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ロープだけの作図

定規とコンパスで作図できる点は、コンパスだけでもすべて作図できる(Mohr と Mascheroni の定理)。ロープ1本を杭に掛ければ巨大なコンパスになり、中点は円7つで取れる。

同じ半径の円7つで描いた六弁のロゼット。円の交点を結ぶと2つの正六角形が浮かび上がる
ロープ1本(=コンパス)で描ける六弁のロゼット。まっすぐな線は1本も引いていないのに、円の交点として正六角形が2つ(半径 R と √3·R)出てくる

夜の麦畑の道具箱

ミステリーサークルは、イングランド南部の麦畑に現れる巨大な幾何図形である。1991年9月9日の月曜日、画家の Doug Bower と Dave Chorley が、13年前から自分たちが作ってきたと名乗り出た。ロンドンの新聞 Today の記者の前で実演した道具は、長さ 4 フィートの板と、それを引く綱、糸の玉、簡単な照準器だった。中心の杭のまわりを回りながら板で麦を倒していく。杭に掛けて張った綱は、そのまま巨大なコンパスである。

ここで数学の問いになる。定規なし・コンパスだけで、作図はどこまでできるのか? 答えは「全部できる」である。Mohr(1672)と Mascheroni(1797)が示したとおり、定規とコンパスで打てる点は、コンパスだけでも打てる。ロープ1本あれば、ユークリッド幾何の点はすべて畑に打てる。夜の畑で精密な図形が描けたことに、種も仕掛けもある。仕掛けの名前は定理である。

線を引かずに中点を取る。仕掛けは反転

円7つでAとBの中点Mを作図する手順。歩く円で倍点Dを作り、Dを反転してMを得る
円7つで A と B の中点 M を取る。①〜④ 六角形の歩幅で3歩歩いて A の反対側 D(AD = 2AB)を作り、⑤〜⑦ D を円 C(A, AB) で反転する

核になる部品は反転である。円 C(O, r) に対する点 X の反転 X* は OX·OX* = r² を満たす点で、これがコンパスだけで作図できる。X を中心に O を通る円を描いて基準円との交点 U, V を取り、U と V を中心に O を通る円を2つ描くと、もう一方の交点が X* になる。D は A から 2AB の距離にあるから、反転すると AM = AB²/(2AB) = AB/2 となり、中点が出る。

ランダムな200組の A, B でこの作図を実行し、座標で計算した中点と比べると、ずれは最大でも 10⁻¹⁴ の桁だった。反転には |OX| が r/2 より大きいことが必要で、それより内側では交点の円が基準円に届かない。

ロゼットの正六角形は「出てくる」

主図の六弁ロゼット(ヘクサフォイル)は、教会の石にも、麦畑にも、日本の麻の葉文様の親戚にも現れる古い形である。作り方は「中心の円のまわりに、円周上の点を中心に同じ円を6つ」。それだけで、円の交点が正六角形を2つ作る。花びらの先端(隣どうしの円の外側の交点)は中心から √3·R にあり、角度はきっちり 60° 刻みになる(ずれは 10⁻¹² 以内)。半径 R の円で正六角形が出てくるのは、正六角形の辺の長さが外接円の半径に等しいからである。ハニカムや麻の葉と同じ、六角の特権である。

どう作ったか

円と円の交点を求める関数だけを部品にして、倍点・反転・中点を組み立てた。どの手順でも使ったのはこの関数だけで、直線は一度も使っていない。中点の作図に使った円がちょうど7つであることも数えてある。

→ ハニカム(六角の特権)

→ 和柄の対称群(麻の葉 p6m)

→ 畑の円の面積比(同じ畑の幾何)

→ πのらせん(同じ畑の幾何)

出典

数理
定理は G. Mohr, Euclides Danicus (1672) と L. Mascheroni, La geometria del compasso (1797) による(どちらも原典は開いていない)。反転を核にした証明の道筋は、現代の教科書でよく使われている。定理の全証明は実装していない。核になる3部品(倍点・反転・中点)を実装して検証した
ミステリーサークルの扱い
オカルトではなく野外の幾何アートとして扱う。1991年の告白は Washington Post の 1991年9月11日の記事(ロンドン発・Web Archive の写しで読んだ)の「月曜日、画家の Doug Bower(67)と Dave Chorley(62)が、13年間この円を作ってきたと主張した」「Today の記者の前で、手で綱を引く 4 フィートの板を使い、中心の杭のまわりを回って麦を倒した」による。道具の「糸の玉と簡単な照準器」は Science News 141 (1992年2月1日) p.76 の I. Peterson の記事にある。Today の紙面そのものは開いていない。誰が・なぜは扱わず、「綱=コンパスで何が描けるか」という数理だけを再実装した。特定の畑の図案は複製しない(無名の製作者の作品のため)。ロゼットも中点の作図もこちらで引いた図である
生成
generators/mascheroni.js(円と円の交点・作図記録・倍点・反転・中点・ヘクサフォイル・図2枚。依存ゼロ・乱数は mulberry32)