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テーベの墓の天井

第 18 王朝の墓の天井に描かれた 6 つの型を規則で作り直し、壁紙群を機械で同定した。6 つの型は 6 つの群に落ち、3 回対称はない。渦は手を持つので鏡映を持てず、渦の模様は p4 と p2 にしかなれない。

生成りの地に、藍の 4 本の腕の渦が格子に並び、隙間に茜と砂色のロゼットが入る模様
渦の格子。各格子点から同じ手の腕が 4 本出て隣の渦と噛み合い、セルの中心にロゼットが入る。ネブアメンとイプキの墓(TT181)とセネンムウトの墓(TT71)の天井に見える型を、規則だけ写して作った。壁紙群は p4。

なにか

ルクソール西岸のテーベの墓地には、第 18 王朝(前 15 から 14 世紀)の貴族の墓の天井に幾何模様が描かれている。ここで使った一次資料は、メトロポリタン美術館のエジプト調査団が 1920 年代から 30 年代に原寸で写した模写(Nina de Garis Davies と Charles K. Wilkinson、テンペラ、パブリックドメイン)と、同館が所蔵するセネンムウトの墓礼拝堂の天井画の実物片である。ネブアメンとイプキの墓(TT181)の「8 つの天井模様」、ケナムンの墓(TT93)の 2 枚、セネンムウトの墓(TT71)の模写と実物片 5 点、あわせて 8 点を見た。

問いは「天井の模様は 17 の壁紙群のどれを使っているか」。模写の彫刻や色をそのまま数えるのではなく、模写に見える型を規則で作り直し(印の集合を単位格子に置く)、その印の集合の対称操作を機械で総当たりして群に落とす。同定されるのは規則のほうで、模写の絵ではない。色は数えていない。

6 つの型と 6 つの群

6 つの型の印の集合と判定された群、和柄 4 文様での判定表の答え合わせ、渦の手を同じにした格子と市松に入れ替えた格子
上は 6 つの型の骨格(印の集合)と、測った回転の位数・鏡映の方向の数・映進の有無、そこから落ちる群。左下は判定表の答え合わせで、和柄の 4 文様が既知の群に落ちる。右下は渦の手を同じにした格子(p4)と市松に入れ替えた格子(p4g)。

模写に見える型は 6 つに分けた。①渦の格子は、格子点から同じ手の腕が 4 本出て隣と噛み合い、隙間にロゼットが入る(TT181 の 1 番、TT71)。②菱形の格子は、入れ子の菱形を斜めの格子に敷き、隙間に十字花を置く(TT181 の 2 番、TT71)。③ジグザグとロゼットは、同じ向きのジグザグの帯を等間隔に重ね、菱形の隙間にロゼットを入れる(TT181 の 3・5・7 番、TT93、TT71)。④ロゼットの敷き詰めは、円いロゼットを六方に詰める(TT181 の 6 番)。⑤掌状葉の渦は、渦の帯で囲んだ円の中に左右対称の掌状葉を置き、両脇に左右で手の違う渦を添える(TT93)。⑥輪と渦は、格子点の輪を同じ手の S 字でつなぐ(TT181 の 8 番)。

それぞれの印の集合を 1/4 刻みの 16 の中心で回転(6・4・3・2)、15° 刻みの向きで鏡映、鏡映でない映進(軸の位置と送りを振る)を総当たりして、回転の最大位数・鏡映の方向の数・映進の有無の 3 つから判定表で群に落とす。結果は渦の格子 p4・菱形の格子 p4m・ジグザグとロゼット pmg・ロゼットの敷き詰め p6m・掌状葉の渦 pm・輪と渦 p2で、見立てと 6 つとも一致した。群は 6 種。3 回対称の群(p3・p3m1・p31m)と 6 回でも鏡映のない p6 は現れない。

判定表の答え合わせには和柄の 4 文様を使った。市松と七宝が p4m、麻の葉が p6m、青海波が cm で、4 つとも既知の群に落ちた。

渦は鏡映を持てない

渦(螺旋)は巻きの向き、つまり手を持つ。鏡に映すと手が変わるので、渦を含む模様は鏡映を対称操作に持てない。だから渦の格子は 4 回の回転があっても p4m や p4g にはならず p4 で、輪と渦は p2 で止まる。掌状葉の渦が pm なのは、円の両脇に手の違う渦を左右対称に置いているからで、鏡映は渦でなく配置から来る。渦の格子の手を市松に入れ替えると、隣どうしが鏡像になるので鏡映が 2 方向に戻り、p4g になる。模写の渦はすべて同じ手で、p4g の天井はこの 8 点にはない。

道具の罠が 1 つ。和柄の検査機の対称判定は、判定に使う内側の点の半径を窓の最大半径の 0.55 倍に取る。この最大半径はいちばん遠い隅までの距離なので、窓が正方でない模様(青海波は横 19 に縦 9)では上下の端の段まで内側に入ってしまい、送りのある映進で像が窓の外に出て「対称でない」と誤答した。青海波の映進が見つからず pm になり、和柄の号で手で付けた cm と食い違った。この号を書いたときは半径の割合を 0.35 に下げて回避したが、その後和柄の号の道具そのものを直した(移した先が標本の外枠を出た点は判定から外す=窓の外は「違う」ではなく「見えない」)。いまはこの号も既定の 0.55 のままで 4 文様・6 つの型ともに同じ答えが出る。罠は検査に残してある。

→ 和柄の対称群(17 群と検査機)

→ ミトラの階段雷文(渦巻きと階段の取り引き)

→ Spectre(片手性のタイル。鏡映線がない)

どう作ったか

生成器は generators/thebes-ceiling.js で、正方と六方の単位格子の窓に印を置き、6 つの型の規則で模様を作ってから、対称操作を総当たりして 17 群の判定表に通している。判定には和柄の対称群と同じ方法を使い、回転の中心の候補を 16 に増やし、映進は軸と送りを振って探した。和柄 4 文様が既知の群(p4m・p4m・p6m・cm)に落ちることで、判定そのものを確かめてある。模写の画像は載せず、Met のオブジェクト番号で引けるようにした。

出典

一次資料
メトロポリタン美術館(パブリックドメイン・オブジェクト番号で検索できる): 548580「Eight Ceiling Patterns, Tomb of Nebamun and Ipuky」(Nina de Garis Davies・前 1386〜1330 年ごろ)/548305・557676「Ceiling Pattern, Tomb of Qenamun」(Davies・Wilkinson・前 1479〜1396 年ごろ)/549067・549069・549070・549071「Ceiling Painting from the Tomb Chapel of Senenmut」(実物片・泥漆喰に彩色・前 1473〜1458 年ごろ)/544565「Two Fragments of Ceiling Patterns, Tomb of Senenmut」(Davies)。すべて Rogers Fund 1923〜1931
数理
17 の壁紙群(Fedorov 1891・Pólya 1924。原論文は開いていない。Healy ほか arXiv:2102.12972 の p.2 が「17 種であることは 1891 年に Fedorov が、1924 年に独立に Pólya が証明した」と書いているのを確かめた)。判定表は回転の最大位数・鏡映の方向の数・映進の有無による標準の分類。ここで確かめたのは、印の集合の対称操作の総当たりと、判定表の答え合わせだけ
身近
包装紙・タイルの目地・織物の地紋。渦を含む柄が鏡で写すと別の柄になること
親戚
和柄の対称群・ミトラの階段雷文・Spectre・アンデスの噛み合う魚
生成
generators/thebes-ceiling.js(thebes-ceiling.svg 渦の格子・thebes-ceiling-book.svg 6 つの型と群の帳簿)