かけ算第15号|和音のかたち × フィロタキシス
なぜ鍵盤は12個か
完全5度を積み上げる音階と、黄金角で種を置く葉序を、同じ円周の上に並べて比べた。
なにか
和音のかたちで「平均律の5度は純正より 1.96 セント狭い」と測った。ではなぜ12なのか。オクターブを円周1周とすると、完全5度は円周の log₂(3/2) = 0.58496 周ぶん、角度にして 210.587° になる。これを積み上げていくのは、フィロタキシスで種を 137.5° ずつ回して置くのとまったく同じ装置である。
違うのは注文だけ。葉は「どの2枚も重なりたくない」ので、いつまでも均等に散る角度がほしい。音階は「少ない回数で元の音に戻りたい」ので、早く一周ぶんに揃う角度がほしい。注文が正反対だから、選ばれる数の性質も正反対になる。近似しにくい数か、よく近似できる数か。
記録を更新するのはどの分母か
log₂(3/2) の連分数は [0; 1, 1, 2, 2, 3, 1, 5, 2, 23] と始まり、その先も続く。収束分数は 1/2、3/5、7/12、24/41、31/53 と並ぶ。分母が音階の枚数、分子が5度の半音の数になっている。12平均律の「5度=7半音」がここに出てくる。41音・53音の平均律が実在するのも同じ理由で、53平均律の5度は誤差 0.068 セントで、人間には完璧に聞こえる。
この作品ではかけ算第5号で作った「記録更新列」の物差しをそのまま音に通した。ただし記録列と連分数は同じものではなかった。音階の記録列には収束分数のあいだに中間分数 2/3・4/7・17/29 が挟まる。いっぽう黄金角の記録列にはひとつも挟まらず、フィボナッチだけが並ぶ。連分数が [0; 2, 1, 1, 1] のあとも 1 ばかりで、挟まる余地がないからだ。「近似しにくい」の正体がこの余地のなさである。
正反対の注文を、同じ物差しで測る
近似のしやすさを q²|x − p/q| の小ささで測る。黄金角はどの分数でも 0.4377 より下がらない(Hurwitz の下限 1/√5 = 0.4472 に張り付く=これ以上よく近似できない最悪の数)。音階は 0.042 まで下がる。約10倍よく近似できる。同じ物差しの両端に、葉と音が立っている。
面白いのは n = 12 だけは音階の角度のほうが均等だったこと(12点での最小間隔は音階 7.52% > 黄金角 5.57%)。12音が使いやすいのは偶然ではない。しかし 13点目で音階は 1.96% に潰れる(これがコンマ)いっぽう黄金角は 5.57% のまま動かない。どの n でも間隔が縮まないのは、黄金角だけである。n=2〜200 で n × 最小間隔 の最小値を比べると、黄金角 0.450 > √2−1 0.356 > 音階 0.163 > 1/π 0.065 > 1/2 0.000 となる。黄金角の「最良」は、特定の枚数で勝つことではなくどの枚数でも負けないことだった。
ピタゴラスのコンマは整数のまま出せる: 5度を12回積むと 3¹²/2¹⁹ = 531441/524288 = 23.4600 セントの余り。この「あと少しで閉じない」を12等分に配ってしまったのが12平均律で、そのしわ寄せが和音のかたちで見た 3度の +13.69 セント・−15.64 セントになる。
どう作ったか
連分数と最良近似は自前で計算し、総当たりの記録更新と連分数の2通りで突き合わせた。円の図は「円周に角度 α で点を置く」1つの関数で、葉序と音階の両方を描いている(引数が違うだけ)。ピタゴラスのコンマ 3¹²/2¹⁹ は 23.4600 セントで、整数のまま計算できる。12平均律の5度は −1.955 セント、53平均律は −0.068 セントずれ、周波数比から計算しても対数から計算しても同じ値になる。
→ 和音のかたち(この作品の親①・平均律のずれを図形で見る)
→ フィロタキシス(この作品の親②・黄金角が詰まり方で最良になる話)
出典
- 数理
- 連分数による最良近似と Hurwitz の定理(|x − p/q| < 1/(√5 q²) を満たす分数が無限にあり、√5 は黄金比で最良)。ピタゴラスのコンマ 3¹²/2¹⁹、12平均律、41音・53音平均律は音楽理論の標準。葉序と連分数の関係は H. S. M. Coxeter (1953) 以来の標準的な説明
- 生成
- generators/temperament.js(連分数・収束分数・総当たりの記録更新・近似のしやすさ・ピタゴラスのコンマ・n平均律の5度誤差・円周に角度を積む共通関数・図2枚。依存ゼロ・乱数ゼロ)