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かけ算第16号|和音のかたち × モアレ

和音のモアレ

2枚の格子の周期の比を音程の比にして重ね、音程ごとのモアレを並べた。

8つの音程について、周期の比が音程比になる2枚の格子を重ねた縞模様。オクターブは粗く、長7度は細かい
網戸を2枚重ねるのと同じことをした。ただし2枚の周期の比を音程の比にした。オクターブ 2:1 は1セルに3本しか入らず極端に粗い。長7度 15:8 では23本入って、模様と呼べるものが見えなくなる。協和の単純さが、そのまま模様の粗さになる

なぜモアレと和音が同じ話になるのか

音のうなりは |f₁ − f₂|、モアレの縞は |1/d₁ − 1/d₂|(d は格子の周期)。同じ式で、変数が時間か空間かの違いしかない。だから「2つの音を重ねる」と「2枚の格子を重ねる」は同じ現象の別の場所での顔になる。和音のかたちで音を図形にする4本の道を並べたが、その2本目がこれである。

ここから協和の話が幾何の話になる。周期の比が既約な p:q なら、2枚の格子には厳密な共通周期(超格子)D がある。1セルに入る線の本数は p + q になる。これが少ないほど模様は粗い。数えると、協和度の順に並んだ。

音程比超格子 D1セルの線数縞の間隔 Λ|q−p|=1
オクターブ2:123D○
完全5度3:265D○
完全4度4:3127D○
長3度5:4209D○
短3度6:53011D○
長6度5:3158D/2×
短6度8:54013D/3×
長7度15:812023D/7×

古代の「協和」の定義が、縞の出方として出てきた

縞の間隔は Λ = D/|q − p| である。つまり |q − p| = 1 のときだけ Λ = D 。縞が超格子そのままの間隔で出る=いちばん粗くはっきり見える。それ以外では縞が超格子の 1/2、1/3、1/7 に細分されて濁る。

この条件に当てはまるのは オクターブ 2:1・完全5度 3:2・完全4度 4:3・長3度 5:4・短3度 6:5 の5つである。古代から協和と呼ばれてきた音程が、ちょうど全部だった(8音程で例外ゼロ)。分子と分母が1違いの比は音楽理論で epimoric(超特定比)と呼ばれ、協和の目印として扱われてきた。その目印が、格子を2枚重ねたときに「縞が超格子と同じ粗さで出るか」という見える性質だったことになる。協和度を整数比の小ささで測る試みは Euler の gradus suavitatis(1739)が有名だが、ここではそれを模様の粗さとして測り直した。

平均律は超格子を持てない。うなりが空間に出る

純正5度と平均律5度の格子を3か所で比べた図。縞の芯を示す印が、出発点では揃い、295周期めで半分ずれ、591周期めで再び揃う
上は純正5度(縞の芯▼が厳密に超格子ごと)、下は平均律5度(芯▲がじりじりずれる)である。295 周期めで縞が半分ずれ、591 周期めでまた揃う。測った芯の位置のずれは 49.7% と 0.2% になる

平均律の5度は 2^(7/12) =無理数なので、共通周期が存在しない(周期があるなら比が有理数になってしまう)。代わりに純正との差 ε = 0.0016929 がゆっくりしたうねりを作る。そしてこの ε がそのまま、時間のうなりと図形の一巡を作っている ε だった。

同じ ε が3つの顔を持つ。空間(モアレ)では、縞が1つぶんずれる長さが 1/ε = 590.7 周期ぶんになる。時間(うなり)では、倍音どうしのうなりの周期が 1/(2ε) = 295.3 周期ぶん(A=440 なら 0.671 秒)になる。図形(リサジュー)では、一巡する時間が 1/(2ε) = 295.3 になる。比はちょうど 2 : 1 : 1 になる。空間は「ずれ」を1回ぶん数え、時間と図形は倍音の対を見るので2回ぶん数える。それだけの違いで、あとは同じ数である。

検査でひとつ罠を踏んだ。粗いサンプル(1500点)で調べると、平均律5度が周期 1752 を持つように見える。サンプルを増やすと消える偽陽性で、「短い窓はきっちり一定に見える」(v1.15 の罠)と同じ型だった。無理数の「周期がない」を数値で示すには、候補の周期に比例してサンプル密度を上げる必要がある。

三和音は格子3枚。非周期タイリングと同じ作り方

純正の長三和音4:5:6を3枚の格子で重ねた図と、平均律の長三和音の図の比較
純正の長三和音 4:5:6 は超格子 D=60・1セルに 15 本(4+5+6)になる。D の何倍ずらしても食い違いゼロ。平均律の三和音は 1D で 1.4%・3D で 8.1%・10D で 20.8% と食い違いが育ち、以降は 16〜21% を漂い、もう関係がなくなる

格子を3枚重ねるのは、このギャラリーでは見慣れた操作である。多重格子法でアンマン–ビーンカーを作るときと同じ作り方をしている。純正の和音は「格子が閉じる」側、平均律の和音は「閉じない」側にある。ひねった蜂の巣では角度の可換条件で超格子が閉じるかを見たが、ここでは周期の比で同じことをしている。閉じない重なりが準周期的な秩序を生むという話(発見7)の音楽版が、平均律だった。

どう作ったか

周期は周波数の逆比(d = L/f、L は lcm)に取ると、超格子 D = L・線数 = Σf がそのまま出る。判定はすべて明暗(duty 50% の格子の積)を実物として数える方式で、境界にサンプルが乗ると浮動小数で揺れるので無理数のオフセットを足して避ける。縞の間隔 Λ = D/|Δf| は、線が重なる位置を測った間隔と相対 0.001% 以内で一致した。粗いサンプル(1500点)だと、無理数比でも周期 1752 を持つように見える。サンプルの密度を上げて総当たりすると、平均律5度に共通の周期はない。

→ 和音のかたち(親①・音を図形にする4本の道)

→ モアレ(親②・差の波)

→ なぜ鍵盤は12個か(同じ ε の話を連分数から見る)

→ ひねった蜂の巣(角度で超格子が閉じる条件=Σ7)

出典

数理
モアレの差の周波数(モアレと同じ)。単純な整数比=協和という考えは古代ギリシア以来で、|q − p| = 1 の比は epimoric / superparticular ratio と呼ばれる。協和度を整数比の小ささで測る代表例は L. Euler, Tentamen novae theoriae musicae (1739) の gradus suavitatis。平均律(半音 2^(1/12))とセントは音楽音響の標準。「epimoric ⟺ 縞が超格子そのまま」という言い換えはこの作品で機械検査したもので、文献での扱いは確かめていない
生成
generators/moire-chord.js(周波数比から周期と超格子・縞の間隔の式と実測・繰り返し判定・縞の芯の検出・3つの顔の計算・図3枚。依存ゼロ・乱数ゼロ。親の generators/lissajous.js から音程表とうなりを借りている)