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ジュリア集合

「2乗して c を足す」を繰り返し、逃げるか逃げないかで平面を塗り分けた図形である。つながるか塵になるかは z=0 から出る軌道1本で決まり、見た目では分からない。

ドゥアディの兎と呼ばれるジュリア集合。濃紺の連結した形から3つずつ耳が生える
c = −0.1226 + 0.7449i(ドゥアディの兎)。電卓で「2乗して c を足す」を押し続け、逃げるか逃げないかで平面を塗り分けた。濃紺=逃げない点(充填ジュリア集合)

1996年の「ジュリア集合」

1996年7月7日の日曜日、ストーンヘンジから幹線道路 A303 を挟んだ向かいの麦畑に、円をらせんに並べた巨大な図形が見つかった。円の数は最初 151 個と報じられ、同じ報告者があとで 149 個に訂正している。フラクタルのジュリア集合に似ていたので、「ジュリア集合」と呼ばれるようになった。ただし畑の図形の骨格はらせんに円を並べたもので、本物のジュリア集合とは別物である。ここでは両方を自分で作って並べ、それぞれの数理を測った。

本物の側の作り方は、このギャラリーでいちばん短い。z を2乗して c を足すことを繰り返し、逃げれば外、逃げなければ中とする。それだけで左上の図形が出てくる(Julia 1918 / Fatou 1917)。図は厳密に180°回転対称で、これは (−z)² = z² だから初手で違いが消えるため。格子の全セルで検査した。

つながるか塵になるかは、軌道1本が決める。そして見た目では分からない

連結なジュリア集合(兎)とカントール塵(c=0.66)の比較。臨界軌道の赤い折れ線を重ねてある
z = 0 から出る臨界軌道(赤い折れ線)が運命を決める。左=軌道は3周期に落ちて逃げない→連結。右=毎手 +0.41 以上ずつ滑り落ちて逃げる→塵(Fatou と Julia の二分法)

平面の全部の点の運命が、たった1本の軌道(z = 0 の行き先)で決まる。これが Fatou と Julia の二分法である。判定は独立2経路で突き合わせた: ①軌道を回す(兎は10万手逃げず、3周期に厳密に落ちる)と②主カージオイドの式 |1−√(1−4c)| が 1 未満(式の内側から200点取ると軌道は全部有界、|c| が 2 を超える200点は3手以内に全部逃げた)。c = 0.66 の「塵」は解析の経路もある: 実軸上で毎手 c−1/4 = 0.41 以上ずつ増える(単調増加の不等式と実測が一致)。

見た目では分からない。渦の壁紙で有名な c = −0.7269 + 0.1889i を追うと、臨界軌道は430手めで逃げる。つまりあの渦は連結に見えて実は塵である(画面の解像度では区別がつかない)。連結かどうかは、否定も肯定も軌道1本で確かめられる。境界そのものは逆像反復(反発固定点から z → ±√(z−c))でも作れて、6000点の 99.75% がエスケープ時間で見た境界の2セル以内に乗った。2つの作り方が同じ集合を指している。

畑の骨格。円の鎖を全部接させられるのは対数らせんだけ

対数らせんに沿って並べた円は全部接する。アルキメデスらせんでは隙間と食い込みが出る対照実験
半径を中心距離に比例させて円を並べると、対数らせんでは最初の一対で決めた比率が最後まで効いて全部接する(残差 10⁻¹⁶)。対照: アルキメデスらせんでは 8% の隙間・食い込みが出る

1996年の畑の図形の骨格は「らせんに沿って円を並べたもの」だった。円の鎖が全部同時に接するのは、隣の中心距離と半径の和が同じ比率 e^(bΔθ) で伸びる。つまり自己相似な対数らせんだけの特権である(対数螺旋の「回転=拡大」と同じ帳簿)。πのらせんのアルキメデス型で同じことをすると接し方が崩れる。似て見える2つのらせんが、円の鎖という「検査器」ではっきり分かれる。

どう作ったか

ジュリア集合はエスケープ時間で塗り、境界は逆像反復でも作って両方を突き合わせた。反復の上限を4倍にしても「逃げない」セルの数がほぼ動かないことを確かめてから、図を書き出している。畑の骨格は、対数らせんとアルキメデスらせんに同じ規則で円を並べ、接し方を比べた。

→ 対数螺旋(回転=拡大の自己相似)

→ アポロニウスのガスケット(円の詰まり方)

→ ドラゴン曲線(反復が作る自己相似)

→ πのらせん(アルキメデス型・同じ畑の幾何)

出典

数理
G. Julia (1918), P. Fatou (1917–1920)。二分法(臨界軌道の有界性⟺連結)は Fatou と Julia の定理である。主カージオイドの式・逆像反復・ドゥアディの兎(A. Douady に因む)は複素力学系の標準。定理は引用で、こちらが確かめたのは数値の帰結(有界性・周期・一致率)
ミステリーサークルの扱い
日付・場所・円の数は、発見直後に現地を見た Colin Andrews が当時のニュースレターに書いた記事による(colinandrews.net/JuliaSetStory.html に再録。最初の号で 151 個、次の号で「149 個(前号の 151 から訂正)」)。「ジュリア集合」の呼び名は、同じ人が 2009 年に「フラクタルに似ていたのでそう呼ばれるようになった」と書いている。誰が名づけたかは、見た範囲では書かれていなかった。畑の図形の図案は複製せず、骨格の数理(らせんの円の鎖)と本物のジュリア集合をこちらの図で引き直した。畑の図形はジュリア集合そのものではない、という区別ごと収蔵する
生成
generators/julia.js(エスケープ時間・臨界軌道・カージオイド判定・反発固定点・逆像反復・境界セル・箱数え・らせんの円の鎖・図3枚。依存ゼロ・乱数は mulberry32。塗りは行の走りをまとめた path=セル1つずつ描くと数MBに太る)