縄文の縄目
撚った縄を粘土の上で転がすと、押型は縄の表面を平らに展開した図の鏡像になる。2 本を撚り合わせただけの縄は斜めの条しか残さず、それをもう一度撚り合わせると節が現れる。条の角度は縄のピッチと転がりの半径で決まり、節の間隔は内側のピッチを副縄の弧長で割った値になる。だから押型だけから、縄の作り(撚りの向き・ピッチ・本数)を読み戻せる。
なにか
縄文土器の「縄文」は、撚った縄(原体)を器の表面で転がしてつけた模様である。原体の作り方には段がある。繊維の束を撚ったものが 0 段で、それを 2 本、逆向きに撚り合わせると 1 段になる(押型に節が出ないので無節という)。その縄を 2 本、また逆向きに撚り合わせると 2 段の単節、もう一度撚り合わせると 3 段の複節になる。考古学の解説では、この作りで縄文を分類し、撚りの向きを R・L で書く(下の狭山市教育委員会の公開資料も同じ書き方である)。表記は外側から。単節 LR は「無節 R を 2 本、左に撚った縄」である。
狭山市教育委員会の公開資料(市原市文化財センター 2003 からの抜粋)には、実物の押型について「無節 R は横回転で施文すると条が左上がりに見える」「単節 RL は写真を横にすると LR と同じに見えるが節の見え方が違う」「複節 LRL は大きな節の中に小さな節が見える」と書かれている。この 3 つの見え方が、縄の幾何だけから出るかを確かめる。
模型
縄を螺旋の入れ子にした。各段の芯線は、親の芯線のまわりを回る螺旋(半径 a・ピッチ p・向き ±)。いちばん内側の素線は半径 r₀ の管である。芯線に沿って半径 r₀ の球を密に並べ(球の鎖)、主軸からの角 θ と高さ z ごとに、球に当たる最も外側の半径を取る。これが縄の表面の高さ場 H(θ, z) で、転がりの半径 R はその最大値。
転がすと、表面の各点は接地した順に並ぶので、押型は H を θ 方向に開いた展開図になる。ただし型押しは鏡像である。粘土の上から見た押型は、縄の表面を外から見た図を左右に裏返したものになる。ここでは右ねじ(Z 撚り)を R と呼び、押型の横軸は紙面の右向きに取った。呼び方の約束が文献と同じかは確かめていないので、向きの主張はすべて「R と L で符号が逆」の形で置く。
ピッチは各段の表面で撚りの角が 30〜40° になる程度にした(素線 r₀ = 0.5、無節 p = 8、単節の外側 p = 20、複節の外側 p = 50)。実物の縄の寸法を測って入れたわけではない。
条と節
無節(1 段)の表面は螺旋対称である。z を δ 送って θ を 2πδ/p 回すと元に戻る(最大差 0.9%、格子の補間の分)。だから押型は 1 方向に伸びた条だけになる。条の角は z 軸から測って tan α = 2πR/p。R は転がりの半径で、溝の深さではない。測ると 38.04°、式は 38.15°。左撚りにすると −38.04° で符号だけが変わる。刻みを粗くしても動かない。
単節(2 段)で螺旋対称が破れる(最大差 84%)。代わりに 2 つの対称が残る。主軸まわりの 2 回対称(副縄が 2 本)と、ねじ対称である。ねじ対称とは、z を δ 送って θ を h₂·2πδ/p₂ 回すと元に戻ることで、その δ が節の間隔になる。δ = p₁/(n₁κ₂)。κ₂ = √(1 + (2πa₂/p₂)²) は副縄の芯線が主軸の長さ 1 あたりに進む弧長で、内側の撚りは副縄の弧長で数えるから、この因子が要る。測ると 3.840、式は 3.816。
だから押型は斜めの格子に並ぶ。格子の一辺は副縄の入れ替え(横に 2πR/n₂)、もう一辺はねじ(δ 上がって横に少しずれる)。軸方向にまっすぐ周期が出るかは、p₂/n₂ と δ が通約するかで決まる。節の間隔を p₂/n₂ の 1/3 にした縄では、外側の条を引いた残差が送り 9.99(= p₂/n₂)で相関 0.997 まで戻る。1/φ² にすると最良でも 0.295。押型は常に 2 次元の格子模様だが、縄の軸に沿って同じ模様が繰り返すとは限らない。
押型だけから原体を読む
考古学では押型を見て原体を復元する。それを機械にやらせた。入力は押型 H と転がりの半径 R(押型が横に繰り返す長さ 2πR から分かる)。
外側の段は、θ 方向の調和のうち最も強い次数 n(副縄の数)と、その調和の位相が z で進む速さから読む。表面が螺旋 h(θ − h·2πz/p) なら A_n(z) = Σ H e^{−inθ} の位相は −h·n·2πz/p で直線に進むので、傾きから向きとピッチが出る。節の有無は螺旋対称の残差で決める(条だけなら 1% 未満、節があれば 80% 以上)。内側の段は、外側の起伏をぼかして引いた残差を副縄の外側の面に沿って読んだ周期(節の間隔 δ)と、残差の筋の傾きの符号(向き)。
| 原体 | 向き・ピッチ(読 / 真) | 副縄 | 節の間隔(読 / 式) | 内側の向き(読 / 真) |
|---|---|---|---|---|
| 無節 R | 右 8.00 / 右 8 | 2 / 2 | 節なし | — |
| 無節 L | 左 8.00 / 左 8 | 2 / 2 | 節なし | — |
| 単節 LR | 左 20.01 / 左 20 | 2 / 2 | 3.81 / 3.82 | 右 / 右 |
| 単節 RL | 右 20.01 / 右 20 | 2 / 2 | 3.81 / 3.82 | 左 / 左 |
無節と単節では全部が真値に戻る。「単節 RL は横にすると LR と同じに見えるが節の見え方が違う」は、外側の条の向きが逆で、節(内側の筋)の傾きも逆になることとして出る。
罠が 2 つ。①条の角を勾配の構造テンソルで読むと、単節では内側の細かい筋に引っ張られて −5° と出る(真値 −32°)。太い起伏と細い筋を勾配は区別しない。調和の位相で読むと 20.006 まで戻る。②外側の起伏をぼかして引いた残差の大きさで「節あり」を判定すると、無節も節ありになる(条の溝の形そのものが残差に残る)。判定は螺旋対称が破れているかで行う。
複節は 2 段の式から外れる
複節(3 段)の外側の面の深さ列から節の間隔を読むと 11.1(復元器のぼかした残差では 10.5)で、2 段の式 p₂/(n₂κ₃) = 9.70 から 9〜14% 外れる。同じ外形(R = 4)で内側が無い 2 段の縄を作ると 9.69 で式どおりなので、外れの原因は内側の細かい節である。中段の副縄が外を向いていても、その中の素線が外を向いていなければ最も外には出ない。どの点が最も外に出るかを、内側の段が決め直している。「大きな節の中に小さな節」は見た目の話であると同時に、節の位置を動かす仕組みでもある。復元器の 2 段の式は複節には当てはまらないので、ここでは 3 段の復元を主張しない。
結束縄文
1 本の縄を折り返して撚ると、片側は R・反対側は L になる。転がすと折り返し点で条の向きが変わり、羽根のような模様(羽状縄文)になる。模型では単節 LR と RL の表面を折り返し点で貼り合わせたもので、押型は折り返し点で鏡映になる(最大差 1e-12)。カードはこれを 3 つの帯で並べた。
実物との距離
この号は模型の号で、土器の写真は測っていない。実物の押型は曲面に付き、縄は繊維の束で、粘土は変形する。資料の 3 つの記述(無節 R の条の向き・単節 RL と LR の節の違い・複節の大小の節)と模型の見え方は合うが、それは「模型が矛盾しない」までである。写真から条の角と節の間隔を測って原体を読み戻す試みは、次の課題として残す。国立博物館の所蔵品(ColBase・CC BY 4.0)に縄文の見える深鉢が多数ある。
模型の外にあるもの。撚りを同じ向きに重ねると撚りが戻る(反の縄)・R と L を合わせると片方が戻りきって筋になる(正反の合)は力学で、幾何だけの模型には入らない。
どう作ったか
- 縄
generators/jomon-cord.jsのcord(段の並びと素線の半径)とcenterlines(外側の段から内側へ、親の弧長で位相を進める)。副縄のフレームは、親の芯線から外へ向く方向と接線から作る。- 表面と押型
heightField(球の鎖で H(θ, z))・printPNG(θ を裏返して展開し、深さを 24 段の色で PNG に埋める)。- 測り方
- 螺旋対称の残差・構造テンソル・調和の位相の直線当てはめ・相互相関・外側の面に沿った深さ列の自己相関。復元は
readCord。
追記: 実物の写真ではどこまで読めるか
この号は模型の話で、実物の写真は測っていない。あとから ColBase の公開画像(J-37467 深鉢形土器・青森県八戸市十日市赤御堂出土)で試したところ、条の向きと間隔までは読めた(右上がり λ⊥ = 2.508mm・左上がり 3.126mm)。羽状であることも、帯の境目が高さに依らないことも数で出た。
いっぽう節は読めなかった。判定に使えるのは「条に沿った向きへずらしたときの自己相関の谷」で、模型に当てると無節 0.968・単節 −0.290・複節 0.013 と綺麗に分かれる。ところが模型に雑音を足して、主峰の卓越度を実物の写真と同じ 17 まで落とすと、無節でも谷が −0.01 になる。実物の写真の 0.001 は、節があるからではなくコントラストが足りないから出た値である可能性を排除できない。分けるには主峰の卓越度が 100 以上(実物の 6 倍)要る。足りないのは解像度ではなくコントラストだった(詳しくは見取り図の発見87)。
検査
鏡像の縄は 3 対とも 1e-7 未満の差で重なる。押型だけから、外側の撚りの向き・ピッチ・副縄の数、節の有無と間隔、内側の向きを読み戻せる。
出典
狭山市教育委員会「縄文土器の文様を作ろう!」(市原市文化財センター 2003『発掘ってなあに』第 3 号からの抜粋・公開 PDF)=原体の作り方と押型の見え方の記述。写真は載せていない。実物は ColBase(国立文化財機構所蔵品統合検索システム・CC BY 4.0)で「縄文」を検索すると見られる。