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インカの石組

インカの石組の接合角度は泡に似て120°に寄るが、目地は途中で折れる。泡でも亀裂でもない第3の統計を、写真3枚から起こして測った。

写真から起こしたインカの石組の目地の網。石は辺の数で淡く塗り分け、接合点を T 字と Y 字で色分けしている
クスコのインカの壁(写真 1)の中央部を、写真から起こした目地の網で描き直したもの。石は接合点の数で淡く塗り分け、接合点は T 字(茜)・Y 字(藍)・その中間(灰)で示した。写真そのものは載せず、石の輪郭という事実だけを使っている。

なにか

クスコのインカ・ロカの宮殿の壁には「12 角の石」がある。多角形の石を隙間なく組んだインカの壁で、ひとつの石が 12 の角を持って隣の石と噛み合っている。同じ「平面を多角形で埋める」でも、当ギャラリーには 2 つの帳簿がすでにある。泡やボロノイ図は同時に釣り合って 120° の Y 字になり、乾燥亀裂は順に割れて 90° と 180° の T 字になる(発見33)。石組はどちらの帳簿を持つのか。

写真から測った。Wikimedia Commons の CC ライセンスの写真 3 枚(クスコの壁 2 枚とハトゥンルミヨク通りの壁 1 枚)を、まわりより暗い画素を目地として石に分け、目地の網を接合点と辺に分解して、石の多角形を起こした。写真は正面から撮ったものを選んだが、透視の歪みは補正していないので、角度の帳簿は数度の誤差を含む前提で読む。

接合の角度は泡に似る。だが目地は折れる

接合角のヒストグラム 3 枚と模型 3 つ、12 角の石の輪郭、重心のボロノイと実物の重ね合わせ、目地の折れ目の割合、帳簿の表
上段は接合の角度(次数 3 の接合点まわりの 3 つの隙間)。壁 3 枚と、乾燥亀裂の号の模型 3 つ。中段は「12 角の石」の輪郭と、石の重心のボロノイ図(茜の破線)と実物の重ね合わせ。下段は目地の途中で折れる割合と帳簿。

まず位相はどれも同じで、接合点は 3 枚の壁で 126 個すべてが 3 本の目地の集まりだった(4 本以上は 0)。泡も亀裂もそうである。

接合の角度は、予想と違った。順に割れる亀裂なら 90° と 180° の二山になるはずだが、壁の分布は 90° から 170° まで広がり、180° の近くには 1 割しかない。輸送距離で 3 つの模型と比べると、3 枚とも「同時に釣り合う」ボロノイの模型にいちばん近い(壁 1 で 8.1°、壁 2 で 3.5°、壁 3 で 4.0°。順に割る模型へは 15° から 18°)。角度だけを見ると、石組は泡の側にいる。

ところが目地を 1 本ずつ見ると、泡にも亀裂にもない性質が出る。接合点から接合点までの目地を長さの 4% で間引き、25° 以上曲がる内部の頂点を折れ目と数えると、3 枚の壁で目地の 59%・68%・63% に折れ目があった。同じ道具を模型に当てると、順に割る亀裂は 18%、ボロノイは 2%。泡は張力で目地が滑らかな弧になり、亀裂はまっすぐ進んで突き当たる。石組の目地だけが途中で折れる。隣の石の角を受ける切り欠きが、目地の中にあるからである。

石の重心を母点にしたボロノイ図で壁を再現できるかも測った。画素の一致は 74%・74%・82% で、順に割る模型に同じ道具を当てた 64% より高く、ボロノイ模型の 100% には届かない。細長い石や、大きな石の下に入れ子になった小さな石は、重心の最近傍では作れない。

角の数は掃除で動き、接合点の数は動かない

「12 角の石」を道具の答え合わせに使った。写真 2 で面積最大の石がそれで、接合点(3 本の目地が集まる点)は 8 個。角の数は、写真から起こした輪郭をどれだけ掃除するかで変わる。曲がり 15° 以上を角と数えれば 12、20° と 25° なら 10、30° なら 7 になる。角の数は定義に依る量で、接合点の数は依らない。両者の差が、目地の途中の折れ目である。

乾燥亀裂の号では「順に割ると角の数(4.03)が辺の数(5.64)より少ない」ことを見た。T 字の 180° は角に数えないからである。壁では逆向きの差が出る。ハトゥンルミヨクの壁は角の平均 7.31 に対して接合点の平均 5.92 で、角のほうが多い。泡(角 5.25・辺 5.65)とも亀裂とも違う、第三の読み方の帳簿である。

写真の解像度を変えても帳簿は動かない。壁 1 を幅 1,400 画素と 1,000 画素で起こすと、接合点の数は 59 と 63、T 字の割合は 0.64 と 0.60、接合角の分布の輸送距離は 1.6°。折れ目のある目地は 59% と 49% で、これがいちばん解像度に敏感な量である。

→ 乾燥亀裂と柱状節理(模型 3 つと、角と辺の帳簿の読み分け)

→ セルの帳簿(作り方で動く帳簿と動かない帳簿)

どう作ったか

写真から目地の網を起こすまでの手順は次のとおりである。縮小し、大きなぼかしで割って照明を均し、暗い画素を目地とみなして線らしいものだけ残す。石を連結成分として切り出し、ラベルを目地の中へ広げてから、接合点と辺に分けて折れ線に間引く。できた網は撮影者とライセンスと一緒に保存した。生成器 generators/inca-wall.js がそれを読み、接合角、石の角の数、重心のボロノイとの一致、目地の折れ目を測り、乾燥亀裂と柱状節理の模型と比べて図にしている。解像度を変えても帳簿が動かないことを確かめてある。

出典

写真(CC ライセンス・輪郭を起こすためだけに使い、画像は載せていない)
壁 1: Martin St-Amant (S23678), Mur Inca Décembre 2007, CC BY 3.0, Wikimedia Commons/壁 2: Rodolfo pimentel, La piedra de los doce ángulos, en calle Hatun Rumiyoc, Cuzco 01, CC BY-SA 4.0, Wikimedia Commons/壁 3: Smiley.toerist, Cusco walls 2, CC BY-SA 4.0, Wikimedia Commons。写真から起こした目地の網(generators/data/inca/*.json)は、それぞれの写真と同じライセンスで扱う
数理
接合角の帳簿は当ギャラリーの乾燥亀裂と柱状節理(発見33)。ボロノイ図は G. Voronoi (1908)。石組の作り方は J.-P. Protzen, "Inca Quarrying and Stonecutting", J. Soc. Architectural Historians 44 (1985) 161–182 による。要旨(p.161)は「石と石の合わせは、すでに積んだ石のほうを削って次の石を受けるようにし、試しては直すやり方で行われた」、p.178 は「新しい段の座りの目地は、下にすでに積んだ段の上面に削り込まれている」と書く。次の石ではなく、先に置いた石の側を削る。12 角の石は同じ論文の図 36 が「インカ・ロカの宮殿の壁の『12 角』の石」として載せ、合わせ方の単純な結果だとしている。ここで確かめたのは帳簿の側だけ
身近
クスコの街の壁・12 角の石・石垣・玉石の舗装
親戚
乾燥亀裂と柱状節理・泡の法則・セルの帳簿・ボロノイ
生成
tools/explore/inca-trace.py(写真から目地の網へ)・generators/inca-wall.js(inca-wall.svg 目地の網・inca-wall-book.svg 帳簿)