畑の円の面積比
正n角形の外接円と内接円の面積比 1/cos²(π/n) が分数になるのは n = 3・4・6 だけである。壁紙群が17種類しかないのと同じ結晶学的制限から来ている。
麦畑の輪を測った天文学者
ストーンヘンジを古代の天文台とみる研究で知られる天文学者 G. S. Hawkins は、1990年の初めにミステリーサークルに出会った。公表された地上の測量と航空写真から、複数の円や輪を含む 18 の図形で直径などの比を測り、そのうち 11 で全音階(ピアノの白鍵の音程)の比になる小さな整数の比を見つけた。さらに、円の面積比から全音階の比が出る定理を 3 つ立てている。正三角形の外接円と内接円の面積比は 4:1、正方形では 2:1、正六角形では 4:3 である。畑の図形をこちらで測ったわけではない。オカルトの話に聞こえるが、芯にあるのは検査できる幾何の問いである。入れ子の円は、どんな比を作れるのか?
正n角形を円に内接させ、その正n角形に円を内接させる。外の円と中の円の面積比は 1/cos²(π/n) になる。この値が分数(有理数)になるのは n = 3, 4, 6 だけで、値はちょうど 4, 2, 4/3 である。Hawkins の3つの定理の比は、これで全部だった。和音のモアレで並べた協和音程の、二重オクターブ・オクターブ・完全4度である。
なぜその3つだけか。和柄の「17種」と同じ源
cos²(π/n) = (1 + cos(2π/n))/2 なので、比が分数になるかは cos(2π/n) が有理数かで決まる。そして cos が有理数の角度は驚くほど少ない。Niven の定理 (1956) により cos(2π/n) が有理数になるのは n = 1, 2, 3, 4, 6 だけ(値は −1, −1/2, 0, 1/2, 1)。
この {1, 2, 3, 4, 6} には見覚えがある。和柄の対称群で「平面の繰り返し模様に許される回転は 1, 2, 3, 4, 6 回だけ」だった(結晶学的制限)。あちらは 2cos(2π/n) が整数になる条件で、こちらは cos(2π/n) が有理数になる条件である。同じ cos の特別な値が、壁紙の17種と畑の音程を同時に縛っている。5回対称が壁紙に入れないことと、正五角形の円の比が音程にならないことは、同じ一行の帰結である(見取り図の発見 34)。
比は3つの方法で出した。①式 1/cos²(π/n) ②実際に多角形を作って外接・内接の半径を測る ③円ではなく多角形どうし(同じ円に外接する正n角形と内接する正n角形)の面積比。3つが n = 3〜24 で 10⁻¹² 以内に一致し、回転・拡大・平行移動でも動かない。n = 5, 7, 8, 9, 10, 11, 12 は分母 2000 まで探しても分数に 10⁻⁷ より近づかない(「無理数の証明」は Niven の定理の引用で、こちらの数値は傍証)。
5度 3/2 はこの装置からは出ない
出てくる分数は 4, 2, 4/3 の3つしかない。協和の王様である完全5度 3/2 は、この入れ子からは決して出ない。全音階の比が「揃う」ように見えて、実は装置が作れる比は極端に限られている。畑の図形の比の報告を評価するときも、この「そもそも何が作れるか」が物差しになる。n を大きくしたときの近づき方も測った。n を大きくすると比は 1 + (π/n)² + O(n⁻⁴) で 1 に近づく。多角形が円に化けていく速さまで式のとおりだった。
どう作ったか
面積比は、式から出す方法、実際に正多角形を作って外接円と内接円の半径を測る方法、同じ円に外接する正多角形と内接する正多角形の面積を比べる方法の3通りで出し、n = 3〜24 で一致することを確かめた。分数に近いかどうかは、分母 2000 までの分数との距離で見ている。
出典
- 数理
- 正多角形の内接・外接の比は初等幾何。I. Niven, Irrational Numbers (1956) の定理: 有理数×π の角度で cos が有理数になるのは cos = 0, ±1/2, ±1 のみ。結晶学的制限は和柄の対称群と同じ Fedorov (1891) の系譜にある
- Hawkins の報告の扱い
- I. Peterson, "Euclid's Crop Circles", Science News 141 (1992年2月1日) pp.76–77 による。18 の図形のうち 11 で全音階の比が見つかったこと(p.76〜77)、円の面積比の定理 II〜IV(正三角形 4:1・正方形 2:1・正六角形 4:3、p.76 の図)、最初の定理 I が 1988年6月4日の Cheesefoot Head の3つの円から来たこと、Hawkins の最初の出会いが 1990年の初めだったことを、JSTOR が公開しているスキャンで読んだ。Hawkins 自身の論文は開いていない。畑の図形は測っていない。こちらが検査したのは幾何の側で、「入れ子の円が作れる比は 4, 2, 4/3 で尽きる」は自分の計算である
- 生成
- generators/hawkins.js(3経路の面積比・有理数への距離・図1枚。依存ゼロ)