かけ算第27号|アーベル砂山 × Hat タイル
非周期の上の砂山
砂山は正方格子の上で遊ぶものだと思っていた。しきい値 4 を超えたら 4 隣に 1 粒ずつ配る。ところが Hat タイルは 1 枚が必ず 13 辺なので、しきい値を 13 にするだけで規則がそのまま乗る。乗せてみると、群も帳簿も単位元もそっくり出てきた。位数は 169 枚でも 181 桁ある。そして「1 タイルあたりの位数の対数」は、非周期でも 1 つの数に落ち着く。
なにをかけたか
アーベル砂山は、格子の各マスに砂粒を積み、しきい値以上になったマスが崩れて隣に 1 粒ずつ配る、という規則だけで動く。正方格子ならしきい値は 4。崩す順番を変えても最後の配置は同じで(アーベル性)、安定な配置のうち「戻ってこられるもの」は群をなす。
Hat タイルは、1 種類だけで平面を敷けて、しかも周期的には敷けない多角形である(Smith・Myers・Kaplan・Goodman-Strauss 2023)。六角格子の上の 13 角形で、8 枚のカイトの合併になっている。
この 2 つが噛み合うのは、帽子が 1 枚 13 辺だからである。タイルを点、辺の共有を線と見ればグラフになり、どの点も辺が 13 本ある。正方格子のマスに 4 本あるのと同じ立場である。だからしきい値を 13 にするだけで、砂山の規則は書き換えなしで乗る。パッチの縁から外へ出る辺は落ち口で、そこへ配った砂は消える。
帳簿は非周期でも閉じる
まず確かめたのは走行距離の帳簿である。安定化のあと、各タイルの砂粒の数について z_final = z₀ + Δu が成り立つ。u は崩れた回数、Δ はこのグラフのラプラシアンで、Δu(x) = Σ隣 u(y) − 13 u(x)。
これは非周期だから怪しい、という話ではまったくない。崩れは「13 粒出て、隣から 1 粒ずつ入る」だけなので、格子が何であろうと成り立つ。実際、乱数の初期配置で 25 枚と 169 枚のパッチを走らせ、全タイルで厳密に一致した。非周期性は帳簿を壊さない。壊れるとしたらもっと先の話である。
群と、その位数
単位元は Dhar の式で作る。c を全タイル 12(しきい値 − 1)として、e =(2c − (2c)°)°。ここで ° は安定化。できた e は e ⊕ e = e を満たし、再帰的な配置 r に足しても r のままだった。上の図がその e である。
群の位数は、行列木定理から縮約ラプラシアンの行列式 = 全域木の数で出る。分数を作らないガウス消去(Bareiss)で厳密に計算した。25 枚のパッチで 27 桁、169 枚で 181 桁。1 タイルあたりおよそ 2.4 桁分の情報がある。
ここで二経路の照合ができる。位数が本当に正しければ、どの元も位数回足せば単位元に戻るはずである。位数は 181 桁もあるが、繰り返し二乗(r、r⊕r、その 2 倍、と倍々に足していく)を使えば 600 回ほどの足し算で済む。やってみると、25 枚でも 169 枚でも単位元にぴったり戻った。行列式の側と砂山の側が独立に合ったことになる。
1 タイルあたりの位数は 1 つの数に落ち着くか
位数そのものは天文学的なので、log|G| を n(タイルの数)で割った量を見る。これは全域木の数の増え方で、グラフの「木のエントロピー」と呼ばれる量である。縁の効きはタイル数の平方根に比例するので、1/√n に対して打って直線で外挿する。
まず道具の答え合わせをした。正方格子ではこの極限が 4G/π = 1.166244(G はカタラン定数)と分かっている。n = 100 から 2500 まで並べて外挿すると 1.168810 で、0.22% で合った。道具は正しい。
同じ道具を Hat に当てると 2.434574 になった。パッチの取り方を 4 通りに振っても 2.4341 から 2.4350 の幅 0.0009 に収まる。非周期であっても、1 タイルあたりの量として 1 つの数に落ち着いている。しきい値 13 に対する log 13 = 2.5649 より少しだけ小さい(正方格子は 4 に対して log 4 = 1.3863 より 1.1662 と、もっと大きく下回る)。
ここで止めておく。「Hat のほうが log(しきい値)に近い」ことに意味づけはしていない。しきい値も次数の散らばりも違う 2 つのグラフを、比だけで比べても何が効いているか分けられない。ここで言えるのは「非周期でも極限が存在するように見える」ことと、「その値は 2.4346 である」ことまでである。
どう作ったか
- グラフ
generators/hat-sandpile.js。Hat の置換でパッチを作り、頂点座標を丸めた鍵で辺を突き合わせて隣接を取る。1 本の辺を 3 枚以上が共有しないこと、どの帽子も 13 辺であることを毎回確かめている。- 砂山
- 待ち行列で安定化する。崩れた回数 u を数え、z = z₀ + Δu を検査で確かめる。単位元は Dhar の式。
- 位数
- 厳密は分数なしガウス消去(BigInt)、大きいパッチは浮動小数の LU で log|det| だけ。169 枚では両者が 2.2e-16 で一致する。
- 外挿
- 中心に近い n 枚を取り出した部分グラフで n = 100・200・400・800・1600 を測り、1/√n の直線で外挿。取り方を振って値が動かないことも確かめる。
検査
出典と権利
砂山のアーベル性は Dhar (1990)、単位元を作る手順は Creutz (1991)(Dhar・Ruelle・Sen・Verma, arXiv:cond-mat/9408022 の p.10 で確かめた。砂山の模型の出典欄も参照)。正方格子の全域木のエントロピー 4G/π は R. Lyons, arXiv:math/0212165 の p.2 で確かめた。Hat タイルの構成は Smith・Myers・Kaplan・Goodman-Strauss, An aperiodic monotile(arXiv:2303.10798)の pp.13〜14 にある H/T/P/F の 4 つのメタタイルの置換系に従う。全域木の数が縮約ラプラシアンの行列式であることは行列木定理。