その多くが 5 種類の多角形タイル(十角形・五角形・細長い六角形・蝶ネクタイ・菱形で、辺はすべて同じ長さ、角は 36° の倍数)にあらかじめ帯の線を描いておき、タイルを並べるだけで作れることを示した。線がタイルの辺の中点で決まった角度で交わるので、どう並べても帯が辺を越えてつながる。線を引く職人ではなく、タイルを並べる職人の仕事になるわけで、これがデザインに流用しやすい理由でもある。トゥルシェ・タイルと同じ「辺の中点で必ずつながる」型である。

並べ方を自分で探し、帯の規則を自分で決めた

左に5種類のギリ・タイルと帯、中と右に十角形の格子θ=72°とθ=108°から見つかった2つの周期パターン(穴はどちらも蝶ネクタイ16個)
左は 5 種類のタイルと帯で、線は辺の中点ごとに 2 本ずつ出る。中と右は、十角形の格子を総当たりして見つけた 2 つの周期パターンで、穴の形も分類してある

並べ方は、文献の図を写さずに自分で探した。十角形(辺 1・外接半径 φ)の中心を格子に置いて総当たりすると、隣と辺を共有する格子の向きは 36° の倍数の 4 通り(θ = 36°, 72°, 108°, 144°)になる。36° と 144° では十角形が重なり、72° と 108° では穴がすべて蝶ネクタイ形になった。周期パッチの内側の辺はちょうど 2 枚のタイルで共有され、3 枚以上で共有される辺はない。

帯の規則はこう決めた。各辺の中点から、辺に対して 54° の向きに内側へ 2 本の線を出し(2 本が中点で交わる角は 72°)、鏡映で対になるいちばん近い線と結ぶ。Hankin の「多角形の接触」型で、線の形はこの規則だけから決まる。十角形では中点を 1 つ飛ばしに結ぶ 10 本の弦になり、2 つの五角形が重なった 10 角星が浮かぶ。共有辺の中点 132 個すべてで、両側のタイルの線が 180° で向き合い、帯は辺を越えて直線で続いた。規則が「辺の中点」と「同じ角度」だけでできているので、どのタイルをどう並べても成り立つ。

帯の作図は Hankin の「接する多角形」の方法である。原本を開いて確かめた(Memoirs of the Archaeological Survey of India 15, 1925, p.4)。多角形の網をかけ、各辺の中央を通る 2 本の線を X に交差させ、ほかの線に出会うまで延ばす、と書いてある。ただし Hankin は X の向きの決め方を「唯一はっきりしない点」(p.10)と呼び、模様ごとに実物から逆算していて、角度の一般則は与えていない。角度をひとつのつまみとして取り出し contact angle と名づけたのは Kaplan の 2005 年の論文で、2000 年の論文には全文を検索してもこの語は出てこない。ここで使った 54°(中点での交差は 72°)は、Lu と Steinhardt が「どの辺も中点で 72° と 108° に交わる」と書いた角度と同じである。タイルごとの帯の回転対称も、十角形 10・五角形 5・細長い六角形と蝶ネクタイと菱形 2 で、論文の記述に一致した。図そのものを重ねて見比べてはいない。

2007 年の論文が準結晶だと言っているのは、ギリ模様の全体ではなく、ダルビ・イマーム廟(1453 年)などの特定の作例である。要旨は「ほぼ完全な準結晶的ペンローズ模様」と書き、本文では「これまで調べた例は完全な準結晶に少し届かない」とも断っている。ペンローズ・タイリングとの関係も「同じ構造」ではなく「ペンローズ・タイルへ写せる」で、3,700 枚のうち 11 か所は食い違い、どれも数枚の並べ替えで直せると書いてある。論文が調べたヘラートやマラゲの模様は、論文自身が周期的だとしている。ここで作ったのは周期パターンだけで、非周期に並べた場合は、別の作品「非周期のギリ」で扱う。十角形の中心を格子に置く並べ方しか探していないので、五角形や菱形が穴に出る並べ方はここには出てこない。

→ ペンローズ(5 回対称の非周期。2007 年の主張はギリをここへつなぐ)

→ トゥルシェ(辺の中点で必ずつながる、もうひとつのタイル)

→ 和柄の対称群(周期パターンの 17 種)

どう作ったか

生成器は generators/girih.js で、タイルは内角の列から作図し(辺 1・反時計回り)、格子の穴は空いた辺をたどって多角形にし、角の列で分類した。帯は、中点から出る線どうしの交点で結んでいる。同じ直線上で向かい合う 2 本の線は交点を持たないので、別に対にした。

出典

数理
P. J. Lu, P. J. Steinhardt, "Decagonal and quasi-crystalline tilings in medieval Islamic architecture", Science 315, 1106–1110 (2007)=5 種類のタイルは図 1F、中点で 72° と 108° に交わる規則とタイルごとの回転対称は p.1106 で読んだ/E. H. Hankin, "The Drawing of Geometric Patterns in Saracenic Art", Memoirs of the Archaeological Survey of India 15 (1925)=接する多角形は p.4、X の向きの扱いは p.10/C. S. Kaplan, "Islamic Star Patterns from Polygons in Contact", Graphics Interface 2005=contact angle の定義は p.2。Kaplan の 2000 年の論文(Bridges 2000)は星やロゼットを多角形に置く別の手順で、contact angle の出典にはならない。並べ方と帯は自分で作図した結果で、論文の図と重ねた照合はしていない
親戚
ペンローズ・トゥルシェ・和柄・結ばれた輪(帯の交差)
生成
generators/girih.js(girih.svg θ=72° の周期パターン・girih-book.svg 5 タイルと 2 格子)